拈華微笑



ドリーム小説
。おーい、

三成の着物を片付けていた
幸村との間が元に戻れたとはいえ、今のは三成の身の回りの世話をするのが仕事だ。
遊んでばかりはいられない。
そんなに庭から呼ぶ声がした。
急いで終わらせて障子を開けた。

「おっす。

庭で手を上げ待っていたのは利家だった。

「利家様!こんにちは。どうかなさったんですか?」

幸村や三成とは違った面からをいつも見守ってくれているお兄さん。
そんな感じを利家には感じる。

「うん、まぁな。ちょっと行く場所があるんだけどよ、も一緒に行かねぇか?」

「私もですか?」

利家の誘い。嬉しくは思うがいいのだろうか?
だが利家が構わないと答える。

「三成には許可をとってあるから、大丈夫だって」

「そうなんですか?ならいいのかな?・・・・」

「かまわん。行ってこい」

三成が顔を出す。
三成が言ってくれるならば断る理由はないだろう。

「じゃあお言葉に甘えて。利家様」

「おぅ。行くか」

どこへ行くのかはわからぬが、利家と一緒ならば楽しいことになりそうな気がする。





【16】





心地いい風が吹き向けていく。
町の人々の顔もいい。活気に満ちているというのだろうか。
幸村と和解(?)してからの京での生活がより楽しくなった所為か。
毎日時間が過ぎるのが早く感じる。
平穏そのもの。とてもいい。
このままこんな世が続けばいいなと思う。
本来、それを甲斐でそう過ごせていればどんなに良かっただろうか。
だが、それも今更言っても仕方のないこと。
過去は過去。今は今だ。

「あ。そうだ。聴きましたよ、利家様」

「ん?何をだ?」

「秀吉様のこと。側室の茶々様にお子様ができたって」

「あぁ。そうだった。だから余計に町中が賑わっているんだろうな」

秀吉にとっては待望の子だった。
だから秀吉自身が一番喜んでいそうだ。
天下人となった今、はそうそう秀吉と会う事はなかった。
三成と共に呼ばれて何度か会いには行ったが、の方が遠慮をしてしまった。

「でも、こういう時。なんて言うんですかね・・・・・ねね様はどうしているんですか?」

「ねね?」

利家は苦笑する。
正室のねねとの間に子はいない。
その分ねねは秀吉の子飼いと言われている三成たちを息子のように可愛がる。
側室との間に先に子ができたとなれば、ねねの心境はどうなのだろうか?

「特にかわらねぇよ。ねねは」

「そうなんですか?」

「あぁ。それどころか、側室の面倒まで見てる。本当できた女房だよな」

そんな女房を蔑ろにしたら秀吉にバチが当たるぜ。利家は豪快に笑う。
そこまでできるとは。流石にも感心してしまう。
一夫多妻が当たり前となっているこの情勢。
と言っても、一般庶民は一夫一妻ではあるが。
には多妻制にはあまり賛同できない。
と言うより、深く理解はできないのが正しいだろう。
この時代、跡継ぎというのは大事である。
一国を護るお殿様であれば、その家が断絶しないようにと子どもを儲けなければならない。
さらにはその子どもが早死にしてしまう可能性もあるから、子どもは多い方がいい。
早死にしてしまう子どもも多かったから。
稀に子ども同士間で跡継ぎ問題も起こるような家もあったが。
基本は嫡子が継ぐのが定石だ。
この先ねねにお子が産まれれば、茶々の子が年上だろうが、ねねの子が嫡子となる。
正室と側室の差はこれだろう。
それは別として。
には、どんな理由があろうと自分の旦那が、公認の別の嫁と楽しくやっている姿など見ていられない気がする。

(でも、仕方ないと言っても、側室は側室で振り向いてもらえるようにあれこれ努力はするって聞いたけど)

殿の寵愛を受ける為に。
長い歴史の中、正室と側室の争いって話も聞いた事はある。

(間にいる旦那はどうなんだろうね・・・・関係ないって面していそう)

何人もの奥さんを囲ったお殿様もいれば生涯一人だけと貫き通したお殿様もいる。

(性格かな、やっぱり・・・・)

秀吉は女性好きだと言う話もあるし。
思わず想像しただけで笑ってしまった。

「んー?どうした、急に笑って」

「いえいえ。ねね様、お元気なんですね」

「俺が見た限りではな。暇な時に会いに行ってやれよ。が行けばねねも喜ぶ」

「そうですね。三成さんに頼んで今度会いに行ってきます」

そこで気づく。
という事は、今向かっているのはねねに会うためではないのか。

「あら。ちゃんやないのー」

「阿国さん」

優雅に番傘を差し歩いていたのは阿国だった。

「今日はどうなさったん?あら、利家様とお出かけ?」

利家の顔を見て阿国はにっこり微笑む。
美人に微笑まれて少しだけ照れる利家。

「ほんま、ちゃんの周りはえぇ男はんばかりやね」

「阿国さん・・・」

は先の質問に答える。
利家のお供をしているのだと。

「あら。ええねぇ。今日はお天気もええし、絶好のお出かけ日和やね。せやったらこれ持ってき」

阿国が何やら包みをに持たせる。
なんだ?と思う。持った感触では少々温かい。

「さっきそこでもろたんよ。蒸したてのお饅頭。だけどうち、これから遠出するから持っていかれへんの」

だから貰ってくれないか?と阿国言われる。

「遠出ですか?・・・・じゃあしばらく阿国さんに会えなくなっちゃうんだ・・・・」

お饅頭を渡されることより、そっちの方が寂しい。
阿国はそんな顔をしないでくれと言う。

「ちょっとお祭りで舞ってくれと頼まれたんで、それに顔出すだけです」

遠出と言っても、そう長くはかからず戻ってくるそうだ。

「だから。帰ってきたらまた甘味でも食べに行きはりましょ」

「はい」

「そう言うわけで、お饅頭はちゃんが食べてや・・・あ、毒なんて入ってへんから大丈夫よ」

「もうー!何を言うんですか、阿国さんってば!」

冗談やと阿国は笑う。

「ほな。うちはここで」

阿国はお辞儀をして歩き始めた。
と利家は阿国を見送ってから歩きだす。
貰った饅頭をどうしようかと思ったが、利家が土産になるからちょうどいいと言った。
利家の行き先は誰かのもと。ということだろうか。

「お祭りかぁ。いいな、どっか近くでやっていれば行きたいものだな」

「阿国さんの行ったお祭りどんなのでしょうかね」

季節的にが知っているような夜祭ではないような気がする。
祭りにも色々あるのだから。

「帰ってきたら話聞いてみな」

「そうですね」

本当のんびりしていられて楽しくてしょうがない。

「本当どっかでやってねぇかな、祭り」

歩きながら利家は腕を後頭部で組んだ。

「そんなに行きたいんですか?お祭り」

「おぅ。賑やかなのは好きだぜ。いいだろ?」

も嫌いなんてことはないので頷く。

「何かあったら皆で行きたいですよね」

「ん〜?皆でか?は幸村と行ければいいだんだろ?」

ニヤニヤっと笑う利家。

「利家様!」

彼が人をからかうとは珍しい。
は真っ赤になりながら、利家の体を抓った。

「わ、悪かったって」

痛いと抓られた箇所を摩る利家。

「たださ。最近のは俺が知る中で一番いい顔しているからさ。幸村のおかげだなって」

「そ、そんなことないですよ」

幸村と再会する前だって、楽しかったわけだし。
何より皆がによくしてくれた。

「三成さんや利家様のおかけです。いいえ、お二人だけでなく左近さんや阿国さん、色んな人の」

出なければ幸村と再会した直後、自分はひたすらに逃げたかもしれない。
人間を嫌うこともなかったのはこうして出会えた人たちのおかげなのだ。

「ありがとうございます。利家様」

改めて礼を言った。
利家にも以前全てを話した。
その時の利家はの心情を酷く察してくれたものだ。

「俺は別になんもしてねぇさ。が自分で頑張ったことだ」

だからってわけではないが、ご褒美をにやろうと思って今日連れ出したそうだ。

「ご褒美?」

「そ。ご褒美。は喜ぶと思うぜ」

そう言って歩き続けた結果、ある一軒の邸前に到着した。

「・・・・?立派なお邸ですね。どなたのお邸ですか?」

には格式高いような家柄な人の知り合いはいない。
秀吉は天下人で同じ様に気軽に会える人ではないが、どことなく庶民的な人柄を感じるから別なのかもしれない。

「ちょっと待ってな」

利家は門に向かって「御免!」と呼びかける。
すると使用人らしき男が出てくる。
利家はその男に何かを伝える。
男は深々と頭を下げたもののすぐさま邸へと戻っていく。
それほど待ちはせず男が戻ってきて邸の中へと案内された。

「こちらです。奥方様、先ほどお伝えしましたお客人です」

男は障子を挟んで向こう側にいる者へと声をかける。
奥方様ということは女性だ。
だがやはりには心当たりが無い。

「わかりました。どうぞ中へ」

聞こえた声にはたと首を傾げる。
凛とした声。どこかで聞き覚えがある。

「ほら。入れって」

利家に背中を押さえる。

「し、失礼します」

は障子を恐る恐る開ける。
上座に静かに座っている女性が目に入る。

「・・・・・・え」

!」

静かに座っていたはずの女性の方が、を見て飛び上がる。

じゃ!じゃ!」

ガバッと抱きつかれた。

「え、えぇ!?が、ガラちゃん!!?」

〜久しいのう。また会えるなんて」

に抱きついてきた奥方は雑賀の村で別れたガラシャだった。

「ガラちゃん。本当にガラちゃんなんだ!」

「そうじゃ。わらわの顔を見忘れてもうたか?」

「そんなわけないよ!ガラちゃん!」

もガラシャ背中に腕を回し、ギュッと彼女を抱きしめる。
再会を願っていたが、状況を思えば無理だろうと半ば諦めていた再会。
今まさに叶った。
思わず涙が零れる。
だがそれはガラシャも同じだったようで、二人してしばらく泣いてしまった。
案内した男はガラシャの様子に驚いてはいたが、邪魔をしては不味いと思ったのだろう姿を消していた。
が持ってきた饅頭を茶請けにして利家も交えて縁側で食べた。
ガラシャに抱きつかれた拍子に少々潰れてしまったが。

「またに会えるとは思わなかった。本当に嬉しいぞ」

障子を開けたときは大人の女性がいたように見えたのだが。
根本的な部分は変わっておらず、向けてくれる笑顔がとても眩しかった。

「わらわは雑賀の村で父上に連れ戻されてしまったのじゃ。その後すぐに細川家に輿入れが決まって」

だがそこからも楽には行かなかった。
父明智光秀の謀反により、ガラシャは半ば幽閉される身となった。
それでも夫となった細川忠興から離縁を申し渡される事はなかったそうだが。
天下がようやく秀吉のものとなり、今はその幽閉の身も解かれたがあの頃のように自由に外へ出る事はなかった。

「孫やのこと。ずっと忘れてなどいなかった。あの頃が一番楽しかったから」

「うん。私も楽しかった。それに二人のお蔭で今の私があるから」

「最初、前田利家殿がわらわに会いに来た。と言われてもなんのことかわからなかった。
もしかしたら忠興殿への用件かとも思われたので会うことを決めたのだが」

ガラシャは苦笑する。
どうやら今日の訪問は突然で事前連絡はなかったようだ。

「いやー行けば会えると思ったしさ。はははっ悪い」

そうは言っても悪びれた様子はない。
利家だから許されたのかもしれない。秀吉の側にいる利家だから。
でもその利家のお蔭でこうしてガラシャと再会できたのだから、は感謝しか出てこない。

「もう利家様ったら・・・」

も笑う。だがガラシャは視線を利家に向けていた。

「ん?なんだ?」

「利家殿がのいい人か?」

「なっ!が、ガラちゃん!え、ち、違うよ!そんなこと利家様に言ったら失礼でしょ!」

は慌てる。
ガラシャはガラシャでそうかぁ?と首を傾げている。
いい人に間違われた利家は気にした様子もなく豪快に笑った。

「残念だが、のいい人は別にいるぜーのいい人は幸村だもんな!」

「幸村・・・?真田幸村殿か?話には聞いておる。そうか、そうか。のいい人は幸村殿か」

「ちょっ!利家様!ガラちゃんも信じないの!」

長いこと会えなかった空気などどこへ行ったのやら。
孫市はおらずとも、とガラシャの間にはあの時と変わらない空気が流れていた。








08/11/26
19/12/28再UP