梅雨晴れ間の不機嫌な空



ドリーム小説
殿。私の前では我慢することもないです。もっと私を頼ってください」

少しの間だが一緒に暮らしていた赤子と別れて泣いた。
我慢していたけど、幸村が泣かせてくれた。
優しく背中をさすり落ち着かせてくれる。

「慶次殿たちに比べたら頼りないとは思いますが、あなたを守れるような男に私はなりたい」

その手がを包み込んだ。
最初は優しく。次は力強く。

「いえ、なってみせます」

急にどうしたのだろう?
恥ずかしさや嬉しさよりも疑問が湧いた。
でも。

「だから、もっと頼ってください」

その声に少し寂しさを感じた。





毎日雨ばかりだったが、久しぶりに太陽が雲の隙間から顔をのぞかせた。
ようやくだとは溜まった洗濯物を庭いっぱいに干した。
部屋干しはどうも好きじゃない。
でも梅雨なのでそれはどうしようもないのだが。

「梅雨明けしてくれるといいんだけどな〜」

洗濯物を干しえたは目一杯伸びをし空を見つめた。

殿。私の前では我慢することもないです。もっと私を頼ってください』

ボーっとしていたらふいに浮かんだ幸村の言葉。
幸村の前で泣いたのはあれが初めて。
そして幸村にあんな風なことをいわれたのも初めて。
あの時はさほど気にもしなかったが、今頃になって恥ずかしさが増してきた。

『あなたを守れるような男に私はなりたい』

「うわうわうわ。なんかもう〜」

両手で顔を覆う。
耳にまで熱が帯びているようで熱い。

「ユキさん、なんであんなこというんだろ・・・・だってユキさんは」

彼が想う子は別にいて、自分は幸村に世話になりっぱなしで。
一緒に大阪でくらすようになったのが不思議なくらいだ。
なんで一緒についてきたのだっけ?

出家した信玄公の側室だった女性。
彼女の元でずっと過ごすのだろうと思っていたのに。
北条を攻める戦が終わった後で幸村が戻ってきた。
その時三成や兼続も一緒で、二人を紹介された。

幸村に大阪に一緒に行かないといわれて、兼続もそうしたほうがいいといって。
周りの人たちも幸村と一緒のほうが良いからと勧めてきたので、まあいいかと深く考えなかった気がする。

「もしかして、私・・・・馬鹿なんじゃ・・・・」

でも、今の暮らしは悪くない。
信玄公存命の頃も楽しかったが、今も楽しい。
おじさん武将たちばかりだった武田。
そのおじさまたちには可愛がられたが、三成や兼続など年の近い人たちといるのも心地良い。

「・・・・・まあ、いいか」

殿」

「は、はい!」

幸村に声をかけられ驚きながらも返事をする。
振り返れば縁側にいる幸村。

「では、いってまいります」

「う、うん。いってらっしゃい」

幸村に手を振る
幸村はいつも通りの顔で出かけて行った。

「・・・・・・な、なんか一人で意識しちゃって馬鹿みたい」

は息を吐いた。幸村はいつもと変わりないので余計にそう感じてしまうのだった。


**


「今晩のおかずはー大根が沢山手に入ったから大根を煮て。汁物はしじみにして」

河沿いを歩きながら夕餉のことを考えていた。

「若ーどこに行かれましたかー」

「ん?」

若い数人の男性が声を出しながら誰かを探し回っている。
バタバタとの横を通っていくがすぐさま反転し戻ってきた。

「すまない。ここで眼帯をした青年を見なかった?」

「眼帯?いいえ、見ませんでしたよ。ここらに来るまで誰ともすれ違いませんでしたし」

「そ、そうか」

いないと言われて男たちは来た道を戻って行った。
若などといっていたのできっとどこかのお坊ちゃまだろう。
それか秀吉に仕えている武将の子ではないだろうか?
だが別にには関係ないのでそのまま歩く。

「助かったぞ、娘」

「は?」

下から声がした。
土手になっていたそこから聞こえた。
覗き込んでみると青年が一人寝転んでいた。

「えっと・・・・あー眼帯してる」

男たちが探しているのは眼帯をしている青年。
まさに青年の右目に眼帯が当てられている。

「そんなところで突っ立ていると、気づかれる。降りて来い」

「な。偉そうにいわないでよー」

なんならここで大声出して男性たちを呼んでもいいのだが?

「早くしろ」

「もう・・・・」

は青年の隣に腰を下ろした。

「せっかく大阪に来たのだ、少しぐらい見物したっていいとは思わんか?」

「・・・・ここの人じゃないんだ」

「わしは奥州からわざわざ秀吉の顔を見に来たんだ」

「・・・・秀吉って・・・・そんなの聞かれたら怒られるよ?一番偉い人なんだし」

「別にわしがいったなどと奴の耳に入るわけもあるまい」

「告げ口されるかも」

「はっ。ここらにいるのは秀吉とは縁遠い奴らばかりだ。そのようなことあるわけない」

「ふーん」

はにやりと笑う。

「ね。あなた旅行中なの?奥州からわざわざって」

「仕事じゃ。一応これでも奴に仕えているからな」

「え。それじゃあ秀吉様のこと悪くいったらダメだよ」

「ふん。別に」

「悪い人だな〜いいよ、私が秀吉様に告げ口しちゃうから」

「できるわけないだろ。お前のような娘に」

「そうかな〜?私秀吉様とは何度も会ったことあるし、秀吉様に仕えている人たちの知り合い多いし」

青年はピクリと動いたかと思うとを睨みつけた。

「お前が何者かは知らんがわしを脅す気か?」

「さあ?・・・・なんてね。別に呼び捨てにしたことぐらいで告げ口なんかしないよ?」

青年は身体を起こす。

「面白い娘だな。名は?」

。あなたは?」

「わしは伊達政宗じゃ」

「伊達・・・政宗・・・?・・・・えー!本当?嘘」

は驚きの声をあげる。
目の前にいる青年があの有名な伊達政宗だと知って。
右目の眼帯は伊達の特徴の一つだ。

「ほほう。わしも有名なのだな」

政宗は少し悦にはいったようだが。
は政宗を上から下、下から上へと何度も見る。

「・・・・・意外に小さい」

「なんだと?」

「あ。ご、ごめんなさい・・・・もう少し大人かと思ったけど」

「まだいうか!」

「あ。ごめん!」

思わず本音がポロリ。

(だって、だって〜私の知っている伊達政宗って花の**とか大河とかのイメージ強いんだもん)

ドラマ、漫画では体格のいい美男子。
でも、目の前にいるのは少し幼さが残る伊達政宗だ。

「・・・・・・まあいい」

「そ、それで政宗君は」

「政宗君?」

「あ。ごめん。武将様だもんね、不味いよね。ついいつもの調子で・・・・」

幸村や三成に対するような馴れ馴れしさをいきなり出しては相手も驚くだろう。
なんとなく、この伊達政宗に対しては様付けさん付けで呼ぶよりいいかなと思ったのだが。

「いい。それでかまわん」

その後しばらく政宗と話し込んでしまった。
先ほどの政宗を探していたのはやはりというか、彼の部下たちだった。
その部下たちに見つかって二人は別れた。


***


ここは遊廓と呼ばれている場所。綺麗なお姉さんたちと飲んで歌って色々楽しみましょうって場所。
そんな場所に幸村はいた。
たまには外で食べようではないかと、慶次や左近にいわれて幸村は連れて行かれた。
なんで遊廓なのだろうと幸村は思う。
一緒にいるのは三成、左近、慶次、そして兼続。
いつも一緒にいる面子ではあるが、遊廓に行くような仲間ではない。
左近と慶次はたまに行くようだが。

運ばれてくる酒や食事。
妖しくもあるが華やかな場。
慶次と左近は上機嫌で、三成も穏やかで兼続と談笑している。
幸村だけは浮かない顔。話しかけられれば笑い答えはするが。

(・・・・早く帰りたい・・・・・)

口には出さずとも周りには幸村がそう思っているのはわかっている。

(確かに酒も食事も美味いが、楽しくない・・・殿と一緒のほうがいいな・・・・)

「幸村ぁ〜お前さんわかりやすいねぇ」

「け、慶次殿」

がっしりと肩を慶次に組まれてしまう。

「ま。気持ちはわかるけどねぇ。少しぐらいいいだろ?」

「そうですよ。ほら全然飲んでいないじゃないですか」

左近は幸村に酒を注ぐ。

「さ、左近殿。私は」

「飲めないなんてのはなしですよ?アンタが結構強いこと知っているんですからね」

「そうなのか?幸村」

意外だという目で幸村を見る三成。
幸村は慌てて首を振る。

「べ、別に強いというわけでは」

「信玄公のもとにいた時はそうでしたよ?まあ、あの頃は他の方々も相当お強いようでしたが」

「なら、じゃんじゃん飲め、幸村」

「あ。慶次殿っ」

まだ飲みきってもいない杯に慶次は目一杯酒を注ぐ。

「お姉さんたち、酒追加ね〜」

完全に酒豪に囲まれてしまった幸村には逃げ道はなかった。
それでも時間は過ぎていく。
はきっと邸で夕餉の仕度をして待っているだろうに。

「あ、あの。私はそろそろ」

「嬢ちゃんのところに帰りたいって?まだ平気でしょうに」

「ですが。殿に何も伝えていないまま来てしまったので」

だからって遊廓にいるので夕餉はいらないとはいえないとは思うが。

「使いの者でも出せば良いでしょう」

「ほ、本当にもう勘弁してください」

「幸村ぁ。ここに来て帰りたい、なんていうのは失礼ってもんだぜ」

「あ、の・・・・」

がっしりと掴まれた肩。
三成と兼続に助けを求めるように視線を向けるが、二人は苦笑しているだけだ。
つまり助けは期待できないと。

「だったら、こうしようか飲み比べして幸村が勝ったら帰っていいぞ」


***


「ユキさん遅い・・・・」

幸村が遊廓にいるなど知らないは、いつも通りに二人分用意していた。
でも幸村は帰ってこない。
急な仕事でも入ったのだろうとは思えるのだが、そんな時はいつも知らせが届く。
でも、来ない。

時間が経つにつれて空腹に耐えられず、仕方なく先に食べてしまった。
それでも幸村はまだ帰ってこない。

「何かあったのかな・・・・」

こんなこと、初めてだ。

「ユキさん・・・・」

待つことには慣れている。
武田にいた頃からずっと。
戦に向かう大切な人々をいつも見送ることしかできなくて。
慣れているはずなのだが・・・・
は膝を軽く抱く。
物音一つしない邸。
コユキは寝床で丸くなっている。

「慣れてるはずなんだけどなぁ・・・・・」

寂しさがこみ上げてくる。
一人は嫌だと、告げている。
失ってしまった大切な人たち。
でも新たに出会えた大好きな人たち。
彼らのおかげでは待つことを忘れていたようだ。

ガダ。

「嬢ちゃん、ごめんよ〜」

「慶次さん!?」

玄関から聞こえた慶次の声には慌てて向かう。
行けば慶次に支えられた幸村の姿が。

「ゆ、ユキさんどうし・・・・・さ、酒臭いー」

慶次や幸村からする強烈な酒の匂いには顔を歪める。

どのぉ!ただいま、戻りました」

「・・・・・・慶次さん?」

上機嫌でへらへらしている幸村。
慶次はすまなそうに頭を掻いた。

「いやね。ちょっと皆で遊廓に行ったんだけどな」

「遊廓?・・・・へぇ。それで帰りが遅かったんだ」

「幸村に無理矢理飲ませすぎちまって、このザマだ。ほら、もう寝ちまいな幸村」

「・・・・・・布団敷いてきますから、ユキさん運んでください」

明らかに怒っていると慶次にはわかった。
やはりやりすぎたと後悔してしまう。
は一人でスタスタと幸村の室に向かう。
そして布団を敷きはじめる。

「な、なあ。嬢ちゃん、悪いのは俺らだから幸村に怒るのは勘弁な」

どの、怒っているのですか?え、なぜですか?」

黙って寝とけ。そう願わずにはいられなかったが、のこととなると冷静さを失う幸村だ。
酒が入って意識がちゃんとしていなくとも気になって仕方ないのだろう。

「もん」

「え?」

「怒っていないもん。別にユキさんがどこに行こうが気にしてないです。ユキさんの自由なんだから」

「それは、あのー」

「私一人であれこれ考えて馬鹿みたい」

投げつけるかのように枕を布団に叩きつけた

「どうせだったら泊まって来ればいいのに、そういう場所なんですよね」

そう言い放っては室を出て行った。
ぴしゃりと勢いよく閉められた障子を前に慶次と幸村は呆然とする。

「お前さん、他にも何かしたのかい?」

「・・・・・・思い当たる節が・・・・・ないです・・・・・どの・・・・・・」

まるで今の天気のように女心とは難しい。
とりあえず、慶次は幸村を無理矢理寝かしつけて自分も邸を後にした。
朝になれば多少は落ち着くだろうことを願って。










06/06/22
19/12/28再UP