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キミノエガオ
【後】 が凌統の元から去って早数日。 あまりの苛つきように、周りがビクビクしてしまう。 甘寧など大袈裟な話生きた心地がしなかった。 ばれたらと怖い。 ぜってー殺される。マジな話で・・・ みたいな。 「ふーん」 「なんだよ、お前の所為なんだぞ」 「だって、しょうがないじゃん」 「しょうがないで済ますな、バカ野郎が」 「そのうちなんとかなるよ。お嫁さんもらったりすればとか」 「・・・・・なんで他人事なんだよ、お前は・・・」 凌統がこんな状態だと甘寧がに話すが、彼女は興味がないような関係ないとしている。 自分ひとりだけ内心ビクついているのが情けなく感じる甘寧。 「他人事って言うかね、考えないようにしてるんだ」 「なんで」 「だって、私は公績君からの逃げたんだもん」 それは凌統の側にいる資格がないとか言うのだろうか? 「まさかとは思うけどよ、お前、アイツに迎えに来てほしいとか思ってね?」 「思ってないよ。そんな事になったら困るの甘寧じゃん」 「・・・・まぁな・・・・その頃俺はこの世にいねぇかもしんねーし」 「大袈裟だなぁ」 は軽く笑う。 甘寧的には本気な話なのだが。 「まったく、どうすればいいのだ・・・・」 凌統のことを思って呂蒙が溜め息をついた。 机に足を投げ出して椅子に座っていた甘寧はとりあえず、黙っている。 「凌家の問題だから口出すわけにはいかないし・・・・」 陸遜が竹簡を呂蒙に手渡す。 「でも軍のほうに支障をきたしていますよ」 「・・・・・」 「殿を探しましょうか?」 陸家で探すならば問題はないでしょ?と陸遜が言う。 それはマズイと甘寧が焦る。 「止めとけって。そんなことするなよ」 「何故です?」 「勝手に出てった奴なんだろ?ほっとけよ」 「甘寧殿はそれで良いかもしれませんが・・・・」 別に自分だっていい訳はない。 ただ、自分のところにがいるのがばれるのが嫌なのだ。 (あー自分のことばかりってのもダメだよなぁ・・・・) 殺されはしないだろうが、二三発殴られる覚悟で凌統に話してみようか。 は良くても自分がこのまま我慢しきれるかわからない。 誰かに密告されるより自分の口から言った方がいいだろうし。 「でも早めになんとかしないと・・・・凌統殿顔色も悪いようですし・・・」 「へ?なに、アイツ具合悪いの?」 「本人はなんでもないと言っていますがね」 寝ていないのだろう。 がいなくて辛いとか不安だとか。 それでなのかは甘寧にはわからない。 でも、自分が片棒を担いでいることに少し胸が痛む。 (アイツのそんな姿見たら、お前どーすんだよ、・・・・) さて、どうしようか? 「・・・・・・そっか。悪かった」 「いいえ。お役に立たず申し訳ない・・・」 凌統はがよく行く店などを歩いて回った。 もしかしたら手がかりかあるかもしれないから。 でもまったくない。 勝手に叔父が将来の嫁候補だという女性を連れてきたが その女性に向かってあっさり断りを告げた。 女性の家が何を言おうが関係ない、いらないものはいらない。 「今、俺に必要なのはアンタじゃなくてだ」 そう、はっきり言った。 叔父にも母にも余計な事は言わせない。 家を出ろというなら出たって構わない。 そんな息子の姿を見て、母は認めた。 そして凌統の手でを探しなさいと。 他の者は一切手を貸さないで、自分で探せと。 見つけを連れ帰ったら認めましょう。 ただ、が凌統を拒否したならば諦めなさい。 それが母の出した条件だった。 叔父は納得していないようだが凌統にはどうでも良かった。 凌統には仕事もあるから空いた時間を使って彼女を探した。 でも手がかりが何もない。 を数日前に見たという人はいても、どこに行くと言ったなどとの話は知らないのだそうだ。 「この街にいるとは限らないんだよなぁ・・・・」 それどころかそこまでして探す必要があるのかと言われた。 ある意味凌統は裏切られたのではないかと。 「・・・・・・・」 身体が重く感じる。 が姿を消してから周りが心配してしまうほどに食が細くなった。 元々そんなに食べない方だったから余計に。 睡眠不足と言うのも祟って思わずどこかの屋敷の壁に手をつけて休んでしまう。 「・・・・・・・あ」 「・・・・・・・・・・・」 嫌な奴に会った。 甘寧が頭の後ろで手を組んで立っている。 「何してんだよ、お前」 「・・・・・」 「あーを探してるんだっけ?」 「・・・・煩い」 「青白い顔しちまってよぉ、ちゃんと飯食わねーとダメだぞ」 「アンタには関係ないっての」 「ま、そうだろうけどよ・・・・・・でもよ、人んちの前で何してるのかと思うわけだし」 人んち? この屋敷は甘寧の住まいなのか。 ほとんど交流がないから初めて知ったわけだが、だったら尚更早く立ち去ろうと歩き出す。 「・・・・・・・」 「おい、無理すんなよ」 甘寧が凌統の肩に触れようとする。 「触るな!」 大きくその手を振り払った瞬間に世界が揺れた。 「おい!凌統!」 「うっさい・・・・・人の名前呼ぶ・・・なって・・・の」 ぐにゃりぐにゃりと視界がぶれる。 その場に肩膝を着いたまでは良かったが、中々立てずそのまま倒れてしまった。 *** 「うん。ずっといるよ。公績君のそばに。だって私も公績君が好きだもん」 だったらなんで今、いないんだよ・・・・ 約束したじゃないか、は守るって。 俺のこと信じてないってことか? 「そうじゃないよ・・・・・・ごめん。そう思うよね、普通は」 なんだよ、ちゃんと言えって。 俺にわかるように。 「・・・・好きでいるだけじゃダメなんだって思ったから」 視界が潤む。 自分は泣いているようだ。 「ごめん、本当、ごめん公績君」 「・・・・・」 自分を覗き込む顔。 ずっと探していた愛しい人。 凌統は手を伸ばす、彼女に触れたくて。 だが、すっとは離れる。 「私、そんな資格ないよ・・・・・」 「」 そこでハッと気がついた。 「・・・・・・」 確か、と会話したような。 誰か側にいたような。 涙が通った跡があるし・・・・・ 「・・・・ここ・・・・」 「気がついたか、ここ、俺んち」 甘寧が部屋に入ってきた。 何もない部屋。 部屋としては質素で何もない。 寝台だけが置いてある。 「・・・・・甘、寧・・・・・ここに・・・・・」 凌統は身体を起こした。 そして軽く頭を振った。 今、甘寧に何を聞こうとした? がここにいるのか?って聞こうと思った。 「あぁ、いるぜ」 「・・・・・?」 「お前が探している奴。ここにいる」 「何、言って・・・・・」 「ずっと俺んとこにいた。今も倒れたお前を診てたのはだ」 その言葉で急に湧き上がってきた、何か。 「なんで・・・・」 「さぁ?お前が想像したとおりだったら?」 「甘寧!貴様!」 凌統は寝台から飛び起きて甘寧に向かう。 そのまま拳を振り上げ殴りかかる。 多分、甘寧ならば簡単に避けられてしまうだろう。 でも止まらない。 「い・・・・っ・・・・・」 当たった。 甘寧の左頬に。 「さっきまでふらついていたわりには、ちゃんと殴れるじゃん」 「うるせー!」 凌統は止まらず甘寧に殴りかかるが、今度は簡単にかわされる。 そのまま勢いがついて凌統は壁にぶつかり座り込んでしまう。 「黙っていたこと、悪いと思うから一発だけは殴られてやるけどな」 「・・・・なんでだよ」 部屋の騒々しさにが心配になり覗き込んだ。 の姿を改めて確認して凌統は拳を床に叩きつける。 「・・・・お前なんでコイツのところにいるんだよ」 「・・・・」 「答えろよ!」 「お前が想像したとおりって言ったらどうする?」 「か、甘寧」 「俺よりコイツを選んだってことか?・・・・・が前に言った秘密はこいつとのことか!?」 「そ、それは」 甘寧はの隣に並び彼女の肩を抱いた。 「おぅ、そうだ。お前が嫁を貰うって言うからな。いい機会だから俺んち来いって言った」 「甘寧・・・・貴様」 凌統から見れば甘寧に見下されているような気分になる。 鼻で笑われ今の自分がとっても惨めなものに奴には映っているだろう。 「・・・・・・・なんか言う事ないのかよ、凌統」 凌統は俯き拳を強く握っている。 身体が小刻みに震えてもいる。 「お前は、父上だけでなく・・・・また俺から大事なもの奪うのかよ!」 キツク甘寧を睨みつける。 甘寧も冷めた目で凌統を見る。 だが、口元に笑みを浮かべるとを前に押し出した。 「別に奪っちゃいねーよ。もいいだろ?コイツんとこ帰れや。いい迷惑だ」 「甘寧・・・・」 「な、なんのことだ?」 「お前が思ってるような関係じゃねーよ。俺だってそこまで馬鹿じゃねーよ」 とっとと帰れと甘寧は二人を追い出す。 「「・・・・」」 お互い何も言えない。 仕方なく凌統は歩き出す。 は迷うが、凌統の後ろを少し離れて歩き出す。 甘寧の屋敷でかなり寝ていたのだろう、すでに陽は落ちて月が輝き始めている。 「・・・・・・・」 は思わず立ち止まる。 それに気付いて凌統も止まる。 「俺はを守るって言った・・・・信じてもらえないのか?」 凌統は前を向いたままだ。 声を出さなきゃ肯定も否定もできない。 でも声が出せなくて。 でも違うって言いたいから首を横に振る。 「好きなだけじゃダメってなんだよ」 「・・・・・・・」 「俺は以外の女なんてどーでもいいんだけどな」 勿論家なんかもっとどうでもいい。 そこまで血筋にこだわるような大層な家系もでもない。 の方は何か言わなくてはと思うが中々言葉に出ない。 「盲点だった」 「?」 「まさか甘寧の奴のところにいたなんてな。俺も流石にそこにいるなんて思わなかった」 「・・・・・だと思ったから、甘寧の所に行ったの。あ、あのね!甘寧は何も悪くないからね、私が勝手に」 凌統が振り返り面白くなさそうな顔をしている。 「やっと喋ったかと思ったらアイツを庇うとはねぇ」 「・・・・・」 凌統は再び歩き出すがはどうして良いかわからず立ち止まったままだ。 ついてこないに気付き、踵を返す凌統。 の前に立つ。 「もう嫌になったでしょ?だから」 「だからのこと捨てろって?嫌だつーの。なぁ、ちゃんと言えよ、なんで家を出た?」 「・・・・それは」 「俺のこと嫌いだから?」 は横に首を振る。 「公績君のためだと思ったから。ちゃんとした奥さんにもらって、家を繁栄させて」 「馬鹿じゃねーの。どこが俺の為になるんだよ。じゃなきゃなんも俺のためにはならないっての」 「公績君」 凌統は苦笑しながらの額を軽く叩いた。 「な、わかったろ?俺、がいないだけで無様にぶっ倒れちまうんだ」 「あれは驚いた」 「だから俺のことちゃんと見ててよ」 「公績君・・・・」 「大事なのは俺との気持ち。周りなんて関係ない・・・・だからもう一度言う」 凌統はを抱き寄せる。 「が好きだ。俺がをずっと守るから。だから・・・・俺の側にずっといてくれよ」 「公績君・・・・」 を抱きしめる手に少し力が入る。 大事なのは自分の気持ち・・・・ は顔をあげてあの時と同じ答えを紡ぐ。 「うん。ずっといるよ。公績君のそばに。だって私も公績君が好きだもん」 今度こそ約束。 は笑う。 都合が良すぎるかもしれない。 自分から逃げた、隠れたくせに。 でも凌統が帰る場所を改めて作ってくれたから。 「やっと笑った。俺はが笑った顔が好きだ」 もう大丈夫だ。 今度は間違えない。 ずっと彼の側にいよう。 05/12/06
19/12/22再UP
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