拈華微笑



ドリーム小説
今日こそはと思った。
もう逃げたくないし、隠し続けるのも嫌だった。
いや、隠しられるのならば、言わずにすむのならばそれに越した事はない。

ただ。
気持ち的にこのままでは嫌だったのだ。
だから話す。三成に。
ちゃんと聞いて欲しいと思った、過去のことを・・・・。





【14】




夕暮れの心地良い風が三成の髪を揺らす。
縁側での夕涼みというのも中々のものだ。

「三成さん。お饅頭食べませんか?」

がさきほど用意したのだという饅頭を持ってきた。
夕餉前に饅頭だと?三成は遠慮しようとする。
それに甘いものはあまり好かない。
だが、がたまにはいいじゃないかと三成のそばに置いた。

「はい。お茶もどうぞ」

「すまんな」

は三成の隣には腰を下ろす。

「さてさて、三成さん。ちょっと勝負をしませんか?」

「勝負?」

「はい。勝負です。ここにあるお饅頭。うち3つに薬草が混じっています」

聞くだけで食べたいとは思えないものだ。
はその薬草入りの饅頭を食べた方が負けだと言った。

「なぜ、そのような勝負を俺がお前とせねばならぬ」

「論より証拠。だと思ったから」

「?」

何のことだと三成が問うも、はまずは勝負ですと理由を話してくれない。
よくわからないが、の話に付き合ってあげようと思った。
普段ならくだらないとか興味ないことには付き合う義理もないのだが。
先日が自分に対し「話したいことがある」そう言っていた。
これはその話したいことに関係しているのだろう。
まずは一つずつ交互に饅頭を選び食べていくのだと言われる。
そう数があるわけではないが、三成にしてみると少々苦痛に感じる。
渋々と饅頭を選び食べていく。
ただの饅頭だ。薬草入りのなどというのはどんなものだろうか。
二つ三つと重ねていくが、これといって何もない。

「こんなことをして何になるんだか・・・・うっ」

苦さと甘さが入り混じった酷い味が口の中に広がった。

「あ。三成さんハズレ〜」

三成は茶を口に含み口内を不味さを除去しようとする。

「ハズレは残り2つです。多く引いた方が負けね」

「ま、まだやるのか?これになんの意味がある!?」

俺はお前に何か嫌がらせでもしたのだろうかと、ここ最近の行いを振り返ってしまう。

「やりますとも〜さっき言ったじゃないですか論より証拠だって」

「?」

ハズレを全て引き終わらないと終わらないらしい。
の話では、別に一対一の勝負でなくても、その場に人が居れば何人でやってもかまわないそうだ。
大人数でやったほうが面白みはあるのだとか。
そう聞かされて、今日に限ってやってこない兼続や幸村を三成は恨んだ。
彼らが居れば多少は結果が変わっただろうに。
いや、左近ぐらい居てもいいじゃないない。なぜ今この場に居ないのだ?

(しまった。さっき秀吉様への使いに出したのだった・・・・)

そうしているうちに結果残り2つの薬草入り饅頭も三成が引き当ててしまった。
勝負はの勝ちとなる。

「・・・・それで?これで何がわかるのだ?・・・・・口の中も気持ち悪いが、胃の中はもっと気持ち悪い」

夕餉前にこんなに饅頭を食うハメになるとは思わなかった。
この後、どう考えても食べられないだろう。
苦しそうな三成を見てはごめんなさいと謝った。

「この手の遊びをやってね。私ほとんど負けナシなんだよ」

「・・・・ほぅ」

起きているのがもう辛いと三成は、その場に横になる。
だがなんとなく癪なので、の膝の上に頭を乗せる。
頭を乗せられたは慌てるも、ここからが重要なことなのですぐさま落ち着いた。

「武田に居た頃、そういう遊びをしてね。人より勘が良かったんだ、私」

「武田か・・・・」

以前少しだけ言っていた。はどこからか逃げたと。
戦に負けた原因は自分だと言われたと、その後幸村や左近と知り合いであることがわかり。
さらに武田に居たこともわかった。

「遊びだけじゃなくてね。なんて言うのかな・・・・第六感が冴えている言うか、この先危険だなって。
思うことがなんとなくわかって、それを回避することができるの。あ。確実に当たるわけじゃないよ?」

外れることだってある。
だが今まで運の良さで危険を乗り越えたことは何度かあった。

「人よりちょっと勘が冴えているだけなんだ・・・・って自分は思っているけど」

だからってあまりそれを人に話した事はなかった。
知らなくてもいいことだと思っていたから。

「私、元々生まれ育った場所が別にあって、たまたま御館様に拾っていただいて・・・」

そこから甲斐での生活が始まった。
幸村は信玄から守り役を命じられ、左近とも同じ時期に出会った。

「一度だけね、この勝負事で負けたことあるんだ。御館様には負けちゃった」

楽しかった。あの一戦は。
楽しかった。あの頃は。
はそんな風に当時を思い出し笑う。
信玄には本当よくしてもらった。可愛がってもらった。

「けどね、そんな御館様の好意を仇で返すようなことをしちゃったんだ、私は」

信玄が上洛を決めたとき、おかしな夢を見た。
遠くて行ってしまう信玄。声も手も全く届かない。
目が覚めた時震えてしまうほど怖い夢だった。
初めて見た夢であったが、これはヤバイと、信玄に何かあると感じた。
そして上洛を果たす為に出陣後、徳川との戦には勝ったものの信玄は帰らぬ人となった。

「そこからは三成さんも知ってるでしょ?武田がどうなったのかを」

「・・・・ああ」

家督を継いだ息子の勝頼だったが、信玄が居た頃とは違いまとまらず強引に戦を仕掛け、大敗した。

「それが全部、私の所為だって言われてね・・・・・それで、命まで狙われるし、逃げてきたんだ」

その辺りのことも知っているでしょ?と言われ三成は相槌を打った。
そうだ。まるで戦に負けたのが自分の所為だと、全ての不幸は自分の所為だと思いこんでいた
左近や幸村と再開したときの不自然な態度はここから来ていたのだ。
逃げた先に出会った、孫市とガラシャとしばらく行動するも、二人とも戦で別れてしまった。
秀吉に拾われたのはその後だ。

「本当・・・・悪いことって重なるんだな。ああ、私の所為なんだなって思ったの。
御館様が亡くなったのも、武田が滅んだのも、孫ちゃんの故郷が無くなったのも皆、私の所為なんだ」

「そんなわけないだろう・・・・と俺は言った」

「うん。言ってくれた。三成さんは自分だけが不幸な顔をするなって」

すごく嬉しかった。とても楽になれた。

「私はただの世間知らずだって」

何も話していなかったから、そう言えたのかもしれない。
だけども、一度人を恐れてても、嫌いになれないでいて。
新たな安らぐ場所を得て。

「三成さんや利家様に出会えて良かった。今の生活がすごく楽しくて・・・・・だから、余計に怖くもあった」

「怖い?」

「左近さんと再会して、武田に居た頃の話を三成さんに知られたらと思って」

「だから、逃げ出したのか。あの時・・・・」

左近の姿を見て驚き咄嗟に逃げ出した。

「幸村に対してもそうか?」

「・・・・ちょっと違うけど、そうかも。左近さんは唯一私の味方だった、最後まで」

ここで再会してからずっと左近はの為に色々してくれた。
沢山今でも苦労を、迷惑をかけてしまっている。

「幸村は違うのか?」

「幸村さんにもよくしてもらったけど・・・・やっぱり、他の人たちと一緒だった」

でも、幸村の事は嫌いになれなかったとは寂しげに笑った。

「三成さんの目にも私のことが異質に映って、ここから追い出されたら怖いなって」

「馬鹿馬鹿しい」

三成は体を起こす。には背を向けたままだが、深く溜め息をついた。

「ただ勘がいいだけなのだろう?それのどこが異質だ。馬鹿馬鹿しい」

「三成さん・・・・」

「本当に異質なのなら、左近がとっくにお前をここから追い出していたんじゃないのか?」

俺には知られないようにと。
なんらかの理由をつけて。
でも、左近はそうではなかった。
いつもの味方だった。

「でも、もし、この先同じようなことが起きたら」

「だからと言って、なぜの所為にしなければならない?それは己の運だ。時代の流れだ」

「そんな風に割り切れないかもしれない」

三成はやれやれと体ごとの方に向ける。
そして懐から取り出した扇子での額を軽く叩いた。

「?」

「お前、どっちなんだ?俺はなんとも思っていないと言っているのに、わざわざ余計なことを口にして」

「・・・・・あ」

「それで?俺にそんな話をしてどうだ?」

何も変わらないぞと三成は言う。

「折角の小間使い、そう簡単に追い出すつもりはないな。他の奴など今更要らぬ」

ずっとそうだった。
三成は他の人たちとは違う。
最初から心配するだけ、不安になるだけ損だった。
そんな必要は無く、のことを認めてくれている。

「そんな話をする為に、俺に好きでもない饅頭を食わせおって・・・・まったく」

夕餉も近いというのに、食えないではないかとそっちに腹を立てる三成。
は良かったと、胸の痞えが取れたと笑った。

「だったら、散歩でも行きましょう。少し歩けばいいんです」

「今からか?」

「行きましょう、三成さん。お散歩を、利家様のお邸まで」

は立ち上がる。
なぜ急に利家の?と思ったが、今の話を利家にも聞かせるのだろう。

「また饅頭を食わせるのか?」

「そんな事しませんよ。きっと利家様も同じだろうなって思ったから」

「だったら、最初から俺に饅頭を食わせるな、阿呆」

だがに付き合うのだろう、三成は立ち上がり、さっさと歩き出す。
は嬉しそうにその後に続いた。





杞憂だった。
三成はまったくの話に動じることなく、寧ろ呆れていたようだ。
それが嬉しかった。
三成にも自分を見る目が異質に映っていたらと思うと怖かったから。
だがそうではなかった。
馬鹿馬鹿しいと本当に思えるくらいあっさりしていた。
同じ話を利家にしたら、彼はどう感じるだろうか?
大丈夫だと思っていても、どこかまだ不安はある。
でも、三成が着いてきてくれるから問題ないだろう。
そう思った。





利家も同じだった。

「そっかぁ。ンな事ずっと秘めていたんだな。辛かったか?何にもしれやれなくて悪かった」

利家はそう言って頭を優しく撫でてくれた。
辛いことはあったが、利家に謝られるようなことはなかった。
寧ろいつも心配ばかりかけてしまった。
だから、大丈夫ですと笑って答えた。
そしてありがとうとも言った。
本当にもう、恐れるものはないのかもしれない。

あと一つだけ残して。





明くる日。はとある邸へ向かっていた。
場所を三成に聞いて。
教えてもらえるかな?と不安だったが三成は普通に教えてくれた。

「どうぞ。おあがりください。案内いたします」

邸の女中に案内されて一室に通される
邸の主が来るのを一人で待っている間、酷く緊張した。

殿・・・・お待たせしました」

「幸村さん・・・・すみません。突然・・・・押しかけちゃって」

の向かいに幸村は腰を降ろした。
こうして会うのは久しい。
そう。は幸村に会いに来たのだ。

「私。幸村さんと、ちゃんとお話したくて・・・・だから来ました」

「・・・・私と。ですか・・・・」

まだ、時間を空けた方がいいだろうか?そう思いながらも、逃げるのをやめたから。
もう、逃げる気はない。








08/08/09
19/12/28再UP