花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説

「趙雲、交代だ!」

馬超は持っていた模擬棒を趙雲に向けて放った。
趙雲はそれをしっかりと受け取る。

「ええ。いいですよ」

関平は毎日鍛錬を欠かさず行っていると聞いた。
関羽も息子の成長が楽しいようだし。
なにより、これから劉備を支えていく一人の武将として関平には期待したい。

「お願いします!趙雲殿」

関平も馬超に続き、趙雲にも相手をしてもらえるとなって目が輝いている。

「では、姫様。少々失礼いたします」

「はい。平ちゃんのことたんと鍛えてやってくださいね」

は趙雲を見送る。
それと入れ替わりで馬超がやってきた。

「姫様。先ほどとご機嫌が随分違うようですね」

「え?あ、あは・・・・そうですか?」

「趙雲殿がそばに居られると。と言った方が正しいようで」

回りくどい事は嫌いな性格のようだ、馬超は。
そんなに自分はわかりやすい顔していたのかとは恥かしい。
でも、それにまったく気づかない趙雲はどうなのだろうか?

「歴戦の勇将も、色恋沙汰には鈍いようですが」

馬超にもそれはあっさりそれは見破られた。
彼は隣でくつくつと笑っている。

「孟起様。できればあまりからかわないで欲しいのですが・・・」

「それは姫様ですか?趙雲殿ですか?」

「両方でお願いします」

なんだつまらん。馬超の顔がそう言っているのがわかった。
先手を打ってよかったというところだろうか?





【6】





趙雲と関平に視線を向けると、二人とも真剣に、かつどこか楽しそうに打ち合いをしている。
趙雲にとって、関平は期待している弟分で、関平にとって大人だらけの軍の中でも一番気安い仲だろう。
本当楽しそうだなとは微笑ましく思ってしまう。
きっと、趙雲と関平の方が友好度は高いだろう。なんてことを思ってしまう。
これは幼馴染に対して嫉妬だろうか?
そんな事を言えば、きっと関平はすごく呆れかえり、すごく嫌な顔をするだろう。
もしかしたら「羨ましいならば、そういえ」とでも言いそうだ。

「あ。孟起様」

ややあってからが馬超に言う。

「なんですか?」

「私のこと、そう畏まって接することないですよ?普通でいいんですけど」

「はあ・・・ですが、趙雲殿は」

趙雲を見て、あと、劉備の妹だと聞いているので同じような態度をとるのだろう。

「子龍様は何度言っても変えてくれないんです。兄ぃはともかく、私はそんなんじゃないんです、本当に」

ちょっと頬を膨らます

「だから、姫様。じゃなくてって呼んでください。みんな名前で呼んでくれますし」

姫扱いするな。そうは言っているのだろう。
本当にそうなのか?と新参者ではわからないのだが、確かにここへ来る前に
孔明や月英は姫とは呼ばず「殿」と呼んでいた。

「本当にそれでいいのですか?」

「いいって言っているじゃないですかーあれですか、孟起様も子龍様と同じで頑なに拒否しますか?」

一線を引かれたみたいで嫌なのだ。
馬超たちにしてみれば、主君の妹。そういう立場だろうと思うのだが。
は劉備が国を起こす前から一緒にいる同等の仲間意識の方が強いのだ。
一緒に放浪してきた身。苦労を共にしてきたのだから。

「別に拒否などしないが・・・・」

の勢いにちょっと押されてしまう馬超。

「じゃあ・・・。でいいのか?俺もまあ、こっちの方がやりやすいんだが」

「はい。それでお願いします」

「だが、逆ににも同じようにして欲しい。俺の方こそ様付けされることないんだ」

「えと・・・孟起でいいのかな?」

「ああ。その方がいい」

なんだ、やっぱり普通の子なんだと馬超は思った。
初対面では暗そうな奴だと思ったが何か悩んで、それを趙雲が晴らしていたようだし。
実際は気安い子なのだと親近感が湧いた。

「本当。子龍様にも同じようにしてもらいたいんだけどなー」

「一度決めたらこう。そういう奴だな、あれは。もそれでは苦労するが攻略のし甲斐があるだろう?」

「孟起も面白がって・・・平ちゃんもそうなんだもん」

「娯楽が少ないからだろう」

「人を娯楽の道具にしないでよ」

さっきまでの態度が嘘のように打ち解けている二人。

「だが、これからは側に居る機会が増えるんだ。いいんじゃないのか?」

「まあ・・・そうだけどね。あ、そうだ。兄ぃと尚香様の様子はどうなのかな?」

はもう一つ気になっていることを馬超に訊ねる。

「どうって言われても・・・別に普通だ。というより、俺はそうそう顔をあわせていたわけでもないしな」

劉備とはそうでも、尚香とはそう話す機会もないらしい。
それがどうかしたのか?と馬超は訊ねるが、は別にとしか答えなかった。



***



それから数日後。は趙雲たちと共に劉備のいる益州成都へ出立することになった。
馬車を用意すると関羽が言ってくれたのだが、荷物もそんなにないので、趙雲か馬超の馬に相乗りさせてもらうと断った。

。達者に暮らせよ」

「うん。平ちゃんも。中々会えなくなっちゃうけど、文出すから」

これからは暫く、いつかまではわからないが、関平とは遠く離れて暮らすことになる。
いつも一緒だった幼馴染。
なんだか寂しいものがある。

「ああ。拙者もなるべく出す」

武芸に比べて苦手な部類だ。だが約束はすると関平はいう。

「兄者によろしく伝えてくれ。それがしたちが荊州を守るとな」

「うん。雲兄ぃも無理しないでね」

ギュッと関羽に抱きつく
劉備の義兄弟となった関羽、張飛とも血の繋がりはないがにとっては大事な兄に変わりなかった。

「では、参りましょうか、姫様」

「はい」

「荷物は俺の馬にくくりつけてやったから、趙雲。お前がを乗せてやれ」

「え?あ、はい」

趙雲は頷き、先に騎乗しに手を差し出す。
はその手を取り、引っ張りあげられながら騎乗した。

「関羽殿、関平!いずれまたお会いいたしましょう」

「ああ。貴殿たちも兄者のことよろしく頼む」

関羽たちに見送られて趙雲たちは出発した。





「ねぇ、玄徳様。そろそろ妹さんがこちらに来るんでしょ?」

成都城の一室で、尚香が劉備に何気なく聞いた。
趙雲と馬超が荊州まで迎えに行ってくれている。そろそろ来る頃だろうとは思っているが。

「ああ。ようやく家族でゆっくり暮らせる」

劉備の目が優しく笑っている。

「玄徳様もお兄さんって顔しているわね」

「?」

何を当たり前なことを劉備は傾げる。

「ちょっと妬いちゃうな。妹さんに」

「尚香殿」

尚香はくすくす笑う。
まだそう目の当たりにしたことはないのだが、この兄妹も仲が良いのだろうと感じる。
自分の所もそうだった。
長子孫策、次兄孫権。二人の兄は尚香を可愛がってくれた。
孫策は亡くなり、孫権は戦略政策の為に劉備に嫁げと命じた。
この兄妹たちはこの先どうなるのだろうか?
劉備の妹。というだけで周りが放っておかない様な気もする。
しかも、妹は自分と年も変わらない。格好の政事の道具になる。
劉備がそう命じるかは微妙なところだが。

「妹さんが嫁ぐ日が来たら、玄徳様泣いちゃいそうね」

が嫁ぐ日か・・・・どうだろうな。相手にもよる」

一応、兄として妹が気にしている相手のことは知っているから。
彼の事は劉備も信頼しているから問題はない。
尚香はお見通しだと言っているような劉備の態度にやっぱり、妹さんに妬いてしまうと笑った。




成都までの道のりはちょっとした旅だった。
恐らく趙雲と馬超のみでなら、多少馬に無理させて短期間で成都に着いただろう。
だが、を乗せているだけで、その道のりは長くなっていた。
途中の宿屋では二人に詫びる。

「いえ。そんなこと気になさらないでください」

「そうですか?」

「室内に閉じこもっているよりよっぽど気が楽だ」

二人とも別にこれといって考えていないようだった。
賑やかな飲食店での夕食。
益州にはもう入っているので、人々の話題は新しい君主劉備のことで持ちきりだった。
人々の関心は誰が君主になろうと、ちゃんと収めてくれればそれでいいらしい。
仁の御仁だと言われている劉備なら多少はまともだろうな。などと揶揄している者もいる。
劉備の人柄を知っている趙雲たちには反論したいこともあるが、一々それを口にしてもしょうがない。
この先劉備が人々にその気持ちが通じるようにするしかないのだ。
それに劉備に惹かれて着いてきた民たちもちゃんといるのだ。

「姫様こそ、早くと気が急いているのではありませんか?」

劉備に会いたいと。

「そうかぁ?このままチンタラ馬での移動の方が、こいつには良いだろ」

趙雲と一緒にとはあえて口にせず。
そう思った事は揚げたての鳥のから揚げと一緒に飲み込んでしまう馬超。

「まあ、ゆっくり景色を楽しむのはいいと思いますが」

「そうじゃねぇよ。バーカ」

本当鈍いなぁ。馬超は本気でを哀れんでしまう。
こんな鈍感に恋するなどよほどの根性がなきゃ今後対応に泣かされるだろう。
意味がわからない趙雲は馬超を軽く睨むが、馬超は我関せずと流している。

「あ、あの。子龍様も、孟起もせっかくのお料理冷めちゃいますよ?」

は食事を楽しもうと勧める。

「食事といえば、私は月英さんの点心が久しぶりに食べたいなぁ」

関平と一緒に何度かご馳走になった。
あの味にハマると他所の店で点心を頼めないような気がするくらいだ。

「きっと月英殿は作って待っていると思いますよ」

趙雲がにこやかに話に乗ってくれる。

「へぇ。そりゃ興味あるな」

から揚げを頬張りながらも馬超も月英の点心に惹かれているようだ。

「孟起もきっとハマると思うよ。みんな月英さんの点心大好きだから」

「そうか。では頼んでみるか」

他所の食事処でする話ではないよなと思いながらも、つい月英の点心を思い出してしまうだった。



翌朝。再び出発するわけだが。

。俺の後ろに乗れ」

「?」

「お前の荷物は趙雲の馬にくくりつけといたから」

馬超はさっさと騎乗の人となっている。

「ま。趙雲との相乗りじゃなくて残念だろうがな」

とにやっと笑う馬超が恨めしい。
趙雲の方は気づかず、普通に荷造りに専念している。

「別に、そんなこと考えていないもん」

「わかった。わかった。ほら」

馬超が手を差し出すので、はその手を掴み、馬超の後ろに乗り込んだ。
大分相乗りにも慣れてきた。

「準備できましたよ、馬超殿」

「おう。もいいか?しっかり捕まっていろよ」

落ちないようになと意地悪く言う馬超。

「落ちないって・・・え・・・」

馬には慣れたが、それは趙雲がを気遣って乗せてくれていたからだ。
それでもゆっくりの速度だった。
だが、今度は馬超が騎手で、そうは行かないらしい。

「でも。馬超殿の方が馬術には長けていますから、大丈夫ですよ。姫様」

「だけど、ちんたら走るのはもう厭きたからな。そら、行くぞ!」

「え!?ちょ、ちょっと!」

心の準備が出来ていないと慌てるが、馬超は馬を走らせた。趙雲もそれに続く。
思わずかなりの速度で怖いのだろうと想像し、馬超にギュッとしがみつく。

「・・・・・?」

だが、思ったほど馬上は揺れていない。
速いには速いのだが、圧迫感なども大して感じない。

「趙雲が言ったろ?俺は馬術に長けているって」

「さ、最初からそう言ってくれればいいのに!脅かすようなことするんだもん」

想像以上の腕前のようだ、馬超の馬術は。
馬超だからこそ、かなりの速さでも、相乗りしている相手に対して負担を強いることなく走っていられるのだ。

「でも、急にどうしたの?急ぐなんて」

「あ?単に月英殿の点心とやらが気になるだけだ。あのままの道のりじゃ食えるようになるに何日かかるかわからん」

何か急ぎの用でもあるのかと思えば、理由が点心とは。
馬超らしいような気もするが、逆にそういわざる得ないような理由が隠されていないかと勘ぐってしまう。

「馬超殿の急な申し出には驚きましたよ」

馬超と並行して馬を走らせる趙雲。

「いいじゃねぇか。俺だけ、その美味い点心の味知らねぇんだぜ?」

「まあそれは仕方ないと思いますし」

軍師諸葛亮の奥方である月英。
凛とした涼やかな佇まいの女性だが、戦場では男達に引けを劣らず弓を引く。
さらには頭脳明晰でもあり、自分達では考えられないような武器の開発まで行っているのだ。
その女性がさらに羨望されているのが、料理の腕前。
気にならないわけがない。

「急がなくても、月英さん逃げないよー」

「いいじゃねぇか。お前だって早く殿に会いたいだろ?」

「そうだけど・・・・」

ちょっとだけ気乗りしない部分もあるのだが。

「この速度なら明日には成都に着くぞ」

馬超はさらに速度を上げる。
思わず体がカクンとなって馬超の背中に鼻をぶつけてしまう

「孟起!」

「黙ってねぇと舌噛むぞ」

馬超はの非難など物ともせずに馬を走らせる。

「馬超殿。急ぐのはかまいませんが、姫様に怪我を負わせたら承知しませんよ」

「俺がそんなヘマするかよ。が勝手に落ちなきゃ問題ないだろ」

「孟起ってば!」

馬超の体に手を回してさえいなければ、殴ってでも文句を言うのだが、今は手が離せない。
口でしか文句を言えないのが腹立たしい。
涼しげに笑みを浮かべている馬超に少々ご立腹で膨れっ面の
見ている趙雲が思わず笑ってしまうほどだ。

(二人とも仲良くなられて良かった)

のん気にそんなことを思ってしまう趙雲だった。








アニキ肌馬超の登場はこちらとしても頼もしいです。からかいつつも彼女を可愛がっている感がいいなぁと。
ただ、趙雲の鈍さには彼も撃沈ですw
08/04/04
13/10/30再UP