拈華微笑




ドリーム小説
能力と言えるのかわからないが、私にはある特技があった。
特技と言うのもどうかと思うのだが。
それについてはちょっとした日常で役立つ程度にしか思っていなかった。
べらべら周囲に話し自慢するわけでもなく。
ただ、ラッキー程度にしか思っていなかった。

「あ・・・・」

「なに?どうかした、

第六感とでも言うのだろうか。
ふと感じる嫌なもの。
足を止めた私に友達が何かと問うも、なんでもないと首を横に振る。
それよりも、友だちの気を別に向ける。

「ほら。あれ可愛くない?」

「えーどれ?」

「あれ。あそこの靴」

なんとかセール中って言う店を指差す。
服やら靴などが飾られている。
店の前まで移動する。

「ん〜可愛いっていうか・・・ゴツくない?」

苦笑する友だち。確かに思わず指差した靴はある種のタイプが愛用するもので。
なんだか人でも蹴り殺せそうなものだ。

「ありゃ。失敗・・・遠くから見たら可愛いなって思えたんだけど」

、目悪い」

「悪くないよ〜」

「他にも可愛いのあると思うよ。あ、私のよく行く店に行ってみる?」

駅に向かって歩いていたのだが、彼女がよく利用する店はそれとは正反対。
時間とか大丈夫なのかと尋ねれば平気だと答える。
本当は靴など欲しいわけでもないが、じゃあ見に行こうとその靴屋へと私たちは向かった。

それからわかる事実。
私達が向かおうとしていた駅。そこで事故が遭った。
時間的に私達が遭遇していても可笑しくないころ。
友だちとは一緒に驚いたけど。
なんとなく肌で感じていたのだ、私は。

そう。私の能力というか、特技とも言えるべきもの。
人より少し冴える感。
運がいいとも思えるこの体質だ。

ただ、それが後に一番自分を苦しめるものになるとは、この時の私は思ってもいなかった。





【1】




「半月かぁ・・・・」

は溜め息を吐く。
見渡す限りに広がるのは見慣れたコンクリートの街並みではなく、生い茂る木々。
どこの山にキャンプに来たのかと思われるが、生憎そんな楽しい場所ではない。

殿。どうかされましたか?」

「い、いえ」

の前を歩く男が振り返る。
長身で爽やかな笑みを浮かべている男だが、これでとほぼ同年代と言うのだから驚いた。
の知る同年代の男性は、もう少しガキっぽくて一緒に馬鹿騒ぎをしてしまうような子たちばかりだったから。
彼にはそのような雰囲気がない。
しっかりと前を見据えて、己の信念というものを持っている。
堅苦しいと言ってしまえばそれまでだが、それは仕方ない。
今まで生きていた環境が違うのだから。

「溜め息を吐かれていたようですが、まだここの生活には慣れませんか?」

「あ。いえ・・・気にしないでください・・・はは」

は笑って誤魔化す。
相手がごく普通に心配してくれているのはわかっているから。

(慣れる、慣れないの問題じゃないんだよね・・・・)

到底信じられない出来事がの身に起きたのだから。

「えっと・・・・幸村さん。私の相手なんかしていていいのですか?」

忙しいんじゃないだろうかと逆にこっちが心配してしまう。

「あなたの事はお館様に命じられていますので。それこそ気になさる必要はないのですよ。
何がありましたら、遠慮なくこの幸村に言ってください」

「は、はい」

お館様の命令だからですか。
素直すぎる青年の言葉には苦笑しかでない。

(お館様ねぇ・・・・まさか、こんな目にあうなんて・・・・)

目の前にいる青年の名は真田幸村。
彼の言うお館様というのは武田信玄。
普通ならば有り得ない出来事。
小説、テレビ、映画の中の話だと思っていたことがの身に起きた。

それは半月前。
不思議な夢を見た。
自分が深い、それはとても深い森の中を彷徨っている夢だ。
険しい道を行くものの、振り返れば歩いてきた道が消えてしまっている。
仕方なく前進するしかなくただただひたすら歩いた。
ようやく深い森を抜けたと思ったとき、見知らぬ場所で目が覚めた。

「おお。気がついたようじゃな・・・どれ、気分はどうかね?」

と面を被った大柄な男性が顔を覘かせていたので驚いた。
サーカス?何か大道芸のイベント会場にでも入り込んだのかと思ったくらいに。
体を起こし辺りを見回すと、畏まった格好の男達やら、綺麗な着物姿の女性たちがいる。
やっぱり何事かとわからないでいると、面の男性が陽気に笑う。

「怖がることはないよ。わし、おことを苛めるような真似はせんから」

見た目とは逆に気さくすぎる、というかあっけらかんとしている男にだけでなく、その場にいた者全員唖然とした。

「お、お館様!!」

「そんなに目くじら立てんでもわかっておるよ」

「え、や・・・ちょっと待ってください・・・・私・・・・」

古臭い言葉遣いの男。
だがいでたちもとは違いすぎる。
周りの男たちも髷を結っているし、女性たちもシンプルとしか言いようのない同じ髪形の人ばかり。
ああ。こんな格好知っているな。
知っているけど、何故目の前に・・・と考えあっさり湧きあがる結論に首を振りたくなる。

「あの・・・あなたは?」

「お主。お館様に名を尋ねるなど!まずは己の身分を明かすべきであろうが!!」

怒鳴り散らされ肩を竦める

「これ。怖がらせてどうする。大丈夫、なんもせんよ。わしはこの甲斐を治める武田信玄というオジサンじゃよ」

「お、お館様!!」

「甲斐・・・?・・・・武田、信玄・・・」

あー知っていますとも。歴史の教科書に載っている人だよねぇ・・・・。

「え、えー!!!」

「はははは。驚いたかの?わし有名人じゃから」

有名人も有名人だが・・・教科書に載っている彼の人は坊主頭だったぞ。
と見当違いのツッコミを内心してしまう。
まああくまで残された書物絵画などから言われていることだから多少のずれはあるだろう。

「じゃなくて!た、武田って・・・甲斐・・・え・・・・」

本当の本当にあっさりした結論が見つかってしまった。
自分は本当に物語の中のような出来事に巻き込まれたらしい。
そう。ここは俗に言う戦国時代だ。

殿?」

「あ。いえいえ。ちょっと思い出していたので」

「そうですか」

戦国○衛隊なんて小説あったよなぁとか、最近よく読む小説展開だったよなぁなどと思ったことだが。
はまさにそれに遭遇した。
確か家で寝ていただけだと思ったのだが。
部屋から姿を消してしまったということだろうか?
あれこれ考えても理由も原因もわからないし、対処法もない。
頼れるのは自分を見つけてくれた信玄公たちのみなのだから。

(だからって・・・戦国の世にトリップしますか?)

憧れはあったが、それはあくまで憧れで。
そんなこと起こるわけがないからというわかりきったことがあったからだ。
からだ。と言っても、実際には体験してしまったのだが。
ただ、少しの知っている歴史とは違うようで。
その辺はまだ頭の中で「長い夢かな?」と感じてしまってる。

を保護することに周囲は反対したのだが、信玄公が軽く「いいじゃん」みたいな言い方をしてしまったので
誰もそれに逆らえず。
に対して信玄が最も信頼している若武者真田幸村を守り役に就けた。
生活する上で何も苦労はないのだが、気苦労はたえなかった。

(私・・・神隠しにあったとでも思われているんだろうか・・・)

頼むからテレビの公開捜査とかに出ていないでくれよと願ってしまう。
警察が来たら部屋の中いじられるんだろうなぁと変な心配もしてしまう。

「ほ、本当に大丈夫ですか?顔色悪いですよ・・・」

幸村が心配そうに覗き込む。

「い、いえ!平気です!はい」

「私に遠慮など必要ないのですからね。殿。私を沢山頼ってください」

お館様の命を全うするのだと幸村は気合十分だ。

「ありがとうございます」

悩んでも仕方ない事は考えるだけ無駄だろうと気分を変えることにした。



***



ある日のことだった。
天気が悪く、今にも雨が降りそうな感じだった。

「・・・・・・」

幸村と散歩していたはある川辺に来て立ち止まる。

殿?」

「・・・・なんか・・・・この先危険かも」

思わず呟く。

「え?」

「・・・・・あ・・・・えっと・・・・なんか危険なものないですか?この先」

危険といわれても、川の近くにはいくつか村があるだけだ。
幸村が答えるとそうですかとは考え込んだ。

「いつって言えないのですが、なんか危ないですよ・・・避難できるならしたほうがいいかも・・・」

殿・・・?」

「っ!!・・・ご、ごめんなさい」

自分に向けられた何気ない幸村の視線に、の双眸が揺らぐ。

「いえ・・・わかりました。お館様にご相談してみましょう」

を安心させる為にか、幸村は柔らかく笑った。
館に戻ってから幸村はの言ったことを信玄に伝えた。
聞いていた他の家臣たちは「戯言」だと言って端から耳を貸さなかった。

は危険だと言ったんじゃな?」

「お館様!」

「ただの戯言ですぞ」

「あそこらはまだ治水工事が完了していない区域じゃったと思ってな」

誰もが黙った。
甲斐では昔から水害が頻繁に起こっていた。
大雨による川の決壊。それによる被害が信玄を長年悩ませているものだった。
それでもそれらをなんとか解消しようと数年前から治水工事を行っていたのだ。
被害は減り始めていたが、まだ心配の種は尽きない。

「見落としていることがあるやもしれん。誰ぞ調べてくるのじゃ」

信玄の命令で幸村を筆頭に数人が館から出て行った。
その頃、雨が降り始めていた。



雨は時間が経つごとに強さを増した。
が危惧したとおりに、あの川の上流で鉄砲水が発生し下流に土石流が押し流れてきた。
幸村たちはなんとかその前に周辺の村人たちを避難させ奇跡的に被害者は出ることがなかった。
真夜中の出来事だったので、の言葉がなければ誰もが気づかないまま巻き込まれていたかもしれない。

「おことのおかげで助かった。礼を言う」

「い、いえ。そんなことないです!たまたまですよ、たまたま・・・」

信玄自ら頭を下げられてしまい、は慌てる。

「その・・・・なんていうか・・・昔から勘が冴えているんですよ、私・・・・運がいいっていうか」

「ほう。そうか。それはすごいのう」

「そ、そうでしょうか?」

「うむ。おかげでわしの大事な民が助かったのだからな」

信玄に言われるとなんだか悪い気はしない。
あまりこの事は人に話したことがなかったから。
すべてが当たるわけでもない、何事もなく外れることもあるのだから。



***



「嬢ちゃん。勘がいいって話を聞いたんだが」

「?」

館の縁側でのんびりしていると、左目下に傷がある大柄の男が声をかけてきた。

「左近さん・・・まあ・・・少しいいほうだと思いますよ」

信玄公に軍略を学びに来ているという客将島左近だった。

「じゃあ少し俺と遊ばないかい?」

「遊ぶ・・・はあ。別にいいですけど」

左近はあらかじめ用意していたようで皿に盛った団子をの前に出す。

「なにをなさっているのですか?」

左近との周りに幸村や他の者たちもやってくる。

「いや、ちょっとした遊びだよ。さあ嬢ちゃん。この中に二つまずい団子がある」

「わかった!ロシアン団子ですね。ハズレをひかないようにって」

団子は7つ。うち2つがはずれで5つは普通に美味しいものだという。

「そういうこった。どうだい、勝負しないか?」

「左近さん。負けちゃう確率高いのにいいんですか?私自慢じゃないですが、これ強いですよ〜」

は強気に左近を挑発する。

「言ってくれるねぇ。じゃあ交互に食べて行こうか、あ。誰か混ざるかい?その方が面白いだろう」

左近が勧めるが皆遠慮してしまう。
それじゃあ面白くないと左近は無理矢理幸村を加えた。

「わ、私は」

「いいから。別に食うのは菓子なんだから怖いことはないさ。さあ役者は揃った。嬢ちゃん勝負だ」

「左近さん。勝負の前に私が勝ったららどうします?」

「そうだねぇ。嬢ちゃんの言うこと一つだけ聞いてやるよ。その代わり」

「わかりました。私が負けたら左近さんの言うこと聞きますね」

でも負ける気がしないとは自信たっぷりだ。
が自信たっぷりなのもこの手のことに今まで負けたことがないからだ。

「じゃあまずは左近さんと幸村さんからどうぞ。私は最後でいいですよ」

言われて左近が一つ手に取る。
幸村も迷った挙句に一つ手に取った。
それぞれパクッと団子を頬張る。

「うん。美味い」

左近は満足げに頷く。
だが幸村は。

「ぐっ・・・さ、左近殿・・・こ、これ何が入っているのですか・・・」

「おや。ハズレを引いちまったか・・・って一発目でかい?」

顔を歪める幸村に周りは笑う。

「まずいものと言っても、体に悪いわけじゃない。薬草をちょいと混ぜたものだ」

「に、苦いです・・・」

幸村はお茶をがぶ飲みする。
続いてが団子を一つ頬張る。
やはりというか、普通に美味しいと笑みを浮かべる。
左近との一騎討ちとなったわけだが、残りは4つ。うち一つが薬草入りのものだ。

「次だな・・・・うん。美味い」

「・・・はい。平気でーす」

残り二つ。

「さあ、どっちかが外れってわけだ。嬢ちゃんどっち選ぶ?」

確実に一つははずれだ。
先に選ばせてくれるという左近。
は迷いもせずに右側の方を手に取った。

「ほう。よし勝負だ」

同時に口の中に入れる。
その数秒後、左近の眉間に深い皺が刻まれる。

「お、俺の負けだな、嬢ちゃん」

はにっこり笑う。

「わーい。私の勝ち〜」

「つ、強いなぁ・・・」

思わず周囲からも感嘆の声があがってしまう。

「言ったじゃないですか、私これは負けなしだって。じゃあ左近さんに何お願いしようかな〜」

「俺よりも幸村殿の方がいいんじゃないのかい?なにせ一発目でハズレを引いたしな」

「え。わ、私ですか!!?」

「どっちでもいいですよ〜二人は私に負けたんですから」

は何してもらおうかはしゃいでいる。
楽しい時間はどこにいてもやってくるようだ。









無双2と猛将伝ベースの話でした。
08/02/09
19/12/28再UP