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花と龍と思いのカケラ。
「やっぱりねー。わかりすいもの、ってば」 呆れたというか、笑いがこみ上げてくる。 今の尚香はそういう気持ちでいっぱいだった。 「そ、そうかな?」 「そうよー。見ていればわかるわよ。現に殆どの人が知っているでしょ?」 「え・・・・そ、そうなの?」 話はの想い人のことだ。 「幼馴染の関平殿は知っているのよね?」 「う、うん。平ちゃんにはよく話を聞いてもらったから、後、孟起も」 関平はともかく、馬超にも平気で話していた。 それはきっと、馬超が先に気づいたからであろう。 だが、今思うと。 馬超にはあって間もなくばれたではないか。 そんなにわかりすいか?自分は? 「子龍様のこと・・・・そんなにわかりやすい態度をとってたの、私・・・・」 周囲にやっぱりなどと言われてしまうと、少々落ち込んでしまう。 「だけど・・・・なんで当の子龍様には気づいてもらえないわけ?」 ムゥッと唇を尖らせるに、尚香は苦笑するしかなかった。 【9】 「でも、そうなの?趙将軍はの想いに気づいていないんだ」 これでも食べなさいと、尚香はに砂糖菓子を差し出す。 は遠慮なく花の形をした砂糖菓子をつまんで食べる。 尚香とこんな風に話せる日が来るなんて、少し前では考えられなかっただろう。 でも、あの頃よりも今の方が楽しくていい。 「うん。まったく気づいていないよ・・・それに相変わらず姫様扱いするし」 「立場的には姫じゃないの?」 一瞬だけ、尚香に話そうか迷う。 だけど、尚香にならば話しても平気だろうとすぐさま思った。 「兄ぃは・・・えっと、なんだっけ。中山・・・」 「中山靖王ね」 「そう。それ。それの末裔とかって血筋だけど、私は違うもの・・・兄ぃと血は繋がっていないから」 尚香は瞠目する。 「そ、そうなの!?」 「そうだよ・・・・別に隠しているわけじゃないけど。この事も知っている人は知っているよ」 関羽に張飛、関平と。 元々知らぬ場所に迷い込んだを拾ってくれたのは劉備だ。 だがとは慌てる。 「けど!私は兄ぃの妹だからね!尚香が変に思うような間柄じゃないからね!」 「・・・・・」 「尚香〜」 尚香は軽く溜め息をつく。 「わかったわよ。でも、言われてみて初めて気づくものね。が私を避けていた理由が」 「あ、あれは」 「にとって、今まで一番身近に居た男性ってのが玄徳様だもの」 兄として側に居たのだろうが、大事な人には変わりない。 知らぬうちに嫉妬されていたのがよくわかる。 「でもいいわ。今のには趙将軍がいるもの」 心配することないだろうと、尚香は思うことにした。 変に誤解されないだけマシだろうとはも思うが。 「それで、話を戻すけど。それで姫様扱いされる理由がないってこと?」 「だってそうでしょ?別に私の生まれは高貴な出じゃないし、他の皆は普通に接してくれるもの」 関羽と張飛は娘、妹のように可愛がってくれる。 関平も馬超も変に気を使わず容赦ない。 孔明や月英だって、自分を特別扱いすることはないのだ。 だけど、趙雲だけだ。自分を特別扱いするのは。 「うーん・・・でもそれは難しくない?出生を知らぬとはいえ、は玄徳様の妹だもの」 すでに蜀は劉備が治めている。君主の劉備の妹ともなれば、それは仕方ないと思う。 「趙将軍の性格から言って、臣下の線を越えろって言う方が難しいわ」 は肩を落とす。 「じゃあ・・・・子龍様とはずっとこうなんだ・・・・」 「え?あ!そ、そうとは言い切れないけど〜・・・そう、そうよ!趙将軍にも玄徳様とのこと言えばいいのよ」 そうすれば姫扱いされる言われはないだろうと、尚香は提案する。 だけどは頑なに首を横にふる。 「あまり・・・そういうの言いたくない・・・・」 血の繋がりがなくても兄妹だと思っている。 思っているが、怖かった。 距離が出るかと思うと・・・・。 「難しいわね、本当・・・・でも、それじゃあしょうがないわ。気長に頑張りなさいよ、振り向いてもらえるように」 尚香が項垂れるの肩を抱き寄せる。 コツンと頭と頭が触れる。 「競争率。高いと思うけど、頑張って、。私も応援するから」 「ありがとう。尚香・・・」 誰かに話をできるだけでも自分は幸せなのかもしれない。 *** 「孔明・・・それは・・・・」 孔明から聞かされたことに、劉備は内心穏やかでいられなかった。 「あくまで一つの案でございます。孫権殿が尚香殿を嫁がせたように、これから孫呉との同盟をより強くするならば・・・という事です」 「わかっている。だが・・・・」 劉備の顔は曇る。 あまりに受け入れたくない案であった。 孔明は、を孫権に嫁がせてみては?と言い出したのだ。 尚香も元はと言えば孫権の命によるものだった。 だが、尚香は言い切る「私は兄様に言われたから嫁ぐわけではない。自分の意志で決めたのよ」と。 きっかけはそうかもしれないが、尚香は以前から劉備に興味があった。 孫呉の天下を見る事は叶わぬとも、劉備の天下を、劉備と一緒に見たいと思ったから。 孫権と同じことをに命じることが果たして自分にできるのか? 「何も孫権殿だけがしていることではありませぬ」 「それはわかっている。わかっているが・・・・」 今まで困難な道のりをついて来てくれた義妹に、蜀の今後の為に嫁げなどと言えるだろうか? 同族である劉璋を攻めるとなった時に、それでいいのかと酷く悩んだものだ。 誰かを犠牲にして得る天下に何の意味があるのだろうかと。 そんな悩んでいた劉備に尚香は言った。 自分の手を汚さずに天下は取れるのかと。必要ならば乗り越えなければならないと。 だが、これはそれと同じか? 孫呉との同盟強化は考えねばならないものだ。荊州を関羽に任せ睨みを利かせているとはいえ油断はできない。 逆にそれが孫呉から見れば面白くないことかもしれないのだ。 「すぐにと言う決断でもございません。孫呉からの申し出があったわけでもありません」 ただ一つの案だと言う事を覚えておいてほしい。 孔明はそう言って退出する。 一人残された劉備は椅子にもたれ考え込んでしまう。 (はなんと言うだろうか?) 嫌だと反対する? 違う。きっと目に見えている。 「兄ぃが言うならいいよ」 と。簡単に決めてしまうかもしれない。 内心は嫌だと言っても、劉備にですら自分の気持ちを押し殺すのだ。 はそういう子だ。 劉備の本音はの好きにさせたいと思っている。 政略結婚などはさせたくない。あの子にはすでに心に決めた人がいるようだから。 扉の前で趙雲の声がした。 「殿。よろしいでしょうか?」 「趙雲か。ああ、入ってくれ」 扉が開き、趙雲が両手を胸の前で合わせて礼をする。 「どうかしたのか?」 「先ほど、関羽殿から書状が届きました」 趙雲は文箱を差し出す。 「ああ。すまんな」 劉備は受け取った文箱を開ける。中には関羽からの文といつものことで関平からのものも入っていた。 これは関平から宛のものだろう。 それを取り出し、趙雲に手渡す。 「すまないが、これをに届けてくれないか?」 「承知しました」 礼儀正しく趙雲は文を受け取る。 「では」 「ああ・・・・あ。趙雲」 退出しようとした趙雲を劉備は呼び止めた。 「なんでしょうか?」 「・・・・に・・・・」 劉備は口するべきか躊躇するも、この男の反応が知りたかった。 「に孫呉からの縁談の話が来たら、そなたはどう思う?」 「姫様に縁談・・・ですか・・・」 趙雲はそう考えることもなく己の意見を口にする。 「その場合、お相手は孫権殿と考えてよろしいでしょうか?」 「ああ」 相手は誰でもいいのだ。あくまでに縁談の申し出があればの話だ。 「とても良いことだと思います。今後の蜀の為には心強いことだと」 「・・・・そうか・・・」 脈なしか。 だが、臣下の者がそう簡単に反対とは口にしない気がする。 あくまで仮定の話なのだ、これは。 現状では反対する理由がこれといって見当たらない。 「殿?」 「いや・・・なんでもない。趙雲、これはただの戯言だ。には聞かせないで欲しい」 「はぁ」 「きっとも同じことを思うだろうな・・・・」 さっきも考えたことだ。 劉備が嫁げと言うならば・・・。 孫呉ではなく、強敵曹操の下だとしても・・・・。 「私は、を道具のように使いたくない。たとえ甘いと言われようとも・・・」 冷徹になれる性格ならば、こうも深く考えないだろう。 孔明の案にあっさり納得し、さっさと進めてしまう気がする。 でも、今の自分にはそれができないのだ。 義妹のことを思うと、余計に・・・。 「殿・・・・」 「いや、いい。もう下がっていいぞ」 趙雲は雰囲気が違う劉備を可笑しく思いながら退出した。 *** 趙雲はに文を届けようと、彼女を探していた。 そして、馬超と一緒にいるを見つけた。 すぐに声をかけようと思ったが、躊躇してしまった。 先ほどの劉備の言葉が脳裏を過ったからだ。 『に孫呉からの縁談の話が来たら、そなたはどう思う?』 そんな話が来ても可笑しくない年頃なのだ、は。 ましてや劉備の妹ともなれば、国内外から劉備と繋ぎをとろうと思うものが居ても可笑しくない。 劉備に娘がいればそれが一番の外交手段になってしまうだろうが。 生憎劉備と尚香にはまだ子がない。 言い方は悪いが、今一番、劉備が使える駒はなのだ。 『私は、を道具のように使いたくない。たとえ甘いと言われようとも・・・』 だが、心優しく君主はそれを良しと思わない。 今の時代がそう思わせないのだろう。 確かに劉備は甘いと思う。 思うが、それが劉備らしいと逆に趙雲には誇らしげに思ってしまう。 この方に仕えることができて良かったと。 だが。 『きっとも同じことを思うだろうな・・・・』 それは趙雲が劉備に言ったことのことだろうなと。 そういう決断を迫られたとき、劉備がに命じれば。 は頷くという事か。 (・・・・・それは仕方ないことだ。だが・・・・・寂しいと思えてしまうな・・・・) 臣下としてそれはいけない事だと思う。 思うが本音はそこだ。 (だが、いつかは来ることだ・・・それまで、私がお守りしよう、姫様のことは) 趙雲はそう心に決める。 そして何事もなかったかのように歩き、二人に近づく。 「姫様」 「子龍様」 はふわりと笑う。 本当花のような人だと、自然と趙雲も目を細めてしまう。 「殿から預かって参りました。関平からの文です」 懐から文を取り出す趙雲。 「平ちゃんからですか!ありがとうございます」 趙雲から受け取り、は文を胸に抱きしめ喜ぶ。 「なんだ。まるで愛しい人からの恋文を待っていたような感じだな」 馬超に言われてしまう。 「違うもん。平ちゃんからの文は嬉しいけど、そんなんじゃないもん」 「知ってるけどな」 馬超がからかって悪かったと、の頭を撫でる。 「また関平と内緒の話ですか?姫様」 「そうです。内緒ですよ」 は小さく笑う。 だけど、馬超はぴんと来る。 「内緒の話ね・・・・何の話をしているか当ててやろうか?」 「孟起!当てなくていいからね!」 止めろという事は、馬超の思い描いている通りだろう。 「はははは。関平も大変だな。姫の愚痴に付き合うのでは」 側に居ても居なくても、同じではないかと。 「ぐ、愚痴ってなんかいないもん・・・」 「本当か?」 馬超の鋭い目に見られて、は居た堪れなくて目をそらしてしまう。 そして、文を読むからと自分の室に戻るとは走り去った。 「馬超殿。姫様をからかうのはよしてください」 「別にからかってなんかいないさ。本当の話だから」 「はぁ・・・あ」 「ん?どうした?」 趙雲は先日のとのやり取りを思い出す。 関平からの文が発端だった。 関平には何でも話せるといった。 離れ離れになった今、文でそれを綴っているらしい。 だが、その内容の一部が自分のことだと言われたのだ。 『そうですよー。平ちゃんには何でも話せちゃいます。子龍様のこととか』 『え?私のこと、ですか?それは一体・・・』 『内緒です。内緒の話なんで言えませんよ、そんな事』 結局自分のどんな話をされているのだろう? に対し、悪評を振りまかれるような行動はしていないつもりだが。 「馬超殿は、姫様と関平の文の内容を知っているのですか?」 「あ?知ってるわけじゃないが・・・・大体想像つくだろ?」 「・・・・・・」 いまだ姫の想いなどに気づいてはいない男だ。 聞いても無駄だなと馬超は思った。 「付き合いの短い馬超殿の方が・・・・姫様のことをわかっていらっしゃるんですね・・・」 「いやいや・・・単純だろう。あれはどう見ても」 気づかないお前がすごいのだ。 「拗ねるなよ、そのくらいで」 「別に拗ねてなどいません」 趙雲は馬超を置いて歩き出した。 「・・・・・拗ねてんじゃん」 馬超は趙雲の態度を見てくつくつと笑った。 鈍いにもほどがあるw少しは変わればいいんですがねー
08/11/07
13/10/31再UP
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