花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
劉備は定軍山、漢中で曹魏と戦い見事打ち勝った。
そのまま進軍しても良かったが、夷稜の戦いから続く連戦に兵たちの疲労も頂点に達しているだろうと。
一旦成都へ引き返した。
漢中には守りの兵を置き、曹魏の動きを見張りつつ。
孫呉との連携も上手く取れて、孫呉のほうも曹魏に完勝した。
蜀へ下り、江東の安寧を図ると孫権は約束したのだ。
このまま上手く行けば曹魏にも勝ち天下は劉備のモノになるだろう。

そんな中、帰還した劉備たちを出迎えた
しばらくは兵たちを休めること、内政を重視することになったと聞かされる。
ようやく、趙雲との約束が果たされそうだ。





【17】





は室内をウロウロしていた。
今日は趙雲が休みの日。
趙雲から

「姫様。明日でよければ私に時間をくださいませんか?」

と言われた。
以前から趙雲が「に似合うものを」と誘ってくれていた。
それを果たそうと言うのだろう。
趙雲からの誘いと思うと、緊張してしまう。
別にどこへ行くとか約束はしていない。
もしかしたらすでに用意されているのかもしれないし。
ただ、時間を。そう言ってきた趙雲の顔がなんだか恥かしくて上手く見れなかった。

「姫様」

「は、はいっ!!」

扉を開けると趙雲が私服で立っている。
最近の趙雲はずっと戦の関係で鎧を着用している姿ばかりだったから。
なんとなくラフな格好が新鮮に映る。
あぁ普通のお兄さんだと。
それでもきっちり着用している姿に趙雲の性格が出ているとも思った。

「出られますか?姫様。お迎えにあがりました」

「はい」

休みでも堅苦しいなと少し残念に思う。

「迎えって。どこに行くんですか?」

「城下などどうでしょう?」

「はい。いいですね」

ちょっとしたデートみたいだ。
はそれだけでも嬉しかった。
出かける際に、尚香の姿を見かけた。
向こうもに気付き、趙雲と一緒のところを見て。

「頑張ってね」

と言葉に出さずに「んっ」と両の拳を握って言ってくれた。
何を頑張るのだと思ったが、尚香はの想いを知ってくれているからそういう風に言うのだろう。



城を出て城下へやってくる。
劉備が治めるようになってようやく落ち着いた風にも見える。
そんな町並みを見ながら趙雲がに声をかけた。

「姫様はどこか行きたい場所はありますか?」

「・・・・・」

「姫様?」

の少し前を歩いていた趙雲は、反応のないことを不審に思い足を止め振り返る。
は口をつぐんで、いや少し尖らせている。

「どうかなさいましたか?姫様」

「・・・・・なんで、子龍様・・・・護衛みたいな態度をとるんですか?」

「え?」

の前後に趙雲は身を置くのだ。

「普通に隣に歩いてくれてもいいじゃないですか」

姫の護衛をしている。
趙雲との距離を感じるのだろう。
今日の趙雲は休みなのに、そこまで立場は重要なのか?
にしてみればいい加減その姫様扱いは止めて欲しいと思っているのに。

「それは・・・・」

「姫様って言うのも、そろそろ止めて欲しいです。孫権様だって私のこと姫とは呼びませんよ?」

「・・・・」

簡単なことなのに。
趙雲は絶対に名前で呼んでくれない。

「ですが、あなたは姫という立場であります」

「そんなことないです!兄ぃに娘ができて、その子ならばそういう立場だってわかりますけど」

自分は違う。

「いえ。それでもあなたは劉備殿の、殿の妹姫です。私は臣下として」

「そんなの子龍様だけです!他の皆は、平ちゃんや孟起は私を姫扱いしないです!」

「他の者はそうでも、私は態度を変えるつもりはありません」

の双眸が揺らぐ。
じゃあ何か?姫として命令でもすれば、趙雲は名で呼ぶと言うのか?
そんな義務めいたものは嫌だ。

「姫様は、自分はそんな立場ではないとおっしゃいますが、そのようなことはありません。
殿の妹であれば軽々しい立場ではないはずです。あなた自身姫としての職務を全うしているではありませんか」

「子龍様・・・・」

長坂から船で脱出した時だろう。
疲れきった民たちへ優しく労っていた
あれは普通に出たことであったが、趙雲には姫としての立場がそうさせた風に見えたと言うのか。

「よくわからないです」

「姫様」

「子龍様の考えている事がわからないです」

もう楽しくない。
彼が自分に何がしたいのか、何を求めているのかがわからない。
ちょっとした願いのつもりだったのに。
隣に並んで歩いて欲しかっただけなのに。
改めて「姫」だと強調された。
は趙雲に背を向け歩き出した。

「姫様!」

は振り向かない。

「お待ちください!姫様」

趙雲が追いかけの腕を掴んだ。
はその手を振り切る。

「あなたの言う姫から命じます。もう私に構わないで下さい!」

「・・・・姫様・・・・」

はそのまま走り去ってしまった。
臣下としてその命令には背くこともできたはずだ。
けど、足が動かなかった。
体全体でに拒絶された。



関平はようやく体を動かせるようにまで回復していた。
元々精神的な疲労の方が上回っていたから。
だがいつまでも寝てはいられないと、傷を癒すことに専念した。

「よし。やるか」

準備はできた。
久しぶりに得物を振るうつもりだ。
馬超がその相手をしてくれるから、最初にしてはかなりハードな鍛錬になるかもしれない。
鈍りきった感覚を戻すにはちょうどいいのかもしれないが。
さぁ室を出よう。
扉に手をかけたとき、外から開いた。

?」

が飛び込んできた。

「平ちゃん!」

そのまま関平に飛びついた。

「どうした?これから馬超殿と手合わせをするんだ。お前は趙雲殿と出かけるとか言っていなかったか?」

ギュッと関平にしがみ付いている
よほど趙雲との時間が嬉しかったのか?そう単純に関平は思った。

?」

の肩は震えている。
覗き込もうとした時、は子どもみたいにわっと泣き出した。

!?」

「もうやだ・・・・子龍様の馬鹿!!」

嬉しいどころか、その逆のようで。
はわんわん喚いている。

「どうした?何があったんだ・・・・趙雲殿がって」

「子龍様の考えている事、わからない・・・なんで、なんで」

泣くな。そう言いたかったが、の想いを知っているだけに言えない。
今ののこの状態では、趙雲と何があったのかを知ることはできない。
ただ、わかるのは。
にとって最悪だという事だろう。

「馬超殿には後で土下座して謝るしかないか」

関平はため息を吐いた。



***



「アンタ・・・に何したんだ?」

後日、趙雲は馬超に単刀直入に聞かれた。

「何をした・・・と申されても・・・・私は・・・・」

あれからは一切趙雲と会おうとしなかった。
馬超もちゃんとに会ったわけではない。
ただ関平が頼んでいた手合わせの時間に姿を現さなかったから。
関平の元へ向かえば、関平が何度も謝るだけで理由を言わないのだ。
その室の奥で泣いているが居たなとぼんやり思ったぐらいで。

「結構いい感じだと思ったんだけどなー」

「馬超殿・・・・」

「俺さ、前に言っただろ?のことを女として見れやれって」

「・・・・・」

「どうも中途半端だったみたいだな」

何も言い返せなかった。
姫として構うなと命じられた。
それを律儀に今の自分は守っているのだろうか?
には泣いて欲しくない。
笑っていて欲しい。
そばに居る限り自分の手で彼女を守りたいと決めていたのに。
その自分が、彼女の笑みを奪った。
姫と呼ぶな。
そう扱わないで。
何度も乞われても、趙雲は頷けなかった。
彼女は自分がお仕えする、この人の天下ならばと思った忠誠を誓った劉備の妹。
誰にでも優しい姫君に、自分から壁を作っていたのだろうか?

「ま。ゆっくり考えな。離れてみてわかるかもな」

「え?」

「俺。しばらくいねぇから」

「馬超殿?居ないとは・・・・戦の話など聞いておりませんが」

軍議でもそのような話は出ていない。
偵察任務を馬超が命じられるようなことも。

「あぁ。江東にな・・・行く事になって。の護衛で」

「え・・・姫様の、護衛で・・・・」

孫権がに江東に遊びに来ないかと言う文をよこしたそうだ。
会った時にそんな約束をしたそうだが、今は休息の時なのでちょうどいいのではないかと
孫権側が思ったようで、だけでなく尚香にも里帰りをどうだ?と言ってきたのだ。
ただ何か謀反でも起こす気ではないか?と一部の者たちは思ったらしいが。
孫権がそんな事をする人ではないとが一蹴し、承諾したそうだ。
当初関平に護衛と言うか、同行を頼むつもりだったらしいが。
父関羽のこともあり複雑な面もあるだろうからとそれは避けた。
劉備がならば趙雲にと言い出したが、の方が馬超を指名してきたのだ。
がそう言うならばと劉備は馬超に同行を命じた。

「つーわけだから。じっくり考えてみるといい」

ポンと馬超は趙雲の肩に触れた。

「・・・・・・」

明らかに落ち込んでいる。
馬超にはそう見えた。

「・・・・しょうがねぇな・・・・」

放っておけなくて、馬超は頭を掻く。

はアンタの所為で泣いた。何でだと思う?何でアンタの所為で泣く?」

「泣いた!?姫様が・・・・」

「誰の所為とは口にしないが、見てりゃわかる。関平とケンカしたとは思えないしな」

馬超も詳しい事は知らない。
知らないが、が泣いているのを見たあの日は、趙雲がとの約束を果たす日だったから。

はいつもどんな風に、どんな目でアンタを見ていた?」

「・・・・・」

が帰ってくるまでに、しっかり答えを出す事」

「馬超殿・・・」

「じゃあ。行ってくるんで。しばらく後を頼む」

ヒラヒラと手を振りながら馬超は趙雲の前から去った。
結局自分も甘いなどと思いながら。
残された趙雲はただただ馬超の背中を見えなくなるまで見つめていた。
を泣かしたくないと願ったことなのに。
その自分がを泣かしてしまった。
そして彼女は江東へ孫権に会いに行ってしまう。
グッと拳を強く握る。
このままなのだろうか?

「ただ・・・・笑っていて欲しいだけなのに・・・・」






「え?尚香は行かないの?私、一緒だと思ったのに・・・」

出発直前、尚香から直接聞かされた。

「今回はいいわ。またいつでも帰れるもの」

「そう?なんか残念。尚香も一緒の方が楽しいのに」

「ありがとう。でも私まで一緒に行ってしまえば玄徳様が寂しがるでしょ?」

劉備だけでない、義母も寂しがるだろうに。
尚香は茶目っ気たっぷりに笑う。

「だから私がそばにいないとダメなの」

心が通じていれば離れていても頑張れる。
尚香が最近そんな風によく言っていたが、やっぱり劉備のそばに居たいのだろう。

「だから、これ。権兄様に文を渡しておいて。に不便な事させないようによく頼んでおいたから」

「ありがとう。じゃあ尚香の分まで楽しんでくるね」

そう言って馬車に乗り込んだ。
同行者兼護衛の馬超も自分の愛馬に騎乗する。
彼は先ほどまで劉備から散々を頼むと頭を下げられ困惑していた。
まさか君主から頭を下げられるとは思わなかったのだろう。

「兄ぃ。母様。行ってきます。翼兄ぃ、平ちゃんお土産期待しててね」

家族に見送られは出発した。
最後まで心配そうな面の張飛には笑ってしまった。
関平はこのままでいいのかと違う意味で心配しているようだった。

「いいのか?本当に俺で・・・」

馬車と並行して馬を走らせる馬超が話しかけてきた。

「孟起がいいの・・・だって、子龍様・・・・」

「俺はお前も悪いと思うぜ?あれは超が付くいや、激と言うべきほどの鈍い男だぞ。
はっきりガツンと言わないと、なぜお前がそんなんかまでは気付かないだろう」

の異変にはいち早く気付く癖に、その想いにはあえて気付かない振りをしているのかと言うくらい鈍い。
最近少しは変わったかと思ったのだが。

「ごめんね。孟起」

沈みがちのの表情。

「いいさ。俺も好きに楽しませてもらう。一応の護衛役は果たすけどな」

「一応なんだ」

「おう。じゃないと殿に頭まで下げられたからな」

人の上に立つ者がそうそう臣下に頭を下げるものではないと思うが。
それが劉備らしいと言うのだろう。
君主ではなく、一人の兄として妹を頼むと頭を下げたのだ。

「いい気分転換になればいいな」

「うん。でも、本当は前にみたいに孟起の相乗りで行くつもりだったのに・・・」

その方が時間的にも短縮できていいと思ったのだ。
劉備が頑としてそれを許さなかったのだ。
劉備にしてみれば護衛ももっと大勢つけたかったのだろう。

「そりゃあそうだろう。一国の姫が馬を相乗りで来ました。なんて見せられねぇだろうが」

「私、姫じゃない」

「違うな。お前は劉備殿の妹で蜀の姫だ。それはもう劉備殿が蜀を得た時にそう決まったんだ」

「直接政事に関わらなくても?」

「関わらずとも、お前の行動は常に見られているんだ」

劉備が旗揚げした当初から着いて来た者達が多い陣営。
だからを姫扱いせず、家族的な意味合いで見る者の方が多いのだろう。

「孟起も子龍様と同じ事を言う・・・・」

「へぇ。趙雲と揉めたのはそれが理由か・・・今更って話だと思うが」

「・・・・・」

「お互い、離れている間に冷静になって考えるんだな」

「お互いって・・・・」

馬超はそれ以上何も言わずに馬の腹を蹴り先を進んだ。

(これから・・・・どうなるのかな・・・・)

自分から趙雲を遠ざけた。
孫権からの誘いはそのいい機会だと感じた。
趙雲が何も思っていなければ、きっとこれ以上の事は何も起こらないのだろう。
この先もずっとを「姫」と呼ぶのだろう。

「私は・・・・ただ普通に名前を呼んでほしいのに・・・・」








あららー姫様江東に行っちゃった。
09/06/07
13/11/02再UP