咲かせよう、花。




ドリーム小説
この出会いは間違いだったのだろうか?




何の理由かはわからないが、戦国時代と呼ばれる地へと降り立った。
ここは武田信玄の治める甲斐の国。

かの有名な武将に会えて感激よりも、混乱の方が大きかった(そりゃ、そうだ)

行く当てもなく、困り果てたを信玄に仕える真田幸隆に保護された。
以来、元の場所に戻れる感じもなく幸隆の館で暮らしている。

実は感激よりも混乱の方が大きかった理由が、ここにある。
それは。

「先の戦も御館様を助けて大活躍だったようだな、幸村」

「いえ、たいしたことはしておりませぬ」

「謙遜するな、はははは」

幸隆の前に腰を下ろしているのは孫の幸村。
今は祖父や父に代わって信玄の側にいる。

この男の存在がの混乱の種だった。
なぜならば・・・

殿、そなたも話しに混ざらぬか?」

「あ・・・・・おかえりなさい」

たまたま通りかかった所を幸隆に見つかり、手招きされる
は頭を下げて、幸村の近くに腰を下ろす。

「幸村が戦から戻ったばかりでな」

「た、大変でしたね」

「い、いえ・・・・」

緊張する・・・・
幸村とは年は変わらぬ
だが、自分がいた世界での同年代の男性に比べて身体つきはいいし、信念というものをちゃんと持っている。
熱き心持つというべきか、ちょっと気軽に話しかけられるような雰囲気はしない。

顔は・・・少し好みなので余計に性質が悪い。
あ、の勝手な理由だが。

これが一番の理由なのだが、歴史上幸村が信玄に仕えた記録などない。
けど、こうして普通にいるので違う歴史を見ているようで、あれ?自分がここにいるから歴史が変わった?
とか思ってしまうのだ。

微妙にずれていると言うべきか。

まぁ、変わったものは仕方ないし、にはどうもできない。
現に今もこうして幸隆の世話になっているわけだし。

殿もお変わりないようで何よりです」

「あ、あは、元気なのが取り柄なので」

「良い事ではありませんか」

「そ、そうですか?あは、あはは」

まともに顔が見られない。

「ゆっきむらさま〜、御館様がお呼びですよぉ〜」

突然現れた忍びのくのいち。
気配も音もなく現れては驚く。
色々慣れたつもりだが、彼女の登場だけはなれない。

「くのいち」

「にゃは、幸隆様、ご無沙汰しています〜」

「お主も変わりないようだな」

「そりゃあ、もう。にゃは、も元気?」

「う、うん。元気」

ようやく心臓が落ち着いた。
くのいちにニコッと笑う

「御館様がお呼びなのか?」

「はい〜なので呼びにきたのですよ」

「では、これで失礼します。来た早々で申し訳ありませんが」

幸村は幸隆に頭を下げる。

「御館様のお呼びじゃ仕方ない。話はまた後でゆっくり聞かせてくれ」

「はい。では」

立ち上がって部屋を出て行く幸村。
それについて行くくのいち。
思わず大きくため息を吐いてしまう

「なんだ?殿」

「あは、緊張しました」

「幸村相手にか?あはははは、面白いな殿」

「幸隆様、笑い事じゃないです。本当なのですから」

豪快に笑う幸隆には頬を膨らます。

「いや、すまぬ。幸村も難儀だのぅ。いや、わしは見ていて面白かったぞ。なにやら見合いをしているようでな」

「幸隆様〜?」

「ははは。どうかな?殿、幸村の嫁にならぬか?」

「え・・・・や、それ、それは」

一瞬にして顔を真っ赤にさせる
恋人でもないのにいきなり嫁と言われて、恥ずかしさでいっぱいになる。

「ははは、深く考えずとも良い。ははは」

「幸隆様〜」

涙目になりながら、幸隆に目で抗議する
幸隆にしてみれば、そんなが可愛くてしょうがないのだろう。
自分の孫と同じ年頃だし。
部屋一杯に幸隆の笑い声が響いていた。




****



「・・・・・」

「幸村さま〜顔が怖いですよぉ〜」

「なっ」

「にゃはは〜その様子じゃ全然のようですね〜」

「くのいち!」

館を出る際にいつまでも聴こえる祖父の笑い声に幸村は少し面白くなかった。
と二人で何を話しているのかとても気になっていた。

「まぁ、あれですよね〜幸村様はお堅いから相手も身構えちゃうのでしょうね」

「・・・・」

ってば幸隆様とは仲良しさんですから羨ましい気持ちはわかりますけど、
 そんな顔していると、余計に近づいてきませんよ〜」

「少し黙れ」

好き勝手言われ続けて幸村は眉間にしわがよる。

「知っていますぅ?幸隆様だけじゃないのですよ?はおじ様方の『あいどる』って奴なのですよ」

くのいちは指を折りながら一人一人の名前を声に出しながら出す。

「御館様でしょ〜信繁様に信廉様にぃ、原様でしょう〜馬場様に高坂様に」

「わかったから、もう止めてくれ」

「えーつまらないですね」

「くのいち」

キツクくのいちを睨む幸村。
くのいちは悪びれた様子もなく軽く舌を出し笑った。

「では、私はさきに御館様の所へ戻りますね〜ちゃんときて下さいよ」

「あぁ」

くのいちは再び気配を消して幸村の前から姿を消した。

祖父の館で暮らしている
遠い、遠い、それはもう想像のつかないくらいの場所から来たのだという。
間者ではないかと疑う者も少なくなかったが、の明るい性格で誰もがそう口に出す事はなかった。
今時代の女性に比べて、行動力や言動などが多少違う。
最初は戸惑う事もあったが、今ではくのいちが言うように皆がを気に入ってしまっている。

一番なのは祖父だろう。

幸村もを気にしてはいるが、の方がぎこちない態度をとるのでため息が出る。
やはり自分は『お堅い』からか?

でも喋ってくれるだけ、まだマシだよなぁとは思う。
それに、ぎこちなくはあるが『おかえりなさい』って笑んでくれるのがくすぐったく感じ嬉しい。

「まだまだ、これからだな」

さぁて、御館様の用事を済ませよう。



****



は〜」

「ん〜?」

「幸村さまが苦手なの?」

「え゛・・・・な、なんで?」

「だって、幸村さまといると表情が硬いよ〜?あ、あとね名前で呼んでないし」

「う、嘘ぉ!?」

表情が硬いってのは認める。
幸村の前だと緊張しているのは自分でもわかるから。
でも名前ぐらいは呼んでいただろう?

「嘘じゃないもーん。
 まぁ、から幸村さまに話しかけることがないからしょうがないかもしれないけどねぇ」

呼び止める時も、『あの』って呼んでいるらしい。

「名前・・・・ねぇ」

くのいちとはこうして気軽に話せる。
彼女の方が年下なのだが、押しが強い。
なのでくのいちの後についていくって感じがあるのだが、それも悪くない。
ただ、彼女の登場にはいまだになれないのだが。

は、私の事なんて呼ぶ?」

「いっちゃん」

くのいちのいっちゃん。
彼女の本名が何かを知らないので、くのいちがと呼ぶので、自分も親しみを込めて『いっちゃん』って呼ぶ。

「私たちはこんなに仲良しさんなのに〜幸村さまとは全然なんだもんねぇ」

「あ、そ、それはさ・・・・えーと」

は幸村さまのこと嫌い?」

くいっと首を傾げるくのいち。
ちょっと可愛いじゃないかとは思う。
妹ってこんな感じかな?って。

、話聞いている?」

「え、う、うん。聞いているよ」

「えっとね・・・・き、嫌いじゃないよ。いい人だよね、うん」

「なんか自分に言い聞かせているっぽいなぁ」

「酷いなぁ。それに質問内容がさ、最初は苦手?だったのに、急に嫌い?なんて聞くからさ」

「にゃはは〜ごめん、ごめん」

「いっちゃんはどうなの?いっちゃんは、ゆ、幸村さまのこと好きなの?」

「なんで、名前呼ぶのに緊張しているの?」

「もう!質問しているのはこっち」

「幸村さまは嫌いじゃないよ〜からかうと面白いし」

「か、からかうの?あの人を?すごーい」

「いやいや、感心されても困るにゃ〜が思っている好きではないよ。私は一応お仕えしている人だし」

「仕えている人をからかうってすごい部下だよね」

「にゃはは〜」

は腕を組んで考える。
急にくのいちがこんな話をしてきた理由は何だ?
もしかして、自分の態度は幸村にとって失礼な態度だったのだろうか?

「むぅ」

「おっ、考え込んでますな。、大福食べる?」

「食べる」

くのいちからもらった大福にぱくっとかぶりつく。
餡子が甘いのぅ。でも美味しい。

「美味しい。いつもいっちゃんがくれる大福って本当美味しいね」

「そりゃあ、お勧め品だもん。幸村さまもここの大福好きなんだよ〜」

「わ、意外」

「そう?甘いもの結構食べるよ〜」

思えば幸村のことは何一つ知らないなぁと思う。

名前が真田幸村で、祖父は幸隆、父は昌幸。
一族揃って武田家に仕える者。

ちょっと熱血入っているけど、日常では穏やかな人。

ってことぐらいか?
今、くのいちの情報で甘いものも好きだって知った。

「私、御世話になっているのに何も知らないよねぇ・・・・幸隆様とはいっぱいお話しするけど」

「幸隆様、好き?」

「うん、大好き!面白いもん」

幸隆に対して即答だったよ・・・・幸村との違いにちょっとくのいち涙がでる。
しかもは嬉しそうだし。

(幸村さま〜敵は身近にいますよぉ〜)

「あ、いっちゃんももちろん好きだからね」

職業上、相手の裏をかく事などをする忍び。
本来ならば闇に生きる存在なのだが、ここでは暗い世界ではない。
ちょっと頼りなさそうだけど、隣で笑っている少女は自分にとって一番の友だちだ。

それも、初めての。だから・・・

「・・・・・私もだよ、

って笑顔で返したくのいちだった。



(前言撤回〜幸村さま、簡単にはいきませんぜぇ〜にゃは)



幸村の味方のつもりだけど、と遊ぶ時間も欲しいので、いま少しだけは邪魔、させてもらいますから。
などとくのいちは笑うのだった。



翌日。

「ゆっきむらさま〜」

「なんだ、くのいち」

の好きな人知りたいですか?」

「な、なんだ急に!」

の好きな人と聞いて頬を赤くする幸村。
うわぁ、からかいがあるわぁ。

の好きな人は幸隆様とわ・た・し!なんですって〜」

「・・・・は?」

「にゃはは、頑張れ、幸村さま〜」

くのいちはそれだけ伝えて気配を消した。
残された幸村はしばし呆然とする。

「・・・・すごく高い壁だ・・・」

少し落胆する幸村。
の祖父とくのいちに対する好きがどのくらいなのかはわからないがへこむ。

「はぁ」

これからつつじが崎の館に出仕するのに、朝からやる気が下がった。
くのいちも朝一でわざわざ言いに来なくてもいいのにと。

「ゆ、ゆ、幸村さま!」

「?」

振り返ると、が少し頬を染めて立っている。
あれ、今名前呼ばれた?

「いってらっしゃい!」

「・・・・はい、いってきます」

さっきまで失せていたやる気が満ちる。
幸村は館を出て行く。

その後姿を見送るは、幸村の姿が見えなくなると微苦笑する。

「やっぱ、緊張する〜」

でも、嫌な緊張ではない。

「あは、あはははは」

この緊張、何故なのだかもうわかりますよね?



「にゃ〜幸村さまももしまりのない顔しちゃって〜今日もからかい甲斐がありますにゃv」

少し離れて様子を伺っていたくのいち。
あとで二人をからかってやろうと笑うのだった。



「やはり、これからだな」

幸村は先ほどのの姿を思い出しては終始笑顔でいたそうだ。



この先、どうなることやら?








04/07/11
19/12/28再UP