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花と龍と思いのカケラ。
「妹君がおられるのですか?」 「ああ。名はという。にも早くそなたを会わせたいと思っている」 劉備の人柄、その志に惹かれて今まで仕えていた主君から離れた。 不義理とは思ったが、彼が思い描く天下は力によるもの。 それが自分の思う天下とは違った。 ではなにかと問われれば。自分にもまだわからない。 わからないが、今、自分が仕えるべきは劉備だと思った。 思ったから劉備の後を追ったのだ。 「そなたと初めて出会った時、すぐ近くにいたのだが・・・色々会わせるわけにはいかなくてな」 「いえ、別に気になさることは・・・・」 初めてというと、反董卓連合での時かと思い返す。 そうは言われても、実際劉備と話したのもわずかなことだった。 「あれにも沢山苦労をかけた。だがまだまだそれも続きそうだ」 「殿・・・・」 劉備がいつも周囲に見せる顔とはまた別の優しげな顔。 妹のことが本当に大事なのだなと感じた。 いったいどんな娘なのだろうか、なんとなく気になった。 【2】 荊州に逗留していた劉備たち。だがつかの間の平和だった。 曹操が大軍を率いて南進した為に再び放浪を余儀なくされた。 曹操の手を逃れて江東で一大勢力を築く孫呉と手を組む為に現在長坂にいた。 孫呉と手を組み、曹操を倒そうとしているのだ。 ただ、軍だけでの移動だったらそんなに難しいことではない。 予定よりも早く江東へ到着できたかもしれない。 そうはいかなかった。 劉備を慕う荊州の民たちが、劉備と共に行きたいと、苦難の道なりとわかっていても着いてきたのだ。 劉備は彼らを追い払うこともできずに、共に進むことを決めた。 「。しばしの別れだ。無茶するなよ」 「うん。平ちゃんも」 「拙者は父上と一緒で水軍を引き連れてくるのが役目だ。危険はそうない」 関平はできればが自分達と行けば危険は薄れると思ったのだが。 が劉備と進むことを望んでいる。 が安全な場所にいれば劉備の心配不安も少しは拭えるのに・・・。 何が良くて何が正しいのか。などと言うよりそれが人の思いなのかもしれない。 「できれば殿や張飛殿のそばにいるんだぞ。一人でふらふらするなんて危ない事はするな」 「平ちゃん。私そんな子どもじゃないよ」 「子どもとか大人とか関係ないんだ。曹操は大軍を率いている。殿のお命を狙ってのことだ。 きっと荒れるはずだ。そんな中で民だからとか、そんな理由で相手が逃がしてくれるとは限らない」 関平はいつになく真剣だった。 確かに曹操自身や、曹操に近しい者ならば民に手を出す真似は避けるだろう。 だが下に行けば行くほど。手柄を立てようと躍起になって攻めてくるかもしれない。 劉備の下へたどり着くのに邪魔な民をと・・・。 関平が心配してくれることには今度は茶化すことなく真面目に頷いた。 「うん。わかった」 「関平!」 「父上!・・・じゃあな、。また後で会おう」 「うん」 コツンと拳を交わす。 関羽もの姿を見て無理はするなと目が言っていた。 *** 長い道のりを民と進む。 これは思っていたより大変なことだった。 一人の犠牲も出さずに逃げ切る。などというのは机上の空論だ。 曹操軍に追いつかれればきっと多大な被害が出るだろう。 それでも、民は劉備とともにと、心優しき者へ着いていくことを望んだ。 長江の船着場で関羽たちが水軍を率いてやってくる手はずになっている。 そこにたどり着ければ、なんとか逃げ切れるだろう。 一日、二日と曹操軍との小競り合いがある中進む。 聞けば後少しで曹操軍本体が姿を見せるだろう。 だが。 「まいった・・・・はぐれた」 長坂橋を渡ってから、一緒にいたはずの劉備の姿はなかった。 もうぐちゃぐちゃだ。 逃げる民、追いかける曹操軍。 敵味方入り乱れてしまっている。 頼りにしていた張飛は曹操軍を食い止める為に長坂橋で残り戦っている。 これで少しは時間稼ぎができている。 張飛の大喝に敵は怯んでいるのだ。 でも、道は一つではない。 どこからともなくやってくる曹操軍。 そんな中で関平との約束を破ることになった。 は劉備とはぐれてしまい、一人で走っていた。 「兄ぃは馬だしなー・・・・」 なんとか船着場まで行こう。 それだけが今するべきことだ。 「兄ぃの天下を見たい・・・か・・・・」 劉備に付き従う民たちはこぞってそう口にする。 心優しい義兄が、いつの間にか自分ではない別の人たちにとって大きな存在になっている。 「もう、一緒に畑仕事とかできないのだろうね・・・・」 殿と呼ばれ、人の上に立つ立場になってしまったのだ。 多くの人と出会え寂しさは減ったはずだが、違う寂しさが過ぎる。 「あ。だめだめ・・・・暗く考えちゃだめだって・・・しかもこんな場所で」 また新たな喊声が聞こえる。 曹操軍本隊が到着したのかもしれない。 早く進まねば。 そんな中で泣いている子ども達の姿が目に入った。 幼い兄妹だ。 「どうしたの!お母さんたちとはぐれちゃった?」 劉備に着いてくる民たちは老若男女問わずだ。 しかも曹操軍に追われているとなると、親子が離れ離れになってしまうこともあるだろう。 「おいで。お姉ちゃんと一緒に船着場に行こう。そうしたらお母さんたちもきっとそこにいるよ」 泣いている妹の手を引く兄。 は妹の手を引き共に進む。 「あと少し。あと少しだからね」 本当はよくわからない。何日も歩いているわけだし。 それでも後ろ向きなことなど言いたくなかった。 陽が落ちてきて辺りはオレンジ色に染まっている。 夜になれば動けないだろう。 あと少し。本当にそうならばどんなにいいか。 「川だ・・・」 兄のほうが歩いているとその姿を見つけた。 「本当だ、川だ。これ長江なのかな?・・・・でも、このまま沿っていけば船着場に着くよ」 良かったと少し安心した。 自分達以外にもこの場に人がいて、みんな同じように進んでいる。 きっとこの流れの先頭に劉備はいるだろうから。 「おかあさんもそこにいるかな?」 心配そうにを見上げる妹。 は大丈夫だとニッコリ笑う。 「お母さんに心配させちゃっているから、頑張ろうね」 「うん」 たちの横を流れる川を船が数艘横切った。 「!」 「・・・・平ちゃん!」 船は止まらずにだが、たちが向かおうとしている所に同じように向かっていく。 過ぎていく船から幼馴染の顔が見えた。 「あと少しだからな!」 「うん!」 大声でそう呼ばれて、俄然気持ちが楽になった。 大丈夫だと何度も言い聞かせても不安は拭えない。 でもあと少しなのだがとわかると、幼馴染が先で待っているとわかると。 「あと少しだって」 それで気が緩んだのだろう。 後方から聞こえた悲鳴にわずかに反応が遅れた。 「な。なに?」 「あ」 「曹操軍だ!」 青い甲冑がいくつも見えた。 剣や槍を持った兵士達の姿が見える。 集団で迫ってくる。 そして容赦なく民に向けて刃を振りかざしている。 「ウソ!!?」 三人で歩いていてはすぐに追いつかれると、は妹の方を抱きかかえ、兄の手を取る。 「走って!」 子どもを伴ってでは追いつかれるのは目に見えている。 だからって、この子達を置いて自分だけ逃げるわけにはいかないだろう。 悲鳴がどんどん近くなる。 怖い。 自分達も同じように斬られてしまうのだろうか? 「兄ぃ・・・・平ちゃん!」 さっき見えた幼馴染。 なんとかこれに気づいてもらいたい。 「うわっ!」 兄のほうが躓き転んでしまう。 も転びそうになるが、なんとか踏みとどまる。 「大丈夫!?泣いている暇なんてないからね」 「う、うん」 だが、いつの間にか曹操軍の兵士に背後を着かれていた。 「雲長!よくやってくれた」 船着場で再会を果たした劉備と関羽。 到着していた民たちを船へと乗せる。 「兄者も無事で・・・・翼徳は?」 「翼徳は後方で押さえてくれている。だが、そろそろ追いついてくると思う」 いくら豪傑と言われても張飛一人で抑えてはいられないだろう。 「は?」 「途中ではぐれてしまった・・・・探しに行きたいのだが・・・・」 劉備の立場では今それができない。 民も大事だが、劉備こそが逃げ切らないといけないのだ。 「曹操軍本体がそこまで来ております!急ぎ出航の準備を!」 「なに!」 その伝令の言葉にそばにいた関平は駆け出そうとしていた。 「関平!!?」 関羽に呼び止められて立ち止まる関平。 「が。がこの先にいます!まだ今なら間に合います!」 敵兵士の所為で、この場にはたち以外に味方の姿はなかった。 一人残らず斬られてしまった。 もう駄目だ。 さっきと真逆のことしか考えられない。 「兄ぃ・・・・」 一人の兵士がたちに向かって刃を振り下ろした。 避けきれないと思ったとき、は咄嗟に自分の体を盾にしようと子どもたちの上に覆いかぶさった。 「・・・・・・」 ギュッと目を瞑った。歯を食いしばればなんとか痛みに耐えられるかな。 などと可笑しな考えが湧いてくる。いやまだ余裕があるのだろうか? 駄目だと本気で諦めてしまったとき、風が通り過ぎたように感じた。 「ぐあっ!」 出た悲鳴は自分のモノではなかった。 まして子供達でもない。 「・・・・?」 恐る恐る顔をあげると、見知らぬ青年が槍を振るっていた。 「たぁっ!」 多くいる敵兵士とあっさりと倒していくではないか。 「・・・・・」 は思わずその後姿に見入ってしまう。 オレンジ色の陽の光の中、白い甲冑の青年が舞っているかのように見える。 青年はじりじりと迫る敵兵士との間合いを気にしながら、槍を構える。 そしてに向かって檄を飛ばす。 「早く行かれよ!すぐその先が船着場だ!」 「は、はい!」 妹を再び抱き、兄の手を引いては走り出す。 (誰だろう・・・あの人) 顔はよく見えなかったが、不謹慎にも戦う姿に見惚れてしまった。 *** 「!」 「平ちゃん!良かった、私、本当もう駄目だと・・・・」 一緒にいた幼い兄妹も大勢いる大人たちを見て安心したのか泣き出してしまう。 その泣き声に、彼らの母親らしき女性が姿を見せた。 「良かった。お母さんも無事で」 大丈夫だと子ども達に言ったものの、正直それはどうか不安だった。 もしかしたら、すでに敵兵士に斬られていてもおかしくなかったのだから。 母親は何度もに礼を言っていった。 「曹操軍本隊がそこまで来ている。早く船に乗れ、殿も心配している」 本当は関平自身が駆けつけたかったのだが、それができなかった。 そうすることを禁じられたのだ。 曹操軍から逃れる為の準備を怠る事は出来ないと。 だがもう出航できる。 も無事だったのだ、早く劉備にその姿を見せてあげたい。 劉備だけではない、父関羽も安堵するだろう。 「兄ぃ!」 「!」 思わず劉備の胸に飛び込む。 義兄の腕の中で心の底から安心できた。 「無事でよかった。途中はぐれてしまったので、どうしたかと・・・」 「ごめんなさい。結局心配かけて」 甲板には劉備だけではない、関羽や別道から合流した張飛の姿もあった。 「いや、私自身の手でそなたを助けてやれなかった」 「いいよ。私はなんともないから・・・・」 船は動き出した。 本当に曹操軍はそこまで来ていたようで、船着場までわらわらと敵兵士の姿が多くある。 劉備はを離し、船着場へと目を向けた。 その目にはまだ戦っている、あの青年の姿が。 「あ。あの人」 「趙雲!そなたも!」 劉備の声に呼応し青年は走る船に向かって駆け出した。 そして、敵兵士を足場にして弾みをつけて飛んだ。 目一杯に手を伸ばし、あと少しというところで、失速してしまう。 このままでは落ちてしまうが、それを劉備、張飛、関羽がそれぞれ彼を掴み船へと引っ張り込んだ。 甲板へ投げだされた青年の体。 「まったく無茶しやがって」 呆れた様子の張飛。 「無茶だとしても」 劉備は青年に手を差し出す。 青年はその手を掴み立ち上がる。 「私はこの力及ぶ限り、殿の大志を支えたいのです」 関平と離れてその様子を見ていた。 青年の言葉と行動に顔がなんだか赤くなる。 関平はそれに気づき笑った。 「な、なに。平ちゃん」 「趙雲殿に惚れたな、」 「な、なによ。別に、私は・・・・さっきあの人に助けてもらったの!」 別に隠すことないのにと関平は思う。 「ふーん。が前に言っていた殿と一緒にいるお方ってのがあの人だぞ」 「え。あのいい目をした青年って・・・」 「良かったな。やっと会えたじゃないか」 ポンとの背中を叩く関平。 「うん・・・・・あとでお礼言わないとね」 「そうだな」 劉備から紹介されるのを待つか、自分から声をかけるのが先か。 どっちにしようか。少し悩むだった。 無双5仕様なので、姜維がいないので、姜維の役割を関平にお任せです。
08/01/13
13/10/28再UP
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