野良猫娘と飼い犬男の話。




ドリーム小説
直政が戦で九州に行ってしまうのを知って、少し気落ちしてしまったかのような
直政が自分の為に時間を設けてくれたのは嬉しかったが。

せめて、直政が何の心配もしないようにと。
しっかり留守番をしなくてはとは考えた。





【16】





直政が出立する日が来た。
門前で直虎たちが直政を見送る為にいた。

「虎松。以前のあなたと違って今はなんの心配もないと思います」

「義母上」

「ですが、体には十分気をつけるのですよ」

義母としては些細な事でも心配なようだ。

「義母上こそ。留守をお任せします」

「はい。あなたが不在の間はしっかり私が皆さんをお守りしますから」

井伊家当主はまだ直虎だ。
そろそろ直政に譲ってもいいだろうと思うが。

「………」

「虎松?」

「す、すみません」

何かを気にした様子の直政だったので、直虎は首を傾げる。
直政はややあってから。口を開く。

「その…の姿が見えないので」

「まだ寝ているのかもしれませんね。朝も早いですし」

多少いつもより早い時間なのだが、いつもならば起きているはずだ。

「私が見てまいります」

竹が屋敷へ戻って行った。





「……やばい…」

は目を覚ますも、布団から出られない。
頭が少しぼーっとする。

さん。起きてらっしゃいますか?」

障子の向こうから竹の声がする。

「………」

「直政様がそろそろ出立なさいますよ。お会いになられないのですか?」

そうだった。
九州へ行くと言っていた。
笑って見送ろうと思っていたのに。
起き上がるのが億劫になってしまっている。

「……お竹さん…」

さん?」

竹は障子を開け入って来る。

「まぁ!さん。顔が赤いですよ。熱があるんじゃ…」

竹は駆け寄りの額に手を当てる。

「風邪かな…」

「のようですね。直虎様にお伝えしないと」

室を出ようとする竹を止める

「あ。待ってください…今、言いに行くと直政にも知られちゃうから」

さん?」

「このまま。寝坊したとか、寝起きだからとか…そんな感じで直政の見送りができないって話で…」

「でも、それだと」

「お竹さんに嘘を吐かせてしまうんですけど…でも、直政に心配かけたくなくて」

単に寝坊したなどというだらしない理由であれば、直政も呆れるだろうし。
そのまま出立してくれた方がいい。

「わかりました。一応、そうお伝えしますけど」

「すみません…」

その後すぐに直虎には話すからと竹に言われ、竹はそのまま室を出た。

(はぁ…ダメだぁ…折角留守番をしっかりやろうと思っていたのに)

直政の言葉を借りるならばダメすぎる。
そんな事を考えながら目を閉じた。

「やっぱり熱があったのだな、お前は…」

眠りにつくかと思ったが、直政の声がしパチッと目を開ける
直政はやって来て、腰を下ろした。

「直、政?」

は起き上がろうとするが、直政がそれを制した。

「妙に寒がっていたし、手が熱かったからな。変だと思ったんだ」

「………」

「すまない。そう思いながら1日連れ回してしまった。悪化したのはそれが原因だろう」

「ち、違う。直政は悪くないから…私が自分の異変に気づかなかっただけだし」

それもどうだと思うのだが。
実際少し寒いなぁと思っていただけだ。

「あの時間は、私にとってとても楽しかったから…」

結果的に直政に知られてしまった。
寝ていろと制されても、は体を起こす。

「直政が気にする事なんてないんだよ」

「馬鹿」

直政がの頬に触れる。

「気にせずにいられるか」

「けど」

「ちゃんと養生するのだぞ」

「うん」

直政の手が冷たくて気持ちい。名残惜しい気もするがこのままだと直政の出立が遅くなってしまう。

「直政。いってらっしゃい」

「あぁ。いってくる。義母上のこと頼むぞ」

自分の方が直虎を頼りにしてしまうが、直政を安心させたいからは頷いた。

「もういい。寝ろ」

「直政。わざわざごめんね。ありがとう」

「いや、いい。の顔を見ずに出立するのに気が引けてな…」

直政は立ち上がる。
室を出ようとするが、直政は脚を止める。

「?」

「………」

「直政?」

どうしたのだろうか?
直政はに背を向けたまま。

「俺がいない間に…勝手にここを出るようなことはするなよ」

「しないよ、そんな事…」

「そうか」

直政はそう言って室を出た。
はそんな風に直政に言われるとは思わなかったので、ドキドキしてしまった。
うっかり直政の前で口にしてしまった事。
いつかは井伊家を出ていくだろうから、もう少しだけ家族でいさせて。と…。
直政はが出ていくことに反対だと言った。
家族だろう?と認めてくれている。
もうあのような事は口にしないと決めたのだが、直政にはいまだにが出ていくことを懸念しているようだ。
は横になる。
じんわりと涙が浮かぶ。

「出会ったころに比べて随分変わったなぁ…ありがとう、直政」

の本音としては、いつまでも井伊家に居られるならばそれでいいのだ。





直政が出立してからの昼過ぎ。
寝ているの様子を見終えた直虎は茶を飲んでいた。
竹が菓子も出し、そのそばで控えている。

「直虎様。ご機嫌ですねぇ」

「え?あ…うふふ。わかってしまいますか?」

誰に何を言ったわけではないが、長く井伊家に仕えている竹にはすぐにわかったようだ。

さんが風邪で寝込んでしまったのは可哀想なのですが、虎松があそこまでさんを気にしてくれているのが嬉しくて」

最初はを井伊家で預かることも、関わることも良しとしなかった直政だから。
それが、今朝。が顔を見せないことを直政は気にしていた。
竹が様子を見に行き、戻って来た時。

「直政様。申し訳ございません。さんは今起きられたばかりで、支度ができていないようなので。顔を出せないと…自分の事は気にせず出立なさってくださいと託を」

竹は直政にそう告げたが、直政は納得しなかったようで、の室へ行ってしまった。
実は寝坊ではなく、体調不良だと直虎には話した。

「直政はさんの不調に気づいたのかもしれませんね」

だから、寝坊などと言われてもそのまま流さなかったようだ。

「お竹さん。私はですね。最近、特にこうなればいいなと思う事があるんですよ」

まだ口には出せないがと直虎は言う。
でも、竹にもそれが何かがわかっているようで、直虎と同じように優しく笑んでいる。

「そうでございますか」

「それが見られればいいのですがね。本当」

「直虎様が願えば、そうなると思いますよ」

「だといいですねぇ」

しばらく直政は不在になるが、その間。
直政、双方の気持ちに何か変化があればいいなと直虎は思った。








16/12/25
19/12/29再UP