花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
どのくらい寝たのだろうか?
尚香に泣きついて、疲れてただろうから寝てしまいなさいと寝かされた。
幼子みたいに促されて、そのまま目を閉じた。
それから、どのくらい経ったのかがわからない。
あまりいい目覚めではなかった。
泣きすぎた所為で瞼が重くて開かない。
カタっと扉が開いたような音が聞こえた。

「尚香・・・?」

体を起こすのも億劫で、瞼も開かないから横になったままだ。
目元に手を当てる。

「どのくらい寝ていたのかな、私・・・・」

もう夕暮れだろうか?

「ごめんね、約束駄目にしちゃって」

ゆっくりと歩いてくる様子に、は寝返りをうつ。

「咽喉が渇いちゃった、水差しあったかな、そこに」

ぼんやりとしながら体を起こす。
小さく息を吐き、薄っすらと目を開ける。
今自分の顔を鏡に映したら、相当酷いことになっているだろう。

スッと差し出された杯子を受け取る。

「ありがとう・・・・」

相当咽喉が渇いていたらしい、水はスッと喉にしみこむ。
それもそうだ、あんなに沢山泣いたのだから。
そういえば、何故尚香は黙ったままなのだろうか?
呆れて怒っているのだろうか?
恐る恐る顔を向けると。

「尚香?」

「・・・・・・」

「し、子龍様っ!」

杯子を思わずその場に落としてしまった。

「ご無礼をお許しください、姫様」

入って来たのは趙雲で。
水を差し入れてくれたのも趙雲だった。
だけど、大泣きした自分とは対照的にいつもと変わらない態度の趙雲に胸が痛くなる。

「・・・・・・」

なんで、ここに居るのだ。
なんで、そう変わらない表情でいるのだ。
は思わず掛布で顔を隠す。
泣きはらした顔を趙雲に見せたくないことと、今どんな顔をして趙雲と会えばいいのかわからないから。

「姫様」

「・・・・・・」

「姫様、少し私の話を」

「嫌です。出て行ってください。私は趙将軍を呼んだ覚えはありません」

趙雲が動いたのが掛布ごしにわかった。

「お断りします」

「っ!?・・・・ひ、人を呼びますよ。私は趙将軍とお話することなどありませんから」

足を縮め、寝台の隅に逃げる
なんだと言うのだ、突然。
ギシと寝台が軋む音がした。
趙雲がすぐそばにいる。
怖いと思った。
いつもこっちが強く言えば引き下がる趙雲なのに。
今日に限ってその気配がまったくない。
いや、違う。
いつもは自分が言い逃げしてしまうから・・・。

「将軍・・・・などと呼ばないでください。結構、堪えます」

「え?」

体に掛布とは違う温かみを感じた。

「し、りゅう、さま?」

しっかりと趙雲に抱きしめられていた。

「その方がいいです。殿」

「え・・・・名前・・・・・」

趙雲の口から自分の名前が紡がれた。





【22】





馬超は自分の執務室ではなく、厩舎へ向かおうとしていた。
執務室に向かえば十中八九馬岱が待ち構えていると思ったからだ。
正直、今真面目に仕事ができる気分ではない。
趙雲とはどうしただろうか?とその方が気になるからだ。
まさか自分の一言で、趙雲が予想外の反応をしてくれるとは。

(真面目すぎるってのも問題だな・・・)

しかもその所為でとまた拗れたようだし。
だが、ある意味これは好機じゃないか。
尚香に問い詰められて、趙雲も動き出したわけだし。

(うんうん。ようやく収まるって思えばチャラだよな、チャラ)

寧ろある種きっかけになったと思えばいいんじゃないだろうか?
を泣かせてしまったのは申し訳ないと思うが。

「お。関平!どこ行くんだ?」

「馬超殿」

何かを手に持った関平が居たので声をかけてみた。

のところへ。さきほど月英殿から点心を頂いたので、にもわけてあげようと思って」

「何!?月英殿の点心か!」

関平の手には蒸篭が。その中に月英お手製の蒸したての点心が。
それだけで涎が出そうになる。

「あーよせよせ。今の所に言っても無駄だ」

「え?無駄、ですか?」

「あぁ。今ちょっとな・・・・だから、の代わりに俺がそれ食ってやるよ」

ヒョイと関平の手から蒸篭を奪う馬超。
どこかで食べようと歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ってください、馬超殿!!それ拙者の分も入っているのですよ!!」

慌てて馬超の後を追いかけてくる

「そうか?それは悪かった」

「別にお裾分けする分には問題ないですけど」

「けどさ、関平。そろそろ幼馴染から離れないとダメだぞ」

「え?それって・・・・・え、もしかしては今」

関平はすぐに馬超の言葉の意味を察した。

「あぁ。ようやく頑固者が動いたからな」

「そうですか・・・・」

「寂しいか?」

「いえ・・・と言ったら嘘になるかもしれませんが。でもようやくの願いが叶うと思えば」

ずっと関平は幼馴染としてのそばにいた。
一時、離れていたが文のやり取りで距離など関係なかった。
だがそろそろ幼馴染離れの時期のようだ。

「あ。でも馬超殿。どちらかと言えば、拙者よりもが離れるべきじゃ・・・・」

「そうかぁ?」

「なんでもかんでも愚痴のはけ口にされるのは拙者の方なので・・・」

関平は頭を掻く。
馬超は声を出して笑った。

「らしいな。毎度の文には愚痴が書き込まれていたんだろ?」

「もう大変でしたよ・・・趙雲殿に対しての愚痴ばかりで。惚気を読まされるよりはマシですけど」

関平はあぁと小さく頷く。

「父上にも読ませられない内容だったので、本当、困りものでした」

すこしだけ昔を思い出したようで、しんみりと語る関平。
昔と言っても、言うほど昔ではないが。

「まだ辛いだろうが、腐るなよ?お前一人だけが辛い目にあっているわけじゃねぇんだ」

「ば、馬超殿っ!」

塞がっていない手で馬超は関平の頭を強めに撫でた。

「せ、拙者は別に」

「あぁ。わかっているさ。ま、一応な」

馬超も、関平と変わらない経験をしていたから、その気持ちがわかる方なのだ。

「早くどこかで食おうぜ。冷めちまったら台無しだ」

「ならば馬超殿の執務室にでも」

「却下。岱が待ち構えているかと思うと食う気が失せる」

「それは馬超殿が悪いんじゃ・・・・」

さっさと行くぞ。と馬超は関平を促した。



***



趙雲が名で呼んでくれたことが単純に嬉しかった。
驚きも大きかったが、ずっと願っていた事だから。
自然と涙が零れた。

「またあなたを泣かせてしまいましたね。本当、不甲斐ないです、自分が」

「ち、ちがっ・・・・その、嬉しくて。子龍様に名前で呼んでもらえて」

それに泣きっぱなしだったから涙腺が緩みまくっているのかもしれない。
ちょっとしたことでも涙が出てしまいそうだ。
は慌てて涙を拭った。

「あの。でも・・・どうして?ずっと子龍様は・・・・」

趙雲はをゆっくりと放す。
に向ける眼差しはいつもよりは柔らかい。
いや、初めてかもしれない。
向けられているこっちが恥かしくなるくらい、趙雲が自分を優しく見つめてくれている。

「自分の気持ちに正直になろうと思いまして」

「気持ち?」

「私はずっと、姫様を・・・あなたをお守りできればよいと思っていました。
いずれどこかに嫁がれるのならば、それまでは・・・と。姫様には笑っていて欲しい。ただそれだけで」

また姫様と呼ばれた。
一瞬の出来事だったのかと思ったが、は追及はせずに黙って趙雲の話を聞く。

「でも、どこかでずっと姫様を特別に感じていて、姫様から向けられるものの意味にも気づいて・・・。
だが私は劉備殿の臣です。姫様も然るべき場所へ嫁がれるのであれば、忠実な臣でいようと決めて。
なのに、そう徹すれば徹するほど姫様と距離が出て、結果沢山泣かせてしまいました」

「私は、劉備の妹で。姫と呼ばれる意味も最初よりはわかったつもりです。
兄ぃが誰かに嫁げと命令するならば従うつもりでした。けど、兄ぃは私の好きにしていいって・・・」

「それは・・・私も以前殿から聞きました」

趙雲がの手をとった。
自分の手は冷え切っていたのだろうか?酷く趙雲の手が温かく感じる。

「孫権殿との縁談が決まったかのように聞かされた時はどうしたらいいのか迷いました。
祝福すべきことなのだと、そう思い・・・・けどとても苦しかったです」

「そ、それ!なんで私と孫権様の縁談が決まったッて・・・た、確かに孫権様に結婚は申し込まれましたけど」

は顔を赤くさせる。

「私はちゃんと孫権様にお断りしました。ず、ずっとお慕いしている方がいますって・・・・」

一段と熱が上がったように感じる。

「本当に断られたのですね・・・・良かった。喜ぶことは臣としては不謹慎ですが・・・・」

趙雲はの手を数回優しく撫でた。

「私に嘘を教えたのは馬超殿です」

「孟起が?」

「発破をかけようとしたみたいで」

馬超が可笑しくさせたのか!と内心馬超への文句でいっぱいになる
寧ろ後で文句を言いに行くと心に決めた。

「けど、馬超殿なりに思ってくれたことのようですから・・・・」

「人が良すぎますよ、子龍様」

に言われて趙雲は笑うも、すぐさま真っ直ぐにを見つめた。

殿。どうかあなたをこの先もずっとお守りさせてください」

「子龍様・・・・」

「あなたが好きです。殿」

返事をする前に、涙がまた零れた。
拭う事もせずに趙雲の胸に飛び込む。

「嬉しいことでも涙は出るんですよ、子龍様」

殿・・・・」

でいいです。そう呼んでください。私はずっと子龍様に一人の女の子として見てもらいたかったんです」

姫ではなく、一人の女の子として。
最初は違うと駄々をこねた。
それでも通じたかもしれない。
けど、劉備が蜀を得て君主となってからは、劉備の妹である意味がどんなものかわかった。
自分はただ普通にしていても、君主の妹として周囲から見られるのは当然で。
趙雲のような真面目な人から見れば、の願いは子ども染みた我が侭だったかもしれない。
それでも。
好きな人には、少しの間でもいいから女の子として見てもらいたかったのだ。

「子龍様。私も子龍様が好きです。ずっとずっと好きでした」

すぐにでも思い出せる。
初めて会ったあの時のこと。
戦う姿の趙雲に不謹慎ながらも見惚れてしまった。

「ありがとう。。ずっと泣かせてしまってすまない」

「平気です。もう大丈夫だから」

もうダメかと思っていたのに。
趙雲にも好きと言ってもらえてよかった。
諦めなくて良かった・・・。









ようやく趙雲に告ッてもらえました。
なんか私の書くパターンって、最初片想いでも、気づけば両思いだったんかい!って展開が多いです(笑)
ま、いっか。


10/02/28
19/12/22再UP