人と時と風の中




ドリーム小説
私の命、この人のためになら…





◇◇◆力のすべてを◆◇◇





孫呉は曹操軍の戦に向けて進軍を開始する。
攻められているのは性に合わない。
今の孫呉なら負ける気がしないのだ。



玉璽に応龍の戦巫女の存在があるから。



「警備の手薄な合肥を攻める!」

孫堅は数万の兵を従え、合肥へと乗り込む。
魏は数千程度の兵力。
誰もが簡単に撃ち取れると思っていた。

今回は孫策が総大将として出陣していた。
孫堅は息子たちへと前線を任し自分が江東にて更なる地盤を固めることにした。

まずは孫権が先陣をきる。

数万の大群に魏軍はあっけなく後退していく。
後は城を落とすのみ。

「結構簡単に済みそうだな」

石亭の皖城にて伝令を聞いた孫策はそう口にした。
自分ではなく弟を前線に出すのは正直反対だったがこれで一安心だ。
合肥を抑えればこの周囲は確実に孫呉のものとなり、許昌へと攻めやすくなる。

「なんとかなるだろ、な?周瑜」

「…さぁ、どうかな。油断していると寝首を掻かれるぞ」

「なんだよ、心配しすぎじゃないか?」

「合肥にはあの張遼がいるらしい」

その名前に孫策は眉を顰める。

「張遼か…確かに簡単にはいかないか」

赤壁での一件があったために不安がよぎる。
さて、どうなることか。



***



孫策たちの不安が的中した。
撤退する魏軍を追撃するが、それは孫権を挟撃せんとする張遼の罠だった。
突然の出来事に指揮系統は乱れ孫権に危機が迫っていた。

孫権の部隊にはも同行していた。
それは応龍の戦巫女として、兵士たちの士気を挙げるために。

孫権が小師橋を渡った直後、橋は魏軍によって落とされた。
は橋を渡らずにいたため孤立することはなかったが、孫権は孤立してしまった。

殿、ここは危険です。どうかお下がりください!」

「え、で、でも私だけが逃げるなんて」

「孫策様より最悪の場合でも貴女様だけは逃せとの命です」

「そ!そんな!私だけなんて孫権様がまだ向こうにいるのに!私より孫権様を逃すのが先決です!」

護衛兵は困惑してしまう。

「ですが、すでにそこまで魏軍は来ています。どうかお逃げください」

「…なら、私が囮になります。そうすれば」

「そんないけません!」

今にも駆け出しそうなを強く引きとめる者がいた。

「…俺が行く…」

「周泰さん、あ、でも」

「…俺は前にも言った。お前には無理はして欲しくない…」

周泰はの頭を優しく撫でる。
今までの戦場で怖い気持ちもあったし、逃げたい気持ちもあった。
でも、いつもそばに周泰がいて自分を守ってくれた。
だから、頑張れた気がする。

今は泣きたい気持ちがいっぱいだ。

「…心配するな…孫権様を助け出す…」

「周泰さん!」

「…行くぞ。お前たちはを頼む…」

「はい!」

周泰は馬に跨り駆け出す。
はその後姿をじっと見つめる事しかできなかった。

「行きましょう、殿」

「ここで」

「え?」

「ここで孫権様たちを待ちます。きっと戻ってくるから…」

殿…」

はぎゅっと拳を握ってその場から動こうとはしなかった。





「囲まれたか…」

孫権は数人の護衛兵となんとか攻撃を凌いでいた。
多勢に無勢でもう駄目かと思った時、周泰が現れた。

「…孫権様!ご無事ですか!…」

「おぉ、周泰!」

「…この場は俺に任せてお逃げください…」

「あぁ。だが、どうやって」

「…橋を…」

「あの橋を渡れと。ふっ…簡単に言ってくれるな。だが、悠長な事は言っておれんな」

周泰は自分が乗っていた馬を孫権へ引き渡す。

「周泰!」

「…早く!俺は平気です…」

孫権は一度躊躇するが思い切って駆け出す。
周泰は護衛兵たちにも行くよう促す。

「…ここは俺一人でいい。お前たちは孫権様を…」

「は、はい」

数では呉が勝っているはずなのに、いったいどこから出てくるのであろうか。
多くの兵士たちが周泰めがけて斬りかかって来る。

「…ここから先は行かせん!…」



***



!」

頭上から聞こえる声。
小龍が飛んできた。

「小龍!どうだった?」

「もう少しで援軍が到着する。少しの間耐えるのだ」

「うん」

小龍は孫策の元へ伝令として飛んでいた。
この鳥が人語を話すとは敵は思いもしないだろう。
なので、戦場での伝令役では重宝していた。

「大丈夫だよね…無事に戻ってくるよね…」

「………」

「なんか喋ってよ、小龍」

「さぁ、こればっかりは私にはわからんからな。でも、願っていてやれ。が願えばきっと大丈夫だろう」

「そうかな?」

「たぶん」

曖昧な言葉に苦笑するも、無事に孫権が…周泰が戻ってくる事は願おう。
戦に負けてしまっても、無事に。
無事に戻ってきてくれますようにと…





「孫権様!」

声が上がった。
は声のするほうに走り出した。
馬に跨り帰還した孫権がいた。
心身ともにくたびれているのがよくわかる。

「孫権様!ご無事でしたか!」

くたびれながらもの顔を見て笑む孫権。

「あぁ、。なんとかな」

「あ、あの周泰さんは…」

「周泰は、私を逃すために戦っている…急いで陣形の組みなおしだ!まだ戦っている者がいる、急げ!」

孫権は混乱した指揮系統を戻そうと方々へ伝達する。

「周泰さん…お願いです、無理は無理はしないで…」

はその場にしゃがみ顔を手で覆ってしまう。
龍の力があろうが、今の自分では何もできない。
それがとても悔しい。

いつも自分は守られてばかりだ。

早く、早くこの戦が終わればいいのに。

「よし、改めて進軍するぞ!」

孫権の命が飛ぶ。
は歯を食いしばって立ち上がる。
まだ戦は終わらない。
ここで止まっていては駄目だと。
小龍の言うとおり、ここで耐えれば援軍は来る。

「孫権様、私も行きます!」

「な!それはならん。そなたはここで待っておれ」

「いいえ。私が行けば多少は敵の勢いを削ぐ事はできます」

「しかし…」

悩んでいる時間はない。
ここではっきりと決めないと。
しかし、突然の来訪者に決断を邪魔されてしまった。



「魏将、張文遠。孫呉の喉笛、食いちぎりに参った!」



一頭の馬が駆け下り降りてきたかと思えば、どこからともなく魏の兵士たちも姿を現す。

「ぶ、文遠!」

またもこのような形で会うことになるとは。
赤壁の時とは違い、今、自分を守れるのは自分だけだ。
だが、張遼に刃を向けるなどできるだろか。

「張文遠、推してまいる!」

せっかく立ち直った指揮が再び崩れていく。
張遼は向かってきながら次々と兵士たちを斬り倒していく。

仲間と敵の血の臭いが辺りに充満してくる。

「…あ…」

?」

「…やば、やばい…かも…」

久しぶりにこんなに大量の血の臭いをかいだせいで、の手に震えが出てきた。
どうやら、龍の力が血に反応してしまったらしい。
このままだと、敵味方関係なくこの場にいるものすべてを傷つける事になる。

「は、離れて…ほしいかも…」

目の色が段々と金色に変化していく。
溢れ出す力。

すべてを破壊する力。

「だ、駄目だ…周泰さん…助けて…」

声が聞きたい。
周泰の声を。
あの時のように、大丈夫だと言って欲しい。
だとすれば、力を抑える事ができるような気がする。

はしゃがみこみ、力を抑えようと必死で自分を抱く。

敵味方関係なく、この力で人は傷つけたくないから。

「……っ…に、げて……」

の変化に周囲も気づいた。
身体から立ち上る気とでも言うのだろうか?
それが目に見えるのだ。

「小龍!はどうしたのだ!」

孫権は小龍に問う。
前方からは魏軍が、後方ではの変化。

「応龍の力が暴れ始めたようだ。まずいぞ」

「それは我が軍にも被害が出るということだな」

「あぁ」

「だが、なぜ、急に力が?今までも戦場にはいたであろう」

「それは、周泰がいたからだな…いつの間にか彼がの、龍の力を抑えてくれる役目をしていたらしい」

「周泰が?…」

「どうにかして切り抜けられよ。あと少しで援軍が到着する」

「あぁ、しかしどうすれば」

張遼は自分の命よりも、を、『応龍の戦巫女』を狙っているのはないか?
そんな気がする。
曹操自身が龍の力を欲しているように、張遼はを欲しているのだから。

「くそっ。私が未熟なために、このような事を起こしてしまった」

の変化には張遼も気づいた。
今なら、周泰はいない。
連れ去るなら今しかない。
だが、龍の力が発動している今、近づけばすべて消されてしまう。
それでは無理だ。

「さて、どうするか」

張遼の元へ伝令が届く。

「何やら、呉は援軍を要請したとの事です」

「そうか、ならば仕方ないな」

張遼は馬を一直線にに向かって走らせる。

「ちょ、張遼が来ます!」

「なに!?」

「力ずくでを連れて行く気だな」

「馬鹿な!」

今のは不安定で危ない。
そんなに近づけば、ただではすまないと言うのに。

!私のもとへ来い!」

「…ぶ、文遠……だめ、文遠を傷つける…」

大きな力が自分を支配しようとしている。
は頭を振って何とかこらえる。

張遼はを掴まえようと手を伸ばす。
だが、伸ばした手に何かがかすめた。

「くっ!」

「文遠、私に触れたら、あなたが傷つく…から」

張遼の手は赤く血で染まっていた。
掠めた何かによって傷つけられたのだ。

…」

「もう…私は誰も傷つけたくない…敵でも、味方でも…お願い…だから」

の額からは大量の汗が流れている。
必死で力を抑えようとしているのだろう。

「もう一度聞く…私の下へ来る気はないか?」

「…文遠…」

は顔を歪めながらも笑顔をつくる。

「私は、ここが…呉のみんなが好きだから…」

「…そうか…」

張遼は背を向ける。

「今度会う時は敵同士だな…残念だ」

「文遠、あの」

「引け!撤退する!」

張遼はそう一言残して去っていく。
魏にとって、この合肥城を守りきればよいだけのこと。
出鼻はくじけたはずだ。
そう思っての撤退のようだ。

辺りに血の臭いは今だするも、人々が傷つけあうのは終わった。
急に力が抜けた気がする。

「…はぁ、はぁ…よ、良かった…」

はみっともないと思いつつも、解放されたことにより疲れてその場に寝転んだ。

、平気か?」

「うん…一応ね…ふぅ…私、まだまだだね」

寝転んでいるはニッと小龍に向けて笑う。

「龍の力などそう簡単に制御できるわけではない。焦らず行く事だ」

「…うん、そうだね…」

いつか、この力を完璧に制御できれば自分の意思とは関係なく誰も傷つける事はないだろう。

「伝令!ただ今、甘寧殿の水軍と陸遜殿の軍が到着しました」

「よし!我が軍は撤退する。それまで持ちこたえろ。負傷者には手を貸すのだ」

も重い腰を上げる。
ふと辺りを見回すが、彼の姿はいまだない。

「周泰さん?」

孫権を助けるために単身で敵陣へ乗り込んだ周泰。
だいぶ時間が経つのにまだ戻ってくる気配はない。

「孫権様!周泰さんは!?」

…私の所にはまだ…」

陸遜軍と甘寧軍の到着により、魏軍は城の中へと撤退していった。
動けるものは負傷者を運んだりと忙しくなく動く。

「若殿!周泰の旦那が!」

甘寧が周泰に肩を貸し飛び込んできた。

「周泰!」

「周泰さん!」

孫権とは二人に駆け寄る。

「…孫権様、ご無事ですか…」

「あぁ、そなたのおかげだ」

「…良かった…うっ…」

「周泰!」

身体のあちこち斬られている。

「早く!医師を呼べ!急げ!」

「旦那、大丈夫か?しっかりしろよ」

周泰はその場に腰を下ろしてしまう。
立っていることさえ出来ないようだ。

「…平気だ…」

「周泰さん!」

「……」

呼吸が荒く、意識を保っていられるのが不思議なくらいだった。
は周泰の手を強く握る。

「…汚れるぞ…」

「何言ってるのですか!そんなの気になりません」

「…そうか…」

「しっかりしてください。周泰さん…」

止血の処置をするもすぐには止まらない。
このままでは周泰は…
そう思った時、は強く願っていた。

白く輝き始めるの身体。

「な、なんだ?」

孫権や甘寧、周囲の者は始めてみる白き光。
周泰はその光を見ての手を離そうとする。

「…止めろ!…」

!止めぬか!」

小龍も叫ぶ。
そう、以前刺客に襲われた孫策の命を助けた白き光が再び輝き始める。

「…、止めろ。俺は…」

あの時孫策は助かった。
だが、その力は自分の命を削るものだ。

神通力とはそう言うものだと、小龍がに言った。
もう二度と使うなと。

でなければ…


『今度使えば…お前は死ぬぞ』


そうなってしまう。
周泰はに止めさせそうともがくが、いつもの自分ではない重症の状態ではそれも簡単に出来ない。

「…、止めろ。俺にその力を使うな…」

!」

「だって…周泰さんに死んで欲しくないから…」

も覚悟の上での行動なのだろう。
目に涙を浮かべている。

「…俺は…」

駄目だ、意識が遠のく。



そんなことをさせるために、守っていたわけではない。
ずっと笑っていて欲しいから。
死なせたくないと自分が願ったのだから。

だから、守った。

これからもそうしようと。

何が何でも彼女を守ろう。
そう願っていたのに…


「……俺は…お前を死なせたくはない…」


周泰がその事を知っていたのには驚いた。
知っているのは自分と小龍だけなのに。
だから、力を使うなと。
無理はするなといつも気遣ってくれたのか…

「ありがとう、周泰さん。でも、今度は私があなたを助ける番だから…」

白き光は周泰だけでなく、あたり一面に広がっていく。

!」

「私の命で良いのなら…」

はぎゅっと周泰を抱きしめた。
と同時に光がはじけたようだった。





周泰は硝子にひびが入った…身体が壊れたような音を聞いた。









9話目以降は猛将伝2で孫権伝と周泰伝をプレイしてからと決めていたのでこうなりました。
03/10/04
13/10/27再UP