野良猫娘と飼い犬男の話。



ドリーム小説
直政と見合いをしたと言う美代と言う女性。
家康の養女でもある彼女は、元々の教養も高いようで。
直政の妻となるには申し分のない人物のようだ。
その美代は度々井伊家を訪れる。
あまり親交を深められなかったからと、直政だけでなく直虎にも会いに来ているようだ。
そこは、も居れば彼女はにも声をかけてくれる。
ただ、自身は複雑な思いが勝ってしまうため。
長い時間を彼女と過ごす事はなかった。

(もう…決定だろうな)

美代が井伊家に、直政に嫁いでくるのは。
時間の問題であり、美代はそのつもりなのだろうと。
直政は、の事を井伊家の者。家族だと彼女に紹介したが。
それはにしてみれば、嬉しい反面、寂しくも感じる。
美代がどうを見ているかわからないが。
彼女から見て、自分は直政の妹のような存在に違いないと。

だから、もう限界だった。

「おぉ。誠か。

「はい。私で良ければお受けいたします」

家康の下へ行き、今まで保留にしていた返事をした。
京へ行き、秀吉が保護する姫。茶々の侍女になることを。

「ですが…今の私でそれが務まるかわかりませんけど…」

そこは康政の妻である静に指導してもらっていると家康には伝える。

「そうか。だが、が外に目を向けてくれるのをわしは嬉しく思うぞ」

「ありがとうございます。家康様」

は家康に向けて深く頭を垂れた。
ただ、今の自分はどんな顔をしているのか?それが不安だった。





【24】





まだ自信がないのならば、後日家康の前で試験をしようと言う話になった。
家康としても、推挙する娘が秀吉から見て全く使えない者だと思われても困るからだろう。
試験日まで、しっかりと勉強を怠らないようにしようと気合を入れた。

なのに。

。今日も静殿の元へ行くのか?」

直政がを呼び止めた。

「ううん。今日は家の方で忙しいからお休みだよ。流石にそんな日まで押しかけないよ」

榊原家で何かあるらしい。
が知る所での法事とか法要とかそんなものだろう。
正直言うと、その辺もどんなことをするのか見てみたい気もしたが。

「そうか。では久しぶりに出かけるか」

「?」

「俺に付き合え。たまにはいいだろう」

珍しいこともあるな。直政からの誘いなど。
だけど、断る理由もないので、はその誘いに乗った。

「久しぶりだな、本当…お前と出かけるのは」

「そうだね。まぁ、直政が九州へ行っていたのもあるし」

「そうだったな。あれは長かった」

それに無駄な日が多かった。などと直政がぼやいている。
そんな風に言うのも珍しいななどと思いながら。

「俺が九州へ行っている間、どう過ごしていたのだ?たまに康政殿に会っていたのは聞いた」

「うん。お屋敷に何度もお邪魔させてもらってね。静様にも可愛がってもらって。あとお子様たちとも時々遊んだよ」

「大分、康政殿には迷惑をかけたのだろうな」

「かけてないよ!」

少し安堵し落ち着いた。
直政と二人になると言うのが、最近なかったので。
一度自分の想いを意識してしまうと、どこか落ち着きがなくなってしまうから。
だけど、それを直政に悟られるのは嫌だった。

「あとは多恵殿にでも迷惑かけたか」

「なんでそうなるかな?お多恵ちゃんは友達だもん。最近は竜吉さんの飯屋にも行くんだ」

「竜吉さん?」

直政には初めて聞く名だった。
そう言えば、多恵の事は知っていても、竜吉の事までは知らないだろう。

「この後行く?竜吉さんちの飯屋。結構美味しいよ」

「あ、あぁそうだな…」

「あ。言ってるそばから竜吉さん発見!」

は荷物を抱えた竜吉の姿を見つけ、彼の方へ駆け寄った。

「おい、!」

直政も足早にそれを追った。

「竜吉さん。こんにちは」

「あぁ。ちゃん。どうも」

竜吉は脚を止める。

「竜吉さん。お買い物?」

「あぁ。ちょっと足りない材料があってね。買い足しさ。うちよっていくかい?もう多恵は来ているよ」

「本当?あとでよるつもりではあるよ。直政と一緒に」

「直政…様?」

に言われて竜吉は恐る恐る言われた方へ顔を向けた。
少し離れた場所で、確かに井伊の赤鬼と呼ばれる御仁が腕を組み立っている。

「ちょ、ちょっと。ちゃん!直政様を待たせるなんて悪いよ。早く行きな」

「そう?竜吉さん見つけたから」

「それはありがたいけどさ。俺からすれば恐れ多いよ」

「ふーん。じゃあまた後でね」

「はいよ」

は直政の元へ駆け寄った。
その後ろで、竜吉は直政に向けて深々と頭を下げた。

「直政にもちゃんと紹介したかったのに。なんで来ないの?」

「あ、いや…」

「竜吉さんはお多恵ちゃんの許婚なんだよ」

「そ、そうなのか?」

「そうだよ。だから私もよくしてもらっているんだもん。それに今、お多恵ちゃんは実家の甘味処じゃなくて、竜吉さんちの飯屋を手伝っているんだよ」

それは竜吉の実家の事情によるものだが。
お蔭で、多恵を通して竜吉という友達ができたのは事実だ。

「美味しいよ。竜吉さんちのご飯。後で行こうね、直政」

「あぁ、そうだな」

飯屋はもう少し時間を置いてから行くとして、他はどこに行こうか?と会話しながら歩く。
直政は基本の行きたい場所を優先してくれるのだが、今回は。

「その、俺は女性への贈り物や、流行りなどに疎いからな…どんな感じなのだ?」

に問うてきた。

「女性への贈り物…」

直政に誘われて嬉しいと思った気持ちが瞬時に消えた。
あぁ、そうか。
なんだ…。

(結局のところ…美代様へのプレゼント探しなんだ…)

それこそには美代の趣味がどんなものかわからないので、答えようがない。
家康の養女である美代だが、恐らく元の家も徳川家臣団の中では上なのではないか?
だとすれば、彼女は一般庶民のようなの感覚とはかけ離れていると思う。

「私で役に立つかなぁ…微妙だな」

と苦笑交じりに答えた。

「直政がいいと思ったもの。相手にこれが似合うと思ったものならばいいんじゃない?」

「そ、そうなのか?」

「流行りなんて私も詳しくないもん。案外直虎様の方が詳しいかもよ?」

は当たり障りなく答える。
本音は違う。
何は悲しくて、自分では女の贈り物選びなどしなくてはならないのだ。
変なものを推薦し、美代から嫌われるような事になれば。などとそんな風にも考えられない。
とことん悪者になれない自分がいる。
直政の前でいい子に見られたい自分がいるから。

「では、ならば何が欲しい?」

「私?…特に無いよ」

可愛げのない返事だ。

「どんなものでも良いのだ。着物とか、帯とか…あぁ簪もあるな」

「ないよ。別に」

「そうか…」

「美代様に聞いてみれば?美代様の方が詳しそうだし、いいのを選びそうだよ」

敵に塩を送る。と言うのはこういう事か。
わざわざ直政と会う機会を設ける真似をするなど。

「いや、それは…」

美代への贈り物だから、美代には聞けないと言うことか。
本当自分はつくづくついていない。
そこまで運は悪かっただろうか?
その後、竜吉の飯屋で食事を済ませ、買ったものと言えば直虎への土産の菓子ぐらいだった。






「あ…」

無理のような話だったのに。
後日、直政が美代と店へ入っていくのをは見かけた。

「………どんな理由だとしても、直政にしてみればいい結果なんだよね…」

美代と過ごす時間と言うのはそう言う事だろう?
直政は家康の養女を迎えて、井伊家はますます安泰。
早く。
早くしなければ。

ただの居候は、直政に邪な想いなど向けてはいけないのだから。





「中々なものではないか、

秀吉に推挙するための行儀教養試験。
家康の指定した事をは行動してみせた。
家康の反応からすると悪い感じはしないのだが。

「ありがとうございます。家康様。康政様の奥方様、静様に沢山習いました」

「ほう。康政の」

家康は満足そうに己の顎をなぞる。

は康政とも知り合っておったか」

「はい。きっかけは直政様を通じてですが。お屋敷にも何度かお邪魔させてきただき。その縁で静様にもよくしてもらっています」

教育係をお願いできたのもそこからだとは話す。

「そんなに長い時は経っておらぬのに、は本当に変わったな」

「そんな事は」

「直虎殿や、直政に感謝したりないくらいだ」

「それは、私の方が。お二人には本当よくしてもらいましたから。私が変わる事ができらならば、それはお二人のお蔭です」

「うむ。これならば秀吉殿にを推薦しても良いだろう。きっとそなたならば都でもやっていける」

「ありがとうございます」

は深々と頭を下げる。
あとは秀吉の返事次第だろうが、ほぼ京へ行くのは決まったことだろう。
直虎はもちろん。
康政や静。あぁ稲にも文ではあるが、ちゃんと話そう。
だけど。

(直政には…)

なんて言おうか?
美代との婚姻が決まり次第の方がいいだろうか?
自分から逃げた癖に。
直政に知られるのが怖い。

「ふぅ…でも、やっぱ緊張しちゃうか」

家康の居る室から出て、大きくため息を吐いてしまった。

「だが、殿は満足していたぞ。

忠勝がそばにいてくれた。
流石に家康との1対1ではなかった。忠勝の他にも数名徳川の古くからの重臣と呼べる人がいた。

「ですよね。自分でもびっくりするぐらい頑張りましたから」

「ただ…。お前は新入りに「!」

忠勝の声を遮るくらい強い声で名前を呼ばれた。
珍しく直政が足音をさせるほど乱暴に向かって来た。

「直政?」

「どういうことだ!俺は聞いていないぞ!!」

「………」

直政が怒っているのが見てわかる。
そしてその言葉から、何の話なのかすぐにわかる。
あぁ、直政にもバレてしまった。

「そうだね。だって、直政には話していないもん……正式に決まってから話そうかなって」

「ふざけるな!なぜ勝手な真似をする!!」

「勝手じゃないよ。これは家康様から頂いたお話だもん。どう受けるかは私の自由じゃない!」

「では、何故俺には一言も言わない。聞けば、義母上も康政殿も知っていると言うではないか!!」

「それは」

普段は冷静沈着な男。井伊直政。
なのだが、今の直政は冷静でもないし、寧ろ怒気を感情を露わにしている。

「そうまでして井伊家を出たいのか!」

「ちが…」

「俺は、最近のお前が何を考えているのかまったくわからん。ならばもう、勝手にしろ!」

「直政…違う…あ」

直政はに背を向け去ってしまった。
残されたは、呆然としてしまう。

「珍しいな、新入りが感情をむき出しにするなど…大丈夫か?

「………」

直政があんなに怒ると思わなかった。
きっと、家康からの話だから無条件で喜んでくれるだろうと思っていた。
それはにしてみれば、嬉しくない反応ではあるが。
あれか。
話を直政に通さなかったからか?
自分だけ知らされていないと言う反応であったし。
それならば自分が悪い。
悪いとわかっているのだが…。

「そうまでして井伊家を出たいのか!」

違うよ。そんな事は思っていない。
ずっと、ずっと直虎に見守られながら直政のそばにいたい。

「俺は、最近のお前が何を考えているのかまったくわからん。ならばもう、勝手にしろ!」

だって、言えないじゃないか。
もう許婚候補のような人がいる直政に、自分の想いをぶつけることなどできないだろう?
井伊家の。
直政のこれからを思えば、美代との婚姻は最良のものだろう?

「違う。私は………直政、ごめん…」

足が一歩も動かなかった。









17/10/29
19/12/29再UP