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花と龍と思いのカケラ。
趙雲と想いが通じて毎日が幸せ・・・。 とは残念ながらならなかった。 「尚香も行くの?」 「えぇ。当然でしょ!だけど、玄徳様と一緒じゃないけど」 いよいよ魏に対し最後の戦いを挑むことになった。 蜀の傘下入った孫呉も出陣が決まっており、二手に別れて曹魏を攻める作戦となっていた。 強大な軍事力を持つ曹魏ではあるが、孫呉の力も加わりこちらも負けぬはずだ。 尚香は兄孫権が率いる方に入るそうだ。 「兄ぃと一緒じゃないんだ・・・」 「平気よ。離れていても心は繋がっているの。と趙将軍みたいにね」 片目を軽く瞑って見せる尚香には恥かしさで言葉が詰まる。 だがそれも一瞬だ。 「兄ぃと仲がいいのはよーくわかったよ。私を引き合いに出して惚気なくていいから」 「別にそんなんじゃないわよー」 「でも、兄ぃの天下になれば・・・・ずっと一緒に居られるね」 「そうね。も趙将軍とずっと一緒に居られるわね」 顔を見合わせる二人、一拍してからふふふと笑った。 「尚香。無茶しないでね・・・それで、帰って来たらまた一緒に城下に遊びに行こうね」 尚香の手を握る。 理由はどうあれ、尚香は戦に行く。 簡単なことはではない。 だから無事に戻ってきて欲しいのだ。 「うん。約束ね。私もと遊びに行くのを楽しみにしているわ」 最初は友だちになれると思わなかった。 いや、こっちが勝手に尚香に嫉妬していたにすぎない。 大好きな義兄を盗られてしまったと、子ども染みたことで。 でも今では義姉ではあるが、にとって一番の友だちでもあるのだ。 だから、戦がない世の中になって、尚香とは楽しくお喋りをしていたい。ずっとだ。 【23】 「はりきっているね、平ちゃん。孟起も平ちゃんのお相手ご苦労様」 差し入れだよ。とは関平と馬超に蒸篭を見せた。 鍛錬所で手合わせをしていた二人。 手合わせと言うより、馬超が関平の稽古に付き合っていたようだ。 蒸篭を見せると、関平よりも馬超が機嫌よく反応した。 「お。それはもしかして!」 「うふふ。多分馬超の予想通りだよ。月英さんの肉まんです」 「よし。関平、一旦休憩だ!」 言いながらさっさと得物を置いてのもとへ駆け寄る馬超。 「あ!馬超殿、ずるいです!」 「まずは手を洗ってきてよ。その間にお茶も用意してあげるから」 子どもみたいだと注意してしまう。 馬超はに注意されるのは心外だとぼやくも、食べられないのは嫌だと素直に従った。 関平も馬超の後を追い井戸場へと向かう。 「はい。どうぞ」 戻ってきた二人にお茶と蒸篭を出す。 蒸篭の蓋を開けると湯気が立ち上り、美味そうな肉まんが姿を見せた。 二人共嬉しそうに肉まんを頬張る。 本当に月英の肉まんは美味い。 一度でも味わえば、二人みたいな反応が出るのも無理はないだろう。 「二人も戦に出るんだよね?」 「当然だ。拙者としては父上に代わり殿をお助けするんだ」 「やる気が空回りするなよ、関平」 前回の出陣の際は怪我で留守番だった関平。 劉備にも亡き関羽に代わり力を貸してくれと言われ、一掃やる気になっているようだ。 「だ、大丈夫です!」 「はいはい。仕方ないから俺が面倒みておく。そうすりゃの心配も少しは減るだろ?」 関平は子ども扱いしないでください!などと馬超に反論している。 最近この二人はよくつるんでいる。 馬超にしてみれば、関平はどこか自分の境遇と似ている部分があるそうで心配らしい。 それでも関平ならば大丈夫だと馬超もわかってはいるようだが。 ついついからかうような真似をしてしまうのだ。 関平の反応が楽しいからだろう。 「あはは。うん、孟起にお願いしとくね。けど、孟起も怪我しないようにね」 「あぁ充分肝に銘じておくさ」 「あれ。やけに素直だね。ちょっと意外」 きっと「誰にモノ言ってんだよ」ぐらいの反応が帰ってくるだろうと思っていたのだが。 馬超は不敵に笑う。 「そりゃあれだ。何が何でも戦に勝って帰らねぇとって思うからな」 曹魏を倒した時点で終わりではない。 そこから劉備の天下の始まりでまだまだやるべきことがあるから。 そう馬超は言いたいのだろうか? 「ん?まぁそう言う意味もあるだろうが、違うな」 「?」 「お前の花嫁姿見るまではって思うわけだ。色々大変だったからなぁ・・・沢山愚痴られて」 なぁ。と関平に同意を求める馬超。 「それもそうですね。しっかりこの目で見届けないと。本当大変でした」 「な、何よ!二人して!そんなに愚痴ってないもん!・・・・多分」 は唇を尖らせ二人を軽く睨む。 馬超と関平は肉まんを平らげ立ち上がった。 「よし、休憩終わり。やるぞ、関平」 「はい!じゃあ、また後でな、」 「うん。頑張ってね」 は二人に手を振った。 しばらくは稽古している姿を見ていたが、蒸篭を片付けその場を離れた。 *** 「あ。子龍様!」 孔明の執務室から出てきた趙雲。彼を見つけては駆け寄った。 もうすぐ出陣で忙しい。 彼ともしばらくは会えなくなってしまう。 「」 趙雲もの姿を目に捉え微笑んだ。 「孔明先生にご用事ですか?」 「あぁ。次の戦の事でな」 並んで歩き出す二人。 しばらく時間が空いたと言うので、二人で過ごそうかと話して。 「皆、出陣しちゃうから・・・寂しいを通り越して心配です・・・」 「それは仕方ないとしか言えないな、私は。けど、母上様と待っていて欲しい」 「はい。わかっています」 いい子だと趙雲はの肩に手を置いた。 「殿の事は私が守る。だから大丈夫だ」 「子龍様も。無茶しないでくださいね」 「あぁ・・・・だが、その」 「はい?」 「そろそろ・・・その子龍様ってのをやめないか?なんだか立場が逆転してしまったようで複雑なんだが」 趙雲は苦笑しながら頬を指で掻いた。 「あ」 最初はを姫様と呼び続け畏まっていた趙雲。 互いに想いが通じたのだが、今ではが望む態度で趙雲は接してくれている。 だがの方が以前と変わらない畏まった態度をとってしまっている。 「慣れ・・・かな。ずっとそう呼んでいたので・・・」 「馬超殿の事は孟起と呼ぶじゃないか。少し馬超殿に妬いてしまうな」 は馬超の方がいいのか?と言われたかのようで。 は慌ててかぶりを振る。 「違いま、違うからね!私がす、好きなのは子龍さ・・・子龍だから」 「あぁ。わかっている」 「・・・・・子龍。変わった?」 「なんでも我慢はしないほうがいいと思ったから。かな。我慢して痛い想いを自分でもしたし、にもさせてしまったから」 それでも一応臣下としての立場はわきまえて趙雲は行動している。 「あのね。約束・・・してもいい?」 「約束?」 「うん。前に・・・子龍は私に似合うものを贈りたいって言ってくれたでしょ?」 歩揺でも、首飾りでもと。 関羽が亡くなり、関平も行方知れずだった頃。出陣前の趙雲がに言ったことだ。 その約束が果たされようとしたとき、趙雲の態度に失望したは彼から距離を置いてしまった。 それからこうして仲直りはでき、お付き合いをしているのだが。 その約束は果たされていない。 「あぁ。言った」 「だから、今度の戦が終わって帰って来たら・・・一緒に」 「一緒に探しに行こう。そして私に贈らせて欲しい」 「約束」 「あぁ約束だ」 無事に趙雲が戻ってくると祈っているから。 *** それから数ヵ月後。 劉備ら蜀軍は曹魏を倒し、世に劉備の天下を知らしめた。 ある日、謁見の間に趙雲一人が劉備に呼ばれた。 趙雲は玉座の劉備に向かって跪拝する。 「私が大尉に・・・?・・・殿、せっかくのお言葉ですが、ほかに相応しい方がおられるかと」 大尉とは軍事責任者。劉備は趙雲に大尉の就いてくれと頼んできた。 恐れ多いと申し出を断る趙雲。 趙雲にしてみれば自分以外にもその任に適した者がいるからと。 「お前が言うほかの皆も一様にお前を推している。 もちろん私も、新しい天下の大尉にはお前こそが相応しいと思う。 できるならば、軍も武器も要らぬ世にしたいが・・・・・・理想の実現と維持には、まだ力が必要なのだ。 趙雲、私の志を全うするため、その手で天下を守ってくれ」 劉備が玉座から下り、趙雲の前にしゃがみ手を差し出した。 「承知しました。もとより我が身は、生涯殿に捧げると誓ったもの」 趙雲は自身の足元に置いた槍を手に取りそれを劉備に捧げる。 「この趙子龍、必ず仁愛の世を守り抜きましょう!」 劉備は立ち上がり大きく頷いた。 「だが趙雲」 「はい」 「私だけでなく、のこともよろしく頼む。お前ならばを任せられる」 急に君主から兄の顔に変わった劉備。 義妹を頼むと言われてしまい、趙雲は頬を上気させた。 劉備の耳にも二人のことが入っているのだと思うが、こう改めて言われてしまうと照れ臭いものがある。 だが、趙雲は元が真面目な青年だ、曖昧に答えず力強く頷いた。 「もしを泣かすような真似をしたならば、私はお前を許さぬぞ、趙雲」 「え、は、はい!」 「あはははははっ。冗談だ。散々私がに苦労かけていたのに、偉そうな事を言えるはずもない。 お前ならばそのような事はないだろう。何も心配などしておらぬ。私に早く甥か姪の顔を見せて欲しい」 一瞬冗談とは思えない凄みがあったのだが。 万が一自分がかなりの数を泣かせてしまったことを劉備に知られたならば・・・。 それを考えると後が怖い。 「と、殿・・・それは・・・・」 早急すぎるじゃないか。趙雲は咳払いをする。 「それは殿の方が早く民に御子を見せてあげてください」 「あ、あーそうだな、あははは」 その方が国も安泰なのだ。 それからしばらくして、劉備は皇帝となり、趙雲も大尉となった。 「兄ぃ。いいの?尚香と一緒じゃなくて」 劉備の世の元、民は穏やかに笑って過ごしている。 劉備が一番望んだことだ。 今日は兄妹水入らずと言ったところか、二人で城下を散策していた。 「たまにはいいだろう。国を治めるようになってからとこうして散歩することも少なくなったしな」 劉備に拾われてすぐの頃は、いつも劉備の後ろを着いて歩いていた。 「私、兄ぃに拾われて良かった。今だから正直に話すとね・・・私には乱世とか天下とかどうでも良かったんだ」 「・・・・」 「兄ぃと母様と三人で暮らしていられるなら。誰が天下を治めようとも関係ないって」 あの頃の生活は決して楽とは言えないが、心の余裕と言うのだろうか?安寧は悪くなかったのだ。 「でもね」 は劉備の腕に自分の腕を絡ませた。義兄に向かって優しく笑む。 「色んな人達と出会えたものね。兄ぃがいつまでも村にいたら雲兄ぃ、翼兄ぃにも平ちゃんにも会えなかった。 孔明先生にも、月英さんにも、孟起にも、尚香にも・・・そして子龍にも。嫌なことだけじゃないもんね」 「あぁそうだな」 「これからも。私にできることで、兄ぃのこと支えて行くからね。尚香や孔明先生のような事はできないけど」 「いや。それだけで充分だ」 「尚香には悪いけど、今だけ兄ぃを独り占めさせてもらおう」 「はははっ」 ギュッと義兄の腕に力を入れるだけでなく、体をよせた。 たまにはこんな日もあっていいじゃないかと。 ずっと我慢してきたのだ。 以前尚香に言われたことがあった。にとって一番身近に居た男性は劉備なのだろうって。 だから尚香が嫁いできたとき、素直に喜べなかったのだと。 には一番に想う相手はいる。 いるのだが、やっぱり義兄は別格のようだ。 「おぉ劉備さま、姫様!いいところに来た。ほれ、ふかしたての肉まんだ」 屋台で肉まんを売っている男が二人に声をかけた。 そして肉まんを2つ差し出してくれた。 「おお、いただこう」 「ありがとうございます」 は劉備から離れて肉まんを貰う。 二人で蒸し立ての肉まんを頬張る。 熱々でほくほくしながら食べるも、思えば一緒にこうしたのもいつ振りだろうかと嬉しいものだ。 「ん。親父、この具の歯応えは・・・筍か?」 「へへ、刻んで具に混ぜてみやした。結構いけるでやしょう?」 「うん。美味しいです」 こうして気軽に民に声をかけられるのも劉備の人徳かもしれない。 普通なら恐縮されてしまうところだが、劉備は壁の向こう側にいるだけの人ではないから。 「陛下!姫様!護衛もつけずにお二人だけで出歩かれるのはお止めください!」 「趙雲。あぁすまない」 趙雲が二人の姿を見つけ駆け寄ってきた。 恐らく二人で出かけたと聞いて急いできたのだろう。 「また子龍にお説教されちゃった」 「せ、説教などでは・・・」 劉備は店の親父にもう一つ肉まんを貰い、それを趙雲に与えた。 「私には、玉座よりも、この雑踏こそが心地良いのだ」 「・・・・確かに、この人々の穏やかな姿こそ、殿が求めてきた天下の姿・・・」 そう納得し肉まんを一口食べようとした趙雲。 「殿ではないだろう?」 「し、失礼しました。陛下」 慌てて畏まる趙雲。 「ははは。冗談だ・・・あぁ今日も日差しが温かいな・・・」 劉備は空を見上げた。 「子龍。肉まん美味しいよ」 に言われて趙雲も肉まんを食べる。 親父の言う刻んだ筍の歯応えが悪くない。 「二人だけで出かけられたと聞いて、冷や冷やした」 「たまにはいいじゃない」 「たまにか?二人だけでなく、一人でも出歩くだろう?こっちの身にもなって欲しいが」 だけでなく、劉備も一人で城下を散策することがあり。 最近の趙雲の悩みの種になっている。 だが劉備に先のことのように言われてしまうと、強く反論できず納得してしまうのだ。 「さて。次はどこに行こうか」 は趙雲と劉備の腕それぞれをとる。 「そうだな。どこに行こうか。の好きな所でいいぞ」 「陛下!そろそろお戻りになられませんと」 「ん?たまにはいいじゃないか。こんなに気持ちのいい日差しの下、室内に籠もるなどもったいない」 さあ行こうとと劉備が歩き出す。 に腕をとられているので自然と趙雲も歩き出す。 「お昼食べて。あ、いつものお店で尚香にお土産を買って」 「そうだな。そうしよう」 「陛下!姫様!」 「仕方ない。趙雲はもう戻ってよいぞ。趙雲には悪いが、今日はを独り占めさせてもらおう」 「へ、陛下。い、いえお供いたします」 にとって二人は一番大事な人。 その二人と今日は過ごすのだ。 これほど楽しい日はないだろう。 そしてこの先ずっと続くのだと願いたい。 ようやく終わり。
最後は趙雲よりも劉備と仲良しさんで終わってしまいましたけどね(笑)
長々とお付き合いありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
個人的には馬超を書くのがやっぱり楽しいですな。
10/02/28
19/12/22再UP
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