|
花と龍と思いのカケラ。
一月に一通。関平から文が届けば十分だ。 そうそう毎日、毎週のようにやり取りをするのは大変だろうし。 書くことだって限られる。 もあまり趙雲のことばかりを関平に書き綴っても困るだろうと思った。 けど。 「趙雲殿の様子が変?・・・・へぇ」 届いたからの文を読んで、関平は珍しいこともあるものだと思った。 でね、子龍様ってばたまにすごーーく難しい顔をしている時があるの。 どうかしたんですか?って聞いても、なんでもありません。としか言わないし。 孟起に聞いても、放っておけ。しか言わないんだよ。 そりゃあ、政務や軍事のことだと私にはわからないことも多いと思うけど。 子龍様が悩むって珍しいじゃない? だからちょっと心配。 ねぇ平ちゃん。 孟起の言うとおり、放っておいた方がいいのかな? ・・・・・って、平ちゃんに聞いても返事がもらえるのはまだ先だし。 平ちゃんも困っちゃうよね。 平ちゃんにこの文が届く頃には、子龍様の悩みも解決しているといいんだけどな。 平ちゃん。いつもごめんね。 無理矢理、強引。そんな感じで一方的に書き綴ってしまって。 「まぁ・・・愚痴られても、と趙雲殿は恋仲ってわけでもないしな」 確かにと思う点はあるが。 だが、こうやって自分にしか話せないのかな?と思うと。 遠く離れていても頼ってもらえているようで、そんなに気分は悪くない。 気分はのお兄ちゃんだから。 ただ、この手のことばかりを綴られていると、関羽には読ませることができない。 息子がと何こそこそと話しているのだと、関羽は少々気にしているようだし。 息子にちょっとしたヤキモチみたいなものとかあったりして。 「だが、馬超殿が放っておけと言うなら、たいしたことではないのだろうな」 からの文を折りたたむ関平。 きっと、今頃は趙雲も落ち着いているのではないだろうか? あの人は誰よりもできた人だから。 への返事。何を書こうかと関平は外へと目線をうつしながら思った。 【11】 悩むということは、少しは脈があるのではないか?そう馬超には思えた。 馬超が趙雲に言ったことを。趙雲なりにずっと考えているようだから。 だが、周囲が趙雲はいったいどうしたのだ?と思うまでになっている。 周囲が気づくのだ。が気づかないわけがない。 馬超に、趙雲はどうしたのだ?と聞いてくる。 余計なお節介をしてしまった身としては、こうだ。とは言うのが引ける。 だから。 「どうもしねぇだろ。放っておけよ」 とだけ言った。 自分のその言葉に、は納得しかねない様子だったが、自分で趙雲に聞いても。 なんでもないと切り返されたので、どうしようもないらしい。 (ただ、そこまで考えこまれるとはな・・・・あいつの思考がわからん) 言うほど長く濃い付き合いではない。 だからまだ趙雲のことを知っている、わかっているとは馬超は言い切れない。 それはきっと趙雲も同じだろう。 馬超も趙雲に全てを話していない。 仲間としては信頼しているが、言えないことも、言う必要がないこともあるだろう。 きっとそれぞれが秘めていることはそれなりにある。 それぞれ思うこと、感じること、理由があって劉備に仕えているのだろうから。 (ま。とにかく。気が済むまで悩め) それで趙雲がどう動くのか見物だ。 『俺とアンタの違い。何かわかるか?』 『のことを女≠セと思っているか思っていないかだ』 『ちゃんと見てやれよ。女として』 なぜ、馬超はあんなことを言ったのだろう? を女と見ているか、見ていないか。などと・・・・。 それが自分と馬超の違いだと。 どういうことだ? 普通に考えれば、馬超が言っていることは可笑しいと思う。 が女性であることなど見てわかる。 それがなんだ? 間違っても男性に見えるなどとは思っていない。 では、なんだ? 女性として見ていないという自分。 女性として扱っていないという事か? そんなことはないはずだ。は劉備の妹。大事な姫君。 少なくとも馬超よりは優しく接しているつもりだ。 (馬超殿はいったい何が言いたいのだ。私が姫様を女性として見ていないなどと・・・) 心外だと言わんばかりに趙雲は面白くなかった。 だから延々と考えこんでしまうのかもしれない・・・・。 ある日孫呉から使者が来た。 劉備に目通りしている。だかにはあまり関係ない。 関係ないと思ったのに、劉備に呼ばれた。 それも皆が集まる謁見の間ではなく、尚香の室で。 「なんだろう・・・・子龍様聞いてる?」 趙雲と一緒に居た。 まだ趙雲が悩んでいるようだなと思ったが、話しかければ普通に接してくれる。 が深く考えることはないのだろうか? そうしている時に呼ばれた。 ちょうど孫呉の使者も来ている。 趙雲に頼んでついてきてもらった。 「いえ。私は別に・・・・。と言うより、私が聞かされるようなことはないと思いますが」 趙雲は苦笑する。 政が関係しているのならば、きっとそれは孔明あたりだろう。 「まぁ。そうですよね・・・子龍様はその使者様と会われました?」 「謁見の場では」 「ふーん・・・・本当なんだろう」 とりあえず、行ってみればわかることだろう。 「兄ぃ、尚香。入るよ」 扉の前でそう声をかける。 すると中から開けられる。 「遅い、遅い。、早く」 尚香がの手をとり招きいれる。 趙雲はここでと退出しようとするが、尚香が構わないと言うので仕方なく残った。 室には劉備はいない、尚香と長身の男性がいた。 長身の男性がの前で跪拝する。 「お初にお目にかかります。姫君。凌公績と申します」 「は、はじめまして。と申します」 なんだか気恥ずかしい。だからって君主の妹だ。兄の顔に泥を塗るような真似はしたくない。 はぴんと背筋を伸ばし、孫呉からの使者だという凌統に笑顔を向ける。 「わざわざお呼び立てして申し訳ございません。主、孫権様よりあなた様にと贈り物を持ってまいりました」 劉備に謁見している時でも良かったのだろうに、個人的なことだからと。 時間を作ってもらったそうだ。 「え?孫権様からですか?尚香・・・?」 「貰っておけば?私も普通に権兄様から着物とか贈られたわ。気にすることないわよ」 「そういうものかな・・・」 孫権からというのがひっかかる。 単純に尚香の兄と思うより、呉の君主。という立場を思ってしまって。 「どうぞ」 凌統がに小箱を差し出す。 「ありがとうございます」 嫌です。などとは言えないだろうからは受け取る。 「。開けてみたら?」 尚香が顔をのぞきこんでくる。 それは流石に不躾ではないだろうか?と思いつつも劉備もいない場であるし。 は頷き箱を開ける。 「わ・・・・・すごい綺麗」 桃色の玉がちりばめられた金色の歩揺だった。 そしていい香りのする料紙が一枚そえられている。 それは孫権からへの文だった。 中身を読むとは思わず微笑んでしまう。 「なに?のその反応。兄様から何言われたの?」 もしかして求婚?と尚香は茶化す。 の顔が赤くなる。 「姫さま・・・相変わらずですね」 凌統が呆れた眼差しを送っている。 「なによー。あんな顔をしているのを見たら気になるじゃない。ねぇ趙将軍だってそう思うでしょ?」 いきなり話を振られて趙雲はどもる。 「い、いえ。私は別に・・・・」 嘘だ。 今、自分に嘘をついた。 孫権からへの贈り物。もしかしたらということ。 いつだったか、劉備が趙雲に言った。 『に孫呉からの縁談の話が来たら、そなたはどう思う?』 その時は今後のこの国を思えば、良い事だろうと趙雲は答えた。 そしてそんな日がいつかは来るだろうとも。 寂しいことだとは思うが、決めるのは劉備と。 自分が口を挟むことはない。 それなのに、今、もしかしてと思うと・・・・。 (なぜだ。すごく・・・・焦りを感じてしまう・・・・姫様・・・姫様は・・・) とても息苦しい。 「もう!違うわよ。孫権様は尚香のことをおっしゃっているの!」 は変な風に言わないでと尚香を叱る。 「私のこと?」 「そう。ほら、ちゃんと読んで。孫権様は尚香のことを心配されているの」 尚香はから文を渡されて、その中身を読む。 読んでいくうちに、尚香の顔が赤くなり、見る見るうちに目に涙を溜めていく。 「権、兄様・・・・」 「ね?辛いことがあってもきっと強がる子だから。そんな尚香とこれからも仲良くしてくれって」 単に妹思う兄が、おそらく妹の側にいるだろう君主の妹にそう頼んできたのだ。 「兄様のバカ・・・・」 尚香は恥かしいのか、少し乱暴に目元を拭う。 「いいお兄さんだよね、孫権様」 「うん」 政略結婚。今後の国を思って。そういう理由で尚香を劉備に嫁がせた孫権。 尚香はそんな理由で劉備と婚儀を結ぶのは嫌だった。 だから孫権に言われたからじゃない。自分で劉備を選んだのだと啖呵を切るような形で孫呉を出たのだ。 「姫さま。良かったですね」 尚香の肩に手を置く凌統。 尚香は小さく笑った。 「返事を出されるならば、俺が持って行きますけど」 凌統が尚香に申し出る。尚香はお願いするわと返事をする。 「あの。凌統様」 が凌統の前に進み出る。 「はい。なんですか?姫君」 「私も孫権様にお礼を贈りたいので、一緒に届けてもらえますか?」 「勿論。喜んで」 尚香から孫権からの文を返される。 それを歩揺が入っていた小箱にしまう。 「いつ頃戻られるのですか?それまでには用意しないと」 「ちゃんとお二人の返事を受け取ってから帰りますよ。だから急がなくていいですよ」 最低でも、2日はいるそうだ。 「でも権兄様もやるわね」 尚香はさっきの様子と変わって意味ありげに口元を緩めている。 「なにがです?」 凌統が思わず問うてしまう。 「への文。私にはただの料紙だったのに、へ渡した料紙はいい香りがついたものよ?しかもあんな歩揺まで用意して。案外、権兄様ってばに気があるんじゃないの?」 思わず沈黙がその場を支配する。 それを破ったのはだ。 「ないでしょ・・・それは。だって私孫権様にお会いしたことないもの」 曹操軍から逃げて孫呉領に入った時、数人孫呉の武将たちと会いはしたが。 その中に孫権はいなかった。 だからお互いに顔は知らないはずだ。 気があるという尚香の言い分は可笑しいだろう。 「ま。ちょっと差がでたみたいですけど、孫権様にしてみれば劉備殿の妹君への文。 気を使ったんじゃないですか?失礼があってはと思って。それくらいすると思いますけど、俺は」 凌統もさほど深くは思わなかったようだ。 「あんたもそう思うでしょ?」 凌統は趙雲にも同意を求める。 趙雲は少々戸惑いながらも、そうですね。と答えた。 尚香だけはまだ納得していない様子だったが、その場はそれで終わった。 正直。会ったことのない人とはいえ、装飾品の贈り物というのは初めてだったので驚いた。 しかも好みのものだったので、尚香に気があるんじゃないの?とか言われて焦った。 孫権へのお礼。文だけでいいのだろうか? 自分も何かと思うのだが、この場合よくわからない。 先ほど凌統は気を使ったんじゃないか?程度にしか言わなかったし。 確かに宛の文には妹を気遣う文面だったから。 「ねぇ。子龍様。子龍様はどう思いますか?孫権様に文以外に何か贈った方がいいかな?」 「・・・・・・・」 「子龍様?」 話しかけても反応がない趙雲。 は思わず趙雲の袖を引く。 「え?あ・・・申し訳ございません。なんでしょうか?姫様」 「考え事ですか?最近の子龍様は難しい顔をされていますね」 「い、いえ・・・・本当に特にこれと言って・・・・」 嘘ばっかり。は苦笑してしまう。 だが自分に変な気を使わせないようにしているのだろうなと思う。 いや、お前には関係ないことだときっぱり言われてしまうこともあるだろうし。 後者だとすると寂しい限りだ。 「えとですね。さっきの話です。孫権様へのお礼をどうしようかなと思って」 「お礼ですか・・・そうですね・・・・」 趙雲は考えるも、どうも公正に考えられない自分がいることに気づいた。 正直に言うなら、あまりと孫権には繋がりを持って欲しくないような。そんな気がしている自分が。 だがこれではダメだ。折角頼ってくれてくれるの期待を裏切ることになる。 「殿に尋ねてみた方がいいかと思われます。殿も姫様への贈り物があったことは存じておられると思いますので」 「そっか。そうですよね。兄ぃに聞いてみるのが一番ですよね。変なもの贈ることになったら困るし」 贈るものにも色んな意味があるのかもしれない。 良かれと思ったことが逆の意味にとられては困る。この時代はそういう時代だ。 「あとで兄ぃに相談してみますね」 「・・・・・はい」 趙雲は頷くも、どこかいつもの趙雲と違うように見える。 「あの・・・・姫様」 「なんですか?」 「・・・・・私は姫様に失礼なことを知らずにしていませんか?」 趙雲の問いかけには動きが止まる。 「失礼なことって・・・・何もありませんよ?子龍様はいつもよくしてくれるじゃないですか」 困ったことがあればの方が頼ってしまう。 「本当ですか?」 「本当ですよ。変な子龍様。もしかしてずっとそれを悩んでいたんですか?」 「え!?・・・あ、いえ・・・そういうわけでは・・・・あぁ!凌統殿。お暇ならば手合わせでもしませんか?」 趙雲はわざとらしく、歩いてきた凌統を呼び止める。 凌統のほうも暇だからと了承してしまう。 「そ、それでは姫様」 「え・・・・子龍様?」 趙雲にしては珍しく強引に切り上げ、去ってしまった。 「なに?意味わかんない・・・・」 趙雲の後姿を見ながらは首を傾げてしまうのだった。 少しわかった気がした。 私は姫様に頼ってもらうのが嬉しいのだ。 姫様にずっと笑っていてもらえるようにと。 その微笑みをずっと守れるようにと。 馬超が言ってくれていても、考えている事が少しずれている様子w
08/12/07
13/11/02再UP
|