花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
「戦から戻りましたら、少し私に時間をくださいませんか?」

「歩揺でも、簪でも。姫様に似合うものを私から贈らせてください」

趙雲からの申し出。
とても嬉しかった。
いつまでも姫扱いする趙雲が、少しだけ自分を違う目で見てくれたのかと思って。
良かったなと馬超に言われて、少し恥かしかったが笑みを零してしまった。
出陣前で不謹慎かもしれないが。
だけど、そこに、関平の姿がないと思うと。
嬉しさは半減してしまう。

関平に話したいことがいっぱいあるのに。
聞いて欲しいことがあるのに。

いつもいつも迷惑をかけっぱなしの自分だから。
何も返せていないのがすごく悔しい。

できれば無事な姿を見せてほしい。
それが無理なら、せめてその姿を・・・・亡骸を返して欲しい。

でも・・・。そんな姿を目の前にしたら、自分はどうなるのだろうか?


神様がいるのならば、願いを聞いて欲しい。

大事な、大事な幼馴染。

早く、彼が戻ってきてくれますように。





【14】





「今回の戦はな・・・軍師殿も賛同していないんだ」

馬超とはなんとなく城内を歩いていた。

「・・・なんとなく、わかる。戦だって血気盛んなのって兄ぃと翼兄ぃだけだもん・・・」

城や周辺地域の警備を強めてからの出陣となる馬超。
孔明たちと援軍で出ることになっているらしい。

「だけどさ。あれが殿らしい姿、感情だなと俺達は思ったんだよな」

止めに入った趙雲がそう言ったらしい。

「・・・・私も悔しいとか、憎いとか、孫呉へ向ける気持ちはあるよ。あるけど・・・・」

「俺達ほどお前は割り切れないんだろ」

「うん」

相手は政略結婚の上で結んだ同盟国とはいえ、尚香の故郷であり、君主は尚香の兄だ。
孫権の気遣いを思うと、一概に悪い人。とは思えない。
後ろで曹魏が手を引いていたとの話もある。
どちらかと言えば、曹魏に対しての方が嫌な印象は強い。

「戦だからって言われてしまえばお終いなんだけどね」

それが政治の駆け引きだと。
孫呉は関羽が守る荊州が欲しかった。いや元々そこは自分達の土地だとか、互いに交わした約束など。
様々な事柄がありなんとしても、奪取しようとしたのかもしれない。
関羽は関羽で、そこを奪われてはならぬと打って出たのだろう。

「誰が悪いのだろうね・・・・私にはよくわからないや」

悪いと言うならば、長く続いた漢王朝が腐っていき、民が苦しむ羽目になったことが発端なのかもしれない。
良き指導者が立てば・・・。
いや、良き指導者は居ただろう、州牧で素晴らしいと称される人たちもいただろう。
だけど、彼ら一人がいかに素晴らしくても時代はもう新たな局面を迎えてしまったのだ。

ふと考える。
全盛期の漢王朝時代に自分が、劉備たちがいたらどうしていただろうか?
戦もなく幸せだったか?
けど、それだと趙雲たちと出会うこともない。
劉備にいたっては関羽や張飛と義兄弟の契りを結ぶこともなく、尚香を娶ることもなく。
ひっそりと慎ましく家族で暮らしていたかもしれない。
それはそれでいい人生かもしれない。

(でも、やっぱり考えてもしょうがないって結論になるんだよね・・・)

今を生きているのだから。

「兄ぃ。大丈夫かな?尚香や子龍様がついてくれているけど・・・・」

俯くに馬超が口を強く結ぶ。

(軍師殿が居ない分、殿を冷静に抑える役目をできる人間がいないからな・・・)

趙雲や尚香が劉備のそばにいると言っても、きっと趙雲は自分の隊を率いて出てしまうだろうし。
尚香も内心は穏やかで居られないだろう。
戦場にいると、妙な高揚感に包まれることがある。
何かがきっかけで、がらりと戦の局面も変わってしまう。

「孟起?」

「あぁ、悪い・・・・大丈夫と言いたいところだけどな・・・流石に俺もわからねぇよ」

「この前と言っていること違う」

軽く睨みつけるかのようなの視線に、馬超は軽く舌打ちをする。

「仕方ねぇだろ・・・・今回の戦はいつもと違うんだから」

突然の出陣。
予定外の戦。
準備も万端とはいえぬ状況。
完璧だとは到底言えないのだ。

「あ!い、いや!だからって戦に負けるとか、なんかあるとか言いたいわけじゃなくてだな!」

急に慌てて弁解する馬超に、は噴出してしまう。

お前な・・・・」

「ご、ごめん。だって孟起があまりに必死だから。ありがとう、大丈夫だから」

「少し前までピーピー泣きじゃくっていたのに?」

「い、今は泣いていないもん」

泣いていたところを馬超にも見られていたのかと思うと恥かしい。
いや、あの時喚くほど泣いた時は周囲のことなど関係ないと思ったのだが。
後になればなるほど恥かしくなってくるようだ。

(そ、そういえば・・・あの時)

趙雲が後ろから優しく抱きしめてくれた。
泣かない欲しいと言われて。

「うわっ!なんだよ、お前。急に赤い顔して!!」

「え、あ、な、なんでもない!!」

「熱あるんじゃないだろうな?」

「ないない。な、なんか暑いかなー?って」

「そうか?」

大丈夫だからと馬超の背中を押しだす。
何か飲もうと言って。
そこへ慌てるように駆けて行く一部の兵士たちが。

「なんだ?」

「何かあったのかな?」

馬超がその中の一人を呼びとめ理由を聞く。

「物見からの報告で、一頭の馬が物凄い速さで駆けてきているとのことです」

「暴れ馬か?」

「わかりません。ただ、あまりにも素早く誰も止められず・・・」

その兵士の肩をポンと馬超が叩く。

「わかった。俺が行こう。馬のことなら俺がなんとかできる」

そういうことだからと、馬超はを置いて出かけていった。



***



城を出て、さらに城下へと向かう馬超。
暴れ馬を宥めるなど馬超にはたやすいことだ。
城下で暴れまわる前に止めたいところだが、まずただの暴れ馬ならば城下へやってくるだろうか?
正直話を聞いて、お前らでなんとかしろよ。と思ったのだが。
まさか城へそんな報告が入るとは思わなかった。
城門へ馬を走らせる。
一応、この町にも城壁はあるし、入ろうとするならば場所は限られる。

兵士たちから暴れ馬の居所を教えられ馬超が向かうと、確かに一頭の馬がこちらへ向かってきている。
だが、その馬の予想以上の大きさに瞠目する。

「なん、だと・・・・」

馬超が驚いたのは大きさだけではない、その馬を知っていたからだ。

「赤兎馬!!?」

関羽の愛馬赤兎馬。
元々は最強と謳われた猛将呂布の愛馬。
他のどの馬よりも大きく、猛々しい姿を戦場で見せていた。
呂布と赤兎馬が共に戦場に出れば負けなしと言われるほどではあったが、その呂布も時代の流れから落とされてしまう。
呂布亡き後、曹操から赤兎馬を贈られたのが関羽だった。
関羽ですら最初は赤兎馬相手にてこずるも、時間が経つにつれ主人として認められた。
その赤兎馬がこちらへ向かってくる。
何故だ?
主である関羽はすでに亡くなっている。
関羽を捕らえたという孫呉が、この名馬赤兎馬の存在を知らぬわけがないし、欲しがるであろう。
だが赤兎馬はこうして向かってきている。

「俺がなんとかできると言ったものの・・・赤兎馬相手は少々荷が重いな・・・・」

馬超の愛馬だって名馬と称されるもののだ。
馬超が育ててきた相棒。一番信頼している。
だが、赤兎馬相手だと分が悪い。
あれは格の違う馬だ。

「神楽で追いつければいいのだがな・・・・」

その前に、赤兎馬に睨まれでもしたら馬超の愛馬神楽は戦意喪失し、身動きが取れなくなる可能性もある。
最初からの負け戦のような気分だ。
だが自分がと言った以上、ここで逃げ帰るのも性にあわない。

「はっ!」

神楽の腹を蹴り走らせる。
まずは近づくしかない。



***



!」

暴れ馬を宥めるだけだ。
そう言って出かけた馬超が、血相を変えての室に飛び込んできた。
母とのお茶をゆっくり楽しんでいたというのに。

「孟起・・・どうかしたの?」

血気盛んな部分は馬超にもあるが、ちゃんと礼節をもって接する場所を弁えているのに。
に対してはともかく、ここには劉備の母もいる。

「あ。失礼しました」

義母の姿を見て、馬超は慌てて跪拝する。

「よろしいのですよ、馬将軍。しかし何かあったのではないですか?その慌てようは・・・」

もしかして出陣中の劉備達に何かあったという事だろうか?

「それが」

馬超はへ目線を移す。そしてその口元が緩んだ。

。関平が生きていたぞ」

「え」

その一言にするりと手から杯子が落ちる。
割れはしなかったものの、卓子の上に杯子の中身が零れてしまう。

「あっ。ご、ごめんなさい。母様」

慌てて片づけようとするも、素早く女官が動く。
本来こういう事はは自分ではなく彼女らが動くのが当たり前なのだ。
一応、劉備の妹で姫なのだから。
自身はそんな風にされる立場ではないと思っているので、堂々巡りなのかもしれない。

「馬将軍。誠の話ですか?それは」

母が馬超に尋ねる。
馬超は大きく頷く。

「本当?本当に平ちゃん・・・・無事なの?」

「あぁ。俺がこの目で見た。嘘じゃない」

「平ちゃん・・・・」

「だが無傷じゃない。所々怪我をしていてな、今休ませている」

それでも関平が生きていたことには喜びを隠せない。

「一番にお前に知らせてやろうと思ってな」

つい急ぎ足になってしまったそうだ。

「今すぐに会える?」

「ダメだと言っても会いたいのだろう?行こう、関平に会いに」

の顔が破顔する。母に行ってもいいかと訴えると、母も頷く。

「私はもう少し落ち着いてから行きますよ。急に大勢で行っては困るでしょうし」

「ごめんなさい、母様」

「謝る必要はないですよ。早く行っておあげなさい」

母に背を押されては室を飛び出した。
馬超は今一度母に一礼してから退出する。

(平ちゃん!平ちゃん生きていてくれたんだ!!)

長い回廊を駆け抜けてしまう。
同じことが前にもあった。
それは関羽の死を知らされたとき、あの時は不安と悲しみでいっぱいだった。
だけど、今は早く関平の顔が見たいと思う気持ち。
無事だったという安堵。

(神様は私のお願い聞いてくれたんだ!)

自然と脚も軽くなろう。

「おい!どこにいるのかわかっているのか!?」

馬超が慌てての肩を掴み引き止める。

「あ・・・・あは、あははは・・・・どこに居るのか知らないんだっけ」

「まったく。お前は・・・・気持ちはわかるが少し落ち着け」

「落ち着けないよ。だって、平ちゃんが無事だったのがすごく嬉しいんだもん」

「まぁな」

馬超と並んで歩く。
こっちだと案内されて。
馬超が関平を見つけた経緯を話してくれた。
実は暴れ馬の報告に関平は関係していた。
暴れ馬は赤兎馬であり、その背に関平が乗っていたという事。
関平は孫呉に捕まりそうになったとき、関羽が赤兎馬で逃がしてくれたというのだ。
それからなんとか追っ手から逃げ、ようやく成都にまでやってこれたのだという。

「そっか・・・雲兄ぃが、平ちゃんを・・・」

「あの戦。裏切り者が出たしな・・・・関平の精神的疲労もかなりのものだろう」

すぐに知らせを出せなかったのも、その所為だと言う。

「兄ぃにはもう知らせを出した?」

「あぁ。先ほど軍師殿が」

は小さく息を吐く。
これで少しは兄の頑なな心を和らいでくれればいいのだが。

「ここだ。先に言っておくぞ。関平は怪我人だ、精神的にも相当疲れている」

「無理をさせちゃいけないってことね?」

「あぁ」

無理をさせると言うのがどんなことに繋がるかわからない。
だけど、今は顔を見れるだけでもいいのだ。

「俺だ。入るぞ」

馬超が扉を開ける。
侍医が関平の側についていた。

「平ちゃん?」

馬超の後ろから顔を覗かせる
生憎関平は眠ってしまっているようだ。

「どうだ?関平の様子は」

「比較的落ち着いておられます。怪我の具合も命に関わるようなものではなかったので」

「そうか」

馬超がに顔を向ける。
良かったなと言ってくれているのだ。
は頷き、そっと寝ている関平の側に近づく。

「平ちゃん・・・・良かった」

関平の手を取り握る。
温かい。
関平が生きているというのが実感できる。

関平が目を覚ましたら、何を話そうか?







平ちゃん無事に帰還しました。
赤兎馬に乗って帰ってくるっていうのは、実は「人形劇三国志」でやっていました。
関さんが平ちゃんを赤兎馬に乗せて一人だけ逃がすんです。

この話を考えて進めていくのに、関さんの死は絶対通る道だったのですが、平ちゃんは生存させようって決めていま
した。なにより、平ちゃん五丈原(無双5)にいるんですよねー・・・だから問題ないかな?って。

09/02/24
13/11/02再UP