拈華微笑



ドリーム小説
【20】





「ほぅ・・・・お前の勘。冴えているな」

邸の裏口から少数の護衛で出てきた三成たち。
あらか様に不審な集団を見つけた。

「三成さん、こっち!」

路地裏を気づかれないように走る。
わかる。
恐ろしいくらいに、安全な道が見える。
目に見えるわけではないが、こっちだと知らせてくる何か。

「それで、どこまで行けばいいの?」

「兼続や幸村と合流できればいいのだがな・・・・」

京の都を脱して、本格的に動き出せればいい。
だが敷かれているかもしれない包囲網を脱するにはどうすれば良いか。

「利家様は?」

現在徳川家康に唯一対抗できる存在。

「頼りにしたいところだが、ここに残るのは危険だな」

「あ」

甲高い笛の音が聞こえた。
何かを知らせる音だ。
そして一斉に駆け出す集団の姿。彼らに見つからないように身を隠しながら様子を窺う。

「・・・・・左近かもしれん」

騒ぎを起こし、敵をひきつける手段。

「行くぞ。今のままでは我らの方が不利なのだからな」

左近が時間を稼いでくれる間に。



三成の邸を襲撃した福島正則の一派。
だがそこに三成の姿はなかった。それどころか、使用人の姿もない。もぬけの殻。
襲撃することを悟られるとは思わなかった。
このことはほんの一部にしか知らされていなかったから。
下手に突いて、ねねや利家の耳に入ると厄介だ。
慎重に慎重を重ねたはずなのに。
恰も襲撃を予想されていたかのように、邸には誰もいなかった。

そして、配備しておいた他の部隊が、戦闘を始めたと報告が入る。
三成配下の島左近の部隊だと言う。
急ぎ三成を探すように言い渡す。
逃げられでもしたら厄介だと。

そうしているうちに、今度は直江兼続、真田幸村、前田慶次らとの交戦も知らされた。
早くしなければ、非常に不味い。
だが自分たちには家康がついている。
それだけが救いのような気もした。




「流石に厳しくなってきたかも・・・・」

どっちに行っても、やばそうな雰囲気を感じる。
行ってはダメだ。
そう知らせる勘。
もう勘だけでは逃れられないのだろうか?

「もう少しだけでも・・・・なんとか」

役に立てれば。

。俺の側を離れるな」

「え?」

ぐいっと三成に襟首を掴まれた。

「流石に忍の目は誤魔化せなかったようだ」

現れる小柄な者たち。
姿勢を丸めて独自の体制でたちの前に姿を見せた。

「石田三成・・・ようやく見つけたぞ」

「ふん。内輪揉めを利用してあわよくば消そうという魂胆か?」

忍は反三成派と言うより、徳川の忍だ。

「・・・・・」

忍の抜いた刃が月の光に反射する。
少数の護衛だけで逃れられるか?しかも自分は一番戦いにおいて役に立たない。
それどころかお荷物だ。
三成にとって不利であるのはかわらない。
最悪の場合、盾となる覚悟はしておいた方がいいのかもしれない。

(・・・・・・・誰でもいいから、助けて!!)

三成が何をしたと言うのだ。
ただ気にいらない。それだけで襲うのか?
清正も正則もそんなに単純な人だっただろうか?
秀吉一人がいなくなるだけで、世の中はこうも変わるのか?
皆が笑って暮らせる世。それを作るのが秀吉の夢、目的だったのに・・・・。
いともあっさり崩れ去った。

(やっぱり・・・・・私の所為なのかな・・・・・)

闇が襲ってくる。
吹っ切ったはずの澱んだ感情が襲ってくる。
ここで万一三成が討ち取られでもしたら・・・・・そうなってしまうのは、やっぱり・・・・?

!」

キラリと光るそれが目の前に振り下りてきた。

「あ・・・・」

言葉も感情も何も浮かばない。
ただ正面から受けるだけ、それだけ。

「っ!!」

は呆然と立ち尽くした。
だが何も感じなかった。

「痛く・・・・ない?・・・・」

目の前に映るのは赤い甲冑。白い鉢巻・・・・忍の太刀を得物で受け止めた幸村だった。

殿!大丈夫ですか!?」

「幸、村・・・さん」

「はぁっ!!」

太刀を弾き返し、幸村は忍を両断する。

「ご無事ですか?三成殿・・・・」

「幸村!あぁ、お前も無事だったか」

三成にも余裕が生まれ襲ってくる忍を払いのけていく。

「兼続殿も慶次殿も戦っておられます。慶次殿から利家殿に知らせを出してくれたようです。だから」

「あぁ、なんとか切り抜けるぞ、幸村」

元々少数だった忍。
幸村たちで打ち倒す。

「ここに止まっては危険でしょう、急ぎましょう」



突っ立ったままの

「あの、わた・・・・私・・・・」

「お前の勘が頼りだ。どの道を行く」

三成は疑うこともなく信用してくれている。
だが一度噴出した感情が、の反応を鈍くさせる。

(怖い・・・・どうしよう・・・・・)

嫌な記憶が蘇る。
信玄の死。負け戦で滅亡した武田家。
お前の所為だと言われ逃げた日。
不安でいっぱいになって人を恐れていた中で出会えた孫市とガラシャ。
新しい光も、そう長くは続かずまた消えてしまった。
いい事もたくさんあったはずなのに、それが全て今また閉ざされてしまいそうになる。
怖い。
怖さが身体を震わせる。小刻みに震えるの手。

殿。大丈夫です」

幸村が手を取る。

「あなたのこと、私がお守りいたします」

「幸村さん、私」

幸村を不安げに見つめる
不安よりも彼女は恐れている、幸村は気づく。
そして、そうさせてしまったものが何かと言うのも。

殿。私はあなたを信じます。皆でここを切り抜けましょう」

強く手を握り返してくれる幸村。

「決して殿の所為などではありません。あの頃のことも、最初から殿の所為ではないのですから」

信玄との約束。



『幸村。のことを頼むよ。しっかり守ってやってくれ』



きっと果たすのは今だ。
いや、この先ずっと、できる限りそうしたい。
震える小さなこの手を、二度と離さず守り通すのだ。

(幸村さんの手・・・・温かい)

その温かさが不安を、恐れを拭わしていく。
自分の所為ではない。
それは皆が言ってくれたではないか、今更何を思う。
は息を吐く。
震えが止まる。スッと体が楽になる。
自分を覆い隠そうとした闇が晴れていくかのように・・・・。
見える。
光だ。

「幸村さん。行こう!こっち!!」

幸村の手を引き走り出す

「三成殿!」

「あぁ」

町には沢山の兵がいるはずなのに、が示す行き先には不思議と誰も居ない。
逆にこれが罠ではないかと思えてしまうくらいに。
だが、誰もを疑わない。
を信じている。
ここで終わりではない。
まだまだやるべきことがあるのだ。
時間はかかろうとも、このままにしておくわけにはいかない。
三成たちは家康と決する時が必ず来ると確信していたから。



***



なんとか切り抜けられたたち。
陽動していた左近たちとも無事に合流できた。

(皆、私のこと信じてくれた・・・・幸村さんも・・・・)

それがすごくの心を温かくする。
だけど。

「くしょん!!」

夜中、いやもう夜明けに近い。
そんな中で、男物の羽織を羽織っていたとは言え、は夜着姿。
盛大にくしゃみをしてしまった。

殿!」

「あ、あは。ごめんなさい」

「謝ることは。気づかず申し訳ないです・・・・何か身体を温めるものがあれば」

自分たちはしっかり着込んでいるし、戦いの所為か身体を動かし暑いくらいだった。

「私の事はいいです。今は、これからのことを」

そこへ、自分たちを取り囲むようにある一団が姿を見せる。

「・・・・・」

「三成か?」

「・・・・・・だったらなんだ」

「そう、怖い顔をするな。我が邸へ案内しよう。しばらくそこで休むといい」

姿を見せたのは三成たちと同じく秀吉に仕えていた、佐竹義宣だった。
豊臣に忠義をと言うより、自分たち祖先伝来の地を護ることができればいい。
そういう考えの持ち主であるが、今回の出来事に反家康の意を唱えていた。
このまま家康に転ぶのが面白くない。
それだけの理由であるが、今の三成たちにはそれだけでも得られた味方に安堵した。

味方したのは佐竹だけでなく、他にも名を連ねた者はいたが正直三成自身が心から信頼を。
と思えるのはわずかばかりだ。
いつ裏切るかもしれない者もいる。
しばらくは佐竹の邸に止まっていたが、三成たちは行動を起こし始める。
兼続は会津へ幸村は信濃へ家康を討つ為動く。
利家も挙兵を決め、決戦の場は関ヶ原となろうとしていた。

「あの!幸村さん!」

信濃へ向かう直前の幸村をは呼び止めた。

殿・・・あなたを守ると言っておきながら、そばを離れてしまうことをお許しください」

信玄との約束が・・・と思うが。
信玄だけに止まらず、幸村自身が彼女を守りたいと思っていたから。
それが果たせないのが悔しい。

「じゃあ・・・・私も連れて行ってもらえますか?」

「だ!駄目です、それはっ!」

ほんの少しの冗談のつもりだったが、幸村には真剣に断られる。

「最初から、無理だってわかっています・・・・でも」

幸村の袖を軽く摘む。

「幸村さんたちが無事でいられることを、祈ってますから、私・・・」

「それは心強いです」

「それで、あの・・・・」

引っ張るように摘んだ手。
かすかに俯く

「え?」

ぼそりと呟かれた声。
幸村は思わず前のめりになる。
そしてようやく聞こえた言葉。

「ありがとう。私のこと・・・信じてくれて、嬉しかったです」

、殿」

拒絶されて、でも再会して、元に戻った。
それでもまた、同じことが起きたら・・・いや、起きて闇に覆われそうになった。
そんな中で、幸村はを信じると言ってくれた。
恐れは幸村の言葉と、温かい手が払ってくれた。
単純に嬉しかったから。
やっぱり、この人が好きだなと・・・。

「いえ、そんな・・・私は」

当然といえるかわからないが、一度彼女を傷つけた事実は変わらない。
疑ったことも。
が許してくれても、それは消えないのだ。
だけど、だって怖かっただろうに、三成を逃す為に必死に走った。
あの時、武田の家臣が言うような異質な子などではない。
普通の女の子だ。
そのを自分は信じる。それが償いというわけではないが・・・・。

殿、あの」

出立を告げる声。幸村は呼ばれてしまう。
もう行かねばならないようだ。

「無茶しないでくださいね、幸村さん。でもできるだけ、早く・・・・戻ってきてください」

それは単に戦を終えて、早く戻ってきて欲しいからではない。
これから起ころうとしている戦の先を見て・・・。
これ以上、には何もできないから。
幸村の袖を掴んでいた、の手が離れる。

殿」

「私は大丈夫です。利家様が呼んでくださったので、利家様の所にいますから」

大丈夫などといいながら、の双眸は不安げに揺れている。
せっかく訪れた平穏がいとも簡単に崩れたから。
幸村は自然と手を伸ばす。

「できるだけ、早く。あなたのそばに戻ります」

だから、そんな顔をしないで下さい・・・。

「幸村、さん」

温かい腕に、幸村に抱きしめられている。
こんな時なのに、顔が緩んでしまう。

「あは・・・・やっぱり、未練たらたらだ、私・・・・」

温かい気持ち。
だけども、同時に涙が零れた。
戦が始まる。






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09/01/21
19/12/28再UP