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咲かせよう、花。
【3】 子どもたちのお陰でと少し仲良くなれた気がする。 そう思っていた幸村。 今までのは自分に対して緊張して硬くなっているのがわかっていたから。 その硬さがとれたのが嬉しい。 今度もまたあの様な時間があれば、とすごしてみたいと思う。 くのいちや幸隆には邪魔されてしまうだろうが。 「幸村さま、いってらっしゃい」 「はい、いってきます。殿」 独り者の自分だが、こうして朝見送ってもらうのはいいものだ。 「今日はどうしようかなぁ」 くのいちが留守のために、暇な時間が前以上に増えた。 そんな時は村の子どもたちと遊んだり、幸村の祖父、幸隆の相手をしたりしていた。 今日は何をしようか? と、幸村を見送った後、幸隆も出かける用意をしていた。 「幸隆様。お出かけですか?」 「おぉ、殿」 幸隆はの顔を見て笑む。 そしてこちらへと手招きをする。 「御館様の用でな。つつじが崎の館へ行く所だ。幸村はもう行ってしまったようだな」 「先ほどでたばっかりですよ」 「そうか」 「お気をつけて、幸隆様」 「うむ。ではな、殿」 幸隆も出かけてしまった。 だとすると、子どもたちと遊ぼうか? だが、子どもたちだって、家の手伝いなどで忙しいとは思う。 ほとんどの子が農家の子どもなので畑仕事や幼い弟妹たちの面倒を見ている子もいる。 「暇になっちゃった」 しょうがないかと諦め、のんびり部屋ですごすのも悪くないかと思い始める。 その時、門を潜って賑やかな子どもたちの声が聞こえた。 「ーあそぼうー」 「、裏山行こうよ」 とリーダー格の兵吾を筆頭に子どもたちが来た。 「あれ、みんな来たの?おうちの手伝いは?」 「平気だよ」 出迎えたの手を早くも取って外へ連れ出そうとする子どもたち。 「わ、待ってよ。そんな急がなくても」 「お姉ちゃん。ゆきむらさまは?」 「幸村さまはつつじが崎の御館だよ。お仕事だもん」 「なんだ残念」 「?」 の右手と繋いでいる少女お妙がつまらなそうに言う。 「今日はね、みんなで裏の山に行こうって決めていたの。お姉ちゃんは行ったことないでしょ?」 「ないけど・・・勝手に行って大丈夫なの?」 「へいきだよ。いっつもおれたち遊び場にしているもん」 これに答えのは平蔵少年。 野山を駆けるのは子どもたちのとっては格好の遊び場らしい。 「早く行くぞ、」 「はいはい」 ちょっとした遠足みたいなものだろうか? 子どもたちにしてみれば散歩のような気がする。 子どもたちの後についていくような形の。 とりあえず、館を出る際には一言言ってでた。 帰りはそんなに遅くはならないだろうと思って。 「どこまで行くの?」 兵吾に訊ねると、どこまでとは決めていないらしい。 小さい子もいるからあまり遠くにはいけないようだし。 山道を通って木の実を拾ったり花を摘んだり。 腹が空けば彼らが持ってきた蒸した芋を食べ、山は食材の宝庫と言うべきか色々な果実などをとって食べた。 疲れたら小川で休憩してと中々楽しい。 けれど、今どの辺りかと考えるとちょっとわからない。 ちゃんと帰れるのか?とたまに冗談も言ったりしてみる。 「大丈夫だ。ここは俺らの遊び場だぞ」 なんて兵吾が自信たっぷりに言う。 その隣で平蔵がやはり自信たっぷりに頷く。 歌なんか歌いながら歩いていると、陽も傾いてきたことに気づく。 「そろそろ帰るか。もうすぐ陽も暮れる」 「そうだね。これだけ動いたら今日のご飯が美味しいだろうね」 「じゃあ、行くぞ!」 なんて子どもの集団は兵吾に従い下山し始める。 だが・・・ 「あ」 最後尾を歩いていたお妙が急に立ち止まった。 それに気づいたのは。 「どうしたの?お妙ちゃん」 見るとお妙の着物の裾が何かに引っかかった。 「お姉ちゃん、裾が枝に・・・すぐ取れるから待っていて」 「あ〜本当だ。わかった、みんな、ちょっと待って」 は他の子とはぐれては困ると歩いている子らに声をかける。 気づいた他の子が先頭を歩く兵吾らを止める。 「お妙ちゃん。慌てなくていいからね」 「う、うん」 はお妙に言うも。 お妙は皆を待たせていると気持ちで焦ってしまう。 中々取れない枝に苛立ち少し乱暴に引っ張る。 ぐいっと力を入れた時にお妙の小さな身体は反対に引かれてしまう。 「お妙ちゃん!」 お妙の着物に引っかかった木の枝は意外にも大きな木で下から生えているものだった。 急な傾斜な場所だった為にバランスを崩しお妙の身体がぐらりと揺れた。 は咄嗟にお妙の手を引っ張るも踏みとどまることができずお妙共々下へと転げ落ちてしまう。 「あー!とお妙が!」 目の前で二人が消えたことに子どもたちは騒ぎ出す。 「お姉ちゃん!お妙ちゃん!」 悲痛な声をあげる少女ら。 少年たち数人が傾斜を下ろうとするが兵吾に止められる。 「なんでだよ!たちが苦しんでいるかもしれないだろ!」 「そうだよ、怪我していたら大変だよ」 「馬鹿!俺たちが行って同じように怪我したらどうするんだよ。この傾斜じゃ子どもじゃ危ないだろ」 確かに。 一番の年長者の兵吾でもまだ数えて12歳程度。 体力的にたちを上まで連れてくることはできない。 もし二人の場所まで行こうものならば自分たちもこの傾斜に足をすくわれて転げ落ちてしまうかもしれない。 それに段々暗くなり始めているからさらに危険は増す。 「良太!大人を呼びに行くぞ。俺たちの脚ならすぐだ!」 「おぅ」 「おはなと和吉は他の奴らが下に行かないように見張っとけよ。なるべくお前たちも動くなよ」 「わ、わかった」 「もしたちが自力で登ってきたならばいいけど、 動けないようならば俺らが大人を呼びに言ったことここから声を出して教えるんだ」 兵吾は良太を伴って走り出した。 「・・・・・・」 「お姉ちゃん」 「・・・ん・・・?お妙ちゃん?」 小さな手で身体を揺すられているので目が覚めた。 「よかった・・・お姉ちゃん中々目を覚まさないから」 ちょこりと座っているお妙を見て思い出した。 「そっか・・・あそこ崖になってから落ちたんだっけ・・・痛っ」 身体を起こそうとしても背中が痛くて動けない。 「お妙ちゃんは・・・平気?痛いところある?」 「少しうでとかすれているけど平気。お姉ちゃんが庇ってくれたから。ありがとう」 「うん、なら良かった」 大きく息を吐いた。 なんか話すのも体中が痛くて辛い。 お妙が転んだ瞬間に咄嗟に庇って自分がクッションになるようにした。 なんとかお妙が怪我をしないようにと。 その分自分があちこちを打ちつけてしまったらしい。 「・・・・・」 仰向け状態の自分。 身体を動かすのが億劫だが状況を確認しようと目だけは動かす。 なんだか辺りが薄暗くなっている気がする。 どのくらい自分は気を失っていたのだろうか? 「ごめんね、お姉ちゃん。ごめんね」 泣き出すお妙には手を伸ばして頭を撫でる。 「平気、大丈夫だから」 「う、うん・・・・」 「泣かなくていいよ・・・・・・・・誰かが助けてくれるよ」 きっと兵吾あたりが何とかしようとしてくれているだろう。 だからお妙を不安がらせないようにできるだけ明るく話すようにする。 でも今のこの状態では何を言っても無駄だろうから、必死で身体を起こす。 「・・・・・しょ・・・っと。はぁ」 「お姉ちゃん。いいよ、寝てて」 「平気、平気」 身体を起こせたのだから骨折はしてないだろう。 足もヘンな風に曲がってないしそれだけでも一安心だ。 おそらく打撲だろうな。 「お妙ちゃん、寒くない?」 「・・・少し」 「日が落ちているものね・・・おいで」 お妙はのそばによってきた。 そのままはギュッとお妙を抱いてあげる。 「大丈夫だからね、大丈夫」 「うん」 何が大丈夫なのかは正直わからない。 自分が簡単に動けるのなら自力で上に登ればいい。 お妙はどこも怪我をしていないのだから。 けれど、今は自分が足手まといになっている。 (いっちゃんなら、すぐに見つけてくれそうだぁ・・・・・) でも彼女はいない。 遠く離れた地で任務を遂行している。 (幸隆様、心配しているかな?・・・・・・幸村さまは・・・) もう仕事も終わって館でのんびりしているかなって暢気なことを考えてしまった。 (・・・会いたいなぁ、幸村さまに) 今、お妙と二人で心細いから。 なんとなくそう思った。 もし、幸村ならばお妙を抱えて上に登るだろうなぁとか こっちの不安が吹き飛ぶくらい元気付けてくれそうだとか思った。 の腕の中でお妙が不安なのかすすり泣いている。 どうしよう、何をどう言えばいいのだろうか? 街灯もないこの時代。 ほとんど日が落ちていて暗くなっている。 他の子どもたちはどうしただろうか? 最悪の場合、朝にならなければ動けそうにない。 すると・・・ 「殿ー!」 「・・・・あ」 幸村が斜面を勢いよく降りてきた。 数人の者を引き連れて。 「殿無事ですか?お妙も大丈夫か?」 二人の姿を見て幸村は安心したようで胸を撫で下ろし、軽く笑んだ。 「ゆきむらさまー」 お妙は助けに来てくれた幸村を見ての腕を抜けて幸村に抱きついた。 「もう大丈夫だからな、お妙」 今まで心細かったが急に安心してお妙は声を出して泣いてしまう。 お妙を抱っこしてあやす幸村。 座ったまま、呆けてしまった。 誰かが来てくれるかもとは思ったがそれが幸村だとは思わなかった。 兵吾や平蔵たちの父親かな?ぐらいにしか。 「殿、大丈夫か?」 「あ、あ・・・信廉様?え?え?」 なんとまぁ、信玄公の弟様まで来たとは・・・・これにはは驚きである。 「驚いたぞ。子どもたちが血相変えて大人を探していたのでな」 「そ、そうですか・・・あは、あはは・・・ご迷惑おかけします」 「よい。それよりどこか痛むか?」 「少し体が痛いかなぁと」 「なんとそれは早く手当てをせねば、さぁわしの背にのるがいい」 「え、え!い、いいえ滅相もないです、そんな」 は恐れ多いと首を横に振る。 来てくれただけでも驚きなのに、そんなことまでされた日にはなんとも・・・ 「遠慮はいらん」 「で、でも・・・」 「信廉様、その役目は私が」 「幸村」 今までお妙をあやしていた幸村。 急に二人の間に入ってきた。 お妙はすでに別の者が抱いていた。 どうやら父親らしい。 「え、っと・・・それもなんか悪い気が・・・・」 「辺りも暗いですから、もたもたしている暇はありませんよ。失礼します」 「え!」 ひょいっとを抱き上げる幸村。 「さぁ、我々も上に戻りましょう。信廉様」 「そうだな」 幸村はどこか不機嫌である。 それを見て信廉は思わず笑ってしまう。 「信廉様?」 「いや、なんでもない。足元に気をつけろよ、幸村」 「わかっております」 それからしばらくして山道に戻ったわけだが、は自分が随分高い場所から転げ落ちたのだと知ってぞっとした。 子どもたちの大半は大人たちによって帰ったようだが、年長者の兵吾と良太は待っていた。 は幸村に下ろしてもらい兵吾と良太と向き合う。 「大丈夫か?」 「大丈夫だよ、兵吾くんが幸村さまたちを呼んできてくれたんだね、ありがとう」 はにっこり笑うが兵吾は首を振る。 「もっと注意してれば、こんなことにはならなかったんだ」 兵吾は自分の所為だと思ったらしい。 いくら慣れ親しんだ遊び場でも危ない場所は沢山ある。 歩く時もあまり崖側によらないようにと忠告してればと・・・・ 「ごめんな、」 「そんな事ないって」 「大人を呼ぶことしかできなくて、俺に力があれば時間もかけずにを助け出せたのに」 兵吾も良太も大人の力を借りるしかできなくて悔しかったらしい。 とお妙が無事に戻ってくるのを待つのがとても辛かったらしい。 「何を言うか、兵吾。自分にできることできぬことをちゃんとわかっているではないか」 信廉は兵吾と良太の頭を優しく撫でる。 「お前たちの判断は間違ってはおらぬ。もっと自信を持て。お前たちのお陰で他の子らは無事だったではないか」 「う、うぅ・・・」 兵吾たちは泣き出した。 恥ずかしいからか泣き顔を見せたくなくて必死で堪えている。 「さぁ、帰るぞ。お前たちの親も心配しているだろう。それに殿を早く休ませた方がいい」 信廉の一言で皆は歩き出す。 は自分で歩こうとするがやはり身体が言う事を聞かない。 荷車で運ぼうかと言ってくれるが恥ずかしいと言う気持ちが多くて遠慮してしまう。 だが 「そんな身体で遠慮される方が迷惑です」 幸村にきっぱりと言われてしまう。 さっきからこの男不機嫌でしょうがない。 忙しいのに呼び出されたのだろうなぁと思うと申し訳ない気持ちが大きい。 「荷車が嫌なら私があなたを運びますよ」 「い、いいです!悪いです」 「殿、何度同じことを言わせるのですか?歩けないほど痛いのでしょう?荷車はもう先を行っていますし」 「でも・・・・」 幸村が怒っているし。 だったら恐れ多いが信廉の背におぶさって行けばよかった・・・・とか思ったりする。 「信廉様、行っちゃったしなぁ・・・・」 ポツリと呟いてしまった。 それが幸村の耳に入ったようで、彼の眉間にしわがよる。 「待っている暇はないのでさっさと行きますよ」 またも抱き上げようとするのでは少し身を引いてしまう。 幸村は拒絶されたと思ってショックを受ける。 (私は嫌われているのか?・・・信廉様がいいようなことを言っていたし・・・はっ!殿の好きな方は信廉様!?) だとしたら自分に勝ち目はないと落ち込む。 信廉は武だけでなく文も素晴らしい才能を持っている人だから。 しかしからの言葉は別物だった。 「あ、あの幸村さま・・・・そのせめておんぶにしてくれませんか?」 「は?」 「なんか恥ずかしいので・・・・我が侭でごめんなさい!」 「い、いえ、別に。では、どうぞ」 幸村は腰を下ろす、はゆっくりだが幸村の背におぶさった。 これでようやく帰路に着いたわけだが、二人とも一言も発せずにいる。 山も下って皆がそれぞれの家に向かう。 「殿、しっかり休まれよ」 「は、はい!ご迷惑おかけしました、信廉様」 「気にするな、殿」 「ありがとうございました」 「うむ。ではな。幸村、後は頼んだぞ」 「はっ」 「、またな」 「うん。兵吾くんも良太くんも。今日はありがとう、色々なとこ行けて私は楽しかったよ」 「そっか」 「今度は危なくない場所に行こうな」 「幸村様、さようなら」 「おやすみなさい」 「あぁ、気をつけて帰れよ」 ほとんどの者と別れて幸隆の館へと向かって歩き出す。 もう月が出てしまっている。 「・・・・・」 (幸村さま、怒っている?いっぱい迷惑かけちゃったしなぁ) 「殿」 「は、はい!」 「無事で良かったです」 「・・・・・」 幸村は前を向いているし、は覗き込まない限り彼の顔は見られない。 「多少怪我はしているようですが、命に別状がなくて・・・・・本当に良かったです」 (幸村さま、怒ってない?) それどころか、の無事を安堵してくれて。 最初に駆けつけた時、ホッとしたような顔を見せてくれて・・・ 「殿?」 嬉しくて。 本当に自分も大怪我せずにすんで良かったと思ったら涙が出てきた。 幸村の背にいる安心感。 は幸村の肩に軽く手で触れている程度だったが、泣き顔を見られたくないのと 未だに、なんだか自覚してない想いが止まらずに幸村の首に腕を回し抱きついた。 「え?殿?」 突然で驚く幸村だったが鼻を啜る様子がわかって泣いているのだと気づく。 そうしているうちに幸隆の待つ館へと到着した。 「さぁ、着きましたよ。あなたの家に・・・・」 信廉様は大河のイメージ。
04/09/26
19/12/28再UP
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