|
天邪鬼の恋話。
【4】 「!!?」 「ちん!!?」 上田城にて、顔を合わせた幸村とくのいちはが帰ってきたことに驚いていた。 だが、同時に幸村が上田城に居た事をも驚いた。 「え?ユキさんとくのちゃん…なんで二人とも」 「それはこちらの台詞だ。府中にいるはずのお前が何故…」 はへらっと笑いつつ頭を掻いた。 「私は単に里帰りしただけだよ?ちゃんと旦那様のお許しがあっての事だし」 「そ、そうか…」 「驚いたにゃ」 「くのちゃんが驚くなんて、なんかちょっとしてやったり!とか思っちゃうね」 茶化すな〜!とくのいちは唇を尖らせる。 「それでユキさん達はどうしたの?」 小田原での北条家との戦いは終わり、秀吉達も本拠地である京の都へ戻ったはずだ。 人質として豊臣に居る幸村が何故ここに?と考えるのは普通だ。 「あぁ。私達も似たようなものだ。おねね様が特別にお許しくださってな。たまにはいいだろうと秀吉様に頼んでくださったのだ」 今回の戦だけでなく、豊臣に対し幸村がとても働いてくれるので、ちょっとした褒美として秀吉も許してくださったそうだ。 「そうなんだ。私としてはユキさんには会えないだろうなって思っていたから嬉しいよ」 「それもそうだな」 「あ。信之様達にもちゃんと挨拶しないと。じゃあ、また後でね!」 は奥へと進んでいった。 「………里帰り?」 と話している時は優しい眼差しだった幸村だが、一変して真剣な目になっている。 そこにはを心配しているようなものも含まれている。 「幸村様?」 「……いや、単なる思い過ごしで済めばいいと思ってな…」 「ちんの里帰りに不審な点でも?」 「不審と言うか…今の徳川で、そんな呑気な状態ではないと思うんだが…」 「そうですねぇ…忙しくなっていくだろうって話ですもんね」 「あぁ」 井伊家では何かしてしまったのだろうか? 二人は心配する。 「でも、この前お姑さんとは上手くやっていましたし、普段もちんと直政殿は仲良くやっているようでしたよ?」 くのいちが見たのは、数か月も前の話だが。 でも、夫婦仲が悪いとは到底思えないのは事実だ。 「の言う通り、里帰りならばいいさ」 「にゃはは。あたし達もこうしてちんに会えたわけですしね。楽しい時間を過ごせたらいいですね〜幸村様」 「あぁ」 上田城も賑やかになるなぁと幸村は思いながら兄達の下へくのいちと向かうのだった。 「なんですか?義母上」 文机に向かって筆を滑らせている直政に対し、その背後で正座しつつも、頬を膨らませている直虎がいる。 若干その視線が鬱陶しいと直政は思っているのだろう。 「なんですか?…じゃ、ありません!!何故、さんをご実家に帰す真似をしたのですか、あなたは!!」 直虎がそれを知ったのはすでにが出立した後だった。 夫婦がそんな話をしていたなど知らずに、呑気に近くの温泉へと行っていた直虎。 ウキウキとお土産を持って門戸を潜れば、の姿などどこになく、直政に問うと。 「真田に戻りました」 と淡々と答えた。 状況がわからず、直虎は慌てつつ、オロオロして何もできなかったのだ。 ようやく落ち着いたので改めて直政に問いただすつもりでいた。 「その方がいいかと思ったので」 「どこをどうしたら、そう思うのですか〜!!実家に戻されるなど、不名誉な事なんですよ〜!!」 「はぁ?俺は別に」 「別にも何もいいです!早くさんを迎えに行くんです!!」 「無理です。忙しいので。義母上もご存知じゃないですか」 その理由を。 「だったら、直の事、さんがいないと井伊家はさらに忙しくなるではないですか!」 「その辺は問題ないです」 全く顔を向ける気がないのか、直虎に背を向けたままの直政。 「問題ないですよ、本当…真田に居た方が、は幸せなのでしょうから」 「直政、あなたは…」 そうじゃないと直虎は話を続けたかったが、直政の事を呼びに来た家臣と共に、直政は出かけてしまった。 がっくり肩を落とす直虎。 「はぅ〜これからどうしましょう〜こんな事、他所様に知られては困るし…だからと言って、家康様や忠勝さんにご相談するわけにもいかないし…」 身内の事だから、ではなく。 二人に相談しても、上から命じられるだけで根本的な解決にはならないだろう。 だけど、上司からの言葉によって夫婦間の出来事を解決できる事もある。 家康によって解決できたならばそれはそれでいいし、できずともきっかけに繋がる事ができればいい。 「だけど…言えませんよ〜は!真田には稲さんがいます。稲さんが忠勝さんに連絡でもしていたら…」 は真田家で今回の事をどう話したのだろうか? 直政に黙って小田原へ来た事は、だけが悪いわけではない。 自分が深く考えずにを誘ってみただけの話だ。 悪いのは自分。 もしあれが、夫婦の仲を裂くきっかけになってしまったと思うと、直虎は本気で落ち込んでしまう。 しかも、何を呑気に温泉などに行ってしまったのだろうか? せめてを誘って、一緒に行けばまた違った結果に繋がっただろうし。 「…これから忙しくなるからと…今のうちにと思った自分がバカでした…」 でも、忙しくなるのならば、尚更は井伊家にとって必要なのに…。 が里帰りした事を、信之夫妻は喜んでくれた。 特に稲はとは入れ違いでこちらに来たので、こうしてすぐに会えた事が嬉しかったのだ。 「それでいつまで居られるのだ?井伊家も忙しくなるだろう?」 「あ、うん…特にこれと言って決まってないんだ。旦那様も好きなだけって言ってくれたし」 「そうか…直政殿なりに気を遣っているならば、今回は少々気を遣いすぎだな」 信之は苦笑する。 「そうですね。父上も長く親しんだ場所を引っ越す事を寂しそうにしていましたので」 「引っ越すか…」 それは忠勝だけではなく、徳川全家臣含めての話だ。 今回の小田原討伐で、北条家は滅んだと言ってもいい。 北条家は亡くなるも、その家臣たちは豊臣に仕えることになった。 不平不満が出るのは覚悟の上であるが、秀吉が一番危惧したのは、北条家亡き後の関東の事だ。 北条家はその土地の民からの信頼は大きく強かった。 北条家に不満を持つ民がいるのか?と思えるぐらいだ。 北条家も民の為に住みやすい国として尽くしてきたのだから。 その北条が亡くなり、後釜に着いた者の苦労は目に見えるのがわかっている。 一からの始まりではなく、ほぼ敵視されるような形での始まりになるだろう。 そんな関東を秀吉は家康に任せると言って来たのだ。 徳川家臣団の中には、京から家康を遠ざけるのか目的だとか、左遷だと思う者も居たようだが、実際は家康にならば東国の統治を任せられるという信頼からなのだろう。 苦労が目に見えるが、他の大名よりも家康ならばと言う話だ。 家康が関東に行くならば、当然家臣もついていくわけで、忠勝は勿論、井伊家も着いていくことになっている。 当初直虎だけは府中で今まで通り暮らせばいいだろうと言う話もあったらしいが、そこは直虎も共に行くと決めていたようだ。 にとっても忙しくなるはずだったのだが、結局は真田に戻ってきている。 「私としては幸村も帰ってきている上に、まで傍にいてくれる。こんな嬉しい事はない」 「私もです。信之様。ねぇ、。この前はあまり話ができなったから、沢山話をしましょうね」 優しい兄夫婦の言葉には微笑むも、そこに自分の気持ちが籠っていないように感じてしまう。 悟られてはいけない。 実際はそうではないのだという事を。 「うーみはひろいな おおきいなあ」 幸村はそんな歌を聴き、歌声を辿っていくと天守閣に出た。 そこでが手すりに体を預けて遠くを見ていた。 「今の歌はお前だったのか、」 「いって…?あ、ユキさん」 振り返り幸村を見てニコリとは笑った。 「煩かった?」 「いや。珍しい歌だと思ってな」 幸村も自然との隣に並んだ。 今日も清々しいくらい気持ちいい晴れ間が広まっている。 「そうかもね。あのね、前に海を見たんだ。その時もこうやって歌っちゃったの」 「海?」 「行きたい場所はあるか?って旦那様が連れて行ってくれたんだぁ…」 「そうか。ここでは馴染のないものだからな」 幸村自身は戦によっては見る事ができたものだが、ほとんどここで過ごしたには少しなりとも憧れがあったのかもしれない。 「また行こうって言ってくれたのにな…」 遠くを見つめ呟く。 「?」 「なんでもない」 幸村がに目を向けると、彼女は笑っているがどこか泣きそうな感じもした。 「何かあったのか?井伊家で」 「ないよ、別に」 「そうか…」 「ユキさんは相変わらず心配性なんだから」 「そうでもないと思うが…」 でも、何かが幸村には引っかかってしまう。 「…もしかしてなんだが…」 「なに?」 「お前…身籠ったのではないか?だから実家に戻って来たと」 そう言った途端にの顔が見る見るうちに赤くなっていく。 「ち、違うよ!!妊娠なんかしてないよ!!ば、バカな事言わないでよ、ユキさん!!」 「す、すまん」 「違うからね!そういう理由で帰ってきたんじゃないからね!!」 そこまで否定されるのもどうだろうか?と幸村は思うも、女子に対して聞く事ではなかったか?と反省はした。 井伊家ではどうかわからぬが、跡継ぎ問題などは大名家ではよくある話で、それに対する女性への重圧もあるだろうからと。 「ちーん」 くのいちが姿を現す。 「くのちゃん。なに?」 さっきまでの態度は消え、くのいちに対し笑顔を見せている。 「稲ちんがね。ぼた餅を作らないか?って。というかぁ、稲ちんが教えてもらいたいんだって」 「本当?そんなに上手なものでもないと思うけどなぁ」 「いやいや、ちんのぼた餅美味しいよ」 褒めるくのいちには照れている。 「でも、私の場合。ユキさんといつも作っていたから、ユキさんも上手だと思うよ?」 「お〜なるほどにゃ」 「わ、私はの手伝いをした程度だ」 あくまでが中心で作ったと幸村は言いたいらしい。 「でもいいじゃん。みんなで作る?でもってまた信之様に食べて貰おうか」 「兄上も喜ばれるとは思うが…」 「じゃあ、決まり!行こう、ユキさん、くのちゃん!」 「お、おい!」 はくのいちを促し、幸村の背中を押すのだった。 「なんだ。それで逃げてきたのか?幸村は」 信之は幸村の話を聞いて笑っている。 「逃げると言うか、流石にあの中に居続けるのは厳しいものがあります」 台所で女子が3人賑やかに作業している場など、幸村には苦痛でしかなかった。 だったらまだ一人で鍛錬をしていた方がいいとさえ思ったのだが、思う事があって信之の室を訪ねたのだ。 「あの、兄上…」 「なんだ?」 「井伊家。直政殿からは何かありませんでしたか?」 「いや、何もないが」 「……からも?」 「あぁ。それがどうしたんだ?幸村」 幸村はの里帰りの理由を素直に受け入れられないのだ。 たまに遠くを見つめている様、笑顔で隠しているようなものを。 「の里帰りは、何と申しますか…純粋なものではないような気が。もしかして、井伊家で何かあって帰らされたのではないかと」 「だとしたら…」 「兄上?」 信之が考え込むも、すぐさまかぶりを振る。 幸村は問うてみるも、信之はなんでもないと言い切った。 「が何も言わないのだ。私達が無理に聞く事はあるまい」 「そうなのですが…」 「何も心配するような事はないだろう。お前が不安になってどうする?折角が里帰りをしてくれているんだ。そう気にするな」 「兄上…はい」 自分の考えすぎなのだろうか? 確かに自分だけが騒ぐわけにはいかないし、が何も言わないのであれば仕方ない。 「信之様、ユキさん!ぼた餅できたよ〜」 達が室に入って来る。 信之はそれを嬉しそうな顔で出迎えている。 ちょっとした楽しい時間になりそうだが、どこか幸村の顔は晴れなかった。 人質が里帰りって普通ないが、まぁ無双だし、おねね様最強てことでw
15/07/13
19/12/29再UP
|