咲かせよう、花。




ドリーム小説
何もかもが順調すぎて、当たり前のことを忘れていた。



【5】



「ど、どうですか?」

は隣にいる幸村の顔を覗く。

「美味しいですよ、殿」

「本当ですか?よかったぁ」

先日作ったものは塩気たっぷりの食えたものではなかったから。
今日は出来上がった時に自分で味見もしたから大丈夫だろうとは思ったが。

「この前、あんなデキだったので、幸村様にまたお出しするのって失礼かなって思ったのですけど」

「そんな事ないですよ。私の方がまたとお願いしたではありませんか」

「でも、良かった、上手にできて」

は一安心する。
でも、前回のよもぎだんこと言うなのしおだんごはくのいちの悪戯によるものなのだが
どうやら二人にはばれていないらしい。

「もう一つ頂いてもいいですか?」

「どうぞ、まだありますから食べてくださいね」

縁側でのんびりしている二人。
柱の向こうからそれを祖父幸隆とくのいちが見ていた。

「幸隆さま〜、いい雰囲気ですね、あの二人」

「うむ、そうだな。いい雰囲気だ」

「もうすぐって感じですよねぇ」

「うむ、もうすぐだ」

「早く孫の顔見たいですよねぇ」

「見たくてしょうがないなぁ」

「もう〜幸隆さまってば目尻下がりっぱなしですよ〜」

「そ、そうか?それは気をつけねば」

幸隆はこれ以上見ていると二人の邪魔になるだろうからと、自分の部屋へと戻る。
くのいちにも邪魔はしちゃ駄目と彼女を連れて。

「御館様もな、幸村に早く嫁をと申されてな」

「ありゃまぁ、それはそれは」

幸隆が出してくれた団子をつまむくのいち。

「候補と言うか、色々薦められてな」

「でも幸隆さまはそのどれもがお気に召さないと?」

「そ、そうではない。どの者も幸村には勿体無いと思える方だぞ」

「にゃはは〜幸隆さまの言いたいことわかりますよ?その相手にはがいいのですよね?」

「・・・・・うむ」

腕を組んで幸隆は頷く。
幸村の嫁にはできればがいいなぁと思っていた。
二人並べば似合いではないかと思えるし。

冗談で『幸村の嫁にどうだ?』ってに言ったこともあったが、その頃はが幸村に対して
ぎこちない、緊張した態度だったのであまり本気で言えなかった。

が!今は違う。

仲睦まじくと言うと、反論されてしまうだろうが、二人一緒にいるのが自然になってきた。
これはこれは、もしかすると〜?って期待してしまう。
今の時代、親の決めた相手との結婚と言うのが普通だ。
それで幸せになる夫婦もいるにはいるが、どうせならば自分の決めた相手との結婚ってのがいいではないか。

幸村はおそらく、と言うより絶対のことを好いている!と幸隆は確信していた。

「それになぁ、殿は人気があるから、今に原美濃殿の息子の嫁にとか昌胤殿にとか馬場殿とか・・・」

「高坂さまも侮れないですよねぇ、その気はないかもしれないですけど、信廉さまとか」

「もし、もし義信様や勝頼様の嫁にと申されればわしでは断れんし」

「あちゃ〜、モテモテですなぁ」

本人たちの知らぬ所で勝手に盛り上がってしまう。

「幸村さまがもっとガツン!と言えばいいのですけどね〜」

「わしも思う。幸村は戦場じゃ誰にも引けを取らぬというのに、殿に対してはどうもな・・・」

「いっそのこと幸隆さまがを娶ってしまえばいーのでは?」

「ぬ、わしか?それはそれで幸村に自慢してやってもいいが、わしから見れば殿は可愛い孫だ」

「今でも自慢すること多いですよね」

「ははは。幸村の悔しがる顔は中々見られんから楽しいしな」

「幸村さまかわいそう〜」

「何を言うか、くのいち。お主も似たようなことをよくしておるではないか」

「あは、ばれています?だってのことで幸村さまをからかうのって面白いですらねぇ」

「はははは」

「にゃはは」

なんか知らんが楽しそうだ。



一方その頃・・・

「あ、あの殿」

「はい?」

「・・・・今度、良ければ遠乗りにでも行きませんか?」

「遠乗りですか?」

「はい。沢山いい場所がありますから、あなたに一度見せたいなと・・・・」

祖父たちに話のネタにされていた幸村。
ガツンと行けばいいのにとのことだったが、ようやくその一歩を踏み出そうとしている。

「本当ですか?」

断られるかな?と少し不安だったがは喜んでくれた。

「私、馬に乗ったことないのですよ、あまり近づいたこともないですし」

「そうでしたか?」

「大きいから少し怖いって思っちゃって。目は優しいですよね、馬って」

「そうですね」

「あ、でも私、馬に乗れないですから」

「私が連れて行って差し上げますから」

一緒に乗れってことか。
は少し頬を赤く染めながらも頷いた。



***



幸村に連れて行ってもらった初めての遠乗りは楽しかった。
いつも触れたこともない馬に初めて触り少し興奮してしまった。
それ以上に幸村が連れて行ってくれた場所の綺麗さに驚いてしまった。

しばらく二人でゆっくり眺めながら他愛のない話をした。

最初は幸村とこんな日が来るとは思わなかった。
どちらかと言えば自分が避けていたから。

帰り際に幸村が

「また行きましょう、殿」

と言ってくれたのが嬉しかった。

毎日がすごく楽しくてしょうがなかった。
子どもたちと遊び、幸隆やくのいちとも楽しく過ごした。
何よりも幸村がそばにいてくれるのが一番なのかもしれない。

本来ならば血生臭い戦がいつ起きても不思議ではない時代なのに、とてもほのぼのしている。
がここに来てから信玄たちが戦に行ったのは指で数える程度だった。

まぁ、それでもいいかと言う気になる。

、聞いてよ〜」

「どうしたの?いっちゃん」

「ここはどこ?」

「え、幸隆様の館」

「そうだけど、ちょっと違う。この国は?」

「甲斐だったよね」

「そう。じゃあ、今川家のある国は?」

「確か、駿河だったよね」

「どの辺にあるか知っている?」

「甲斐より南で、うんわかるよ」

「上杉の越後は?」

「えーと、甲斐との間に信濃を挟んで北側」

「そう」

「それがどうしたの?」

「御館様のご命令で駿河に行って、越後に行けって言われた〜」

くのいちはわざとらしく泣いているかのような態度をとる。

「そ、それはすごいね。人手不足じゃないよね?」

「人材ならわんさかいるし、忍びだって私以外にもちゃんといますとも。佐助くんとか小助とか」

「あー真田十勇士!一度会ってみたいと思っていたんだ〜」

「あ、そうなの?」

「うん、だって有名だもん〜でも中々会えなくて残念だなぁって。どんな人たち?顔は?」

「どんなって、向こうはのこと知っているけどね」

「嘘?嘘!なにをどこまで」

(幸村さまとの仲が主にだけどね〜そんなこと言えないよねぇ・・・)

「と、話ずれた」

くのいちはこほんと軽く咳払いする。

「そんなわけで私はまたもお出かけなのです」

「長いの?」

くのいちは首を横に振る。

「仕事内容は言えないけど、パパッと行ってくるからねそんなに長くないよ〜」

「そっか気をつけてね」

「心配ありがとね〜と言うわけでこれから行ってくるねん」

「うん、いってらっしゃい、いっちゃん」

くのいちは忍びらしく瞬時に姿を消してしまった。

「そっかぁ、いっちゃんまた留守かぁ」

一番の友だちがいないのはやはりつまらないものである。
でもそれが彼女の仕事ならばしょうがない。
けれど

「私がいない間に〜幸村様に告っちゃえば、

「え?い、いっちゃん?」

消えたはずくのいちが現れたので驚く、しかも耳元で囁くし。

「にゃは。今度こそ行ってくるね〜」

「もう!いっちゃんってば!」

今度こそ消えたくのいちに向かって声を上げる
くのいちの言葉の意味を考えるならば『邪魔者はいないからその間に告白しろ』ってことか?

(できないよ、そんなの)

熱くなってしまった顔をパタパタと手で扇ぐだった。



その翌日。

「幸村、ちと良いか?」

幸村が館の庭で鍛錬していた時、幸隆に呼ばれた。

「話がある。わしの部屋に来なさい」

急に何事だろうかと思うが、幸村はそれに素直に従う。

「はい、わかりました」

軽く汗を拭いてから幸隆の部屋に向かう。

「おじい様。話とはなんでしょうか?」

「うむ」

幸隆の向かいへと腰を下ろし胡坐をかく幸村。
幸隆は中々話そうとはせずに黙っている。


様、今回のも上手にできましたね」

「そ、そうですか?味、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

台所の一角をまたも借りてなにやら作っていた
今回は煮物のようだ。
なので、女中さんの一人に見てもらいながらやっていた。

「薄くないですか?もう煮たほうがいいかなって気もしますけど」

「大丈夫ですよ、このくらいがいいです。あまり煮込むと今度は型崩れしちゃいますから」

「あ〜そっか。これ今晩のおかずになりますかね?」

「なりますよ。一品増えて私どもは大助かりですよ」

そんな褒めなくてもと思うが、喜ばれたので良しとする。
後片付けをと思ったのだが、そのまま彼女らがまだ続けるとのことなので良いと言われた。
なので自室に戻って夕餉の時間まで待とうと思った。

(幸村様、美味しいって言ってくれるかな?煮物平気かな?)

自然と顔がにやけてしまう。
部屋に戻った時に文机の上に置かれた一冊の書物に目が行く。

「あ、幸隆様に返さなくちゃ」

その本は幸隆ものもだった。
暇な時にと貸してくれたのだ、そろそろ返そうと思っていた。

「幸隆様、いるかな?お出かけした様子はなかったけど・・・」

とりあえず行ってみよう。
いたらいたで何か新しいものを借りたいなぁとか思って。

幸隆の部屋の前まで来て、声をかけようかと思ったら話し声が聴こえた。
客がいるのかと思い引き返そうとするが、相手の声と話の内容が耳に入って立ち止まってしまった。

「け、結婚!」

「うむ、どうだ?幸村」

「あ、あのおじい様」

幸村が結婚?
は瞬きを数回する。
でも不思議とそんなに驚かなかった。
時代が時代なのでよくある話だろうなと思ったから。

(あちゃ〜いっちゃん。告白はできそうにないや)

思わず苦笑してしまう。

だが、さらに。

「お前と殿ならば似合いだと思うが、どうだ?」

(わ、私?)

思わず声を上げそうになるが口を押さえる。
なんで相手が自分なのだと。
でも正直嬉しさを感じてしまっている。

「御館様も殿ならばと薦めてくれた。御館様がまとめてくださるとも仰ってな」

「・・・・」

「相手が殿ならばお前も異存はなかろう。わしから殿に話すが良いか?」

襖の向こうでの会話には心の中でキャーキャー騒いでしまう。

(似合いだって、私と幸村様が似合いって〜いっちゃん、どうしよう〜)

幸村がうんって返事したら、どうしよう〜とか一人で舞い上がってしまう。
だが、幸村の返事は。



「お断りします、おじい様」



の一言だった。

(え・・・幸村様・・・・)

「なんだと?」

幸隆もこれには驚いたようで、思いっきり顔を歪ませてしまった。

「何が不満だ、言ってみぃ!」

「不満ではなく」

珍しく幸隆が声を上げたので、襖の向こうにいたの方が驚いて肩を揺らしてしまう。
幸村がどんな理由で断るのはわからないが、それはこれ以上聞いていたくなかった。
だから、そっと気づかれないように部屋に戻る。


部屋で膝を抱え考えてしまう。
幸村が断る理由を。

くのいちは幸村がのことを絶対に好いている!みたいな言い方をしていた。
それにここ最近の幸村の態度に、もしかしたらそうなのかな?
だったら嬉しいなって思っていた。

けれど。

何がいけないのだろう?
身分?自分はただの居候だから?
自分から見れば確かに嫁にするならば、由緒ある家の某の娘との結婚の方がいいのだろう。
幸村も出世を夢見ているのとか・・・・

結婚するような相手に見られてないってことか?
年齢はほぼ変わらないが、妹分にしか見えないとか?

色々な考えが駆け巡る。



「あ・・・・・そっか。忘れていた、私・・・・」



自分はこの時代ではなく別も場所から来た存在。
もしかしたらそれが気味がられているのかもしれない。

「そうだよね、普通はそうだよね」

最初から優しく受け入れられたので気づきもしなかった。
普通は素性も知れない、ましてや自分らの知らないような世界から来たのだ。
酷く言えば化け物とか妖怪だとか思われても可笑しくないだろう。

「そうだよ、テレビとか小説でもそうじゃん」

自分は普通でも別の世界の人間からすれば異質なものに見えるだろうと。

「・・・・・幸村様もそうなんだ」

いつも優しく接してくれたのに・・・・

山で遭難しかけた時は助けに来てくれたのに・・・


無理して、とか。
我慢していた、とか。
命令だから仕方なく、とか。

そんな理由ばかりが浮かんでしまう。

(だったら、気づかないままでいれば良かった・・・・ずっと気づかないままで)

幸村のことを好きだって気づかないままが良かった。



「具合が悪い?」

夕餉の時間になっても現れない
女中が様子を見に行くとは布団に包まっていたそうだ。

「心配ですね、おじい様」

「そうだな、医者でも呼ぶか」

「あ、大丈夫だそうです。一晩寝ればいいからと・・・・」

「そうか」

殿が作ってくれた煮物、一緒に食べたかったですね」

「そうだな」

幸村は膳の上に並ばれた一つのお手製だと言う野菜の煮物をぱくりと食べる。

「本当、美味しいのにな」










04/11/01
19/12/28再UP