戦国スローライフで楽しみます。



ドリーム小説
自分の性格が短気などとは今まで思ったことはない。
人からも言われたことはない。
ただ、「怒」という感情はちゃんとある。
人から何か文句を言われれば、腹は立つし、苛立ちもする。
納得いかなければ反論はする。

けど、怒鳴るほどでもないから。
大概は、あ〜ムカつくなぁ。ぐらいな軽い感情で済んでいる。
思いっきり叱られるという事もないからだろうか?

友達との喧嘩と言うのも正直あまりない。

だから、自分は大人しい部類に入るのだろうなぁと思っていた。

ここに来るまでは…。





【2】





「ご飯ぐらい好きに食わせろ!!」

自分が大人しいなどと思ったのはおこがましいのか?と思わずにいられなかった
これと言った特別な理由がわからないまま、所謂戦国時代での生活を送る羽目になった。
何か重大が使命があるわけでもなく、特殊な能力を持ち合わせているわけでもないが。
運だけは人よりよかったのか、見知らぬ世界でものちの権力者である徳川家康と出会えたお蔭で。
これといった苦労もなく、戦国ライフを過ごせている。

と自分では思うのだが。
家康に命じられてを引き取って面倒を見てくれている井伊家。
家康の家臣でもある井伊直政に対し、鬱憤でも溜まっていたのか怒鳴ってしまった。

「………」

「え、と…さん?」

直政と二人だけならまだしも、この場に直政の義母直虎もいて。
の突然の行動に少々面食らっている。

「なんだ、突然」

「せっかくの美味しいご飯!目の前で、しかめっ面で食べられるのが嫌なの!!」

「?」

が怒鳴ってしまったのは直政だった。
怒鳴られた直政は眉を顰めるが、怒鳴り返すことはなく淡々としている。

「それ!食事中の時にそんな顔しないで!」

「俺から言わせると、食事中に声を荒げる方が問題だが?」

「だから〜!!」

は両拳を握る。
振り上げてしまいたい衝動はあるが、そうしてしまうと直政の言う通りこちらに非があることを認めてしまう。
結局直政はを相手にせず食べ続けると、さっさと退出してしまった。
残されたのはと直虎だけなのだが。
は怒りを向けた相手があっさりいなくなってしまったので、それ以上どうすることもできず。
大人しく食事は続けた。





元々何の目的もなく戦国時代にいるので、基本暇人だ。
お殿様の娘でもなければお稽古事などあるわけもない。
じゃあ、こちらから直虎に頼んでみればいいのだろうが。
正直そこまでしたくない。
折角の出来事を満喫せねばならないだろう。
なので、今しばらくは自由にやらせてもらいたい。
この先井伊家の重荷にならないようには気をつけたいとは思っている。

では、一般人ならばと考えたが。
と同年代の子は、ほとんどは家の手伝いや、すでに嫁いでいる子などが多い。
そんな子達から見れば自分はいかにいい加減だとは思うが。

(なんとなく、事情も知らない人からすれば、とんでもない解釈をされていそうだな)

はなんとなく屋敷には居づらいと思ったので、外に出た。

(外に出たからと言って、何があるわけじゃないのだけど…)

歩きながらではあるが、今朝の出来事を考える。
直政とは最初から馬が合うというわけでもなく。
寧ろ、今も合うってわけでもないのだが。
それでも、向こうは色々と気を遣ってくれているのはわかる。

(わかるんだけどねえ…)

流石に毎日だと思うと気が滅入るのだ。
あの、食事中の雰囲気に。

「あら、じゃない」

「稲ちゃん!」

友達と言ってもいいだろうと思える子。
直政と同様家康に仕えている本多忠勝の娘、稲。
稲と運よく出会えた。

「稲ちゃんこそ、一人で珍しいね」

「そう?の方が珍しいわよ。どう?新しい生活には慣れた?」

「まぁまぁかな」

それでも直虎達の存在があるので、そう答えられるのだろう。

「で?一人でどうしたの?どこかに行く用事でもあったの?」

「ん?別にないよ。なんとなくブラブラしているだけだよ」

屋敷の人に着いてきてください。
なんて言うほどの用事などない。
寧ろ、居づらさを感じて逃げ出してきたようなものだ。
稲はそれを察したようで、にっこり笑って言った。

「じゃあ、うちにいらっしゃい」

誘ってくれたのを断る理由はないからと、は稲に着いて行った。
本多家へお邪魔をすると、ここはここで独特な雰囲気があるなと思う。
忠勝の威厳!のようなものだろうか?

「何かあったの?」

「あったってほどでもないのだけど…」

は素直に稲へ食事中の出来事を話す。
聞いた稲は少々困った顔をした。

「難しいわね。うーん…直政殿が悪いとは一概には言えないし…多分、の事を知らない人が聞けば、が悪い。って反応でしょうね」

「…だよね。私もそれはわかる。あの人間違っていないし…けどなぁ…」

は息を吐く。
これでも食べてと大福を出してくれた稲。
は遠慮なく食べる。

「私の居たとこはね。お喋りしながらの食事って普通なんだよ。まぁ躾に厳しいご家庭ならば、静に食べなさいって注意されるだろうけど」

友達との食事になれば、黙って食べているなんてことはまずない。
特に女子は。

「だからかなぁ。折角美味しいご飯を食べているのに、私の向かいで直政さんは辛気臭い顔をして食べているからさぁ」

「中々手厳しい事を言うのね、も」

稲は笑う。

「今だって、菓子を頂戴しながらも稲ちゃんと話はできているでしょ?」

「そうね。不思議とと居る時はそうなってしまうわね」

それでも、稲も食事中となると無駄口は叩かず食べているそうだ。

「でもでも。何かしら会話はあるでしょ?流石に」

「父上にご報告する事もあるし、逆に父上から問われることもあるわね」

あぁ、うん。食事の作法は忠勝の方が厳しそうだとは思った。

「育ちの違いって言われたらもうそれまでなんだけど…みんなで楽しく食事しようってダメなのかな…」

テーブルで囲んで食事ではなく、ご膳に置かれたそれぞれの食事。
静に食べているだけなのはなんとも味気ない。

(あ、そう言えば…)

戦国時代と言うと、そんなに食文化は進んでいないと思ったのだが。
こうして菓子も食べられることを思うと、ここは少し事情が違うようだと思った。
戦国は戦国でも、が授業で習った戦国とは違うような。
最初から躾が作法に厳しいイメージがあった武家にしては曖昧だなと。
本来ならば、直政だけでなく、稲とも気軽に話せていないような。

(それは江戸時代のお武家様かな?戦国はまだワイルドって言うか…)

いやでも、やはり武家のプライドってのは高いものだから、なんでもない小娘から怒鳴られれば逆ギレしても可笑しくないはずだ。

(そもそも…戦国時代に大福ってあったの?)

戦国時代でスローライフを過ごすぞ!って決めたではあったが。
戦国時代って群雄割拠とか下剋上とかスローライフとは無縁の時代だよな…。
それでもこう、のんびりしている事を思うと、やはり別次元の戦国時代と思った方が良いのかもしれない。

。大丈夫?急に黙って」

稲が心配そうに顔を覗かせた。

「なんでもないよ、大丈夫」

は笑って答える。

「とりあえず、美味しいものを食べているのに、辛気臭い顔をしなくてもいいのにね。って話」

「そう思うのならば、直政殿にちゃんと理由を話してみればいいんじゃないの?」

「理由を話す…」

「そう。だって、直政殿はがそう思う理由を知らないんだもの。一方的に怒鳴られたって思っているでしょうね」

それはそれで直政にとって不愉快に違いない。と稲は言う。
確かに、一方的過ぎたとは思った。

「うん。そうする。話してみないとわかってもらえないよね」

以前もそうだった。
自分が一方的にあれこれ言ったり考えたが、直政は自分にはわからないからちゃんと話して欲しいと。
直政はちゃんと話を聞いてくれる人だ。

「ありがとう、稲ちゃん」

「お礼を言われることじゃないわよ」

「ううん。あそこで稲ちゃんに会わなければきっと一人で変な風に考えこんでいただろうから」

そして気まずく感じたまま、夕餉の時間に直政と顔を合わせるのだろうから。

「そう言われちゃうと、困っちゃうわね」

稲は苦笑した。





「お話があります!少し良いですか?」

は帰宅後、直政が私室に居ると言うので直撃した。
ここは直政の家なので彼が逃げることはないと思うが、なんとなくだ。

「あぁ構わないが…」

若干の押しに引いているようだ、直政は。

「で。これでも食べながら話しましょう」

と直政の前に盆を置いた。
稲が持って行きなさい。と大福を分けてくれたのだ。
お茶も台所で用意してもらった。

「………」

「あ、甘いの苦手?それとも茶菓子食べながらって行儀が悪い?」

直政の反応がいまいちなのでとしては緊張してしまう。

「いや、いただこう」

も直政の向かいに腰を下ろした。

「えと、稲ちゃんがお土産に持たせてくれたんだ。美味しかったよ」

は直政が手を付ける前に自分が先に手を取り食べる。

「私んちは食事中に家族と会話をしながら食べるってのが普通なの」

「……普通…」

「行儀悪いって思うでしょ?でも普通なの。それでお互い一日何があったとか話すんだ。
朝ならば、今日の予定はこうだよ。とか」

これが私には普通なのだ。とは大福を食べて見せたのだ。

「それにさ、美味しいご飯食べているのに、直政さんは怖い顔して食べているからさぁ」

「こ、怖い顔?」

「って言うか…しかめっ面。一緒に食事していてる時に楽しくないのかな?って思って」

「楽しい楽しくないという事は考えたことはない。そう言うものだと思っていたからな」

そう言う風に躾けられたならばわかる。

「生まれ育った環境が違うもんね、私と直政さんは」

…」

「ん?」

「一人で何個食べるつもりだ?」

まだ直政は手を付けていなかったようで、先にが一つ、二つと食べていくので呆れたような顔をしている。

「早くしないと直政さんの分も食べちゃうぞ?」

「お前は…」

直政も一つ手に取り食べた。

「別に食事のとき…会話をしないわけではない。宴などになれば皆、大いに盛り上がっている。だが、俺は中々、そう言う場に慣れなくてな…」

「あぁ、うん。騒いでいるイメージないね。直政さんは。静かにお酒を飲んで…違う。下戸っぽいよね」

真っ赤な顔をして酔っていない!とか言っていそうだ。
そんな姿を想像してしまうと自然と笑ってしまう。

「また、お前は…」

「まぁまぁ。でもまぁ、うちでの食事のときくらいは会話を楽しんでもいいんじゃないかな。
それに慣れれば、この先宴の時とかも楽しめる様になるかもよ?そう言う場でいろんな人と話すようになるだろうし」

お茶も冷めちゃうよ。とは直政に勧める。
直政は2つ目の大福を手に取った。

「まずは相手に慣れろと言うことか」

「ご不満ですかな?」

「不満などあろうものか」

「直虎様がなんも言わないならいいと私は思うけどね」

「だろうな…だが、ひとつだけ言いたい」

「何?」

「俺は醤油の方が好きだ」

「まんじゅうより煎餅って事か。次はお煎餅でも用意するよ」

そう言ってはゆっくりお茶を飲み、しばし直政との時間を楽しんだのだった。








19/03/24
19/12/30再UP