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花と龍と思いのカケラ。
毎日が楽しかった。 趙雲や馬超たちと一緒にいて。 遠く離れた幼馴染から届く文を読むのも 尚香や、大好きな兄と母に見守られて。 幸せか? そう問われれば迷わず頷くだろう。 幸せってこういうのを言うのかもしれないと。 このまま兄が天下を取れば、きっとそれ以上に楽しく、幸せな日々が続くだろうと。 だけど、突然の知らせに幸せは長く続かないと気づかされた。 人が幸せと感じるのはほんの一時。 誰もがそれを探し求めるから、幸せと言うのはそう簡単に訪れないのかもしれない。 突然大事な人を亡くしてしまう。 一気に絶望の淵へと追いやられてしまったようだ。 そう。その知らせが深い悲しみと憤りを感じさせることになった。 【12】 「そっちも楽しそうだよね・・・・うん、私が居た時も楽しいこともあったし当然かな」 は関平から届いた文を読み返していた。 相変わらずの武芸馬鹿とも言える幼馴染であるが、それが彼らしくて、変わっていなくてどこか愛しく感じる。 「・・・・平ちゃんにこっちへ来てもらうことばかり考えていたけど、私がそっちに行くってこともありだよね」 ふと沸いた。 元々は劉備が益州も収めるようになったから、関羽が荊州を任され、彼と共に関平も残ったのだ。 関平に一度こっちに来て欲しいと思ってはいたが、逆に自分が行って驚かせようか? そんな風に思った。 「うふふ。それもいいかな。それで帰りに平ちゃんを一緒に連れて行けばいいんだ」 あぁこれはいい。 劉備に相談してみようか?関羽は簡単に動けないだろうが、関平ならば多少は無理が利きそうだ。 だが、関羽に悪いような気がする。 関平からの文で、関羽が思った以上に嫉妬深いのを知った。 嫉妬深いというと少々問題があると思うが、からの文を読んではいろんな顔を見せるそうだ。 そして息子と仲良しすぎることがちょっと面白くないらしい。 関羽から見ても息子よりは、を娘として扱ってくれているそんな感じだ。 「雲兄ぃもしょうがないなぁ・・・」 苦笑しながらも、あの大きくて頼れる義兄はも好きだ。 今は離れ離れだがいずれまた劉備、関羽、張飛、そして関平と共に暮らせる日がくればいいと思った。 そんなことを考え、笑うと涼やかな音が耳に入る。 先日、孫権からにと贈られた歩揺だ。折角頂いたものだからと、つけているのだ。 少しだけ大人になったような、背伸びをしてしまっているような感じはするが。 使者としてやってきた凌統に孫権へのお礼の文を渡した時・・・・。 「あぁ。姫君によくお似合いですね。孫権様にもそうお伝えしますよ」 などと言われた。 似合っているかな?なんだか恥かしさが増してしまったものだが。 「とりあえず、兄ぃに相談してみよう」 文を書くのはそれからだ。 文を文箱へしまおうとしていた時、侍女が一人飛び込んできた。 「様!一大事にございます!!」 その尋常じゃない慌てぶりに、は驚く。 なりふり構わず駆け込んできたからだ。 「どうしました?」 侍女は呼吸を整える。 まだ少々乱れてはいたが、そんなことはどうでもいいらしい。 「荊州より、知らせが・・・・か、関将軍が・・・孫呉に討ち取られたとのことにございます」 「・・・・・え・・・・・」 「孫呉は魏と手を結んだそうで」 関羽が? 何を言っているのか理解するのに時間がかかった。 侍女の話では、魏と呉が手を結んだらしいという情報を得た関羽が、劉備に相談することもなく。 拠点であるハン城を攻めたそうだ。 相談している暇がなかったらしいのだが、たた待っているだけでは成都に大軍が押し寄せてしまうと。 関羽はそう判断しこちらから打って出ることにしたそうだ。 水攻めなど策を用いて、かなり有利に進んだのだが、呉が魏と手を結んだだけでなく、配下の武将が突然裏切った。 どうやら呉と通じていたらしいと言う報告も入っている。 最期は敵に捕らえられ、降るように言われたもののそれを毅然と断り、見事だと思わせる散り際だったそうだ。 だがにはそんなことはどうでもいい。 見事な散り際などといわれても、結局死んでしまったのだ。 さっきまで会いに行こうかと思っていたから、余計に突然の知らせに多大な衝撃を受ける。 「雲兄ぃ・・・・うそ・・・・うそだよね・・・・・」 いつも見守ってくれた義兄。 劉備と義兄弟の契りを結んでから、自分のことも妹として、娘のような接し方で可愛がってくれた。 関平からの文には、意外な一面をのぞかせ・・・関平? ハッと我に帰る。 「平ちゃん。平ちゃんは?平ちゃんはどうなったの!?」 関羽が討ち死にしたことは聞いた。 だが関平はどうした? 彼の話は入ってこない。 侍女も聞いてはいないようで、ただ首を横に振るだけだ。 「平ちゃん!!」 は室を飛び出した。 劉備には届いていないだろうか?関平の安否が。 関羽を亡くしてしまって、更に関平までもが同じ様なことになっていたら嫌だ。 いつも呆れながらもに付き合ってくれる、優しい幼馴染。 荊州を出るまでずっと一緒に居てくれた。 離れてからも、絶えず文のやり取りをして、側に居てくれるような感覚があった。 「平ちゃん!平ちゃん!!」 は回廊を走る。 はしたないとかそんなことは言っていられない。 涙が出そうになるが、必死に堪える。 泣いてしまったら、認めてしまうような気がして。 「お待ちください、殿!!」 角を曲がろうとした時、趙雲の声がした。 は走るのを止め、ゆっくりと歩き出す。 そして趙雲の姿を、彼だけではない劉備と張飛の姿を捉える。 「兄ぃ・・・」 かけよろうとしたが、あっちはあっちで何やら揉めている。 関羽の死に怒った劉備は孫呉を攻めると、戦を起こそうとしていた。 だがそれを趙雲がなんとか止めようと説得している最中だった。 「殿の敵は孫呉ではなく、曹魏です!今ここで戦を起こしても「馬鹿野郎!!」 張飛が趙雲を殴った。 趙雲は膝をつくがすぐさま張飛がその胸座をつかみ引き立たせる。 「兄者がやられたんだ!仇討たねぇで天下だなんだと言ってられるか!!」 趙雲は張飛の怒りに怯むことなく毅然と振舞う。 「遺恨に惑わされ、大局を見失ってはなりません!天下三分は、強大な曹操に抗する為の呉と組んでこその策。今その方針を崩しては・・・」 二人の間に割って入るのは劉備。 彼も張飛みたいに荒々しくはないが、静かにその怒りを己が中にたぎらせているかのようだ。 「趙雲、もはや策の問題ではないのだ。雲長を、義弟を殺されて・・・黙っていられようか!!」 まだこれでもやるか?と張飛が趙雲に太い腕を見せ付けるが、今度はがその間に入る。 「やめて!兄ぃ!!」 「!?」 「翼兄ぃも酷いよ!戦なんてやめてよ!!」 「姫様っ」 初めてかもしれない。兄に歯向かうのは。 だが見ていられなかった。黙っていられなかった。 関羽の仇の為に呉と戦することを。 仲間の制止を振り切って押し進めようとすることに。 「。お前だって雲長のことは聞いただろう」 「聞いた。けど、戦よりもやることあるでしょ!平ちゃんは?平ちゃんや他の人はどうしたのよ!!」 たった二人で戦をしたわけではない。 関羽を裏切った配下はいただろうが、全員が関羽を裏切ったわけではない。 多くの者が関羽につき従っていたはずだ。 それに荊州の民のこともある。 関平からの文では、関羽も荊州の民たちから慕われていたそうだ。 「傷ついた人たち放って置いて戦になんて出ないでよ!」 「。だけど、俺たちは兄者の仇を、この悔しさをこのまま消したくねぇんだよ!」 張飛の荒げた言葉には肩を震わせた。 「け、けど・・・」 「雲長の無念は私たち義兄弟で晴らす。もう決めたのだ!」 兄ですら、の話は聞いてもらえない。 「孫呉と戦うってことは・・・孫権様と戦うんでしょ?」 「それがどうした。奴らが雲長を陥れたのだ」 同盟を破棄して、魏と手を組んだ。そして義弟を討った。 戦を仕掛けるには十分すぎるくらいの理由だった。 「でも、尚香にとって、孫権様はお兄さんじゃない!尚香の大事な家族を兄ぃが奪うの!?」 「・・・・・・・」 孫権から貰った文。 妹尚香を気遣う優しい文面だった。 あれが嘘偽りだとは思いたくない。 『妹のことをよろしくお頼みします。 妹は私の命で劉備殿に劉備殿に嫁がれた。本人は自分の意志で彼に嫁ぐと言い切りましたが。 傍から見れば政略結婚にしか見えないと思われます。 それでも、送られて来る文には、劉備殿のことやあなたのことが書かれていて・・・。 毎日が楽しいと、劉備殿に嫁いで良かったと、あなたに出会えて良かったと書かれていました。 そばにいることができない私には、全てを知ることはできません。 けど、妹が幸せであるのなら。それでいい。 少々男勝りな妹ではありますが、根は優しい子です。 どうか、妹のことをこれからもよろしくお願いします』 孫権からの文。 尚香のことを本当に大事に思っている優しい兄。 政の場での孫権のことは知らない。 今回のことも、孫権が進んでやったことなのかわからない。 魏にそそのかされたということだってあるだろう。 蜀は劉備は大事な者を失った。 にもその気持ちはわかる。 わかるが・・・・ 「尚香の大事なもの・・・・今度は兄ぃが奪うの・・・・」 「じゃあ、俺達に泣き寝入りしろっていうのか!!」 張飛は納得できないと声を荒げる。 「翼徳・・・・」 張飛を手で制する劉備。 そのままその手はの肩の上に置かれる。 「それでも私は、雲長の無念を晴らしたい。共に往こうと言いながらも、何もできずに・・・ わかってくれとは言わぬ。兄を恨んでくれてもいい。だけど、もうこの気持ちは抑えられないのだ」 「あ、に・・・」 劉備は出陣準備だと背を向けた。 これ以上は聞かないと言うのだろう。そのままを置いて張飛とともに行ってしまう。 「あにぃ・・・やめてよ・・・・」 声がかすれる。 堪えていた涙が止め処なく零れる。 「兄ぃ・・・・」 「姫様・・・・申し訳ございません。殿をお止めすることができず・・・・」 「そ、そんな、こと・・・ないです。止めてくれる人が、居てくれるだけでも、良かった、ですっ・・・ふっ・・・」 の肩が酷く震えている。趙雲に背を向けたまま。 ポタリポタリと落ちていく涙。 「雲兄ぃ・・・平ちゃん・・・・」 の悲痛な声は趙雲の胸を締め付ける。 劉備を止めることができなくて、嘆いてる。 それだけじゃない、のもとを離れた人のことを思って酷く苦しいのだろう。 「姫さ「ご、ごめんなさい」 「姫様っ!」 は趙雲を置いて駆け出した。 どこに行っていいのかわからない。 だけども、もう感情が抑えきれなくて。 長い回廊を走り、膨れ上がった感情をどうにかしてしまいたい。 たどりついたのは庭院の一角。 「はぁ・・・・はぁ・・・・・っぐ・・・・」 歯を食いしばり、拳も強く握り締めてしまう。 「平ちゃん・・・・」 目を瞑れば自分に笑いかけてくれる彼の顔が浮かんでくる。 名前を呼ぶ時の顔が浮かぶ。 『』 幻聴かわからない。だけど名を呼ばれたような気がした瞬間、ぷっつりと抑えていた感情が切れた。 「うわあああああん!!っく、あああああん!!」 子どもみたいに声をあげて泣いた。 誰が見ていようが、姫様扱いされていようが、構わない。 静かに一人で押し押し殺して泣くなどできない。 これでも我慢した方なのだ。 泣いたからといってどうにもならない。 戻ってこない。 劉備は戦の為に出陣してしまう。 でも涙が止まらない。 悲しいから?悔しいから?何もかも全部だ。 全部抑えることができない。 「姫様・・・・」 首だけで振り返ると、趙雲が立っていた。 「子龍様・・・」 趙雲が自分を心配そうな顔で見ている。だけど、それが余計にの顔を歪ませ泣かせてしまう。 「姫様、姫様」 趙雲はの肩にそっと手を置く。 こんなに小さな体が、その身に耐えることのできない悲しみに押しつぶされようとしている。 「やだ・・・やだよぉ・・・・平ちゃん・・・・帰ってきてよぉ」 何も言えない。 何を言えばいいのかわからない。 ただ、泣かせることしかできない。 ただ、そばにいることしかできない。 の悲しみを取り除く方法がわからない。 「兄ぃの馬鹿・・・・恨むなんて、出来るわけないのに・・・・」 「姫様・・・・あ・・・・・」 趙雲の目に入ったもの。 の髪に挿された歩揺。 趙雲にも何度も見せてくれた。似合うかな?と問われて、似合うと返事をした。 孫権がに贈ったもの。 なんだか、その歩揺が酷く憎らしいものに映る。 この贈り主がを悲しませる原因を作ったのかと思うと・・・・。 「泣かないでください、もう・・・それ以上は」 「子龍様?」 趙雲はを背中から包み込んだ。 「このままだと、あなたが悲しみに押しつぶされて壊れてしまいす」 そうは言われても止まらない涙。 無茶なことを自分でも言ったと思う趙雲。 でももう泣いて欲しくなかったから。 状況を考えれば泣くなと言う方が無理だ。 「あなたに、そんな涙を流して欲しくない・・・・」 それが自分勝手な願いだとしても。 前回からは予想できない展開に!頑張れ、二人とも!
09/01/09
13/11/02再UP
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