咲かせよう、花。




ドリーム小説


【2】



少しずつだが、幸村との距離が縮まっているようだった。
と言っても挨拶をする程度なのだが。
前の状態が0に近い状態だったのだから大きな進歩であるとは言えよう。

。最近楽しそうね」

「そうかな?」

「幸村さまと仲良くなっているし〜」

「そ、そうかな?そんなにお話できてないよ?」

幸村と聞いて少し頬を紅く染める
それを見てくのいちは一瞬口元をニヤッとさせるが、すぐさまから顔を背ける。

「でも、さみしいなぁ〜が幸村さまと仲良くなってくれるのは嬉しいけど、私の事ほっといているみたいでぇ」

急に大人しく、彼女らしくない様子にはおろおろする。

「そんな事ないよ、いっちゃん〜」

「いいんだ、うん、いいんだ少し我慢するし」

「そんな事ないよ、私、いっちゃん好きだもん〜」

ガバッとくのいちに抱きつく
には見えないが、さり気なくピースしているくのいち、顔は笑っているし。

それを偶然見かけたのは幸村。
くのいちが自分に対してのあてつけみたいなものだとはわかっていたので呆れてしまう。

「しょうがないな、本当に」

と頭を掻きながら立ち去った。



普段からくのいちと仲良しの
見かけるといつも一緒にいる。

だが、くのいちも暇じゃない。
偵察などの任を信玄に命じられればそれを果たす為に留守にすることも少なくない。
そんな時、はいつもどうしているのだろうか?

幸村はふとそんな事を思った。

祖父幸隆の屋敷には自分と祖父との三人に、仕える使用人が住んでいる。
幸隆はすでに引退してしまい、今は幸村や父と兄が出陣することが多い。
自分も出陣すると屋敷には祖父とだけだ。
祖父はを偉く気に入っているので、が寂しくないように色々なにかしているような気はする。

ただ、何をしているのですか?

なんて聞くのが恥ずかしい。
と言うより、祖父が素直に教えてくれるとは限らない。

『わしと殿だけの秘密だ』

とか言ってそうだし。

・・・・

(自分も殿のことはよく知らないのだな・・・・)

と言う名前で、くのいちからはなんて呼ばれていて。
好きな人がくのいちと祖父だとか言っていた。
大人しくていつも下を向いているような感じで・・・

あ、それは幸村に対してで、くのいちなどには楽しそうに笑っているし。

でも、礼儀はちゃんとしていて、朝夕の挨拶は毎日してくれる。

以前くのいちが言った。

『幸村様はお固いから相手も身構えちゃうのでしょうね』

『そんな顔していると、余計に近づいてきませんよ〜』

って。

固いって言われても。
何をどう変えればいいのかわからないし、自分は昔からこんなだから急には変われないし。

(・・・・なんか落ち込んできたな・・・・)

じゃあ、笑いを取ればいいのだろうか?

・・・・似合わないから、違う意味で笑われそうだから止めておこう。



***



ある日のこと・・・
くのいちが他の忍びたちと各地への偵察を信玄から命じられて出立していった。
早くて数週間。
長くて1、2ヶ月は帰ってこないだろう。

今は特に戦が起こる気配もないし、信玄も起こす準備はしていない。

なので、いつも通りにつつじが崎の館に出仕する。

「ゆ・・・・幸村さま。いってらっしゃい!」

殿・・・はい、いってきます」

毎日見送ってくれる
ほんの数秒のことなのだが嬉しく思う。
いつもならばそのまま出てしまうのだが・・・

「あの殿」

「は、はい!」

緊張しているのを感じ幸村は微苦笑してしまう。

「くのいちがいない日はいつもどう過ごしているのですか?」

「え・・・どうって・・・・普通ですよ?」

「普通・・・ですか」

「はい・・・普通です」

ぷっつり会話がきれた。
幸村は後頭部を掻きながら、次の言葉をどう紡ぐか考えるも上手い言葉は出てこない。

「・・・・ゆ、幸村さま?」

「あ、いや、なんでもないです。じゃ、じゃあ、いってきます」

少し背中が丸くなった感じで幸村は馬に跨り走らせた・・・・いや歩かせた?
その後姿を見送ったはなんのことだかわからず首を傾げる。

「幸村さま?なんだろう?」

くのいちがいない日はって言っていた。
あぁ、今彼女は留守だった。
数日前のことを思い出す。

『今度はどこ行くの?』

『織田家の尾張あたりをね、ちょこ〜っとね』

『ふーん。気をつけてね、いっちゃん』

『うん、気をつけるよ。も色々気をつけてね』

『私?私は別に危険なことはないよ?』

わかっていないなぁとくのいちは笑う。
を狙っているおじ様&お兄さん連中のことを行っているのだ。
まぁ、真田の館からでなければ攫われることもないけど。

『やだぁ、大げさだよ、いっちゃん』

『とにかく、飴くれるからってついて行っちゃ駄目だよ?どこか行く時は幸隆様や幸村さまに言っておくこと〜』

『私そんな子どもじゃないよ?』

『にゃはは〜ま、お土産期待していてね〜』

ってなことを話した。
しばらく元気な彼女がいないのはホントさみしい事だ。


・・・じゃあ、もう一つの元気な人たちのところへ行こうと思った。


「では、そのように祖父に伝えます」

「頼むぞ、幸村」

「はい。では失礼します」

つつじが崎の館で色々難しい話し合いが行われたが、昼前にはそれでも終了した。
だから今日の出仕はこれで終了。
先ほど信玄から祖父への託を頼まれたが、まぁ趣味の囲碁に関することだそうだ。
政が忙しいと言えども、最近では少し余裕が出てきたようだ。
信玄と幸隆は囲碁仲間らしい。

辺りを見ながらゆっくりと馬を走らせていると、大勢の子どもたちの姿が目に入った。
その中心には見慣れた子もいた。

「・・・殿か?」

楽しそうに鬼ごっこでもやっているようでわーわー言いながら走っている。
そうか、くのいちがいない時は村の子どもたちと遊んでいるのか。
じゃあ何も心配いらないなと幸村は目を細めて笑った。

自然と馬を止めてしまったらしく、止まっている幸村の姿を子どもたちが見つけ声をあげる。

「ゆきむらさまだぁーーー」

「ゆきむらさま〜」

と小さい身体をいっぱいに使って幸村に手を振る。
ぴょんぴょん跳ねたりして。
子どもたちから見て幸村は憧れの存在なのだろう。

「幸村さま?」

子どもたちが一斉に同じような動作をするのではそっちを見ると本当に幸村がいたので驚いた。
子どもたちの声に幸村は笑って手を振った。

それを見て子どもたち、特に男の子たちは幸村のもとへ駆けて行く。

お姉ちゃん。わたしたちもいこう」

「え?う、うん」

女の子たちに手を引かれても幸村のそばへ行く。
幸村は馬を降り近くの木に手綱を繋いだ。

「ゆきむらさま、あそぼう」

「やり、おしえてよ」

「遊ぶのはいいが、槍はまだ早いよ。もう少し大きくなったらな」

「じゃあ隠れ鬼しようよ」

「えーさっきもやったでしょ?ゆきむらさま、お手玉しましょう」

「そんなのゆきむらさまがやるかよ」

あーだこーだ言い出す子どもたちに幸村は笑う。

「まいったな」

「幸村さま、子どもたちに大人気ですね」

はゆっくりと幸村の隣に来た。

「それは殿もでしょう?」

「私は別に・・・・遊んであげていると言うより、遊んでもらっていると言うような感じですから」

「ははは」

「あはは」

なんか互いに恥ずかしい。

お姉ちゃん、鬼ごっこやろう〜ゆきむらさまも。さっきは平蔵が鬼だったでしょう?」

「あ、そっか、おにだった、おれ。ゆきむらさまやろう」

「あ、あぁやろうか」

昼前で館に戻る途中だったけど、まぁいいか。

「よし、皆早く逃げろよ」

と幸村が言うので、子どもたちはきゃーきゃー言いながら散っていく。

「ゆ、幸村さま。いいのですか?どこかへ行く途中だったのでは?」

が心配そうに訊ねる。

「いえ。今日はもう館に戻るだけだったのですよ。ほら、殿逃げましょう、平蔵が追いかけてきますよ」

「え?」

幸村は咄嗟にの手を取って走り出した。
あと少しでは平蔵に捕まるところだった。

「あー、ずるいぞ」

平蔵が文句たれるも、幸村が引っ張ってしまっているのだからしょうがない。

「ほら、平蔵。早くしないと誰も捕まらんぞ」

「平ちゃん、ごめんね〜」

それから何度か他の子に鬼は変わるも、幸村がの手をずっと引いていたので、が鬼になることはなかった。
お昼の時間になったので、子どもたちは皆自分の家に帰って行った。
また明日も遊ぼうと約束して。

「はぁ、中々面白いですね、鬼ごっこも」

「・・・・」

「どうしました?殿?」

「い、いえ。なんでも、ないです」

顔を少し紅くしてうつむく
自分は何かしただろうか?・・・・・あ。

「す、すみません!ずっと気づかなくて」

パッと手を離す幸村。
最初に手を取ってから、ずっと繋ぎっぱなしだった。

「あ、いえ、別に」

小学生かお前らと言いたいが、時代が違うから。

「私たちも戻りましょうか。おじい様がきっと待っていますよ」

「はい」

ずっと待たせたままの馬の手綱を引いて二人で並んで歩き出した。
子どもたちのお陰だろうか?
またも距離は縮まった?

「鬼ごっこは実は初めてやりました」

「そうなのですか?私は小さい頃よくやりましたよ」

「やる機会がなかったのですよ、昔は」

「へぇ・・・・・あ」

ふと思い出した。
幼少の頃の幸村はどこぞの家に人質として育てられたと本で読んだような記憶がある。
この時代にはそれは当たり前のように行われていたことだ。
だから、幸村も?

でも、今のいるここは通常の歴史の流れとは微妙に違うし・・・

殿?」

「な、なんでもないです」

は首を振る。
もしそうであったのならば、あまり良くない想い出だろうから黙っておこう。

殿は明日もと子どもたちにせがまれていましたが、明日も鬼ごっこですか?」

「どうでしょう?毎日色んな遊びを考えていますよ、子どもたちは」

いつも同じ遊びってことがなくて、色々で。
あちらこちらを走り回る子どもたち。
自分だって若いのに、ついていくのが結構大変だったりする。

「怪我をしないように気をつけてくださいね、殿」

にっこり笑ってくれた幸村。
一瞬呆けてしまう

(こんな顔もするんだ、幸村さま・・・・あ、鬼ごっこしている時も笑っていたよね)

もすぐさま笑みを浮かべた。

「はい、気をつけます」



あ、気がつけば、あんなに緊張していたのに、今はちゃんと話せている。
ちょっとずつだけど、いいね。








04/09/22
19/12/28再UP