袖の時雨




ドリーム小説
年が明けて、今年も頑張ろうという新たな決意。
人の決意を逆なでする出来事が突然起きた。
ああ、案外早かったかもしれない。
そう思ったが・・・・。
思っていた以上にには衝撃的で・・・・。
綺麗さっぱり忘れる、流す。
などということは出来ずに、ただ逃げ出した。

「だから・・・・なぜ、俺のところに来る・・・・」

嫌そうな顔の三成。
厄介ごとを持ち込んだなと口許を引きつらせてしまった。
それでも。

「本当は左近さんの所に行きたかったの!でも、でも、左近さんどこに住んでいるか知らないから!」

ぐずぐずな顔のに三成は歯がゆい思いだ。

「左近の邸ならば教えてやる、そっちに行け」

「でも、みっちゃんの方が嘘つくの上手そうだから、ここでいい」

「貴様・・・」

雪が静かに降り続ける。
頭、肩にとに体温で溶け始めた雪が沁み込んでいく。
真っ赤な目をして、鼻を啜り、ずっと我慢していたのだと気づかされる。
きっと三成の顔を見て気が緩み泣き出したのだろう。
強気な言葉とは裏腹に、顔がぐずぐずだった。

「俺に嘘をつけと言うのだな」

「うん。嘘言って欲しいの・・・・」

「幸村にか」

「・・・・・うん」

お願いします。と消えそうな声では言った。丁寧に頭を下げて。
三成はこういった願いは切り捨ててしまいたいと思ったが、大体の事情を知ってしまったからには
ここでを追い返すことができなかった。

「中に入れ。風邪をひく。馬鹿でも風邪はひくものだ」

そして今は寝ろ。
そう三成は言った。



***



「秀吉様・・・・それは誠ですか?」

当初その話を聞いたとき、三成にはまた面倒なことを思った。

「ああ。誠の話じゃ。どうしたものかとわしも頭が痛い」

考えるのも面倒だと畳みにごろりと寝転ぶ秀吉。
三成は少し離れたところで正座し話を聞いていた。

「断ればいいのでは?」

「ん〜そうしたいのだがな、相手さん・・・・あー・・・とある高貴な血筋だとかで」

「秀吉様でもお断りできぬと?」

天下統一をなした秀吉でも口を濁らせる相手。
そんなことをできるの者は限られる。

「わしだけでなく、ちょうどあやつの父も来ておるだろう?そっちへ先に出向いたようでな」

「・・・・・」

のことを思うとわしは頭が痛い」

「秀吉様。ですが、これを当の本人に言えば恐らく断ると思いますが」

「じゃろ?わしもそう思う。だから困るんじゃー」

相手が相手だから。
秀吉にしてみればそこで話が済めばいいのだが。

「あー頭痛い、痛いー」

まだ「三成。お前さんに任せた!」と言って逃げ出さないだけマシだろう。

「その話、には」

「わしは何も言っておらん。だが、話はいずれ耳に入るだろうな」

「・・・・・」

は優しい。きっと知れば身を引くじゃろうな・・・・・」

優しい?違うだろう。
三成は内心そう言葉にする。
は優しいのではない。諦めが早いのだ。
その上自分からは何もしない。一つこうだと思えばずっとそれが真実だと思い込む。
確かめもしないで。
ただ、そうしてしまうには何かを恐れているからかもしれない。
あの二人は近すぎた。
近すぎた為に、今の居心地を失いたくないから。

(だから、さっさと言えば良いものを・・・・)

最初は面白い。いい玩具ができたと思ったものだが。
最近ではそれが面倒になってきた。早くしろとけしかけても動かない頑固者に。

「ま。そうなったらなった時はお前さんがでも娶るか?わしは反対せんぞー」

「ご冗談を」

「そうかあ?なら兼続とか・・・慶次とか・・・左近なんかどうじゃろ?あ、政宗は」

「兼続たちはともかく伊達は本気にするので止めてください」

コレ幸いと奥州から飛んでくるだろう。

「冗談でもそのようなことを口になさるのはお止めください」

「わかった。わかった。そんな怖い顔するな」

本当にわかっているのだろうか、大体人の顔など見ていないではないか。
頭が痛いのは三成も同じだ。
答えが出ているようで出ていない状態。
本人の気持ちなど関係ない進み方をしている。

「本当、頭痛がしますね・・・・まったく」

厄介ごとに巻き込まれそうな予感がこの時したのだから。



***



「きっかけは、賊討伐の時らしい」

「・・・・・あれかい?颯爽と助けに来た姿に惚れちまったってわけかい。やるねぇ」

「茶化すな、慶次」

城からの帰り、まっすぐと邸へは戻らず兼続の邸へ向かった三成。
兼続だけでなく慶次もいた。慶次は居候を決め込んでいるのだが。

「縁はそこで切れずにいたらしくな。その後も護衛の任などを頼み受けていたらしい」

「秀吉様から命じられては行かねばならぬものな」

兼続は三成よりも難しい顔で腕を組んでいる。
慶次は柱に背中を預けて話に加わっているが、二人ほど真剣に考えていないようだ。
この二人に話したことで、三成も先ほどよりも気分は大分楽になった。
話し合いというほどでなく、単に噂話程度かもしれない。

「そんな大層なお方と出会っていたなど、殿に話すなんてことしないだろうな、あいつは」

「そりゃそうだろうに。どんな偉い御仁だろうが、あいつは嬢ちゃんしか見ていないんだしな。
話していたとしても大方今日はどこぞのお姫様の護衛でしたーぐらいにしか言わないだろうねぇ」

あいつらしいと呵呵と笑う慶次。
安易にその姿が想像できてしまうと三成と兼続も言葉も出ない。

「そこまでに惚れていながら、相手にまったく気持ちが通じていないってのはどうなんだ」

三成は茶を静かに飲んだ。
本当ならばぐいっと酒でもかっこみたい気分だ。

「それは殿にも言えることではないか。なぜ気づかぬ」

「それはあいつが別の女を好いていると思い込んでいるからだ」

「難儀だねぇ・・・・」

周りは嫌というほど気づいているのに。知らぬは当人たちばかり。

「なんかこうーお互い気づかないように膜みたいなのが張られた感じだねぇ」

「「・・・・・」」

慶次の言葉に二人は止まった。

「え?俺はなんか変なことでも言ったかい?」

「い、いや・・・・ただな」

「ああ・・・・気づかない振りをしているわけではないだろうな」

「そりゃないだろう」

ただ、なんとなく思ったのだ。三成と兼続は。
妖の類なんて信じてはいない。呪いなんてものもあるだろうが、そんな呪い聞いたこともない。
ただ。
三成は、二人が近すぎたからこうなったと思った。
家族という箱庭を作ってしまった。
そこに安堵しきっている二人。
武田家という大事な箱庭が壊れたことで、残された者同士が新たなものを作った。
それを壊されたくないから、好きだとか、想いだとか言っておきながら気づかないようにしているのではないか?

(そんな馬鹿なことあるか・・・・そんな器用な真似ができる奴らじゃないぞ)

思い過ごしだ。

「あ、あれだな。もし万が一妖の類ならば我らが退治してしまえば済む事だ」

「お、いいねぇ、それ。俺もそいつらとやりあってみたいもんだね」

腕がなるものだと慶次は乗り気だ。

「我らの義と愛の力があればどんな相手だろうが勝てる!」

兼続までもが拳を力強く握りあげている。

「・・・・そこに行き着くのか、兼続・・・・」

三成は乾いた笑みを零してしまうが、本当にそうだったらどんなに良かったものか。



***



それからすぐだった。
が三成の邸に駆け込んできたのは。
日も暮れ始めていて、溶けることなく積もった銀世界が真新しい足跡をつけた。
三成の顔を見た瞬間に歪めて泣いた
友のことを思えばすぐにでも送り返そうと思ったのだが、彼女は諦めてしまった。
まただ。すぐに諦める。
自分を頼ってきたことを舌打ちしたくなるが、今ここで追い返せば探しようもない場所にでも行かれてしまうだろう。
そう思ったら仕方なく邸へ招いてしまった。
使用人にはのことは他言無用だと告げる。
彼女は奥の一室にて眠っている。

いくつか仕事を持ち込んでいたのでそれをこなそうと、三成は筆を走らせる。
というより、仕事でもしていないとやっていけない。
面倒なことに確実になると苦虫を潰したくなる思いだ。

「殿。左近です」

「入れ」

障子の向こう側から控えめ声をかけてきた左近。

「どうかしたのか?」

「ええ。ちょっと・・・・」

大体想像はつくがそ知らぬ顔で通す。

「なんだ?」

筆は止めず、視線も向けずにただ書面に向かって話を聞く三成。

「嬢ちゃんが家出しちまったそうで」

「・・・・が?ほう。誰が言った?」

「そんなのお一人しかいないでしょうが・・・・」

「・・・・そうか。それで探し回っているわけだ。今すぐ止めさせろ」

「殿?」

「無意味なことだと教えてやれ」

探しても無駄だ。彼女はどこを探しても見つからないだろう。
だってこの邸にいるのだから。
きっと顔を合わせるつもりもないだろう。
当初左近の所へ行くつもりだったと言った
兼続ではきっと黙っていられないだろうし、慶次もそこにいる。
左近ならば軍略家として顔色変えずに嘘をつきとおせると思ったのだろう。
だが住まいがわからないから、三成の所にきたと。
左近に押し付けてやりたいが兼続にも誰にもがここにいるとは言っていない。
しばらくは様子見だ。
左近のことだから案外気づくかもしれない。

「左近。を娶る気あるか?」

「は?何を突然おっしゃいますか、殿・・・・ご冗談を」

三成はくっと咽喉の奥で笑った。

「冗談だと、やはり思うか」

「そりゃあ、そうでしょうが・・・・」

「秀吉様がどうだと言っていたのでな。お前だけではないぞ?俺や兼続の名前も出た」

冗談の話ではあるが。

「大殿が?何をまた・・・・嬢ちゃんには」

そこで左近の声もつまった。
そうだ。彼女が家出した理由を左近もわかったから。

「私はこれで失礼しますよ。殿の伝言伝えておきましょう」

「すまんな」

左近は来た時と同じように控えめに室から出て行った。

「お前のそのまっすぐな所は嫌いじゃない。だがな・・・・」

必死でを探しているだろう友の姿を思う。

「いい加減潮時なのかもしれん。だからなんとかしろ」

恋愛に期限はない。
だが、突然迫られることもある。
得るか失うかは友次第だ。

「・・・・・ま。最初からお前の気持ちは変わらんと思うけどな、幸村」

ある日幸村に舞込んだ縁談が原因だった。









あえての三成視点。
07/09/02
19/12/28再UP