花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
「顔だけじゃないぜ?中身もいい男って話さ。あれならも嫁いでも問題ないだろうよ」

も孫権殿に対する印象は悪くないと俺は見た。それに向こうもだ」

「良い話だよな?姫様にとって、最良の縁談だ。臣下の鏡であるアンタにしてみれば喜ばしいものだろ?」

馬超の嬉しそうな顔と言葉が耳と脳裏にまとわりついたようで、なんとなく苦々しかった。
今頃、は劉備に報告をしているだろう。などとも。
あぁ、いい話じゃないか。
お互いがそれでいいなら、話が進むならば何も問題はないだろう。
いつか見た、と孫権の姿は悪いものではないかった。
きっとならば劉備の元を離れても、新しい土地で上手くやれるはずだ。
だが、自分は?
趙雲はチクリチクリと胸に痛みを感じていた。

「あなたの言う姫から命じます。もう私に構わないで下さい」

あの言葉を言われて以来、とはろくに会話もなかった。
それどころか、今までは成都を離れていたのだから。

「臣下の鏡であるアンタにしてみれば・・・」

そんなんじゃない。
劉備の人柄に、先を思う心に共感し彼の下へ馳せ参じた。
劉備が天下を取る為に槍を振ろうと。
遮るものはこの手で打ち倒すと。
同時に、を守りたいと思った。
泣き顔よりも笑顔でいて欲しいから。
側に居られる時間があとどれくらいかはわからないけど、側に居られる限りはその笑顔を守ろうと。

はアンタの所為で泣いた。何でだと思う?何でアンタの所為で泣く?」

その笑顔を自分から見られないようにしてしまった。
泣かせたいとは思わない。
思わないけど・・・。

「私は・・・・どうしたいのだ・・・・」

が孫権に嫁ぐと言うならば祝福するべきだ。
それはずっと思っていたこと。
けど、臣下として・・・そう思っていただけで。
趙子龍と言う、一人の男として思うならば?
子龍はどう思っている?
どうしたいと本当は思っているのだろうか?





【20】





尚香や母、関平たちに土産を渡した。
土産話も勿論沢山した。
劉備が天下を取って、もっと穏やかになれたならば、一緒に江東に行こうなどと話をして。
夕餉もそこに劉備を交えて久しぶりに家族での時間を楽しんだ。
そして、尚香に少しだけ劉備と二人で話したいことがあるからと席を外してもらった。
劉備の私室で、久しぶりに兄妹だけとなった。

「あのね、兄ぃ・・・・私ね、孫権様に求婚されちゃった」

「・・・・そうか」

何をどこから話せばいいのかとは迷ったが、隠す事もないから、話したいのはその事だったから。
余計な言い回しはしないでありのままを話した。
けど、劉備の反応は淡白なものだった。

「あれ・・・もう少し驚いてくれてもいいんじゃないかな?」

「あぁ、すまん。いや・・・・そんな話が来るのではないかと思っていたからな・・・」

「そっか・・・・私は"劉備の妹≠セからね・・・いつ来てもおかしくないよね」

政事の道具として使える最良の手だ。

、それは・・・・」

「でも、ごめんね。兄ぃ・・・私、もう孫権様にお返事済ませちゃった」

劉備もそれは予想していなかったのかもしれない。
驚いた顔を見せ、少しだけ腰を浮かせた。

「だが・・・私の下には何も届いていないぞ?」

劉備はすぐさま椅子に座りなおした。

「それはそうだよ・・・孫権様は誰にも言っていないって・・・・・国や政治などは無関係に。私に聞いて欲しいって、私の気持ちを尊重してくれたもん・・・」

優しい人だと思った。
まだ馴染みが薄い間柄でも、自分に惹かれていると言ってくれた。
きっとあのままずっと江東に、孫権の側に居たら自身も彼に惹かれたかもしれない。

「きっと兄ぃの事を思えば、蜀の事を思えば、孫呉が傘下にあるとはいえ私が嫁げば関係はより良いものになるよね」

、私の事はいい」

劉備はまだが話している途中であったが、その言葉を遮る。

「孔明にも以前言われた。お前を孫呉なり曹魏に嫁がせてみてはどうかと。
君主としてはそれも1つの手段だ、必要な事もかもしれん。けど、私はお前をそのように、道具のように扱いたくない。だから、お前はお前のしたいようにすればいいんだ」

「兄ぃ、優しすぎるよ・・・それ」

「だが逆にもそうだ。自分の事より私の事を優先しようとしている」

「私、"劉備の妹≠ナ"蜀の姫様≠ネんだよ?それでもいいの?私の好きにして」

「あぁ、かまわん。そんな婚姻結ばずとも上手くやればいい」

甘いだろうと思われても、劉備は妹を優先する。
きっとそれは君主として失格かもしれない。
それでも、は嬉しかった。
劉備にどこそこへ嫁げと命じられれば、深く考えずに頷いただろう。
けど、劉備はそうしない。

「ありがとう、兄ぃ・・・私、叱られたらどうしようかなって思ってた」

「叱る?」

「もう孫権様にお返事をしたって言ったでしょ?」

「あぁ」

「・・・・断っちゃった・・・孫権様に」

その言葉に劉備は口角に緩みを見せた。

「断ったのか」

「うん。孫権様もね・・・・私の本心を聞かせて欲しいって言うから・・・断ってくれてもいいって」

優しいね、孫権様も。は呟く。

「孫権様の周りでも、私との婚姻を薦めて来たんだって。でもそんな事は関係ないって・・・。だから、私は自分の気持ちを伝えたよ。その話はお受けできませんって」

は一呼吸する。
キュッと拳を握る。

「私には、ずっとお慕いする方がいるからって・・・・・」

その時、孫権は「そうですか。わかりました」とその話はこれで終わりだと言ってくれた。
断られると最初からわかっていたのかもしれない。
あまり落胆した様子は見せなかったから。
けど「その方が羨ましい」と少しだけ寂しそうに笑っていた。

「お慕いする方か・・・」

「・・・・・報われるってわけじゃないけど・・・・」

江東にいる時、ふと考えるのは趙雲の事。
こんなだったな、あんなだったな。と趙雲と過ごした時の事を比べていた。
姫扱いしかされなくても、楽しかった思い出が消えてしまうわけではない。
この先報われないとわかっていても、が想う人は趙雲だけだから。

「だから、兄ぃ・・・・勝手なことして、ごめんね」

「馬鹿な事を言う・・・私はお前のしたいようにすればいいと言ったばかりだぞ」

「・・・・うん」

「そのお慕いする方とはどうなんだ?」

「え!?・・・・・えと・・・・」

は驚きの表情を浮かべるもすぐさま目線が下がる。

「そっちの事は・・・聞かないで欲しいかな・・・・私の片想いだし・・・・」

「そ、そうか・・・」

だがすぐさまは笑顔を劉備に向ける。

「この話はお終い!兄ぃにも江東でのお話してあげる」

「そうか。楽しみだな、それは」

そして久しぶりに兄妹水入らずの時間を過ごしたのだった。



***



「報われない。片想いか・・・」

が自室へと戻った後、劉備は夜空の星を見上げていた。
星が綺麗に見えてもため息が出でしまう。
星に見惚れたからではない、を思ってのことだ。
義妹の想い人が誰なのか大方予想はついている。
きっと趙雲だ。
臣下として趙雲は最高の逸材だろう。
文武に長け、周囲からの信頼も厚い。
模範生のような存在だ。
だがその真面目すぎる態度が、の想いに気付かないのだろうか?
が江東へ行くと言った際、いつものように護衛を趙雲に頼もうとしたが。
が馬超に頼むと頑なに拒んだ。
馬超ともは親しいのは知っている。
だからがそれでいいならと馬超に護衛役を頼んだ。
けど、あの頃。は趙雲と何かあったのだろう。
が江東へ行っている間の趙雲はこれと言って変わった様子はなかった。
寧ろいつも通りの彼だった。
だから、今思うと余計にが不憫に感じた。

「真面目すぎるところが趙雲の欠点でもあるか・・・」

劉備は苦笑する。

の為に何かしてやれる事はないだろうか・・・」

今までずっと苦労をさせてきたから。
けど、自分が趙雲に何か口添えをすれば、それはただの命令になる。
趙雲もできぬ事にはしっかりと断りを入れてくるだろうが、それはそれでなんとなく癪に障る。
も喜ばないだろう。命令されていたと思えば。
いや、自分は命令のつもりはない。
つもりはなくても、主君からの頼みとなればそれはどうやっても命令と聞こえてしまうかもしれない。

「難しいものだ・・・」

以前劉備は趙雲にもし孫権から見合いを話が持ち出されたらどう思うか?
と訊ねたが、その時彼は臣下としては模範的な答えを出していた。
あの場でそれ以外の答えを期待するのは難しいが。
できればには好きな人と添い遂げて欲しい。
それが劉備の最大の願いだ。



***



翌日。いつもより少し遅く起きてしまった。
江東は良いところだと思っていたが、どこかで緊張していたのだろう。
旅から帰ってきたこともあり、昨晩寝床に入るとすぐに眠りについてしまった。
家族と朝餉を食べることができず、少しがっかりしたが疲れていたのならば仕方ないだろう。
それに気を使ってくれたのか、誰も起こしにこなかった。
母に会えば「よく眠れたかい?まだゆっくりしていてもいいんだよ」と言ってくれた。

これから久しぶりに城下へ行こうとしていた。
尚香と一緒に。
尚香は自分の護衛兵達と鍛錬所にいると教えてもらい、そこへ向かう途中だった。

「姫様」

回廊の途中で趙雲に呼び止められた。
久しぶりに趙雲と会った。
最後に会話を交わしたのはその城下で、自分は彼から逃げた。

「無事にお戻りになられて安心いたしました」

「・・・・・べ、別に。心配されるような危ない場所じゃないです」

素直じゃない自分の態度。
孫権からの求婚を断ったのに。彼への想いをとったのに。
相変わらずの姫扱いであることに落胆している自分がいた。

「そうですか・・・これからどこかけ出かけられるのですか?」

「尚香と町へ」

「ならば護衛をお付けください」

「いいです。尚香と一緒なら平気だし・・・・」

「ですが」

「それなら、孟起か平ちゃんに頼みます。それならいいですよね。趙将軍はお忙しいでしょうから!」

ちぐはぐな態度をとってしまった。
子どもだと自嘲してしまう
単なる駄々っ子だ、これでは。
これ以上こんな事を言えば、余計に嫌われる。
は好きな人のそばでさえ苦痛に感じ、趙雲に背を向けた。
尚香を待たせるわけにはいかないから。

「姫様!なぜ、急にそのような呼び方に・・・・」

趙雲に腕を掴まれた。

「私があなたを名で呼ばないからですか?」

「・・・・・・」

「それは無理だと、何度も・・・・・それに姫様は孫権殿との婚姻がお決まりになったとか・・・・。でしたら、それ以上の事は・・・・私にはどうにもできません。お二人の婚姻を祝福するしか」

「!?」

は思い切りその腕を振り切った。
なんの話だと思って。
祝福?
酷く胸の中が気持ち悪い。

「姫、っ!?」

気持ち悪さに加えて、物凄く腹が立って勢いで趙雲を引っ叩いてしまった。

「誰がそんな事を言ったんですか!なんで子龍様は祝福なんかするんですか!私に早く嫁に行けって言うんですか!」

好きな人に祝福されるなんて最悪だ。
だめなんだ、自分では。
「劉備の妹」であって「蜀の姫」である自分は趙雲に「一人の女の子」として見てもらえないんだ。
ボロっと涙が零れた。

「うっ・・・」

でも泣くのが嫌で、必死で堪えて。
趙雲の前から逃げ出した。

「姫様!」

趙雲の声が聞こえたが、その声に立ち止まれるはずがなかった。



***



「姫様・・・・」

叩かれた頬に手を当てる趙雲。
女性から叩かれるなど初めてだ。
母親にすら引っ叩かれた記憶はない。

「それなら、孟起か平ちゃんに頼みます。それならいいですよね。趙将軍はお忙しいでしょうから!」

あれは酷く堪えた。
もう自分では頼りにしてもらえないなど思って。
それどころか、将軍などと呼ばれた。
確かに自分は将軍職に就いておりそう呼ばれもしているが。
はいつも字で呼んでくれたから。
自分は姫と変わらず呼んでも、そこは変わらなかったから・・・。
更には。

「誰がそんな事を言ったんですか!なんで子龍様は祝福なんかするんですか!私に早く嫁に行けって言うんですか!」

馬超に聞かされた話であったが、の反応が逆だった。
内緒だと馬超が言ったが、あれはにもだったのか?
彼女もまだ聞かされていない話だったのだろうか・・・。

「早く、嫁に行け、なんて・・・・思いませんよ・・・・・」

できる事ならずっと自分がお守りしたいと思っている。

「また・・・・泣かせてしまった・・・・」

そんな自分にをどうこうできる資格などあるのだろうか?







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あーもーな感じ。
09/11/09
14/02/09再UP