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キミノエガオ
「だったら、俺のとこに来るかい?俺も大事な人亡くしたばかりなんだ・・・・」 あの日はからっからに晴れていて。 でも吹く風はとても痛かった。 砂埃が目に入って痛くて痛くて涙が出てきた。 涙が出たのは砂埃が目に入ったから・・・・ 「ほら、立てよ」 私にかける声がとても優しくて。 私に差し伸べる手がとても温かくて。 涙が出たのは、きっと公績君のせいなんだ。 【前】 が凌家の世話になってもう一年は経ったであろうか? 凌家を若くして引き継いだ凌統には本当によくしてもらった。 行き場のない自分を引き取ってくれて。 彼はちょうど父親を戦で亡くした直後だったらしい。 あまり、その辺は詳しく話してくれない。 普段は凌家の屋敷で生活をしている。 彼の母親にも可愛がってもらった。 一緒にいる時間が増えて自然と凌統のことを知って。 凌統もの側にいるのを好んだ。 「が好きだ。俺がをずっと守るから。だから・・・・俺の側にずっといてくれよ」 後ろから凌統に強く抱きしめられた。 ふざけて触れてくるのとは違って、いつもの倍も緊張した。 どことなく凌統の手も震えているように見えた。 いつも軽口を言い合って。 素直じゃない性格で。 子どもっぽさがまだ残っていて。 一緒にいると楽しくて。嬉しくて。 だからは頷いた。 「うん。ずっといるよ。公績君のそばに。だって私も公績君が好きだもん」 良かったと思った。 単純に嬉しかった。 きっとこの先も軽口言い合いながらも楽しく過ごすんだって思った。 彼の隣にいられるんだって。 「やだ、公績君ってばまた拗ねてる〜」 「なんだよ、拗ねてないっての」 とか言いながらも唇が尖ったままだ。 「今日は何があったの?甘寧と」 「・・・・」 図星だ。 凌統の機嫌が左右されるのは決まって甘寧が関係している。 は数回だけ会った事がある。 でも偶然会えたってだけだ。 凌統が甘寧に会わそうとしないし、会った時もがっちりガードされて話らしい話もできなかった。 向こうから見たら自分はどんな奴だと思われているのか多少気になりはするが。 「からかわれたんだなぁ、きっと。それで売り言葉に買い言葉で喧嘩になって呂蒙さんに怒られたとか」 「ち、違う」 「うふふ、違わない〜公績君は隠し事できないねぇ、右の眉がピクって動いたよ」 「んなわけないだろ」 「動いたよ〜」 そう言われて凌統は思わず手で眉を隠してしまう。 「隠したわけじゃないぞ、別に・・・・に隠し事してもしょうがないし」 「そう?嬉しいなぁ、そう言ってくれると」 「も俺に隠し事なんてないだろ?」 「さぁ、どうかな?」 「あ、あるのか?」 「女の子は秘密の一つや二つあるものだよ」 凌統の目が一瞬大きく見開くがすぐさま細くなりフッと笑みを零す。 「どの辺にそんな女の秘密なんてのがあるのかね〜」 「秘密だから言うわけないじゃん」 「あ、本当はない癖にそう言うわけ?」 「あるかもよ?」 「じゃあ言ってみろよ」 「秘密だから言うわけないでしょ」 ニヤニヤとが笑うから凌統は面白くない。 さっきから甘寧のことで図星をつかれてただでさえバツが悪いのに。 「言えっつーの」 「うわ」 凌統はを後ろから抱きしめて身体をくすぐる。 「ちょ、ちょっと!あ、あはは、やめてって」 「素直に言えばやめてやるよ」 「自分が1番素直じゃないくせに〜あはははは。くすぐったい〜」 部屋にの笑い声が響く。 「あ?の前じゃこんなに素直な奴なのに?」 凌統はそのまま寝台にを押し倒した。 「・・・・はぁ・・・・お腹痛い、笑いすぎて・・・はは・・・」 「そいつは良かった」 「どこがよー」 「笑うって身体にいいんだろ?が前に言ったことだ」 「言ったけどさ〜」 まだ肩で息をしてしまう。 凌統はそんなを見ながら笑っているがの上からどこうともしない。 すぐ近くに凌統の顔があって恥ずかしい。 ぴったりくっつかれるなどよくある話で。 凌統は寂しがりやなのか、によく抱きつくし、そのまま離れない事が多い。 それでも照れがにはあって恥ずかしいのだ。 「それに、俺、が笑ってるの見るの好きだから」 「・・・恥ずかしい〜」 「本当の事だし」 ニヤっと笑ったかと思うと凌統は軽くに口付ける。 短くすぐに離れてしまう。 「何度も言ってやるよ」 「いい!言わなくていい!公績君、エロ声だから」 耳元でなんて言われるのはもっとなれない。 「・・・・なんだよ、それ」 「そう聞こえる」 少しムッとする凌統。 「せめて、美声だとか言ってほしいね」 「普通に喋ってる分にはいいんだけどね」 「痛っ」 は凌統の鼻をキュッとつまんだ。 結局女の秘密とやらは凌統は聞けなかったようだ。 *** 毎日が順調と言えるのだろう。 好きな女を側に置いて。 仕事はムカツクこともたまにあるが、自分がもう少し大人になればいいだけだ。 そうは思っても反応してしまうことが多いが・・・ そんな時に舞い込んできた話。 凌家の当主としてそろそろ嫁をと言う話だ。 話を持ってきたのは叔父だ。 父が亡くなり確かに自分が家を継いだが、実質的なことは叔父に任せていた。 別に凌統自身は凌家がどうとか深く考えていない。 孫家に仕えているってだけだし。 自分を活かせる場所は戦場だ。 文官ではないから政なども興味はない。 いまだ孫呉は天下には程遠い。 だから戦だってまだまだなくなりはしない。 それでも家の為に急いで嫁をと言うならばをそのまま娶るつもりだ。 それが一番自分にとって最高な事である。 だから叔父にはそう伝えるつもりだ。 当然の答えだ。 そう、凌統は思っていた。 「公績君、結婚するんだ・・・」 「聞いた話だと、孫権様からの紹介だとか・・・・良家のお嬢様だとか」 「ふーん」 「早く跡継ぎをと思うのでしょうね」 「ま、それが普通だよね」 はたまたま出かけた先の茶屋の娘からそんな話を聞かされた。 なぜに茶屋の娘が知っているのか不思議だが、人の噂ってのがよく入ってくるようだ。 「あれま、余裕だね。アンタだって無関係じゃないでしょ?」 「別に。だって私はただの居候だし」 「えーだってお付き合いしてるでしょ?」 「まぁね・・・・でも、いずれ来る話だと思っていたから」 娘は意外だと驚いている。 「でも凌統様はきっとアンタを嫁にって思ってるはずだよ〜」 「・・・・かもね。でも・・・・・ダメなんだよね。さてと、ごちそうさまでした、はいお勘定」 「あ、うん。ありがとうございました」 は自分には関係ないと話を打ち切り行ってしまった。 実ははその話をすでに聞かされていたのだ。 凌統がいない時に屋敷に彼の叔父が訪れてに直接言ったのだ。 叔父は穏やかに話を進めてきたが、には言いたい事がわかった。 「公績にはちゃんとした女性を奥方に」 そう言うことだ。 はここでは出自の知れない者だ。 別に国主でもない家だが、長く続く家柄だとそう言うものが気になるのだろう。 ドラマでもよく見た話だ。 まさか自分が主人公と同じ立場になろうとは思わなかったが。 「好きだけじゃダメなんだね、この時代ってのは」 は空を見上げる。 空は同じなのに、違うことが多すぎる。 「さてと、どうしようかな・・・・・」 そう言いながら、はある屋敷の方へ向かっていた。 その屋敷の一室で。 「・・・・・・なんだって?もう一回言ってみろよ」 「私をこの屋敷においてくださいって言ったの」 「・・・・・・なんで?」 「公績君が結婚するから」 「いや、だからよ。なんで俺のトコなわけ?んなのアイツが許すわけねーじゃん」 「甘寧の所だからいいに決まってるじゃない」 「はぁ?」 凌統の叔父には別にあのままあの屋敷には住んでいても構わないと言われた。 だからって、素直にそこに住める神経なんて持ち合わせていない。 にも意地がある。 だったらもう関わらないようにしたい。 そう思って、凌統の天敵(?)の甘寧の屋敷に来た。 「甘寧の所だと公績君こないし」 「そうかもしれねーけどよ・・・・お前それでいいのか?アイツが他の女と結婚するからって」 「・・・・だって決まった事だもん」 「凌統に言われたわけじゃねーだろ?」 椅子にどっかり腰掛けて甘寧は面倒臭そうに頭を掻いている。 の顔を見ると、邪険にできなくて。 「・・・・・わーったよ。いいぜ、好きにしな。俺以外住んでねーから使ってねー部屋あるし」 「ありがと!」 「後のこと考えると怖いけどな・・・・」 甘寧は苦笑する。 「じゃあ、早速今日からお世話になるね」 「は?」 「だってもう公績君に手紙置いてきちゃったし」 「・・・・・お前さ、俺がダメだっつたらどうするつもりだったんだよ」 「陸遜のところにでもって思ってた。あ、でもどこに行くとは書いてないから大丈夫!」 「なんだ、その自信はよ・・・・」 翌日。 甘寧が出仕すると、案の定荒れている凌統を見つけた。 (あ〜あ・・・どーすんだよ、俺のトコにいるってばれたら・・・) でも、そんな事自分の口から言うのは嫌だから見なかったことにして甘寧は素通りする。 「・・・・・・」 通り抜けていく甘寧を横目で見ながら凌統は苛々していた。 (なんだよ、の奴・・・・どこ行ったんだよ・・・・・なんだよ、あれは) 凌統が帰宅するとはどこの部屋にいなかった。 彼の机に一枚の紙切れが置いてあって。 の字で一言。 『今までありがとう』 とだけ書かれていた。 突然の事だがなぜそうなったのかはすぐにわかった。 自分の縁談だろう。 あんなのが気にする事でもないのに。 自分は最初から他の女など興味もないのに。 だから叔父と母に正直にそうぶつけた。 二人ともしょうがないじゃないかの一言で。 凌統がそう思っても肝心のが出ていったならばどうしようもない。 これは彼女の意思なのだからと。 それでも彼女が良いならば、第二夫人ってことでいいじゃないか。 凌統には正当な跡継ぎを作ってもらわねば困ると言われた。 「ふざけんなよっ・・・」 要は、叔父たちはを捜すつもりもないってことだ。 こうなったら自分で探すしかないのだが、彼女がどこに行くなど検討もつかない。 それに今日はどうしても外せない軍議があるから休むこともできなかった。 でも一番腹立たしいのはが自分を信じてくれなかった事だ。 キリ番リクでした。でもって長くなって2つに分けたんですね。
05/11/30
19/12/22再UP
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