野良猫娘と飼い犬男の話。



ドリーム小説
にも変化が現れたのかな?と直虎は感じた。
今まで室に籠りっきりだったのに、食事を直虎たちと共にすると言ったから。
自分から動こうとしている姿に直虎は感激するも、いざその食事の時間になると。

(大丈夫なんですかねぇ…)

と不安は消えない。
それと言うのも。

「「………」」

直虎から見て向かい合って食べている二人。
と直政は会話もないからだ。
元々食事中にベラベラ話すような性格ではない直政だから仕方ないとは思うが。
少しは場の雰囲気を考えてほしいと思った。
今のに対して、こうして室から一歩出ただけでも良いと思っているので、直政の方がに歩み寄ってくれる方がいいのだが。

(楽しい食事になるはずなのに…これでは…)

味わう事も出来ない苦痛な時間になりそうだと、直虎は嘆息した。





【4】





「え?お手伝い…ですか?そんな事をしてもらうわけには…」

井伊家の女中頭とも言える竹には何か手伝いをさせてくれと頼んだ。
案の定、竹からは困惑した様子がわかる。

「前にも、言ったのですが…私は、お客でもないです。ただの居候です。だから、何か手伝うことがあれば、何か、したくて…」

「そう言われましてもねぇ…」

やはり邪魔だと思われてしまうだろうか?
家康が直虎にを預かってくれと頼んでしまった以上、が特別な存在に見られても仕方ないと思うが、実際はそんな大層な御仁ではない。
直政が言うように、自分はただの甘ったれなのだ。
どうしても何かをしようと思うならば、外に働きに出ればよいが、流石にそこまで飛び出せる勇気はまだない。

「お願いします!なんでもいいんです。洗い物とか、掃除とか…えと…邪魔だろうとは思いますけど…できるだけ皆さんの仕事の邪魔はしないように気をつけますから」

は竹に頭を下げる。
竹は慌てての頭を上げさせる。

「直虎様はなんとおっしゃっているのですか?当然ご存知なのですよね?」

「はい。お好きなように。と言ってくれました」

当主がダメと反対してくれれば、話は終わりだが、直虎は了承したようだ。
それでは仕方ないと竹は腹を括った。

「わかりました。じゃあ、早速ですが、洗い物でも頼んでよろしいですか?」

「はい!」

が嬉しそうに返事をするのを見て、竹は苦笑した。





「どうですか?お竹さん。さんは」

「なんとかやってくださいますよ。まあ少し、手つきが危ういですけど」

直虎に茶を出した竹はそんな風に答えた。

「ですが、良いのですか?本当に…」

「はい。良いんですよ。さんが少しずつ殻を破ってくれるならば」

が何か行動を起こそうとするのが大事なのだと直虎は言う。

「ですが、家康様からお預かりしている方を…ご本人も居候だとかおっしゃいますし…」

「その辺は気になさらないでください。あ〜無理かもしれないですけど、はい。さんは井伊家の子です。家康様は関係ないですから」

元々家康の血縁でもないから。
養子にしたわけではないが、直虎はを家族の一人と思っている。

「お仕事と言うより、家のお手伝い。だと思って下されば良いんですよ」

「そう言うものですか?」

「はい」

直虎はにっこりと笑んだ。

「ですから。お竹さんも、さんがダメな事をなさった場合はちゃんと叱ってあげてください。なあなあで済まそうとするのはやめてくださいね」

「わかりました。直虎様がおっしゃるのであれば」

それがの為になるのだと、直虎が言うので、竹は受け入れた。





「ほらほら、もたもたしないの」

「はい!」

それからと言うもの。は他の女中たちに交じって家事をするようになった。
女中たちの仕事とは違い、多少手伝い感と言うのがあったが、本業ではないのでしょうがないだろう。
でも、彼女らと一緒に何かをすることで、も周囲と打ち解けるようになっていた。
元々明るい性格、いやあれがの本来の性格なのだろうと。

「けど…」

直虎はため息を吐いてしまう。
どうあっても、直政とは距離が縮まないのだ。

「何か手を打たないとダメですかね?かといって、強制させるのもどうかと思いますし。時間をかけて。と私が言った手前もありますし…」

食事中は相変わらず会話もなく静かだ。
の方も直政に近づこうと言う気配もない。

「原因が原因ですから、しょうがないとは思いますが…」

「直政様も頑固な方ですからね」

くすりと笑んでしまう竹。
最近、どうしても竹にと直政の話をしてしまう直虎。
二人の事に関して話せるのは竹ぐらいなのだから仕方ないだろう。
正しくは家康や忠勝などにも言えるだろうが、流石に井伊家の中の話となると話しづらい。

「どちらかが歩み寄らないとダメなのでしょうね」

「はぅ〜やっぱりそうですよねえ」

だが、は以前より行動は起こしている。
じゃあ今回もから。と言いたい所だが…。

「直政が一蹴してしまう可能性があるんですよねぇ…そう思うとあの子からさんに歩み寄ってくれないと」

「じゃあ。そうなさればよろしんじゃないですか?」

「え?」

「言葉の通りですよ。今のちゃんの事を直政様が見てくだされば、多少は変わるのでは?」

直虎の顔が晴れ、竹の手を取った。

「そうですね!それが良いです!!」

では、こうしようとか、あーしようとか。
二人で相談を始めるのだった。





ちゃん。本当に一人で行ける?無理なら無理って言いなさいよ」

「大丈夫です!行けます!!」

女中たちがハラハラした様子でを囲んでいる。

「本当に?心配だわぁ」

「行けます!これくらいこなさないとこの先ダメなんです!」

以前のならば絶対に引き受けないだろうお使い。
所謂初めてのお使いという奴だ。
年齢的な事を考えれば何を言っているのだ?と周囲は思うだろうが、引きこもりだったを知っている者達からすれば、重大な出来事にうつるらしい。

「あなた達。ちゃんのやる気を削ぐようなことをしちゃダメでしょうが」

竹は他の者に比べて呆れているようだ。

「では、ちゃん。これをお願いしますね。直虎様から本多忠勝様へのお届け物です」

風呂敷に包まれたものをに持たせる。

「はい!お任せください」

はしっかり抱えて屋敷を出た。

ちゃん。しっかりね〜」

「頑張るんだよ〜」

女中たちに見送られては忠勝のいる本多屋敷へと向かうのだった。

「本当に大丈夫ですかね?」

「あなた達はまだそんな事を…」

最初は家康からのお預かりした人。お客様という感覚でを見ていた為に、どこか距離を置いていた女中たち。
竹もそうであったが、直虎に頼まれてからはを他の女中たちと同じように扱うようになった。

「お竹さんは心配じゃないですか?!ちゃんはほとんど出歩く事もしなかったんですから」

「どんな危険が待っているか…」

「大丈夫よ。そんな心配しなくても…」

竹は苦笑する。

「まぁ…違う意味で心配はあるのだけど…」

ぼそりと呟いた。
女中たちはが戻るまでは仕事が手に着かないと落ち着かない様子だった。





「久々に外に出るなぁ…」

周りの心配など気にも留めていない
最近、毎日が楽しくなってきていたので、新しい事をやらせてもらうのが嬉しいのだ。

「忠勝様への届け物ならば、私にだってできるよね」

本当は少し緊張するも、目的地が知っている場所だったので、そう苦はないだろうと思ったのだ。

「とりあえず、早く用を済ませて帰ろう!」

自分を心配し、待ってくれている人が居るのはこそばゆい。
ちゃんとお使いができたら、直虎にだっていい土産話になるだろうと思うから。
はキュッと荷物を抱きしめ本多屋敷に向かうのだった。








16/05/22
19/12/29再UP