花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
後に赤壁の戦いと呼ばれた曹魏と連合軍の戦いは、連合軍が勝った。
その後劉備は荊州という足場を得た。
少しずつではあるが、劉備も天下に名乗りを上げ始めていた。
劉備のもとには少しずつ、色んな人たちが集まり、勢いも増し始めていた。
は小さかった流浪の軍が段々大きくなることに喜びつつも、兄がどんどん離れていくようで少し寂しかった。
それから数日後。

「私に同族の劉璋殿を攻めよというのか!?」

珍しく怒気を露にした兄の声を聴いた。
いや、初めてかもしれない。
驚いただったが、話がこれから先のことだと思うと、が割って入ることもできなかった。

「兄ぃも忙しいんだよね・・・・」

一緒にいることが少なくなった最近。
わかっていても寂しい。
そんな兄のもとに、孫権の妹尚香が共を引きつれやってきた。
尚香が劉備に嫁ぐ為にやってきたというのだ。
突然過ぎて驚きつつも、これが政略結婚であるというのが目に見えていた。
だが尚香は言った。

「孫呉は関係ない。私は私の意思で孫呉とは違う天下を見に来たの」

兄の、国の意思など関係ないと言い切った。
そうしているうちに劉備は益州を得る為に出陣することになった。





【4】





「また、お前を残していくことになるが・・・すまないな、

出陣が決まると劉備に呼ばれた。

「ううん。いいの。私が一緒にいても役に立たない事はわかっているから」

本当は一緒に行きたかった。
離れ離れになるのが嫌だったから。
ただでさえ最近距離を感じてしまっているのに。
でも、我がままを言えるような子どもではなかったのだ。

「兄ぃの方こそ、大丈夫?戦・・・・したくないんでしょ?」

「・・・・ああ。そのことはが心配しなくてもいい。大丈夫だ」

「答えになっていないよ・・・・」

不安は尽きないが、に離してもしょうがない。
そう言っているように思えた。

「ははっ。すまない。だが・・・・・私も腹を括った」

この短期間に何があったのだろうか?兄の顔は変わっていた。
これも兄に嫁いだ孫呉の姫の影響だろうか?

?」

変わりに曇った表情のを劉備が心配そうに伺っている。

「なんでもない。気をつけてね、兄ぃ」

「ああ。戦が終わり、落ち着いた時にを呼ぶ。それまでの辛抱だ」

「はい」

は頷き室から出た。扉に背を着けため息をついてしまう。
この城には関羽と関平たちも残る。
劉備たちが益州を攻めている間、曹魏と孫呉から攻められないように睨みを利かせておくためだ。
孫呉は尚香が劉備に嫁いだこともあり、そう急ぎ攻めてくる事はないだろうが、安心は出来ぬ存在だ。
それでも戦にを連れて行くよりはましなのだろう。

「・・・・・兄ぃ・・・・」

一緒に行きたいと我がままを言えばよかっただろうか?
距離が出来たと感じているのは自分だけなのだろうか?
わかっていたはずだ。
天下を治める為に、民の為につくすと劉備が決めていることに。
その為に自分だってできることは手伝おうと思っている。
それなりにしてきたと思っている。
でも、寂しい。
いつからそんな風に思うようになったのだろうか?

「姫様。いかがされました?」

劉備に用があったのか、趙雲がやってきた。

「子龍様・・・あ。兄ぃに用があるんですね。扉塞いでしまってごめんなさい」

スッとは扉の前を趙雲に譲る。

「ええ。そうですが・・・でも、姫様?」

「戦の前で忙しいみたいで。子龍様もご無理はなさらないでくださいね」

は努めて笑顔でいようとするのが趙雲には感じ取れた。
だがは何も聞かないで欲しいというような拒絶を趙雲に取っている。

「は、はい。ですが、殿をお守りするのも私の勤めですから」

多少は無理はしないと。なんて少し笑ってみせる趙雲。

「趙雲?」

扉が開いた。劉備が二人の話し声に気づいたのだろう顔を出す。

「殿。出立の準備整いました」

「そうか。では参ろうか」

劉備が歩き出すので趙雲も続く。
は二人に手を振るも、そこから動こうとはしなかった。

「私は・・・・頼りにならないのだろうな、趙雲」

「え?」

歩き出すと、劉備がそんなことを呟いた。
劉備から一歩下がっているので、主の表情が読めない趙雲だが、なんとなく気落ちしているように思える。

「殿?」

「ああ。すまない・・・・なんでもないのだ」

その声が沈んでいるようなので劉備は溜まらず聞き返す。

「ご無礼を承知でお伺いします。それは姫様のことですか?」

やはりわかるかと劉備は苦笑する。

「昔からには苦労かけてばかりだ。だが、は文句も言わずに私に着いてきてくれる。だが、は何も言ってくれない。ただ私を気遣うばかりで・・・・こういう時、私よりも関平に話すようだしな」

兄よりも幼馴染になんでも愚痴を零すらしい。

「殿・・・・」

「すまない。趙雲も言われて困ることだな。だが妹の心もわからず、民を纏めるなどできるだろうか」

「いえ。姫様は今の状況をわかっておいでで、殿に心配かけまいとしているのではないでしょうか?」

「・・・・今の状況か・・・・」

思い返せばここ数日、軍師諸葛亮と、新たに配下に加わったホウ統と益州攻めについて揉めていた。
ピリピリした雰囲気をは感じとっていたのだろう。

「離れ離れになってしまう今は、きっと何を言ってもお互いがお互いを心配するだけです。
ですから、早く戦を終えて、姫様を迎えに行きましょう」

劉備は足を止めて趙雲に振り返る。

「趙雲。ありがとう」

「い、いえ。差し出がましい真似をしてしまい・・・」

「そんなことはない。戦を終えてからとはゆっくり話すことにしよう」

「はい」

劉備の声音が軽くなったように趙雲は思えた。

「兄者!」

「殿」

張飛と孔明が待っていた。
早く行こうぜと張飛が勇んでいる。

「玄徳様!」

「尚香殿。その格好は・・・」

姿を見せた新妻に劉備は面食らう。
得物である弓を持ち、いかにも戦に出ますとしっかり準備を整えている。

「勿論私も行くのよ。言ったじゃない。私はあなたと共に行くと」

「尚香殿」

「さあ。行きましょう」

劉備は大丈夫だ。尚香がそばにいる。
政略結婚だと言うものがいても、実際そうだとしても二人の想いはそんなものに惑わされているようには見えない。

「趙雲?」

いざ、出立だという時に、趙雲は踵を返す。
それを張飛が気づいた。

「あ。申し訳ない、すぐ私も後を追いますので、今は先に行って下さい!」

「お、おい!」

張飛の止める声を振り切り趙雲は駆け出した。



喊声がここまで聞こえる。
劉備たちが城を出たようだ。
関羽親子が一緒にいるとはいえ、やはり寂しいものだ。

「迎えに来てくれるのは・・・・いつかな・・・・」

劉備と趙雲が去った後、どこにも行かず、姿が見えなくなるまで手を振った。
そしてそのまま扉に背を着け座り込んでしまった。

「兄ぃ・・・・」

膝を抱え顔を埋める。
カツンカツンと駆け足がの耳に入る。

「?」

「姫様・・・まだ居られて良かった・・・」

少しだけ息を切らした趙雲だ。

「子龍様?」

もう出立したと思ったのに、なぜここに居るのだ?
は慌てて立ち上がる。パンパンと服を払って。

「そんな顔の姫様を見ては、安心して戦に出れませんので」

優しく笑顔を向けてくれる趙雲。

「え?あの・・・別に私は」

「殿も心配なさっています。姫様のことを」

「兄ぃが?なんで?だって、私・・・」

心配かけまいと努めて笑顔でいたのに。我がままを言うまいと。

「殿はもっと姫様に頼って欲しいようです。愚痴も関平にではなく殿に話して欲しいと」

愚痴と言われての顔が耳まで赤くなる。

「愚痴っていうか・・・あの・・・・なんで、兄ぃは知っているのですか?」

「さあ?なぜでしょう。私も今さっき聞いたばかりなので」

が思うよりもずっと、劉備は妹を見ているのだ。
は恥かしいと頬を手で押さえる。

「戦が終わった後、沢山殿とお話できますよ・・・その時にお聞きになればいい」

だがは趙雲を一瞥する。
どこか拗ねたような顔を見せる。

「姫様?」

「多分・・・無理です。私、きっと兄ぃには・・・・」

「姫様。ですが、殿は」

「兄ぃの一番は兄ぃを慕う民だから。私の我がままよりも民の声を沢山聴かなくちゃいけないんです」

は笑う。
だけど、少し眉間によせた皺に趙雲は眉を顰める。

「姫様。姫様は・・・・嘘をついていますね」

「え?嘘なんて・・・・」

「本心を隠しておられます。きっとそれが殿にもおわかりなのです」

趙雲はトンと指先での眉間に触れた。
触れられたはパッとそこを押さえる。

「我慢して笑顔を作られることないですよ?」

「でも・・・・私、兄ぃに迷惑かけたくなくて・・・・」

「殿は迷惑だなんて一言もおっしゃっていましたか?」

「そ、そこまで深く話したことないです・・・・兄ぃが人の上に立つようになってから・・・邪魔しちゃいけないと思って」

周りに色んな人の輪ができていた。
それはにも喜ばしいことなのだが、寂しさが募る。
もう一緒に畑仕事をすることもないのだとか、義母と三人で過ごすこともないのだなど・・・。

「あ、あと・・・・・兄ぃ・・・・お嫁さんもらったから・・・・・」

これが一番大きい。
さっきは劉備の一番は民だなんて口にしたが、本当は違う。
きっと兄の一番は尚香だろう。
尚香が来てから悩んでいた兄が変わったのだから。

「私じゃ、兄ぃの役に立たない、から」

「そんなことありません。奥方様は奥方様で、姫様は姫様で殿をお支えられています。考えすぎです」

「・・・・そうかな」

「私もそれなりに、姫様のご様子は見ておりますので、自信はあります」

などとニッコリ笑った。
趙雲の笑顔が作られたものではない、自然から出たものだ。

「見てたって・・・・」

「姫様。戦が終われば一番にお迎えにあがります」

「子龍様が?」

その言葉に趙雲があわてる。

「い、いえ。私ではなく、殿が。ですよ」

「・・・・・別に子龍様でもいいのに・・・・」

「え?」

「なん「趙雲殿!?」

の返事を関平の驚きの声が遮った。

「趙雲殿!なぜまだ居られるのですか?皆出立したと言うのに」

「ああ。少し用があって。では、姫様、私ももう行かねばなりませぬ」

「はい。お気をつけて・・・・」

「はい」

笑顔をに残し趙雲は颯爽と立ち去る。

「すまぬ、

隣に並んだ関平が謝る。はなんで?と関平を見た。

「だって、その・・・別れを惜しんでいたのだろう?趙雲殿と」

「バッ!馬鹿じゃないの!?そんなんじゃないわよ!」

思いっきり関平の背中を叩く。

「つぅ・・・・〜」

「子龍様、私と兄ぃのこと心配してくれたの・・・・そんな深い仲じゃないもん」

はむぅっと口を尖らせる。

「子龍様も兄ぃもあー言ったけど・・・平ちゃん!」

「な、なんだ!?」

「私の気が済むまで付き合ってもらいますからね!」

沢山沢山。腹に溜めていた鬱憤を関平で晴らしてやる!

「行くわよ。平ちゃん!」

「わ、わかったから。引っ張るな〜」

関平の腕を引っ張り歩きだす

(子龍様。私のこと見ているなら、ちゃんと気づいてくださいよ)

その手の事は疎い人だというのがちょっとわかっただった。








08/03/23
13/10/30再UP