咲かせよう、花。




ドリーム小説
【4】



くのいちは腕を組んで考えていた。
その顔は彼女にしては珍しく真剣だ。

「むぅ〜」

時折目を瞑り眉間にしわを寄せている。
いったい何をそんなに考えているのやら?

「こ、こうですか?」

「そうです、で、これをこう折って・・・・・はい、出来上がり」

「はは、私もできました」

考え事をしているくのいちの耳に入ってくるのは幸村との楽しそうな声。
さっきから村の子どもたちを交えて折り紙なんぞで遊んでいるらしい。

「しかし、どことなく変ですね、やはり」

「そうですか?結構上手にできていますよ。ねぇ?」

は隣のはなに同意を求める。

「うん。ゆきむらさま、お上手です」

「そ、そうか?」

村の子どもにもそう言われれば悪い気はしない。

「幸村さまーそんなのより鬼ごっこしようよ」

男の子たちには折り紙は不評らしい。

「んーそうだな、やるか」

「やったー!じゃあ幸村さまが鬼ね」

「え、ちょっと待て」

「そーれ逃げろー」

わーっと声を上げながら逃げていく男の子たちに幸村は仕方ないと軽く息を吐く。

殿たちはどうしますか?」

「あたしもやるー」

「あたいもー」

何人の子らは他の子と同じように逃げていく。

「私はいいです。ここで見ていますから」

「そうですか?よし、じゃあ皆覚悟しろよ」

幸村は散っていった子どもを追いかけていく。
それをは微笑ましく見ていた。



さっきまで輪には入らずにいたくのいち。
幸村と子どもたちがいなくなったことでの隣に座る。

「いっちゃん。なに?」

「幸村さまと随分仲良くなったねぇ」

「そうかな?」

「目を見て話せるようになったし」

「う、うん」

「名前も普通に呼んでいるし」

「そ、そうだね」

「なーんか暇な時はいっつも一緒にいるみたいなぁ〜」

「そ、そんなことはないよ?ほら、幸村様優しいから子どもたちを遊んであげているだけだよ」

がいるからじゃないの〜?」

「またまた〜」

絶対そうだよと心の中でツッコミを入れるくのいち。
信玄の命令でしばらく甲斐を離れていたくのいち。
それは甲斐・信濃周辺の情勢を探るよう言われてのことだ。
くのいちは織田家の動きを探っていた。

特にめぼしい情報はなくようやく甲斐へと戻っていた。
すると、行く前とは雰囲気の変わった二人に気づいたのだ。

緊張って言う空気が消えていた。

「私がいない間にってば幸村さまといい感じだし〜」

「そんなことないって、恥ずかしいなぁいっちゃんってば」

頬を赤くして反論しまくりの
幸村が聞いたらがっくり肩を落としそうだなとか思った。

「好きって言った?それとも言われた?」

「い、い、い、言ってないよ!そんなこと!」

「じゃあ言われたんだ」

ぶんぶんと首を横に振る

「え、まだなの?嘘〜」

邪魔者(自分)がいない期間がそこそこあった。
その間なにもないだと?
くのいちは双方かなりのんびりした状態だと呆れてしまう。
いやいや、待てよ?
もしかすると、自分以外にも邪魔者はいるのかもしれない。
だから、中々そういう雰囲気にならんのだろうか?

「い、いっちゃん?」

「あぁ、ごめん、ごめん」

「ゆ、幸村様に告白なんてできないよ、私」

「なんで?」

「なんでって・・・・・・だって、好きとか嫌いって考えたことないもん」

思わず口を半開きにしてしまうくのいち。

「それにいっちゃんの言い方だとなんか、幸村様が私の事気にしてくれているみたいな言い方だけど
 そんなことないと思うし・・・・・幸村様は優しいから」

(うわぁ〜自覚なしだよ、・・・・)

なんか色んな意味で涙が出てくる。

(幸村様、可哀相〜)

ごほんと軽く咳払いするくのいち。

「あのさぁ、私はてっきりは幸村さまが好きだと思っていたんだけどぉ」

「え!そ、そんなことないよ!」

「本当に?なんでそんなに否定するかなぁ、幸村さま可哀相〜」

「ち、ちが!」

顔中真っ赤にしているにくのいちはニヤリと笑う。

「人に言われると否定したくなっちゃうとか?」

「・・・・・・・」

「ゆっくりでいいから考えてみ?私から見るとの好きな人は幸村さまだと思うんだよねぇ〜」

「・・・・・えっと」

どうなのか?
いまいち深く考えたことはなかった。
でも、山で怪我した時に幸村が助けに来てくれて、その後も自分のことを心配してくれたのがすごく嬉しかった。
最初は近寄りがたい怖い人って雰囲気があったけど、根が真面目ででも時たま見せてくれる笑顔にとても安心できて。
何より、最近一緒にいるのが楽しい。

ドキドキ・・・

(あ、あれ?)

幸村のことを考えるとなんかドキドキする。
顔もさっき以上に熱を帯びているのがわかる。

、耳まで真っ赤よ〜?」

「う、嘘!」

「嘘じゃないよ〜やーん、ったら可愛い〜本当、幸村さまにはもったいないねぇ」

「い、いっちゃん!」

「にゃははは、で、どうかにゃ?その様子じゃ自覚が出たみたいだね」

「・・・・・・」

楽しそうなくのいちを軽く睨む
その顔すら可愛いと思えてしまうくのいち。

「もう!この後、幸村様にどんな顔して会えばいいのよ〜」

「どんなって、普通でいーじゃん。それか好きです〜って目で訴えてみれば?」

「や、やだよ!気色悪い」

「にゃはは〜」

「まぁまぁ、今までゆっくりのですから?これからもゆっくり行けばいいんじゃないの」

「そ、そうかな?」

「そうそう。その様子じゃすぐさま告白しますってわけないみたいだし」

「しないよ!だって・・・・・自信ないもん」

「えーそうかな〜」

「もうこの話は終わり!いっちゃん、絶対誰にも言っちゃ駄目だからね!」

「はいはい、言いませんとも〜」

「本当?」

「ホント、ホント」

だって、言ったらつまらないじゃないか。
しばらくはこの手のことで随分楽しめそうだと思うくのいちだった。

殿ー」

「ゆ、幸村様!」

「くのいち、いたのか?」

「いましたとも〜」

鬼ごっこを終えたらしい幸村が戻ってきた。

「子どもたちの相手は楽しいですが疲れますね、加減を知らないから」

「そ、そうですか?」

「どうかされましたか?顔が赤いようですか?熱でもあるのでは」

「ち、違います。平気です!」

「そうですか?」

ニシシと笑っているくのいち。
それを見て、また余計なことをに言ったのだろうと想像がついてしまう幸村だった。



***



あれから特に変わった様子のない二人。
普通に会話するし、子どもたちを交えて遊ぶし。
の方が意識しないようにと務めているらしい。

その、今日は村の子どもの一人、兵吾の家にいた。
兵吾の家は子どもが多くていつも賑やかだった。
母親が菓子を作ったというから、ご馳走になった。

「美味しいです、おばさん」

「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいねぇ」

の食べているのは『よもぎだんご』である。
ここでは当然ながら電子レンジやオーブンもない。
そんな中で手軽に菓子を作ったのがすごいと思った。
自分は本を見ながらでも失敗してしまうというのに。

「すごいなぁ、おばさんテキパキ簡単に作っちゃうもん」

「簡単にって簡単だよ、こんなのは」

「そうかな〜」

「なんなら教えてあげようか?材料もそんなに必要ないしね」

「本当!教わりたいです!」

は上機嫌で兵吾の母親の言う事をメモに取りながら聞いていた。

「ね?簡単だろう?」

「か、簡単かなぁ?ちょっと自身ないや」

「大丈夫だよ、慣れればどうってことないから」

「うん、ありがとう。おばさん」

兵吾の母親は口だけでなく目の前で作って見せてくれた。
簡単だと言われても、には不安が少し残った。
帰り際にわからないことがあったらまた聞きにお出でと言ってくれたので少しホッとした。



「・・・できるかなぁ・・・」

厨房の一角では材料を目の前にして唸っていた。
住ませてもらっているとは言え、ここは真田の台所。
使用人たちの仕事の邪魔にならないようにと思っている。

「何をしているの?

「いっちゃん!えっとね、よもぎだんごを作ろうと思ってね」

「へぇ、が?作れるの?」

「兵吾くんのお母さんに作り方を教わったんだけど、ちょっと自信ない」

照れくさそうに笑う

「大丈夫じゃないの?考える前に作ってみれば?」

「そ、そうだよねぇ」

「・・・・で、誰にあげるの?幸村さま?」

「え・・・誰にあげるって考えてないよ」

「じゃあ幸村さまにあげれば?甘いもの好きって教えたよねぇ?」

「う、うん。も、貰ってくれるかな?」

少し頬を赤らめたにくのいちは大丈夫だと背中を押す。

からのものを断るわけないじゃん。ほぉら頑張れ

「うん」

はメモしたものを見ながらと兵吾の母親が言っていたこと、やっていたことを思い出しながら作り始める。
くのいちは手伝う気はないようだが、そばから離れる気配はない。

「・・・で、蒸し器に入れて蒸す・・・・・しばらくは待つと」

「ふんふん、中々手際いいじゃん、

「そうかな?」

「上手にできるといいねぇ」

「うん」

ただ、作り方のメモを見ていると失敗など到底しない気がする。
時間が経ち、蒸し器から中身を取り出す。
作業再開。

「刻んだよもぎをここで混ぜて練りこむと・・・・よし」

は真剣そのもの。
初めて作るもので、それを人様に食べてもらおうと言うのだから真剣にもなるだろう。
でも見ていたくのいちはちょっと悪戯がしたくなった。

(普通に幸村さまが食べたら、美味いです〜とか言ってべた惚れして褒めまくりだよね)

それじゃあ、つまらんと思う。

には悪いけど、ちょちょいのちょーいってね」

「あ、。かまどそのままでいいの?」

「え?あ!そうだった、消した方がいいのかな?どうしよう〜」

「誰かに聞いてみれば?」

「そ、そうだよね。火事になったら大変だもんね」

は裏にいた使用人の一人に声をかけ、その場を離れる。
その間にくのいちはが練っていたものに大量の塩を混ぜた。

(さぁて幸村さまの反応が楽しみだにゃ〜)

きっとこんなだろうとかあんなだろうとか想像してしまう。
そうこうしているうちにが戻ってきた。

「そのままで大丈夫だって、鍋火から下ろしているからって」

「そっか、それは一安心だよね〜さ、続き始めちゃいないよ」

「うん」

はくのいちの悪戯などに気づくこともなく作業を再開する。
そして見栄えのよいよもぎだんごが完成した。

「ど、どうかな?」

「いいんじゃないの?うん、早く幸村さまに持っていってあげなよ〜」

「う、うん。そうなんだけど・・・兵吾くんのお母さんにも食べてもらいたいなぁとか」

それはマズイ。

「いや、いや、やっぱ幸村さまが一番っしょ?」

「なんで?」

「なんでって・・・ほら!。この前幸村さまにお礼がしたいって言ってじゃん!ねぇ?」

「そうだけど」

「ほら、作りたての奴食べさせてあげなよ〜」

「じゃあ幸隆様にも」

「だーかーら。他の人のはまた今度でいいじゃん。こう言うのって中々できるもんじゃないよ?」

手作りの菓子を贈るなんて習慣はないよってくのいちは笑う。
だから幸村が喜ぶから早くとくのいちはせかす。

他の人にもと思っていたなのだが、押しが強いくのいちに負けて幸村の部屋に持って行く。
部屋の前まで来て一段と緊張する。
だんごを皿の上に2、3個乗せ、お茶もあったほうがいいだろうと急須と湯飲みも持ってきて。

(うわぁ、なんか緊張するよ〜)

そう言えば幸村の部屋に行くなど初めてではないだろうか?
軽く深呼吸をして、障子の向こうにいるだろう幸村に声をかける。

「ゆ、幸村様、いますか?」

「はい、いますよ。何か御用ですか?」

にっこり笑って障子を開けてくれた幸村。

「あ、あの・・・・・・つく・・・食べ」

緊張してうまく言えない。
手が震え持っている盆がカタカタ震える。

「団子ですか?」

「は、はい!その、兵吾くんのお母さんに教わったんですよ。幸村様に食べてもらおうかなって」

「わ、私にですか?」

「はい」

なんとも嬉しいことを。
思わず顔が緩んでしまう。

「中へどうぞ。あ、いや、天気もいいから縁側でもいいですよね」

「そ、そうですよね」

縁側へと二人で並んで座る。

「は、初めて作ったものなのでちょっと不安なのですけど、この前幸村様には助けてもらったお礼もまだでしたし」

「礼などいいのですよ」

「と、とりあえずどうぞです」

茶も注いで幸村の前にだす。

「では、いただきます」

幸村が一つつまむ。
この時、は幸村に喜んでもらえるかな?とちょっと期待してしまう。

(ど、どうかな?美味しいかな?)

と同時に隠れて様子を伺っている影が一つ。

(にゃ〜幸村さまの反応が見者だな〜)

パクリ。

「・・・・ど、どうですか?」

「・・・・」

幸村は見た目とは裏腹の味に一瞬止まる。

(・・・・な、なんだこの味は?餡子と甘さと混じって・・・・)

ぶっちゃけ不味かった。

素直に言うべきか、隠し通すか判断を迷う所である。

(幸村さま〜を泣かしたらしょうちしませんぜぃ)

それはくのいちが言う台詞ではないのだが。
自分で仕掛けた悪戯なのだし。
は反応が鈍い幸村に不安が募る。

「幸村様?」

「は、はい」

「不味かった、みたいですね・・・・」

「・・・・」

肯定も否定もしないが、口を閉ざすってことは不味いのだろう。
は自分も食べてみることにして手に取った。

「あ、殿」

パクッと一口で食べる。
噛んだ瞬間に広がった不味さに自分で顔を歪めてしまった。

「・・・・・・・・・・・まずい」

「あ、はは・・・あの殿」

「なんで?ちゃんと言われた通りに作ったのに・・・・」

今にも泣きそうな顔をする
先に自分で味見をすれば良かったと後悔する。
いや、団子なのでそうそう味が変わるなんてことないのだ。

(よもぎかな?茹で方間違えたとか。蒸し方?なんでぇ???)

初めて幸村にと思ったものが大失敗だった。
料理は不得意ってわけではないので正直コレにはショックを受ける。

「幸村様、ごめんなさい。不味い物食べさせてしまって」

「い、いえそんなことは・・・・・」

皿の上にあと一個残っていた。
幸村はそれを手に取り口に入れた。

「ゆ!幸村様!」

「・・・・、殿が私に、作ってくれたもの、なのですから」

「でもでも、不味い物無理して食べなくても〜」

「い、いえ美味しいですから」

「そんな馬鹿なことあるわけないじゃないですか」

それでも笑って食べた幸村。
不味かったのは確かなのだろう、食べた後に少し咳き込んだ。

「幸村様、ごめんなさい。お茶、お茶飲んでください。お茶は平気ですから」

は湯飲みを幸村に手渡す。
幸村もそれを飲む。

「ご馳走様でした、殿」

「・・・・・」

「あの、殿?」

「幸村様の馬鹿・・・・・でもありがとうです」

そんな無理してまで食べなくてもいいのに。

「次も期待していますよ、殿」

それは懲りずにまた作ってきてもいいってことか?

『私がいない間にってば幸村さまといい感じだし〜』

『好きって言った?それとも言われた?』

先日のくのいちの言葉を思い出してしまう。



本当、期待してしまうではないか・・・ね?







04/10/25
19/12/28再UP