花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
「ねぇ、平ちゃん。私、ちゃんと笑えていたかな?」

城の見晴らしのいい場所にと関平はいた。
劉備が益州成都で劉璋と戦を始めたと知らせが届いたのはもう幾月も前だ。
趙雲や黄忠、尚香の活躍により、劉璋は降伏し劉備は益州を得たそうだ。
だが、領主が代わった所為で益州は慌しいようで、は関羽親子が守る荊州にまだいた。

「笑えていたというのはなんだ?」

関平は城壁の一角に腰を下ろしている。

「というより、誰に対してだ?」

関平の脳裏には対象となる人物が二人ほどいた。
劉備と趙雲。
だが、の口からは違う人の名が出た。

「尚香様」

赤壁の戦い後、劉備に嫁いできた孫呉の姫だ。

「奥方様?さあな・・・・拙者はと奥方様が一緒に居る姿を見ていないからな」

尚香はほぼ劉備と一緒にいるし、はそんな二人に近づかないで、月英や関平の側にいることが多かったから。

「そっか・・・」

「仲が悪いわけではないのだろう?」

「・・・・うん。別に喧嘩したとかないよ」

「ならなんだ?」

言わないとわからないぞ。と関平はいう。
という事は、話を聞いてくれるという事だろう。

「兄ぃを盗られちゃったみたいで、つまんない・・・・」

「子どもだな。

「子どもですよー」

噴出す関平。は関平を睨む。

「でもいいじゃないか、お前には趙雲殿がいるじゃないか」

「・・・・・馬鹿平。子龍様とはそんなんじゃないもん」

素敵な一方通行だ。
自分もそんなに色恋事情に詳しいわけじゃないが、趙雲も鈍いというのは先日のの話で知った。

は悩み事がいっぱいで大変だな。殿のこと、趙雲殿のこと」

「・・・・」

「両方追って大変だな、本当」

うーんと関平は伸びをする。今日も空は澄み渡り実に気持ちのいい天気だ。

「他人事みたいな言い方するー」

関平はけろりと頷く。

「他人事だ。殿のことはお前のただの我がままだしな。嫌なら嫌だと言えばいいのにいい子でいるから」

「だ、だってー・・・・・今日の平ちゃん、意地悪だー」

は恨めしそうに関平を上目で見る。
唇を尖らせ、本当に子どもだと関平は思ってしまう。

「うじうじするは嫌いだからな」

はっきり関平に言われて、は益々顔を伏せてしまう。
うじうじしたいわけではないが、関平にはどうしても他の誰にも言えないことを愚痴ってしまうのだ。
そうそう毎日聞くのは関平も耐え難いのだろう。

「あ・・・・迎えが来たな」

関平の目に、城のすぐそこまで向かってきている二頭の馬の姿が見えた。





【5】





劉備の命令で荊州までやってきたのは趙雲だった。
もう一人共に別の男がいる。
二人は早速関羽の待つ室へ向かった。

「お代わりないようですね、関羽殿」

両手を突き関羽に一礼する趙雲。
隣の男もそれに習う。

「ああ。特に知らせるようないざこざもない。して、隣の御仁は?」

「馬孟起と申す。此度劉備殿にお仕えすることになりました」

薄い金の髪が揺れる。
鋭い双眸だが、それは意志の強さから見て現れるものだろう。
また義兄は心強き仲間を得たようだ。

「馬超殿と姫様をお迎えにあがりました」

それと。懐から劉備からの文と孔明からの文を関羽に渡した。

「そうか。を・・・・ああ、ならばを呼んでおけばよかったな・・・関平と城内にはいるようだが・・・」

相変わらず二人は一緒なのかと趙雲は小さく笑う。
その姿がいとも簡単に想像つくので。

「だが、すぐに出立というわけではあるまい?お二人もしばし休まれて行くだろう?」

「はい。そのつもりです。急ぎというわけでもありませんので」

「うむ。だったら、時間が空いた時に関平の相手でもしてやって欲しい。馬超殿もぜひ」

関羽に乞われ馬超は頷く。

「関羽殿のご子息。話には聞いております。その腕前がどんなものか楽しみですな」

関羽は高らかに笑う。
まだまだ息子は半人前だと。

「では、室の用意をさせよう。ゆっくり休むといい」

「はい」

「では、後ほどまた」

関羽は女官に命じ二人を案内させた。



「その殿の妹ってのはどんな方なのだ?」

馬超が改めて趙雲に問う。
馬超は西涼の太守馬騰の息子であるが、父親、一族を曹操に殺されてしまう。
客将となり方々を点々とし益州の劉璋の下で落ち着けるが、成都を攻めた劉備と戦いその人柄に大徳を見出し、以後従兄弟の馬岱共々劉備に帰順を申し入れたのだ。
年も近い所為か、趙雲と一緒に行動することが多く、今回も自ら進んで趙雲の共を買って出たのだ。
劉備の妹というのを見て見たいという興味多少はあったのだろうが。

「年は奥方様と変わらないようで。自ら進んで民たちに手を貸し、殿の助けになろうとする心優しき方です」

「へぇ」

趙雲が優しく笑うので、本当どんな人なのだろうかと興味が一層沸く。

「関羽殿もおっしゃられていましたが、普段は関平と仲良く過ごしていますよ」

「姫君と関平殿は恋仲か?」

素朴な質問を馬超はしてみる。
趙雲は首を傾げつつも違うようだと答える。

「幼馴染だとは伺っていますが・・・・私にはそこまで立ち入った事は聞けませんよ」

「ふーん」

関羽にしてみれば、息子と姫君が深い仲ならいいものじゃないだろうか?
関羽も張飛同様、その姫君を可愛がっているようだというのは聞いていたから。

「趙雲殿!」

話の主役がご登場だ。
関平が趙雲の姿を見つけ駆けてきた。
その関平の少し後ろを着いてきたのが、噂の姫君だと馬超にもわかった。

(・・・・傾城級の美女ってわけでもないな・・・・普通だな・・・・)

見た目の評価を思わず優先してしまった。

。趙雲殿がお迎えに来てくださって良かったじゃないか」

「え?あ・・・・うん。そうだね」

やんわりと笑うと呼ばれた姫君。
どこか気分が乗らないような、初対面の馬超が見ても苛っとするような態度だ。

「姫様。お久しぶりです。お変わりなくお過ごしでしたでしょうか?」

「雲兄ぃたちと一緒でしたから、私は特に。子龍様は戦でお怪我などされませんでしたか?」

「・・・・・姫様?」

趙雲もの変化には気づいたようだ。
だがここで深く追求はせずに「ええ」と頷く。
そして、ようやく二人に馬超を紹介する。

と申します。孟起様、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ・・・・」

なんか暗い女だな。
それが馬超の印象だ。
だから気分を変えようと馬超は関平に話しかける。

「関平殿。暇なら手合わせでもどうだ?関羽殿にぜひと乞われ、俺も貴殿の腕前が気になるのだ」

「そ、そんな。それがしはまだまだ半人前で・・・でも、手合わせはぜひお願いいたします!」

関平は目を輝かせる。

「あ。でもお疲れではありませんか?」

二人は来たばかりだ。

「いや、構わない。体力が有り余っているんだ」

「そうですか?ではお願いします。趙雲殿もあとでお願いします」

「ああ」

早速鍛錬所へ行こうと関平と馬超は歩き出す。

「姫様も参りませんか?久しぶりにお話いたしましょう」

「・・・・・はい」

気分が乗らないままだが、趙雲の厚意を無下にしたくなかった。



***



「お願いします、馬超殿!」

「ああ」

二人は模擬棒を構える。
関平が先に動き、打ち込んでくるのを馬超が受ける。

「・・・・平ちゃん楽しそう・・・・」

「本当ですね」

二人の仕合を趙雲とは並んで見ていた。

「迎えが殿でなくて残念でしたか?」

趙雲はの落ち込んでいる原因をそれだと思ったのだろう。
迎えに来ますよ。なんてことを期待させてしまったのかと先日のやり取りを思い出してしまう。
だがは首を横に振る。

「姫様?」

「兄ぃが忙しいはわかっていますから」

それに益州と荊州、蜀という地を得た今、主となった劉備がほいほい好き勝手できないだろう。

「ちょっと・・・平ちゃんと喧嘩しちゃいました・・・・」

それが落ち込んでいる原因。
関平の方はそんなに気にしていないのだが、は先ほどのやり取りを酷く気にしているのだ。

「それは・・・・また珍しいですね」

「私がいけないんですけどね。でも・・・・やっぱり堪えるなぁって・・・」

嫌いなんていわれてしまって。
それはうじうじしているが「嫌い」なのであって、口も聞きたくなくなるような嫌いではないのだ。
関平に甘えすぎたのだと思う。

「関平はそんな素振りみせていませんでしたよ?」

「・・・・・・」

「気にしすぎですよ。本当に喧嘩中なら今の今まで一緒にいましたか?」

突き放しもせずに居たではないか。

「姫様。笑ってください。姫様は笑顔で居られる方が似合いです」

「し、子龍様っ・・・は、恥かしいです」

「あはははっ。そうですか?」

顔を赤くしながらも、はようやく笑った。
確かに、気にしすぎなのかもしれない。
自分でもそのうじうじは消し去りたいとは思うから。

「姫様が笑うと花が咲いたように思えます。長坂ではその笑顔に人々は癒されていましたから」

「そ、そんなこと。ない、ですよ?」

褒めすぎだと思う。
それよりも、趙雲のその優しさに自分は癒されていると言うのに。

「でも。以前のような無理して笑顔を作らないでくだされ・・・あれは余計に不安になりますから」

劉備たちが益州へ向かう直前のことだ。

「笑えとか、無理するなとか・・・・子龍様注文が多いです」

「そうですね。はははっ、本当だ」

「ふふっ」

趙雲が隣にいて、は自然と笑顔でいられる。
笑顔ってそういうものではないだろうか。



「なんだ、ありゃ・・・・」

二人の仕合など見ても居らず、仲睦まじく談笑している趙雲と
馬超の勝ちで一本目が終わった所で馬超が二人の様子に気づいたのだ。
肩で息をし、呼吸を整える関平。
馬超は本当体力が有り余っているのが良くわかった。

「趙雲殿限定のの姿です」

なんとか落ち着いた呼吸。体をほぐしながら関平が馬超に説明する。

「はあ?それって・・・・姫君は趙雲のことを?」

呆気にとられている馬超に関平は笑う。

「はい。そうですよ」

「なんだ・・・俺はてっきり関平殿とそういう仲だと思っていたが・・・」

「馬超殿・・・・よしてください。は拙者にとって妹みたいなものですよ。幼馴染で気を許してはいますが」

端からに恋愛感情など求めていないのだ。
それに父たちを含めて家族ぐるみの付き合いであるのが大きいのだ。
あれはあれで一つの家族のようなものだ。

「それと、馬超殿。拙者のことは関平とお呼びください」

馬超の態度も関平の前ではすっかり素になっているようだし。

「ああ。そうさせてもらおう」

「では、馬超殿。もう一本お願いします」

「そうしたいが、趙雲と交代しよう。流石に俺も少し疲れた」

まだ体力が有り余っているように見えるが関平が無理を言えるはずもなく。
今度は趙雲と仕合できるならばそれはそれでいいなと頷いた。

(趙雲限定で表情が変わる姫君か・・・・中々面白そうだな)

趙雲の方がまったくそれに気づいていないので余計に。
馬超は含みある笑いをしながら趙雲を呼んだ。








ゲーム内じゃ熱血で、義にうるさい人ですが、当サイトではアニキ設定ですw
08/03/26
13/10/30再UP