雨童子 前編




ドリーム小説
それはあっという間の出来事で。
でも、心に深く残った出来事だった。



「今日はみっちゃんたち来るのかな」

「どうでしょうか?毎日雨が降り続いていますから」

「出かけるのが億劫になりそう?特にみっちゃんの場合は」

「かもしれませんね」

幸村とは雨が降る中、買い物に出ていた。
その帰り道。

「我がままいってごめんね、ユキさん」

「いえ」

別に今日じゃなくてもいい買い物だった。
味噌がなくなっていたので、雨の中買いにいくとがいいだした。
幸村はならば自分がというが、それは悪いから自分が行くと。

「では一緒に参りましょう。雨の中、重い物を殿に持たせるわけにはまいりません」

そして傘を差して買いにいって来たと。

「次からは私にいってください。屋敷のことを全て殿に任せてしまっているのですから。
 私にできることならば何でもいたします」

「そんなことないよ?ユキさんのおかげで私は暮らしていけるわけだし」

殿・・・」

どうして彼女はいつも自分に遠慮をするのだろう。
もっと頼ってくれればいいのに。
それが幸村の最近の悩みでもある。

「にしてもさあ。梅雨入りしたばかり。だよね?」

「え?ああ。そうですね。仕方のないことだとは思いますが、雨ばかりというのは気が滅入りますね」

「コユキちゃんも外に出れないでしょ?運動不足になって困るよー」

「あはは。コユキは屋敷内でも走りまわっていますよ?」

「障子とか破られる前に、外で思いっきり走らせたいの」

「確かに」

悪戯をしない躾けられた子だが、我慢がきかなくなっていつ暴れだすのかと少し怖い。

「犬は外で走りまわる姿が一番ですね」

「うん。あ、走り回るか・・・・」

殿?」

は目線を空へと向け小さく溜め息を吐く。

「慶次さんとの約束も延びちゃったなぁ」

「え?慶次殿と・・・約束?」

「うん。今度松風にのせてくれるって。楽しみなんだよね、私。馬に乗ることないし、それに松風だよ!?」

「・・・はあ」

いつの間にそのような約束をと幸村の顔が曇る。
は色んな人に懐いている。
特に大きな人物に。
身体の大きい、懐の大きい人とでも言えばいいのだろうか?
慶次だったり左近だったり。
三成や兼続にもそうだといえるが、この二人とは微妙に違っている。
恐らく自分もこちらに含まれている気がする。

がそんな懐の大きい人物に懐いているのには、あの御方の存在をいまだに心に強く残っているからだろう。

武田信玄。

根強く残っているのは自分もそうだ。

(いつまでたっても私では御館様以上の存在にはなれないのだろうな・・・・)

「ユキさん、どうかした?」

「い、いえ」

「あ、羨ましいとか思っちゃった?松風だもんね。憧れちゃうでしょ、松風はすごい馬だから」

「ええ。そうですね、羨ましいです」

松風ではなく慶次殿が。
が思う羨ましい対象と幸村が思う羨ましいの対象は微妙にずれている。

「雨じゃ流石にお願いできないもんね」

「そうですね・・・・・・あ。三成殿、左近殿」

屋敷に着くと同時に自分たちと同じように傘を差した三成たちがいた。
二人とも何やら表情が硬い。

「雨の中ご飯食べに来たの?みっちゃんは〜左近さんもそんな人のお供で大変ね」

「嬢ちゃん・・・・」

「違う。用があったから来ただけだ。だが・・・・」

「どうかしましたか?」

いつもなら勝手に中に入る三成なのに。
今日に限って門の前で立ち止まっている。

「ん」

顎で何かを指す。
幸村たちがその方向を見ると、布で包まれた赤子がいた。
置いてあったというべきか。

「・・・・・あ、あの。これは・・・」

「赤ちゃん!?」

幸村は三成に事情を求めるが、三成も知らないと言う。

「俺たちが来たときには、もうここに置かれていた」

「な、なぜ・・・・ここに」

赤子が何故自分の屋敷に?
後ろめたいことなどないのに、幸村はあれやこれやと考えてしまう。

「とりあえず、どうします?幸村殿。いつまでもここに捨て置くには不味いでしょ」

左近に言われてハッと我に帰る幸村。

「そ、そうですね。な、中に入りましょう。お二人もどうぞ。あ、ああ殿赤子を抱いてはくれませんか?」

自分が抱こうと思ったのだが傘と味噌で手は塞がれている。

「う、うん」

が赤子を抱き上げ屋敷へと入った。



***



お茶の用意だとか、赤子を布団に寝かそうとか忙しなく動く。
それと医者を呼び赤子の様子を見てもらった。
雨に打たれてはいなかったものの、外にしばらくいたようだから熱でも出しては大変だろうと。
診察の結果、特に異常もないとのこと。

「では、お願いします」

「はい。心当たりを探ってみます」

年老いた町医者だが、繋がりは多い。
だからこの赤子がどこの子なのかを探してもらうことにした。

「・・・・あのね、ユキさん・・・・・赤ちゃんの着物の中にこれ・・・・」

紙が一枚。

『この子をよろしくお願いします。名は心太です』

と書かれていた。
黙ってしまう4人。
赤子は自分の状況がわかっていないのだろう、すやすやと眠っている。

「お願いしますって、ユキさんにってこと?」

「幸村の子か?」

「似てますかねぇ?」

三人は思ったことを好きに言う。
だが、幸村自身心当たりはないので力強く否定する。

「ち、違います!私の子ではありませんし、似てもいません!」

幸村の声に赤子の手がピクリと動く。

「あ」

「幸村、煩い。泣かれたらやっかいだ」

「す、すみません」

小さくなる幸村。

「大方育てるのに苦になって捨てたって所だろう。
 適当に捨てるより金のありそうなお人好しにでも育ててもらおうとしてだな」

「金のあるお人好し・・・・」

幸村のことか。
左近もも否定できない。

「幸村殿は犬も拾われたそうじゃないですか。だからついでにってところですかね」

「コユキちゃんは私と慶次さんが拾ったんだよ?」

「結局は同じじゃないかい?」

「まぁそうかも」

「で。どうする?あの医者が親を探すとは言ったが見つかるまでどうするのだ?」

「・・・・・あ、そうですね。預けるような場所あるでしょうか・・・・」

「え、どっかに連れて行くの?もしかしたらこの子のお母さんが戻ってくるかもしれないよ?」

は連れて行くのを反対する。
少ししかいないのに、何やら赤子に同情してしまっているように見える。

「嬢ちゃん。赤子の世話できるのかい?」

「・・・・で、できない・・・・・遊び相手ぐらいならしたことあるけど」

食事に湯浴み、着替えなど一般的なことはしたことはない。

「だったら誰かに預かってもらった方がいい」

「でも・・・・」

かと言って他の三人も子育ての経験はない。
三成が子育てなんて考えただけでも笑ってしまう。

「大体、お前。乳は出ぬだろ?」

「・・・・・・・」

三成の一言にの顔は真っ赤になる。
だけではなく、幸村まで。

「だ、で。み、みっちゃん煩い!」

「本当のことだろうが」

「煩い、煩い。馬鹿、助平」

「や、止めろ馬鹿」

は座布団などを三成に向かって投げる。
ドタバタと騒ぐので今度こそ赤子は泣いた。

「あ、あーごめんね。起こしちゃったね」

は赤子を抱きかかえあやす。

「でも、この子首も据わっているし、生まれたばかりって感じじゃないよ?母乳でなくてもいいんじゃないの?」

「それじゃつまり、嬢ちゃんが育てたいってことか?」

「育てる。
 まではいかなくても面倒は見れたらいいなって・・・・・この子のお母さんはユキさんに預けようって思ったわけだし」

「父親かもしれんぞ」

「揚げ足取らないの!みっちゃん」

そんなやり取りをしている間に、に対して最初から警戒心もなかったのか
赤子は泣き止み落ち着いている。

「心太くんだったよね〜心太くんもう泣き止んだね。えらいね」

いつもより声のトーンを高くして赤子に話しかける
その姿を見て幸村は自然と笑みを零していた。

「引き取る気満々のようだな、幸村は」

「そのようで」

三成は呆れ、左近はくつくつと笑った。

「あ、その」

の様子を見てお前が反対するわけないしな。お人好しにもほどがあるぞ、幸村」

「今後の参考にって所ですかねぇ」

「さ、左近殿まで!」

とりあえず、町医者からの情報待ちということもあって。
赤子心太は幸村たちが預かることにした。
一人では全てできるわけもないので、慶次の叔父利家の奥方まつなどに色々と教わりにいくのだった。



***



「あら、。どうしたの、その子?」

心太をおぶって買い物に行く姿が最近の街の人たちが目にするの姿だった。

「ちょっと預かっているんですよ。人見知りしない子で私でもなんとかなってます」

なんて笑うの姿に人々も釣られて笑う。
赤子を前にすると自然と笑顔になるものだ。

心太をおぶって家事をする姿。
大変なのだろうが、は常に楽しそうに笑っている。
今も夕餉の準備をしているのだが、座敷で待っていた幸村たちの所にの歌声が聞こえた。

「ご機嫌だな、殿は」

いつものように夕餉をご馳走になりに来た三成と兼続。

「心太も殿に懐いているようで」

「それで変わりにお前はほっとかれているのか、コユキ」

兼続の膝の上でじゃれているコユキ。

「ついこの間まではの関心はこの犬だったのに。まったく」

「本当、賑やかになったな、幸村」

「そうですね」

「お待ちどうさまです!」

が膳を運んでくる。

「あ、殿。手伝います」

幸村は立ち上がり台所へと向かう。
二人が用意してくれているのを見ている三成たち。

「本当に。変わるものだな」

「三成?」

「このままでは済むとは思えんがな」

「・・・・・」

全員揃って食べ始める。
先ほどまではが心太をおぶっていたが、変わって幸村が膝の上に乗せている。

「心太。沢山食べるんだぞ」

幸村が丁寧に食事を与えている。
それを兼続は感心したように見ている。

「随分慣れた手つきだな、幸村」

「え。は、はは。私にもできるのはこのくらいですから」

「そんなこと言っても、ユキさん心太をお風呂にいれてくれるんですよ?」

「ほぉ。夫婦みたいだな、お前たち」

「み、三成殿」

早く本当の夫婦になってしまえ。
そう三成は言ってしまいたかったが、あえて黙った。
いつまでもこのままってことにはならないだろうと思っていたからである。







06/06/10
19/12/28再UP