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花と龍と思いのカケラ。
劉備と会うのは何ヶ月ぶりだろうか? 長く離れていたのは劉備が黄巾党との戦いに出ていた時だ。 あれに比べれば今回は短い期間だ。 だが、どこか緊張してしまう。 長い回廊を歩いていると、カツンカツンと靴の音が響く。 それが余計に緊張を促しているようにも感じる。 だが、音は一人ではない。 「何、変な顔してんだ、」 「へ、変な顔って!」 「言葉のまんま。そのとおりだ」 の少し前を歩く馬超がチラリ振り返って言った。 「馬超殿。失礼な物言いはやめて下さい」 からかう気満々だったのだろうが、馬超を叱る趙雲。 「本当のことを言っただけだろーが。殿に会うのに緊張していますって面がよー」 「久しぶりなのですから・・・。ですが姫様も、そう緊張なさることはありませんよ?」 馬超のいう事など気にするな。趙雲はそう言いたいのだろう。 静かな回廊も、この2人のお蔭で少しだけ温かみを感じることができた。 「殿は姫様が来られるのを、とても待遠しいご様子でしたから」 益州を平定し、蜀と言う安住の地を手に入れた。 だがすぐにはを呼ぶことはできなかった。 不安定な面が多々あったからだ。 寂しい想いをさせてさせているのではないかと、劉備が零す日もあったそうだ。 「兄ぃ・・・・」 劉備は人のことばかり優先して考える人だと思う。 それを口にしたら、趙雲にそれは違うと言われた。 「確かに殿は民のことなど考えておられますが、自分の家族のことを思うのに理由などありませんよ。自分の大事な妹だからこそ、自然と考えてしまわれるのでしょう」 「子龍様・・・」 「恥かしい台詞をよくもまぁ・・・・素でいえるよな、アンタは・・・・」 馬超が呆れた顔をして、いや、聞いているこっちが恥かしいと言っている。 趙雲は気にせず笑みまで浮かべる。 「何を言われるか、馬超殿。本当のことなのですから、言葉にして恥かしいも何もないですよ」 「・・・・・・そういうのは気遣えて、重要な部分に気づかないからなぁ・・・・」 「?」 ボソっと呟く馬超。 趙雲は聞き返すも、もう室の前に到着してしまった為、話はそこで終わってしまう。 「殿。姫様をお連れいたしました」 趙雲がそう扉に向かって声をかければ、劉備の返事が返ってくると思った。 のだが、返事はなかった。 【7】 劉備からの返事はないので、こちらから開けることはできない。 さてどうしようかと思うよりも先に扉の方が開いた。 「!」 「あ、兄ぃ!?」 劉備は返事よりも自分が先に出て着てしまった。 「今まですまなかったな、。だがもう離れて暮らす事はないからな」 そういい、劉備がを優しく抱きしめてくれた。 「兄ぃ・・・・ただいま」 「ああ。おかえり」 返事がなかったのは単に待ちきれずに出てしまった。 それだけのようだ。 「兄ぃ。ちょっと苦しいよ」 「おぉ、すまぬ」 苦しさもあるが恥かしさもある。だが嬉しさが一番だ。 劉備は力を緩めを開放する。 「兄者。俺にもの顔を見せてくれよ」 そう室から出てきたのは、同じ様に部屋で待っていた張飛だ。 「翼兄ぃ!」 「〜元気だったか?」 わしわしと大きくごつい手がの頭を撫でる。 痛いと言いながらもは嬉しそうだ。 「本当・・・・別人みたいだな、ありゃ」 「馬超殿?」 兄妹のやりとりを見ていて馬超が呟いた。 「別人とは、どういう意味で?」 「悪い意味はねぇよ。たださ、を最初に見たときと今を比べたらよ、一番いい顔しているなって話だ」 「それは当然でしょう。殿は姫様をとても可愛がられ、姫様も殿を慕っております」 そういう趙雲の顔も嬉しそうだ。 何かとの心配をしていたようだから、仲の良い兄妹の姿を見れて安心しているのだろう。 (それはもっともな意見なんだが・・・こいつは何を考えているのかわからねぇなぁ・・・) 少しというか、かなりを不憫に思う馬超だった。 「おかえりなさい。」 別の声が入ってきた。 その声に正直は心臓が跳ね上がる。 同じ室内にいたのだろう、尚香が顔を出す。 「あ。尚香様・・・はい。ただいま戻りました」 新しく住む地ではあるが、劉備の許に帰ってきたというのでは「ただいま」というのは正しいだろう。 「疲れたでしょ?ゆっくり休むといいわ」 「はい。お気遣いありがとうございます」 はやんわり笑う。 だが思う。果たして今の自分は本当に笑えているのだろうか? 「兄者、兄者。まだ大事な人とを会わせるんじゃなかったのか?」 張飛が劉備に耳打ちをする。 だがそれは到底耳打ちをしているように見えない。隠す気がまったくないのか声が大きいのだ。 「大事な人?」 誰だ?とは劉備と張飛の顔を見る。 「今、の室にいるぞ」 張飛が教えてくれる。 「私の室って・・・・」 初めて来た場所なのだ、どこなのかわからない。 劉備が案内しようとを連れ出す。 自然と他の者も一緒について来てしまう。 「ここがお前の室だ。自由に使うといい」 自分一人が使うには大きいなと感じる室の扉をはあける。 するとそこに一人の女性がいた。 「・・・・・?・・・おや、帰ってきたなら言っておくれよ、玄徳」 「すみません。母上」 「母様!」 そこにいたのは劉備の母。の養母でも女性だった。 は思わず母に抱きつく。 「母様。お久しぶりです!お元気でしたか?」 「母は元気でしたよ。玄徳が落ち着いたからと呼んでくれたのだよ」 をしっかり抱きとめその頭を優しく撫でる母。 ちょうどが戻ってくると聞いていたので、、すぐに使えるように掃除をしていたそうだ。 そのような事は女官に任せればいいのにと劉備は言うが、何か動いていないと落ち着かないのだという。 「じゃあ、また兄ぃと母様と一緒に暮らせるんですね!」 「ええ。そうよ」 本当にそれが一番嬉しい。 劉備についてきたものの、母のことも心配だったから。 また家族との生活ができるかと思うと本当に嬉しかった。 *** 新しい城での生活。と言っても、ほとんどが知っている人ばかりだった為に、そう焦らずにすんだ。 ただ、前領主に仕えていた人たちも多くいるので、その人たちと会うと緊張はしてしまう。 何より、一番緊張してしまうのは食事の時間だった。 母と劉備との3人ではなく、そこに劉備の妻である尚香も一緒にいるから。 「ただのヤキモチなんだろうけど・・・・・このままじゃいけないよね?」 と馬超に零す。 「大好きな兄に嫁さんができた。それだけじゃないか・・・・考えすぎなんだよ、お前は」 馬超と共に城内散策をしていた。 お互いまだよくわかっていないからと見て歩いているのだ。 「だーかーらー。言ったでしょ、ヤキモチ妬いちゃったって」 「どれだけ、兄好きなんだ?」 「・・・・どれだけって言われても。本音を言うなら、私は以前の生活でも良かったんだもん」 「以前?」 「兄ぃがまだ人の上に立つ前の・・・・母様と三人で商いや、畑仕事しながらの・・・・」 「そう言えばいいじゃないか」 「今になって言えるわけないでしょ」 確かに・・・。と馬超も思う。 今更君主辞めます。なんて言えないだろう、どんな理由があろうとも。 一度人の上に立てば色々背負うことになる。 もう劉備はだけの人ではないのだ。 「こんな世の中になったのが悪いよね」 「ま。根本的なことを言えばそうだろうな。だが、劉備殿が立ち上がったから良かったこともあっただろう?」 「え?良かったこと?」 「そうだ。ほら、その良かったことがこっちに来るぞ」 馬超が指で示す方にいたのは趙雲だ。 「な!なに言って!!」 反論しようにも、確かにこういう世の中になったから出会ったと言っても過言ではない。 元々趙雲は別の人に仕えていたのだから。 「姫様。馬超殿」 「よー。俺はもう姫様の子守は厭きた。だからアンタと交代な」 「こ、子守って酷い!孟起!!」 「子守に近いだろ?さっきの話を趙雲に聞かせてやれよ。俺よりいい答えが返ってくるさ」 そういい残して、趙雲の返事すら聞かず馬超は行ってしまう。 残されたは好き勝手してくれる馬超を少し恨めしく思う。 「馬超殿と随分打ち解けたようですね、姫様」 にっこり笑う趙雲。 「え?そ、そうですか?まぁ、最初から堅苦しいのが苦手みたいだから・・・」 趙雲もその辺馬超のようにしてくれればいいのに。 「それで、先ほど馬超殿がおっしゃっていた話と言うのは?なにか悩み事でも?」 「あー・・・そのー・・・・」 馬超にはいえて、自分には言ってもらえないのかと趙雲は少し寂しげな表情に変わる。 別にそう言うわけではない。 ただ話の内容を思うと、あまり多くの人に聞かせたくないのが本音だ。 それも同じことだろう、馬超には言えて、趙雲には言えない。その差はなんだ? 「少しだけ殿の気持ちがわかりました」 「は?」 「以前言いましたでしょう?殿は姫様が関平には何でも話すけど自分には話してくれないと・・・」 この地を得るための戦に出る前の話だ。 そういえばそんな話を趙雲から聞かされた。 「今の私は、あの時の殿と同じのようです」 「子龍様、それはなんというか・・・・」 も困ってしまう。 そんなに自分は馬超ばかりに話しているだろうか? 「そうですね、じゃあ・・・・あ・・・」 「姫様?」 はある一点を見つめると、表情を曇らせる。 そして趙雲の袖を引っ張り歩き出した。 「姫様、どうして?」 「・・・・・・さっきまで孟起と城内散策していたんです。まだわからないこと多いし。 子龍様。よければ案内してください。子龍様の方がお詳しいでしょう?」 それは構わないが。 趙雲は引っ張られるままに歩く。なにかを見つけてのこの行動だ。 趙雲はチラリと振り返る。 (殿と奥方様?) 趙雲が目にしたのは仲良く庭にいる二人の姿だ。 「姫様。お寂しいのならば、そう殿におっしゃった方がよろしいかと・・・・」 ピタリと足を止める。 は俯く。 「・・・・・そんなこと言えませんよ。言いたくないです・・・・」 「姫様、しかし」 「寂しいんじゃないです。私はただ・・・・・もう昔みたいには戻れないんだなって思っただけで」 小声で「尚香様に嫉妬しているだけです」と零した。 「姫様・・・・」 「兄ぃの一番は私じゃないから・・・・それはいいんです。けど、頭でわかっていても気持ちが追いつかないっていうか」 尚香が嫁いできたのが突然だったから。 そしていとも簡単に兄の心を掴んだ。 あれよあれよと言う間に戦の所為で離れてしまった。 その戦に尚香は共に出て、より強く兄と絆を強くしたようだ。 「ごめんなさい・・・変なこといって・・・・」 は趙雲の袖を掴んでいた手を離す。 尚香のことが嫌いとかそういうわけではない。 「孟起にも言ったんです。こんな、乱世なんかになったから・・・もうあの頃の生活には戻れないんだって。母様と兄ぃと三人で暮らしているの、すごく楽しかったから・・・・」 たとえ裕福な暮らしじゃなくても。 わけもわからず、巻き込まれた自分が得た初めての場所だったから。 「姫様。確かに今の世は荒れています。それを嘆いて殿は、自らより良い世を造ろうと今懸命にやっておられます。親子3人だけの生活が良かったのも頷けますが、この先、殿が天下を治めればもっと良い世がやってくるはずです。そして、姫様も色々な方と関わることで、きっと世界が変わると思いますよ?」 「子龍様・・・・」 「生意気なことを言ってしまいましたが・・・」 は趙雲に顔を向けた。 そんなことないと首を横に振って。 「子龍様のいう事わかります。それに、兄ぃが旗揚げしたからこそ・・・・って思うこともありましたし」 それは馬超に言われて気づいたことだが。 「どんなことですか?」 「子龍様と出会えたことです」 「え!あ、そ、そうですね・・・・反董卓連合に参加していなかったら、私が殿にお仕えすることもなく」 と出会うこともなかっただろう。 「子どもみたいに駄々こねてごめんなさい。私、尚香様とも仲良くしたいから・・・・少しずつ頑張ってみます」 「はい。それがいいと思いますよ。きっと奥方様も姫様と仲良くしたいと思われていると思います」 だったらいいなと思う。 散々自分は尚香を避けてしまっていたから。 「孟起じゃなくて、最初から子龍様に話しておけば良かったです」 「そんなことはないと思いますが」 「あります。子龍様、今、お暇ですか?」 は改めて趙雲に予定を聞いた。 「はい。今の所時間は空いております」 「だったら、町に行きましょう!私、欲しいものがあるんです」 はすっきりしたかのように、表情を晴れやかにしている。 やはりこの姫は笑っている方がとてもいい。趙雲はそう思った。 「何が欲しいのですか?」 「お菓子です。美味しいお菓子を売っているお店があると教えてもらったので」 それを買って、尚香に届けてみるのもいいだろうと思ったそうだ。 だったら断る理由はない。 「はい。お供いたします」 これがきっかけになるならばと。 いつもならば尚香とは問答無用で超仲良しさんなんですが、珍しい感じですね。
ま、たいしたことはないですw
08/09/17
13/10/31再UP
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