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拈華微笑
何かが、可笑しいと感じる人は感じた。 【18】 「最近、三成さん機嫌悪い」 邸へ戻ってきた三成。 着替えをさっさと済ませると、室に籠もってしまう。 話しかけても大して返事もしてくれない。 そんな中でが言った一言に左近は苦笑する。 「まぁ殿にも色々あるんだよ」 「色々って何?左近さん」 三成が室に籠もると、必然的にと左近はそばの縁側に座り込んで話をし始める。 習慣のようなものになっていた。 「うーん。そうだねぇ・・・・・あの性格だろ?関係ないところで敵を作っちまう」 はあぁと頷いた。 なんとなくだけど、わかる。 きっと三成のことをよく知りもしない人間が、彼を悪く言うのだろう。 三成自身は無視して過ごすのだが、それがかえって相手の印象を悪くすることもあるのだろう。 にしてみれば、三成のことを好き勝手言っておいて、その態度は何だと逆に言いたいくらいだが。 「政の場だと、私はなんもわからないしなぁ・・・・」 「だが、殿はお一人じゃない」 は笑って頷く。 そうだ。三成は一人じゃない。 こうして左近がついているし、左近だけじゃない、友としてもっとも信頼している兼続と幸村もいる。 理解者としてねねだっている。 「皆さんがいるから、大丈夫ですもんね、三成さんは」 「おいおい。そこにはちゃんと嬢ちゃんも含まれるんだよ」 「え?私。ですか?・・・・私はいつも三成さんに迷惑をかけっぱなしで・・・」 室に籠もっている今の三成に何もしてあげられないでいる。 「迷惑なんて。殿は思っていないさ・・・・嬢ちゃんといる時の殿は優しい目をなさるからな」 「そ、そうなの?」 自分ではそうだろうか?と首を傾げてしまう。 結構キツイ物言いを普段からされてるし。 ただ、嫌味というより、こうだとちゃんと理由があって人を馬鹿にしているのとは違う。 三成なりに教えてくれている。そんな感じはする。 着替えの手伝いをしながら話すことも、今日何かあったか。なんて子どもが親に聞かせているような感じで。 「なんというか・・・・嬢ちゃんが娘みたいに見えるんじゃないかい?」 「そ、そんなに子どもかな?私・・・・」 「はははっ。年齢的なことを考えればありえないのだろうけどね、俺としてもたまにそんな風に見えるよ」 ポンポンと頭に触れられる。まさに子ども扱いされているようだ。 「えー左近さんもー」 周りにいる女性に比べれば色気が、淑やかさが足りないとか思われても仕方ないと思えるが。 スッと三成の室の障子が開く。 「何をしているのだ。お前達」 「殿。いや、なんていいますか。嬢ちゃん見ていると親になったような気分がするって話していたんですよ」 「三成さんもそう思う?左近さんは三成さんがそういう目で見てるとか言うんだよ」 三成は溜め息を吐く。 何をくだらないことを言っているのだ。そういわれるのだろうとは思った。 だが、違った。 「あぁそうだな。馬鹿な子を持つと苦労する」 「ちょっ!三成さん、酷い!私とそんなに年が離れていないのに!」 まるで本当の親のような口ぶり。 「そう見えるのだからしょうがないだろう。駄賃をくれてやるから、これで好きなものでも買って来い」 そう言って、三成は本当にに金を渡した。 「す、好きなものって。本当に子ども扱いする?普通」 は頬を膨らます。それが余計に子どものようだと思われてしまうだろうに。 「いいから。買って来い。あとで兼続と幸村も来る。何か茶請けを買って来い」 「そうならそうとちゃんと言ってくださいよー。もう」 は立ち上がる。では行って来ますと。 の後姿を見ながら、三成は小さく笑った。 左近も腰上げる。 「本当。保護者のような顔ですよ、殿」 「左近もそうなのだろう?」 「そうですね。ですが、嬢ちゃんが殿のそばにいてくれるのはありがたいですよ」 きっとが幸村と和解でき、こうして過ごしていられるのも三成のおかげだと思うから。 ただだけではない。 三成にとってもいい方向へ動いたと思える。 左近が三成と出会った当初は、印象はあまりよくなかった。 それでも面白そうだと感じ仕えることになったのだが、がそばにいることで。 気づかないうちに三成は安らぐことを覚えていたから。 「面倒ばかりかけるがな。だが、いつまでもと言うわけにはいかぬだろうな・・・・」 「殿・・・・」 「一生小間使いとして置いておくのもいいが、あいつが本当に一緒にいたいと思える奴は別の奴だろうからな」 誰とはあえて口にはしない。 あとどれくらいだろうか、この日常も。 「ですが、それで縁が切れると言うわけでもありませんよ」 「・・・・ふん」 寂しいと思っているのだろうか? だが三成が決してそういうことを口にしないだろうから。 「それで・・・・。調べはついたか?」 三成と左近の顔つきは変わる。 「まだ尻尾は見えませんけどね・・・」 「が戻るまでまだ時間はあるだろう。話を聞こう」 そう言って室に戻っていった。 *** 「兼続さんと幸村さんが来るから・・・・何がいいかなぁ」 三成に言われて、茶請けを買いに出た。 二人が来るから二人好みのものをと思うが、三成も食べるもののほうがいいだろうとは思う。 普通に饅頭の類を買えばいいのだろうが、三成があまり甘味を好まない。 過去の話をするためとはいえ、三成に大量の饅頭を食わせたことで。 彼は更に甘いものを口にするのを拒むようになった。 「だからって、漬物ってわけにもいかないし・・・・」 菓子と言うならば、何も甘いものばかりではない。 茶請けになるようなものならばなんでもいいのだ。 早く戻れとも言われなかったし、時間が許す限り探してみようとは思った。 この町には色んなものがあるから、きっと何かいいものが見つかるだろうと思って。 「あら。ちゃんやないの。今日はなにしてはりますの?」 歩いていたに阿国が声をかける。 「阿国さん!ちょっと探し物。というか、三成さんに頼まれてお菓子を買いに来たの」 これこれこうだと阿国に説明する。 阿国ならばきっといいものを知っていそうだと思って。 「お持ち帰りのできるものがええのね。せやねぇ・・・」 ここはどうだ?などと阿国は思ったとおりオススメの店を教えてくれる。 阿国も今は時間があるからとそこまで案内してくれるそうだ。 「ちゃん。結局この前は幸村様と縁結び神社いったん?」 「い、行きましたけど・・・・」 「あらぁ。良かったやないのー」 阿国は教えた甲斐あったと喜ぶ。 だが最初から二人で行ったのではないと伝える。 一緒に行くのが恥かしくて、お茶屋さんで別れたのだと。 「でもお茶屋さんのお姉さんが、幸村さんに神社のことを話したみたいで」 「あとからきはったんね。ちゃん、言われたやろ?一緒に行きますのにーって」 「う、うん。だけど、幸村さんはそこが何の神様がいるのかは知らないみたいだったよ」 「へぇ。そうなん。だったらちゃんが教えてあげたらええの」 は苦笑する。縁結びことを教えるのがなんとなく恥かしいのだ。 がっついているように思われるわけではないだろうが。 目の前に好きな人がいて、その人に縁結びがどうとか言うのも。 「でもしっかりお参りはしはったんやろ?」 「したけど・・・・普通」 「普通ってなぁに?」 「内緒です」 「ずるいわぁ。うちとちゃんの仲やのにぃ」 隠し事は許しまへん。阿国はわざと怒ったような態度をとる。 それでも内緒は内緒。とは笑う。 こんなやりとりをできるのが楽しい。 阿国オススメの店で、いくつか菓子を買った。 甘いものが苦手な三成でも食べられるものだ。 「じゃあ阿国さん。ここで」 「ええ。喜んでもらえるとええですなぁ」 それはきっと大丈夫だろうとは思う。 「あ。そうだ。ここら辺でお祭りとかないかな?」 「祭り?んーどうだったか・・・・それがどうしましたん?」 「この前、利家様がお祭り行きたいって言ってて、皆でいけたらいいなと思って」 利家とそんな話をしたのだが、利家には「幸村と行けたらいいんだろ?」などといわれてしまったが。 それは別として、普通に三成や左近たちとも一緒に行けたらいいなと思ってはいるのだ。 きっと楽しいと思う。 「だから、近々ないかなーと思って」 「・・・・・・・」 「阿国さん?」 阿国の反応が急に悪くなる。 「・・・・・・皆って、利家様や、三成様のことやろ?」 「うん。そうだけど、それがどうかした?」 阿国は頬に手を添えて、珍しく考え込んだ。 「最近、皆様のご様子ってどうなん?」 「え?普通だと思うけど・・・・お祭りと何か関係あるの?」 急にどうしたのだろうか?利家や三成が関係していると言うのだろうか? 阿国は祭りとは関係ないと首を横に振る。 では一体なんだろうか? 「噂・・・・」 「噂?」 阿国は辺りを窺ってから、にこっそり耳打ちをした。 「なんや悪い噂が出回ってるそうで・・・・」 悪い噂?利家や三成にか? 「三成様が秀吉様のあとを狙っているとかいないとか・・・・」 「え!そ、そんな!!」 「あくまで噂や。それにそう名前が出てるのは三成様だけやないよ」 阿国が出した名前は、でも聞いた事のある武将たちであった。 「三成さんはそんなことしないよ!絶対、絶対に!」 秀吉のことを慕っているのに。ずっと秀吉の為にと働いていると言うのに。 「ごめんな。ちゃん。べつにそないな顔をさせたいわけやないんよ。ちょっと小耳に挟んでもうたから」 阿国はの頭を撫でる。 「うちは別にそうだと信じているわけやないよ?」 少し気になっただけだと。 ただ三成よりもを心配してしまったのだ。 もしそのようなことが万が一起こった時、が巻き込まれたらと阿国なりに思った。 「うん・・・ごめん。阿国さん・・・・」 だが、阿国の言う噂。 絶対にないと言い切りはしたが、三成が不機嫌である、室に籠もってしまう理由がわかった。 噂のことを強く非難されたのかもしれない。 「ちゃん・・・ほんま堪忍してや。うち余計なこと言ってもうたね・・・」 「あ。そんなことない!私は平気。美味しいお菓子の店、教えてくれてありがとう」 「ちゃん・・・」 「今度またどこか行きましょうね。私楽しみにしていますから」 が笑うから、阿国も笑いながら頷いた。 そして阿国と別れて邸へ向かう。 歩きながらずっと考える。 噂はあくまで噂だ。だけど、三成のことを悪く言う人間がいるのは確かでとても悔しい。 「殿?」 「あ。幸村さん。こんにちは」 ちょうど三成の下へ向かう途中だった幸村と遭遇する。 も邸へ戻る途中だったので、一緒に行くことになった。 阿国に教えてもらったオススメ菓子を買ったなどと他愛もない話をする。 だが、ずっと先ほどの噂が引っ掛かってしょうがない。 そんなの様子に幸村は気づく。 「どうかされたのですか?殿」 「え、い、いえ・・・別に・・・」 そんな言い方ではかえって何かあったと思われてしまうだろう。 このままで三成と顔をあわせたときにも同じような態度をとってしまうかもしれない。 だから邸まであと少しというところであったが、は幸村の袖を引きそこから離れる。 「殿?」 辺りを見回し、人気の少ない路地裏へ。 「ごめん、なさい・・・その・・・あまり人に聞かれたくないことだったから・・・」 「いえ。それで、どうかなさったのですか?」 「あのね・・・幸村さんの気を悪くさせちゃうことだと思うんだけど・・・」 先ほど買った菓子を左腕で抱え、右手は幸村の袖を引っ張ったまま。 は小声で、阿国から聴いた噂を幸村に聞かせる。 「え・・・そのような噂が?」 「そんなことないよね?三成さんがそんなこと考えているなんて・・・・ありえないよ・・・」 「殿・・・」 袖を握る手が強くなる。 「いつも秀吉様の為にってしている三成さんが、そんなこと・・・何も知らない人が好き勝手に悪く言って」 それがとても悔しい。 何を言われても涼しげにしている三成だろうが、きっと酷く傷ついたりしているはずだ。 一人で室に籠もることなどを思えば。 「私も。ただの噂だと思いますよ。三成殿に限ってそのようなことはないと思います」 「幸村さん・・・」 は顔をあげ幸村を見る。ずっと掴んだままの手がするりと抜ける。 「ただ・・・」 「ただ?」 「三成殿以外の名もあがっているのですよね?」 頷く。幸村は思案顔になる。 三成を以前から悪く言う者は幸村も知っている。 三成に言わせれば「好きに言わせておけ」という反応ぐらいで。 ただ、ここまであからさまに秀吉の後を狙うというのはどうだろうか? 「何か変ですね」 「変ですか?」 「いえ・・・・あくまで噂です。殿、あまり気になさらないでください」 少なくとも、幸村は信じていないし、もそうだろうと。 「殿は三成殿のことを心配しておられるのですね」 「だ、だって・・・なんか癪にさわるよ・・・・」 「本当に、殿にとって三成殿は大事な方のようだ」 「え、えぇ!だ、大事って・・・・」 「さぁ。三成殿がお待ちしているでしょう。行きましょう殿」 路地裏から出て邸への道へと戻る二人。 (そ、そりゃあ・・・三成さんは大事っていうか、雇い主だし、色々お世話になったし・・でも、なんか・・・) 幸村から見て、にとって三成は特別な存在に位置しているように思われているようだ。 先日の占いにお参り。あまり効果はなかったという事だろうか? 「幸村さん」 「はい。なんでしょう」 「三成さんは大事というか、大事ですけど。意味が違いますからね!」 「は?」 まだわかっていないようだとは少し頬を膨らませる。 そして小走りで幸村の横を通り抜け、少し先で振り返る。 「私はまだ未練たらたらなんです!前にそう言いましたよね!」 幸村はきょとんとし立ち止まる。 「、殿?」 「もう。幸村さんの馬鹿」 は幸村を置いて行ってしまう。 「えっと・・・・未練たらたら?」 置いていかれた幸村は言っている意味がわからず首を傾げてしまう。 だがその状況に慌てての後を追うのだった。 08/12/10
19/12/28再UP
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