花と龍と思いのカケラ。




ドリーム小説
【1】





「平ちゃん」

庭で得物を振るっていた関平。
義父関羽に少しでも追いつきたくて、早く認められたくて。
暇さえあれば体を鍛えていた。
そんな彼に同じ年頃の少女が声をかけてきた。

。ちゃん付けで呼ぶな」

関平は手を休める。だが名前を呼ばれてムッとしてしまうのは、子どもみたいな扱いを受けたからだ。

「なんで?平ちゃんは平ちゃんだもん」

「拙者はそう呼ばれても嬉しくない」

拗ねて顔を背けるのはまだまだ子どもではないだろうか?
少女は小さく笑いながらも、関平の側にしゃがみこんだ。

「ッて言われてもずっとそう呼んでいたからなぁ」

「そろそろ卒業しろ」

「気が向いたらね」

「まったく・・・・」

これは当分このままだろうなと半ば諦める関平。
との付き合いももう何年になるだろうか?
血の繋がりはないとはいえ、は関平の義父関羽が義妹と接する子。
正確には関平が主と仰ぐ劉備の義妹だ。
劉備と関羽、そして張飛は義兄弟の契りを結んだ。
だからのことも実の妹と変わらぬ扱いをする。
関平は関羽の養子となってからと出会ったのだが、互いに年齢の所為か堅苦しい付き合いではない。
劉備たちを除き、大人たちばかりの世界では関平が唯一気を許せる存在なのだろう。

当初は兄弟たちだけで行動していたが、劉備が己の志を掲げると関羽たち以外にもそれに応じる者が増えてきた。
だから今では放浪の身とはいえ、一つの軍としてその存在を認められている。
だが先にも言ったがいまだ放浪中。
今はようやく荊州を治める劉表の元に身を置いていた。

「なにかあったのか?」

関平は額からでる汗を拭う。

「別に何かってほどではないよ。平ちゃんは今、兄ぃのそばにいる偉い人知っている?」

「ああ。諸葛孔明殿のことだろう?張飛殿が面白くないって不機嫌だな」

「そうそう。翼兄ぃ拗ねてる。可愛いよね」

関羽たちが妹扱いしてくれるのと同じで、も彼らを兄と慕う。
関羽のことは「雲兄ぃ」張飛のことは「翼兄ぃ」と呼ぶ。

も殿が孔明殿と一緒で面白くないのか?」

は黄巾の乱で世が乱れていた頃に劉備に拾われたそうだ。
が言うには、中学校へ入学したてのこれからの生活に胸を弾ませていた時に神隠しにあったそうだ。
そうだというのは、恐らくそうだろうということ。
には確認のしようがないのだ。
はこことは違う世界から迷い込んだそうだ。
死体が転がっているような場所で飢えに苦しみ、黄巾を身につけた男達に殺されそうになったところを劉備に助けられた。
自分と同じような境遇の子は多くいるだろうが、これも縁だと。劉備が自分の家に連れ帰った。
劉備の母も文句は言わず、を実の娘のように可愛がってくれた。
ここでの情勢や教養を教えてくれたのは母だという。
劉備が黄巾賊討伐に出てしまって数年離れて暮らすが、戻ってきた時に関羽と張飛が一緒だった。
劉備たちはまた新たに旅立つというので、母がにも一緒に行くように告げた。
母はわかっていたのだ。
が劉備と一緒に行きたいと思っていることを。
ここで一緒に見送っても、いずれ一人で追いかけていくだろうと思ったので。
だったら最初から一緒に行くといいと、劉備と一緒の方が母としても安心していられるから。
母のことはいつか乱世が終わった時にでも迎えに来てくれればいいと。
この話を知っているのは劉備と関羽と張飛、それに関平だけだ。

「まあ・・・・少しは寂しいってのもあるけど・・・・兄ぃは忙しいから」

「なんだ。の方が物分りがいいな」

「あー。翼兄ぃが聞いたら怒るよ」

自分の生い立ちに関して暗く見せないのは、劉備たちのおかげなのだろうと関平は思う。
関平と出会った時からはこんな感じだったから。

「本人の前で言うわけないだろう」

それこそ物分りが悪すぎる。

「それで。孔明殿がどうかしたのか?」

最近になって劉備軍にやってきた諸葛孔明。
劉備が三度も彼の住まいを訪ねるという面倒なことをしてまで迎え入れた軍師だ。
元々孔明の師である水鏡先生が「伏龍」と「鳳雛」を手に入れろなんてことを劉備に言ったことが始まりだ。
孔明自身も三度も訪ねて来てくれたことと、劉備の志に惚れこんだこともあり、従ったのだ。
だがそれ以降、二人は常に一緒にいて、難しい話をしているので。
張飛や。は二人の間に入ることができないでいた。

「別にどうもしないよ」

「じゃあなんだ?」

は立ち上がる。

「確かに、兄ぃたちは急がしてくてつまらないし、寂しいこともあるけど・・・・。
でも、色んな人が入ってきたら寂しくないし、それに平ちゃんもいるから私は平気だよ」

「そ、そうか?」

そう言われると照れ臭いものもある。

「あとは。月英さんの点心ご馳走になったし」

「なに!それはずるいぞ!」

思わず口にしてしまい、ハッと口を押さえる関平。
は意地悪い笑みを浮かべる。

「あれあれ〜なんでずるいのかなー?」

「いや、だから・・・・」

「平ちゃん。子どもっぽく言われるの嫌なのに、今ものすごーく子どもみたいな反応だったよね?」

その理由をはわかっているので突っかかるのだ。

「月英さんの点心美味しいもんね〜しょうがないかー」

孔明には月英という奥方が一緒にいた。
彼女が作る料理は確かに美味いのだが、ただ孔明と一緒にいる為に着いてきたのではない。
彼女は孔明の補佐もできるし、武にも長けている。
何より、常人では考えられないような発明も行うのだ。
孔明だけでなく、月英という立派な武人も手に入れたことになる。

関平がずるいと思ったのは、月英自身が忙しいので滅多に料理を披露することがないのだ。
だから彼女お手製の点心を食べられるのは運が良くなくてはならない。
一度食べたらはまってしまうその味。
思い出しただけでもヨダレが出そうになる。

「じゃあ行こうか」

「?」

は関平の腕を引き歩き出す。
関平は得物を置いていかないように慌てて得物を持ち歩く。

「行くッてどこだ?」

「お腹空いたでしょ?お昼食べよう」

確かにもうそんな時間だ。
それに月英の点心の話をしたので、余計に空腹が増す。
はいつの間にか関平の腕に自分の腕を絡めてしまう。
それについて関平は一々文句は言わない。
父と同じで、彼女の事は家族のようにしか思えないからだ。

「そう言えばさあ。兄ぃのそばにもう一人いるの知ってる?」

「もう一人?・・・・・あ、ああ。いたな・・・・以前からの知り合いみたいだな」

「ふーん」

「その方がどうかしたのか?」

「その人って」

の声が別の声と重なった。

殿。関平殿」

「月英殿!?」

優しい笑みを浮かべて月英が手を振っている。

「待ちきれなくて迎えに来てしまいました」

ゆっくりと歩いてくる月英。

「え?迎え?」

「あ。すみません、月英さん。ちょっと平ちゃんと話込んでいたら連れ出すのに、遅くなっちゃいました」

二人の前で止まる月英。

「いいのですよ。私の方が急かしてしまったかもしれませんね」

「あの。いったい・・・・」

「お二人を昼餉にご招待したくて。関平殿、ぜひ」

ばかり食べれてずるいなと思っていた関平。
飯に釣られたとはいえ、表情が一層晴れてくる。

「拙者など・・・良いのですか?」

「ええ。勿論」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあ参りましょう。もうほとんど用意はできているのですよ」

月英が歩き出すので二人も自然と歩き出した。

・・・・」

「嬉しいでしょう?」

「ああ。すごく嬉しい」

夕餉を抜きといわれてもきっと嬉しいかもしれない。
笑顔が零れてしまうのだから。

「ああ。それでさっきの話。どうかしたのか?」

「え?・・・・・あ、ううん。別にどうもしないよ。ただその人とは私会ったことないから」

「そうなのか?意外だな・・・・」

劉備の側にいるもう一人の男。
関羽や張飛はすでに顔見知りだったそうだが、劉備を慕って彼もまたここへやってきた者の一人だ。

「ただね。兄ぃがすごく嬉しそうだったから」

「殿が?」

そう。劉備が。
少し前のことを思い出す。あれはまだ劉備が関羽と張飛。義兄弟たちと行動を共にしていた頃。
黄巾賊討伐のあと、劉備は都を、漢王朝を私物のように貪る董卓を倒す為の連合軍に参加していた。
はすでに劉備に着いていたのだが、童子の格好をし女であることを隠していた。
それにいくら女だというのを隠しても戦に出るのは無理だ。
だから普段は幕舎で留守番をしていた。

「兄ぃ?なんかいいことあった?」

「ん?そう見えるか?」

「うん。嬉しいって顔に書いてある」

幕舎に戻ってきた劉備の機嫌が良かったので気になったのだ。まあ普段から不機嫌な様子を見せる劉備ではないが。

「ああ。久しぶりに素晴らしいと思える青年に会った」

「へぇ。曹操様とか孫堅様ではなく?」

「お二人も素晴らしい。だが、彼がいてくれて我が兄弟子の心配が減る」

「あーあの人か。兄弟子って」

は遠目から見ただけだが、いつもプリプリと怒っている印象を持った相手だ。
だが、劉備が言っているのはその兄弟子ではない。

「それで。兄ぃはその人のどこを気に入ったの?」

「ほんの一言、言葉を交わしただけだが・・・・そうだな。目が気に入った。いい目をしていた」

これから共に戦うのだろう。
どのような人物か気になると劉備は言った。

「へぇ。私も会ってみたいな。兄ぃが気に入った人を」

「そうだな。機会があればにも紹介したい」

などと言うことがあった。
結局その時はその人物には会えなかったのだが、先日劉備が。

。喜べ!」

「どうしたの?兄ぃ」

「覚えているか?私が反董卓連合であったという青年のことを」

顔は流石に知らないが、話だけは覚えていた。

「兄ぃが気に入った。いい目をしたって人?」

「そうだ。彼が私の下へ来てくれたのだ!」

「本当!?良かったね、兄ぃ」

「ああ。いまだ放浪の身である私の力になってくれると言うのだ」

孔明を迎えた時も喜んでいたが、それ以上の喜びようだ。

にもそのうち会わせよう。今は少々席を外してしまっているが・・・」

「うん。楽しみにしておくね」

と孔明が来た時は、関羽も張飛も少々面白くなさそうだったが、その青年の時は違ったようで。
素直に彼を受け入れていたようだ。
二人の印象も悪くない青年だと言う。

「兄ぃが会わせてくれるって言ったけど、中々その機会がなくてね」

こうして出歩いていても、不思議と彼と遭遇することがないのだ。

「私、その人と縁ないのかな?」

「それはどうだろうな。拙者にはよくわからん」

と言っても、青年がここへ来てそんなに日は経っていない。
たまたまだろう。

「平ちゃんは会った?」

「父上といる時に紹介された。が、話はちゃんとしたことがない」

「平ちゃんも私と同じか」

「同じじゃない。拙者は挨拶はした。顔は存じている」

今度はずるいとが頬を膨らませた。
ずるいといわれても、それこそ関平にはどうしようもできないのだ。
でもまあ、すぐに月英の料理を食べればいちかの機嫌などすぐ直るだろう。


がその青年と出会うことになるのは、残念ながら平穏な時ではなく。
戦の真っ只中だった。








無双5仕様の趙雲連載です。
ちなみに彼女は劉備の事を「あにぃ」と呼んでいます。
08/01/13
13/10/28再UP