拈華微笑



ドリーム小説
ガラシャとまさか再会できるとは思わなかった。
同じ町に住んでいたとしても、きっと叶うことはないだろうとどこかで諦めていた。
だから引き合わせてくれた利家に言葉では言い尽くせないくらいに感謝してしまう。

「別に・・・。言っただろ?が頑張ったからそのご褒美だって」

利家は気にするなと言う。
それでもだ。
やはり感謝せずにはいられないだろう。



今、全てが順調である。
欲を言えば、孫市のことだけが気にかかる。
ガラシャも孫市のことだけはわからないと言っていた。
もう一緒に旅をする事はできないだろうけど、できれば。
できればもう一度だけでも、3人で会えたらと思った。





【17】





殿。こんにちは」

町中での姿を見つけた幸村。
に向けてやんわりと笑った。

「幸村さん!は、はい。こんにちは」

向けられた笑みに嬉しくなる。
できればもう一度だけでも見ることが、自分に向けられることがあればと思っていたものだ。
それが今、一度とは言わずに、会えばこうして笑んでくれる。

「お使いですか?」

は三成の身の回りの世話をしているから。

「いいえ。三成さんは左近さんをお供に連れてお出かけ中なんで、今は私の自由時間です」

秀吉の命令らしく、どこぞへ視察に行っているのだという。
邸の手伝いもするが三成がいないと基本的に暇なのだ。

「あぁ、そういえばそのようなことをおっしゃっていましたね。では私もご一緒してもよろしいですか?」

「幸村さんこそ、予定があるんじゃ・・・」

嬉しい誘いだが、幸村だって忙しいだろうと思う。

「いえ。今日は私も自由時間ばかりなのですよ。だから、殿さえよければ」

「わ、私は。問題ないですよ!幸村さんがいいというなら」

大歓迎だと思うが、はしゃぎ過ぎないように自分を抑えてしまう。
問題ないならばと幸村はご一緒させてくださいと言った。



特に目的があるわけじゃない。
ただ暇だから、町中をぶらりと散歩していた。
こうして見て周るのも楽しいのだ。
歩いていれば誰かしら知り合いにあって、立ち止まって喋ったり、店で何か食べたりしていた。
今日もそうしようと思っていたら、幸村と出会ったのだ。

「いつもは阿国さんと・・・あ、出雲大社の巫女さんなんですけど。阿国さんと甘味屋さんに行ったりしているんです」

「そうですか。出雲大社の巫女殿とお知り合いとは。殿は本当顔が広いですね」

きっと自分よりもこの都を熟知しているような気がすると幸村は笑う。

「そんなことないですよー」

「・・・・・・」

「幸村さん?」

活気づいている京の都。
信玄が存命のころは荒れていたと聞いていた。
それが今ではそんな光景などなかったかのように活気づいている。

「御館様にもお見せしたかった・・・・」

「幸村さん・・・」

「あ!い、いえ!別に深い意味はありません!だから、殿は気になさらないでください!」

今の言い方ではを傷つけたかもしれないと幸村は慌てる。

「大丈夫ですよ、幸村さん」

殿・・・・・」

幸村は溜め息を吐く。なんだか空回りしてしまったようでバツが悪い。

殿。私は・・・・あれから思いました。殿が見た夢・・・」

「え?」

信玄が手の届かない場所へ行ってしまう。嫌な夢。
どんなに呼んでも信玄は振り向かず。手を伸ばしても届かない。
追いかけようにもどんどん離れて行ってしまった夢。
目が覚めたとき、酷く震えて怖かった。
初めてだった、あんな夢を見たのは。

「きっと殿を通じて、御館様の母上様が警告してくれたのではないかと・・・」

幸村はに信玄の母、大井夫人のことを話す。
亡くなる寸前。最期の最期まで、信玄に決して上洛してはならないと言っていたことを。
甲斐と信濃をずっと守り続けるべきだと言い残していったそうだ。

「そんなことが・・・」

「私どもは御館様が病を患っていたことなど知りませんでしたから・・・」

「でも、あの時はしょうがないですよ・・・・誰だろうがきっと今みたいには思えないだろうし」

幸村は少し俯く。

「あ、別に。幸村さんの言っていることを否定しているとか、そんなんじゃないですよ?
こうして、そう考えてもらえたのはすごく嬉しいです。今はそんな夢見ませんよ?私」

あの時だけだそうだ。
勘の良さはそこそこに良いらしいが。

「だから・・・・・そうです。きっと御館様の母上様の警告だったんですね」

過ぎたことだから、もう今何を言ってもしょうがない。

「すみません、殿・・・・穿り返すようなことを言ってしまって・・・」

「そんなことないですよ」

幸村にとって信玄がいかに大事な人なのかはもわかるから。

「今の私は秀吉様にお仕えする身。いつまでも御館様にこだわるのはいけませんね」

だからこの話はもう終わりだ。
次はどこに行こうかと幸村は辺りを見回す。
は幸村の袖を掴んだ。

殿?」

「確かに・・・御館様にこだわってばかりなのはいけないんでしょうけど・・・・」

薄っすらとの頬が赤くなる。
恥かしいとは思いつつ、今言うしかないだろう。
しっかりと幸村と目を合わせる。

「思い出話をするくらいならいいじゃないですか。私ならいつでも御館様のお話聞きたいですから」

だから、たまに思い出話をしよう。そうは告げる。

殿・・・はい。そうですね、また思い出話に花を咲かせましょう」

たまに思い出すくらいならば。誰も文句はないだろう。
との共通の思い出は信玄のことなのだから。



「あらぁ、ちゃんやないの〜」

「あ!阿国さん」

は戻ってきていた阿国と遭遇した。
にとって阿国は友人でもあるが、ねねとはまた別の憧れのお姉さんだ。

「お帰りなさい〜阿国さん!」

思わず阿国に抱きついた。
阿国は微笑みながらの頭を優しく撫でる。
そして、の後方にいた幸村に気づく。

「ほんまにちゃんの周りはええ男はんばかりやね。今日はどなたとお出かけですのん?」

「もう阿国さんってばー。確かに美形が多いのは認めるけど、勘ぐるような仲じゃないもん」

あまりからかわないでくれとは頬を膨らます。

「はいはい。それで?今日はどなたとご一緒ですか?」

「ゆ・・・・幸村さん」

少し頬が赤く染まる
阿国はが幸村に対しどう想っているのかを知っているので、瞠目する。
そしてすぐさま優しく笑いかけた。

「仲直りできたん?」

「うん。できた」

幸村には聞こえないように小声で話す二人。

「それは良かったわぁ・・・・ちゃんの顔もええ顔に笑ろうてはります」

「・・・・うん。すごく楽しいよ、今」

はにかむように笑う
本当に幸村のことが好きだったのだなと阿国には感じられた。
は阿国から離れて、幸村に阿国を紹介をする。

「幸村様のお噂はよく耳にしはりますよ。ほんまにええ男はんですわ〜」

「わ、私の噂ですか・・・はははっ・・・・」

ちゃんのことよろしゅうお願いします。とてもええ子なんですよ」

阿国は保護者のように幸村に頭を下げる。
だがとんでもないと幸村が手を振った。

「知っております。殿がどんな方なのかを・・・」

「あら。そうですの?うふふ、なら問題ありまへんね」

阿国はコロコロと笑う。

「ところでお二人でどこか行く途中でしたん?」

「ううん。ただぶらぶらしていただけ。今日は暇人だから」

「そうなん。あぁ、だったらこの先にある神社のそばにあるお茶屋さん行ってみたらええよ」

阿国が指差す、この通りの先、少し右に曲がった所だと。
行けばすぐにわかるからと。

「美味しいお茶にお菓子があって、お勧めなんよ」

「いいですね。殿、行ってみましょう」

あまりまだここらの地理を熟知していないので、幸村は興味津々のようだ。

「阿国さんも行こう」

「うちは遠慮しときます。これから行く所あるんよ」

阿国は阿国で忙しいようだ。
また今度一緒に行こうといわれて仕方なく諦める。

「じゃあね。阿国さん」

「あ、ちょい待ち、ちゃん」

おいでと手招きする阿国。なんだろうと思いながら阿国のそばによる
阿国はこっそり耳打ちをする。

「そのお茶屋さんのそばにある神社。縁結びの神様がおるんよ。ちゃんお参りしとき」

「え、縁結びって・・・」

「幸村様もおるんなら効果抜群やで・・・大丈夫やッて、行くだけでもええんやから」

ほな頑張り!との背中を押した阿国。
陽気にそして優雅に二人から離れていった。

「どうかしました?殿」

「な、なんでもないよ」

行こうと歩き出す。幸村はそんなの後に続いた。



阿国のいう神社はすぐにわかった。お茶屋さんもあった。
だからお茶屋さんでお茶とお団子を楽しんだ。
すると茶屋の娘がに話しかけ来た。

「もしかして、お客さんもあそこにお参りに来たんですか?」

あそこと言うのはすぐそばの神社だろう。

「え?ち、違いますよ。ここのお茶屋さんが美味しいって友達が言うから・・・えと」

どんな神社か知ってしまった為に、言い訳をしているようで恥かしい。

「ありがとうございます。でも、ここまで来たならば行くべきですよ、お連れさんと行きたいと思いません?」

のんびりとお茶を啜っている幸村。
娘はにだけこっそりと話している。

「え、えーと・・・あはは・・・」

は団子を食べて、お茶を飲み干して立ち上がる。

「幸村さん!」

「はい。なんでしょう」

「私。ちょっと行く所があるので、ここで失礼します!」

「え」

はごめんなさいと言って駆け出した。

「あ・・・殿?」

茶屋の娘はの行動に思わず笑ってしまう。

「お客さん。恥かしかったんじゃないですかねー」

「恥かしい?それは」

「多分、すぐそこの神社に行ったんだと思いますよ。お客さんも行かれてみてはどうですか?」

「はぁ・・・・神社か」

幸村はお代を置いて立ち上がった。



「あからさまな縁結び神社じゃなくて良かった・・・・いやいやんなこと言ったらバチが当たるつーの」

はまずはと清めの水で手を洗う。
そこの神社の宮司がこうしたほうがいいよと丁寧に教えてくれたのだ。
今までの自分だったらきっと知らずにふらふら歩いて、適当に参拝して終わりだっただろう。
そして今度は拝殿に向かう。
お賽銭を入れて、ここでも宮司に教わったやり方で参拝する。

(・・・・縁結びの神様。今でも十分幸せですが、もっともっと幸村さんと仲良く・・・
ううん。仲良くというか、一緒にいられますように。今の私にはこれしか願いできないですけど・・・)

本来ならば両思いになれますように。とか素敵な出会いを。とか良縁を願うことだろう。
だがにとって、幸村と再会でき、かつ以前のような関係に戻れただけでも十分なのだ。
欲がないというより、怖いのかもしれない。
またこの関係が壊れてしまうことになるのを。

「よし」

くるりと拝殿に背を向けると宮司が笑っていた。

「お嬢さん熱心だね」

「あ、いえ。あはは」

「ついでに占いをしていくかい?」

「占い?」

宮司が占ってくれるのだろうか?
宮司がこっちだよと言うので、素直についていく。

「ほら。あれだよ。お嬢さん」

「・・・・石?」

案内された場所に注連縄が貼られた大きな石があった。

「ここからあの石まで、目を閉じて歩くんだよ。一回でたどり着ければ恋の成就が早いと言われているものでね」

「へぇ・・・・」

面白そうだからやってみようかなとは宮司に言われた場所に立つ。
目を閉じて、願い事を思い浮かべる。

(幸村さんと・・・一緒にいられますように)

ゆっくり、一歩ずつ歩き出す。
躓くようなものはないから安心して歩きなさいと宮司には言われるものの。
やはり目を閉じて歩くのは少々不安だ。
だけど、あの石にたどり着ければ願いは叶う。

「・・・・・」

曲がっていないだろうか?まっすぐちゃんと進めているだろうか?
不安が過る。
それでも一歩一歩進めていく。
感覚ではもう少しだろう。

「お。あと少しだね」

そんな誰かの声が聞こえた。
その声には本当に?と口元が緩む。
思わず速度を上げてしまう。

「あ!」

はやる気持ちが慎重差を失わせる。
カツンとつま先が何かにあたる。

「うわ!」

ぐらりと体が傾いた。

殿!」

転ぶと思い、手を前に出す。

「・・・・大丈夫ですか?殿・・・・」

目を開けると幸村が転びそうになったを受け止めていた。

「幸村さん?・・・あれ、石は?石」

「石?石とは・・・これですか?大きい石ですね・・・なぜこのようなものが」

どうやらは占いの石に躓いたようだ。
だが石に手をつけることなく、転びそうになって幸村に助けられた。

「・・・・・この場合、どうなるの?」

殿?」

宮司がゆっくりとやってくる。

「お嬢さん。大丈夫かい?」

「は、はい。大丈夫です・・・あの、でも・・・・この場合、どうなるんですか?」

一応石にはたどり着いたことになるのだろうか?

「うーん・・・掴んだんじゃないのかな?転びそうになったお嬢さんを助けてくれたわけだし」

幸村のことを言っているのか。
は幸村の顔をマジマジと見上げてしまう。

殿?あの・・・」

「あ、あ!ご、ごめんなさい!っていうか、な、なんで幸村さんいるんですか!?」

「何故と言われても。茶屋の娘さんが、殿はここへ行っただろうからと・・・」

何かいけなかったのだろうか?と幸村は首を傾げる。

「神社に参拝したかったのであれば、言って下されればよかったのに・・・それくらいお供しますよ?」

「・・・・・そ、そうですね・・・」

そんな二人のやり取りを見て宮司は笑った。

「きっとお嬢さんの願い。成就するでしょうな」

だったら、いいな。本当に。



と幸村が帰っていくのを宮司は目を細めながら見送った。

「あの青年がお嬢さんの願う人なら。占いは成功したと私は思うが」

石に辿りついたとき、その想う相手が待っていたのだから。

「中々良い縁ですな」

もし願いが叶ったならば、もう一度には来てほしいものだと。
いや一人ではなく二人で。
そう宮司は思うのだった。








話に出てくる神社は京都にある某神社をモデルにしていますw
08/12/01
19/12/28再UP