花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
泣いた。
泣きはらした後、すっきりしたとは言えず。
逆に酷い頭痛に襲われた。
それでも、泣いている間、ずっと趙雲がそばに居てくれた。
それがにとって救いだったのかもしれない。

「姫様」

「子供みたいに・・・ごめんなさい」

趙雲はを室まで送ってきた。

「いえ・・・・私にはこのくらいしかできませんから」

真っ赤になった目、鼻先も赤くなってしまっている。
泣くだけでも酷く体力を使うものだと思った。
疲れた、本当・・・。
頭も痛いし、まだ色々やらねば、動かねばと思うのに。

「今はゆっくりお休みください」

「・・・・うん」

眠ってしまって、あれが夢だったと思えればいいのに・・・。
だけど、現実だ。
もうすぐ戦になるのだ。

「姫様?」

ダメだ、涙腺が緩みっぱなしで泣きつくしたと思ったのに、涙がまた溢れる。
趙雲の胸に額をつけて、それでも泣かないように我慢して。

「平ちゃん・・・・」

幼馴染に会いたい。
とても会いたい。
顔を見せて欲しい。
バカなことを言ったらまた叱って欲しい。

「・・・・・・くっ・・・・ご、ごめん、なさい」

「姫様・・・・」

一人にしたら、はまた泣くのだろう。
枯れることを知らない涙。
自分には癒すこともできない。





【13】





城内は戦へ、関羽の敵討ちだと勇む声でいっぱいだった。
憎き孫呉!そんな声も聞こえてくる。
劉備自ら出陣すると準備が進められている。
誰にも止められなかった。
家族である、母もも。
孔明と趙雲も止めたが劉備は聞かなかった。
月が綺麗に照らしているのに、城内はその光に癒されることがなく異様な熱気に包まれている。

「止められなかったか・・・・」

今一度、劉備に出陣を止める様進言しに行った趙雲。
それを回廊で待っていた馬超。

「ええ・・・・やはり関羽殿は、殿にとって特別な御方・・・・」

もう誰が言っても止まらないのだろう。
しかも、一番立場が危ういとされている、尚香が反対していないらしい。

「呉は天下を争う敵とはいえ、私憤で起こす戦に大義はない」

いずれは雌雄を決する日が来るとは思っていたが、案外早くに訪れた。
だけども、このやり方は劉備の名に傷がつくかもしれない。

「・・・ですが、この選択こそ、実に殿らしい・・・。そうも思えるのです」

趙雲の意外な答えに馬超は一瞬止まる。
だけども、劉備の性格、人徳を思うと、不思議な話妙に納得してまう。

「うむ・・・確かに。大義を超えて人たらんとするところに、殿の人徳はあるのかもしれない」

だからこそ、この天下に劉備は必要なのだ。今それが曇ってしまったとしても。
劉備の大義、希望の光は、自分たちが守ればいいのだからと。
きっと厳しい戦になる。
孫呉だってこちらが打って出ることを予想済みだろう。何を仕掛けているかわからない。

「負けられないな、この戦」

「ええ。殿を守り、そして勝ちましょう」

それしか、自分たちにはできないのだから。

「それよりもさ・・・・・の様子はどうだ?そっちの方が心配だろ?」

「そう・・・ですね」

今回の出来事はにとって酷だ。
大事な人を失っただけでなく、戦にまで発展してしまって。

「そばに居てやりたいと思わないのか?お前は」

「それは・・・・・馬超殿・・・・」

「居てやればいいじゃん。戦は俺達に任せればいい」

のそばに居てやれよ。馬超はそういう。
だがそんなことできるはずがない。
出陣の命令が出ているのだ。
のことは心配だが、個人的な理由でそんなことはできない。

「・・・・って!ば、馬超殿!突然何をいわれるか!」

「何をって・・・心配だろ?」

「そ、それは、まぁそうですが・・・・だからって、私が居らずとも」

「そうか?アンタが居てやれば、は安心できると思うんだが」

現にずっと慰めていただろ?と、どうやら庭院でのやり取りを馬超は見ていたらしい。

「姫様、姫様って言っていた割に、家臣が姫を抱きしめるってどうなんだ?」

「い、いえ!あの、それは」

趙雲の顔が見る見るうちに赤くなっていく。

「俺が以前、アンタに言ったこと覚えているか?」

「え?」

違いの話。
趙雲と馬超の違い。
を見る目の話だ。

「俺はアンタに言ったよな。のことを女として見てやれって」

「・・・・・」

「見てんじゃん、今は」

馬超は笑みを浮かべる。
少しずつ、この男にも変化が出てきたのが嬉しかった。
真面目な有能な家臣。
主家に対し忠実に仕える武人の鑑。
そんな男がに対して変化を見せたのだから。

「ば、馬超殿。私は、その」

「かしこまるなよ。自分の気持ちをよく考えろよ」

馬超は趙雲の胸元に拳を当てる。

「正直に生きねぇと、あとで後悔するぞ」

「私は」

「不甲斐ないことばっかしてるなら、俺が貰っちまうぞ。のこと」

「馬超殿、そ、それはどういう意味で」

馬超の口角が上がる。

「さぁ?どういう意味なんだろうな」

それだけだ。馬超はそういい趙雲を置いて去ってしまう。

(ま。別に俺にそんな気はねぇけどな)

何だかんだ言って自分は甘いなと馬超は苦笑する。
人の恋路を応援してやるなど。
関平がいないことで、は酷く落ち込んでいる。
落ち込むというより悲しみに臥せっている。
そんなを浮上させることができるのは趙雲ではないか?
いや、趙雲にしかできないだろうと思うから。
家臣の一人して。
ではなく、一人の男として。趙雲にはのそばに居てやって欲しいのだ。



***



それから数日が過ぎ、いよいよ劉備たちは出陣することになった。
は何も出来ず、いや、何もする気が起きないのか、室に籠もっている。
そんなを尚香が見舞いに来た。

。大丈夫?」

「・・・・尚香?」

たった数日での気が弱くなっている。
見ただけでもわかってしまう有様に尚香は何とも言えなくなる。

「御義母様も心配なさっていたわ。、ちゃんと食事はしないと駄目よ」

用意されている食事。
喉も通らない。
食べて吐かれてしまうよりはマシだと思うのだが。

「ごめんね、尚香・・・尚香も辛いのに」

夫と兄が戦うことになる。
しかも今回の発端は呉にあるのだから。
影で尚香を悪く言う人もいる。きっと一番居た堪れないのは尚香なのだ。

「ううん。私は平気」

尚香がの手を取る。

「玄徳様と一緒に戦うって決めたの」

「それって、尚香も・・・戦に?」

頷く尚香。

「ダメだよ。孫権様と戦うなんて!尚香にとって大事なお兄さんでしょ!?」

「権兄様のこと・・・・大事だと思うけど。私は玄徳様に嫁ぐ時に決めたの。孫呉とは違う天下を見るって・・・」

劉備と共に進む。一緒の道を進むことを決めたのは自分。
義兄弟の敵を取るのが劉備の進む道ならば、尚香も一緒にその道を進むのだと。

「尚香・・・・尚香は強いね。私、全然ダメだ・・・」

泣くことしかできなくて。
嫌だと口にするしかできなくて。

「そんなこと・・・私も私が強いなんて思わないわよ」

「尚香」

尚香の顔を見て、彼女の顔が寂しげなのがわかる。
そうだ、劉備と共に行くとは言っても、辛い部分も沢山あるのだ。

「尚香。兄ぃのことお願いね。兄ぃが間違った道を行こうとするなら、尚香が止めてあげて」

の言葉では劉備は止まらないだろうから。

・・・」

「尚香も。まだ間に合うなら、孫権様のこと諦めないで」

兄妹で血を流すような真似は、やっぱりして欲しくないから。
それでも尚香はその言葉には肯定も否定もしなかった。
できないのかもしれない。
それを問い詰めるようなことはにもできないから。
だからそれ以上は何も言わずに、尚香を見送った。

同じ様に、出陣する人たちを眺めていた。
劉備には何も言えず、ただただ。

「まぁ。笑って見送れ。なんて言えやしねぇけどさ。辛気臭い面ばかりしているなよ」

肩に置かれた手。

「孟起・・・。孟起は行かないの?」

「俺は後から出ることになっていてな。城を空にするわけには行かないだろ?」

劉備と張飛は先陣するようだが、孔明も一緒には行かないらしい。

「殿には趙雲がついているから大丈夫さ」

「うん・・・・」

「お前もわかるだろう?殿の性格を思えばさ・・・・大事な義弟をやられちまえばジッとしていられないことぐらい」

それが劉備らしいと趙雲も言っていた。

「そうだけど・・・・でも・・・・・」

「何もしないよりはいいさ。ああやって自身で動かれている」

「え?」

「下手をすりゃ、全てを投げ出しちまうこともあるだろう?」

極端な話になるだろうが。

「殿がこの先を進むのに、きっと通らなきゃならない道なんだよ」

勝ち負けは別として、きっとこの戦が終われた劉備はまた元の劉備に。
いや、きっと一回りも二回りも大きくなるのではないだろうか?

「尚香も、孟起も・・・・皆すごいね。私、嘆くことしかしていないから」

「俺達は殿の天下が見たいからな」

「・・・・・・私も兄ぃの天下・・・見たいよ」

「お。趙雲がこっち見てるぞ。手でも振ってやれよ」

「孟起ってば・・・・」

だけど、趙雲にも随分心配をかけた。
これから戦に行く趙雲に悲しげな顔ばかりは見せられないだろう。
は言われたから。というわけではないが、趙雲に手を振る。
少しぎこちなくはあるが、笑って。

「あ、あれ?」

何を思ったのか、趙雲が馬から降りこちらにやってくる。

「子龍様?」

「姫様・・・・・」

趙雲はの前で片膝をつき、の手を取る。

「殿と奥方様のことは、この私がお守りいたします。姫様、ご心配なく帰りをお待ちください」

「子龍様・・・・はい」

「それと・・・・」

周りの目が気になるのか、趙雲は少し言いよどむ。
だがもう時間もない。躊躇している暇はないだろう。

「姫様が笑いかけてくださったこと。嬉しく思います」

「え」

「姫様は泣き顔よりも、笑顔の方がいい」

ずっとの微笑みを守りたいと思っていたから。
それが自分に向けられてとても嬉しい。
きっとまだ、の心は晴れていないだろうに。

「戦から戻りましたら、少し私に時間をくださいませんか?」

「時間?」

趙雲はスッと立ち上がる。
まだの手はとったままだ。

「歩揺でも、簪でも。姫様に似合うものを私から贈らせてください」

孫権がに贈った歩揺。
それよりももっと素敵なものを。
気に入ってもらえるようなものを、に挿してもらいたい。
そして笑って欲しい。
それが趙雲の今の願い。
小さな我がままかもしれない・・・・。

「子龍様・・・」

は趙雲からの突然の申し出に驚く。
急になんだと思う。
でも、純粋に嬉しいと思ったことだ。

「はい。無事に帰られることを・・・待っています」

胸が詰まりそうになったが、それだけを趙雲に伝えた。
趙雲は優しく笑み、に背を向ける。

「では、姫様。行ってまいります。馬超殿」

「おぅ。後から行く。無茶するなよ」

今度こそ趙雲は騎乗の人となり、少し遅れながらも出陣していった。

「良かったな、

少し恥ずかしいものがあるが、は小さく頷いた。

「すぐに戻ってくるさ。それまでお前はしっかり留守番していろよ」

「うん」

嬉しいけど。
だけど、関平がそこにいないことが、いまだに嬉しさを半減させていた。








戦直前。
趙雲にしては進歩ですな。
09/01/24
13/11/02再UP