野良猫娘と飼い犬男の話。




ドリーム小説
直政の事を好きだと気づいてしまった
その直政はいまだ九州からは戻らないので、特に変わりなく生活している。
気づいたからと言って、何が変わるわけでもないと思っていた。

だけど。

「……い、行きづらい…」

いつも直政の無事を願って参拝していた神社。
何も考えずに足を運んでいた神社が、実は良縁、縁結びの神様が祀られていると知ってしまったために、素直にそこへ行くべきが躊躇してしまっていた。

今までは何も考えずに行き来ができていたから良い。
けど、一度その実態を知らされてしまうと。
昨日までその神社で会っていた人達からどう思われていたのだと、考えると恥ずかしいものがある。

(だからと言って、直政の無事を祈願しているんです〜なんて、言いまわる必要もないわけで)

そんな事をする方が馬鹿なわけで。

(でもなぁ…急にお参りをやめちゃうのも嫌なんだよね…)

もし、やめてしまった後に、直政に何か起こってしまった!などと悪い方向を思い浮かべてしまう。
自分がやめたからと言って、すべてがそうなるわけでもないのだが。
今の今まで続けていた事だからと思うと、急にやめてしまう事に不安を覚えてしまうのだ。

さん。今日はお参りに行かないのですか?」

直虎がそうに声をかけた。

「あ…はい。行ってきます」

悩んでいるので行けません。とは言えず。
直虎も笑顔でを見送るので、仕方なく屋敷を出た。





【19】





(まぁ…あの神社じゃなくても、良いわけで…)

縁結びの神社を教えてくれた多恵は、元々が直政の事を考えているから。などのある意味お節介にも近い形でそこを教えてくれたのだろう。
じゃあ、別に他の神社でも良いと考える。

(こういう場合は…健康祈願?あー大きくわけで厄除けとか?)

はそう考え歩き出すも、その他の神社を知らない。

(神社ってどこにでもありそうなのに…意外にないんだ)

地域ごとってことなのだろうか?
近場にないとなると遠出する羽目になる。
流石に毎日は無理だし、あまり一人で遠出する気はなれない。
住んでいるこの地域ならば、まだ一人で出歩けるが、遠出は少々怖い。

「はあ…どうしようかなぁ…」

やめてしまいたいけど、やめたくない。
理由が理由だけに。
私なんぞが願わなくても、と思いながらも。
直政には無事に帰ってきてもらいたい。

だって、直政は。

「私の好きな人か…」

今頃どうしているのだろうか?
戦の最中は食事はちゃんとしているのだろうか?
直政の性格だから常に気を張って神経を尖らせていそうな気もする。

「それで、周囲に怖がられていそう」

思わず想像した姿に笑んでしまう。
直政の事だから、向こうにいても、こっちの事など考えてもいなそうだ。
直虎の心配はするだろうが、戦場に出ていない分、不安要素は薄いだろうし。
何より、人の心配より自分の心配をすべきだろう。
家康が出陣していないので、その周囲の忠勝や康政はいるわけだから。
その辺の心配はないだろうし。

「私の事なんか………気にもしないか…してもしょうがないだろうし…」

気にかけて欲しいけど、気に掛ける暇があるなら戦に集中しなくてはならないだろう。
思わず、ため息が出てしまう。

ちゃん」

多恵がひらひらと手を振っている。

「多恵ちゃん!」

気づけばいつもの茶屋の前を通りかかっていたようだ。
は多恵の元へ駆け寄った。

「どうしたの?小難しい顔をしていたけど」

「どうもこうも…なんか、お参りに行くのに戸惑いが…」

「どうして?」

「どうしてって…」

多恵が良縁、縁結び祈願の神社だと言わずに教えてくれたから、今更あの神社に参拝に行くことを戸惑っているのだ。

「少し休憩でもしていかない?」

多恵はを縁台に座らせ、お茶とお団子を持ってきた。

「私の所為でちゃんを困らせちゃったのね」

「あ、そういうわけでも…」

お言葉に甘えて、は団子を一口食べる。

「でも、今のちゃんはすでに答えが出ていると思うけど?」

「………」

昨日、多恵に確認したところ。などと答えたものの事だろう。

「まぁ…ね」

「多恵!」

「あら、竜吉ちゃん。いらっしゃい」

そこに多恵の幼馴染で、この先嫁ぎ先となる相手竜吉がやって来た。
は軽く頭を下げる。
竜吉はに笑顔で頭を下げ、多恵に話しかけた。
しばらく、二人は真面目に話をしていたが、すぐさま去ってしまう。
多恵もいったん、店の奥に戻り、何やら店主の父親と話していた。

「ごめんね。急に」

戻って来た多恵。

「ううん。私はなんてことないよ。何かあったの?」

「何かって事じゃないの。単に午後から、飯屋の手伝いを頼まれただけよ」

「へぇ。まぁ嫁ぎ先だもんね」

「人手が足りないみたいだから。うちの方は両親でなんとかなるから」

急に大変よね。と言いながらも多恵の顔は嬉しそうだ。

「それって、竜吉さんと一緒に居られるから?そばに居られるから嬉しいって感じ?」

「やだ!ちゃん!」

否定はしないのかとは笑う。
少々照れながらも多恵は答える。

「そうね。好きな人と一緒に居られるのはやっぱり嬉しいでしょ?」

「…普通はそうだろうね。あ、多恵ちゃんは竜吉さんのどこが好きなの?あと、どちらが結婚しようって言ったの?それから」

「ま、待って!ちゃん、急にどうしたの?」

「んー?他の子の恋愛はどうなのかな?って気になったから」

多恵と竜吉は幼馴染だし、武家ではないから深く考える事もなかったのか?などと思った。
いや、返って親同士が決めた婚姻とか、お世話になった人からの見合い話だとか。
そう言う方が多いのだろうか?

「もう〜そうね……小さいころから好きだったわよ、私は。ずっと竜吉ちゃんのお嫁さんになれたらいいなって思っていたから」

だから、どこが。と言うのは深く考えていないらしい。

「もし、竜吉さんが他の人を選んでいたらどうするの?」

「今日のちゃんは意地悪ね。そうね……どうしたかしら?それでも竜吉ちゃんを想ったまま他の人に嫁ぐのか、あきらめ……られるのかしら?」

流石にそこまで考えていないと多恵は苦笑する。

「ごめん。確かに意地悪だったかも。もし。なんてことないんだからさ、実際は」

多恵が竜吉に嫁ぐのは決まっているのだから。

「じゃあ、逆にちゃんに聞くわね。ちゃんは直政様のどこが好きなの?」

「は!?や、わ、私は別に…」

「聞いてみたいわ。私は答えたのだから、ちゃんもちゃんと答えてよね」

多恵の中ではの好きな人が直政だと決定付けられているようだ。
確かに、そうなのだが。
改めて聞かれると困るものがある。

「えと…」

どこと言われても、難しい。
直政とはお互い最初の印象が最悪に近い。

「直政って…真面目すぎるし、頭固そうだし、行儀に煩いし」

「ちょっと…ちゃん?」

「やっぱり家康様、直虎様が第一なわけで」

「ん?んー?」

「人の事、食べ物で釣れると思っているし。あ、口煩い部分もあるし」

「それのどこが…」

「周りが私の事を思って甘やかしてくれた中で、唯一叱ってくれたの。私が外に出られるきっかけを作ってくれたから…」

は空を見上げる。
あのまま閉じこもっていたら、きっとこんな風に多恵と出会って仲良くなることもなかったのだ。

「私が悪いのに、直政は自分に非があるみたいに謝るし……でも、なんだかんだで気遣ってくれて、優しい人だなって思う」

自分の方が意地が悪い、冷たい人間だと思う。

「家の為、義母の為に体中に傷を作っても、前を見て。器用そうに見えて実は不器用な所があって、直政はいつも一生懸命だなって思う」

の顔を見て、多恵は静かに笑う。

「そんな直政に…早く会いたいなぁ…って思うかな」

「それくらい、直政様の事が好きなのね。ちゃんは」

「う……うん。多分…」

「多分じゃなくて。そうなの!やっぱり、ちゃんにあの神社を教えて良かった。今日はまだお参りしていないのでしょ?じゃあ行かなくちゃ!」

多恵は店の奥に居る親に声をかけた。
前掛けを外し、出てくる。

「行きましょう、ちゃん。お参り」

「え?多恵ちゃん?」

「今日は私も一緒に行くから。一緒に行って、私も直政様が早く帰って来るようにお願いするから」

多恵はの手を取り立たせる。

「だって、早くちゃんに直政様を会わせたいもの」

「ありがとう、多恵ちゃん」

こんな風なのは久しぶりだ。
稲がいた頃は、一緒にどこかに出かけたりして、楽しかった。
けど、稲が嫁いでから、どこかに遊びに行くようなことはなく。
直政と少し出歩きはしたけど、同年代の、同性とという事はほとんどなかった。
やっぱり、友達っていいなと思えた。

同時に。
多恵の前で、直政の事を好きだと認めてしまった。
恥ずかしいと思いながらも、どこかすっきりした。
この先どうなるのかわからないけど。

(直政が怪我もなく、無事に戻って来られますように…)

多恵の言う通り、好きな人とは一緒にいたいと思うのだから。








17/03/20
19/12/29再UP