人と時と風の中




ドリーム小説
◇◇◆あなたに逢えてよかった◆◇◇



周泰を、あたり一面を包み込んだ白き癒しの光。
それはとても温かく、とても優しい感じがした。

でも同時に大事な物を失ってしまうと言う事だ。

「・・・・・・」

が力を使った時に、確かに聞こえた何かが壊れた音を。
周泰は眠りたくなかったのだが、意識が段々と失われてしまった。

次に目が覚めたときに、の姿がないかと思うと・・・

それはとても悲しい事だ。



***



「ん?なんだ?」

今回の戦では孫堅は出兵しなかった。
息子たちにすべてを任せていた。

もうそろそろ戦が終わるであろうと予測していた頃、孫堅は異変を感じた。
洛陽で見つけた、伝国の玉璽が何かに反応し始めた。
玉璽は孫堅の私室で保管していた。

「なんだ、いきなり」

丁寧に布に包み桐の箱に収めていたにもかかわらず、光り輝いている。
孫堅は恐る恐る、中身を出す。

箱からだし、包みを開けたと同時に、玉璽は突然散った。

「・・・な、なんと、これはいったい」

あたり一面に玉璽のかけらが転がっている。
このような事が普通起きるだろうか?

「何が起こったというのだ・・・もしや・・・」

息子たちに何かあったか?
いや、息子と言うより応龍の戦巫女のに何かあったのか?
思えば、玉璽を見つけたときに、に反応していたではないか。

不吉な考えがよぎる、急いで伝令を飛ばす事にした。
何かあってからでは遅いと思ったから。



***



身体中が強い何かに引きちぎられるかのように痛かった。
苦痛が駆け巡る。
でも、それは声にならない。

結局、応龍は何をさせたかったのだろうか?
最初に夢の中で出会った時に、『私に代わって』と言っていたが。
変わるどころか、自分は役に立つ前に終わってしまった。

・・・いや、最後に周泰の命を助ける事ができたから、役には立ったであろう。

でも、もうあの心優しき騎士には会えないのだ。





・・・

声がする。

『私だ、しょうがない奴だ。あれほど使うなと言った力を使って・・・』

小龍?
なんで小龍の声が聞こえるの?

目を開けると、辺りは真っ暗だった。
ただ、上も下もわからない光のない場所。

小龍の声は聞こえるが、姿は見えない。

どこにいるの?ねぇ!

には私の姿は見えんよ・・・それより、最後の選択だ、

最後?

『応龍はな、荒れていく世界を見て嘆いた。
 だが自分ではどうする事もできず、に世界を導くよう力を授けた。
 それはとても強大な力だ。お前にもわかるだろう?破壊と再生の力だ』

うん、簡単に人が傷つく力と、傷を癒してくれた力。

『もう少し時間があれば、その力を制御できただろうが、残念だ』

ご、ごめん。

『なに、私がもっと早くにお前と出会っていれば良かったのだ、謝るのは私の方だ』

・・・
それで?

『結局、人間の身体には龍の神通力は扱えない。さて、よ。人でないものになるか、人に戻るかどうする?』

え?

人でないもの?
人に戻る?

『応龍の力を宿した今のお前は半人半龍みたいなものだ。ここから進むべき道を選択するのだ』

私・・・死んでないの?

『似たような状態だがな・・・このまま時間が経てば確実に死ぬだろう』

だったら!

『まぁ、待て。最後の選択だと私は言った。ちゃんと考えるのだぞ?
 神通力を使った所為でお前の身体はボロボロだ。
 だから、それに耐えうるために人でないものになるか、応龍の力を返してただの人に戻るか・・・』

それが最後の選択?

『そうだ。簡単に考えるなよ?お前の身体はボロボロだ、人に戻ると二度と目が覚めないかもしれない』

人でないものになるなら?

『言葉の通りだ、龍族の仲間入りだ。身体は安定するが、人の世には戻れないな』

小龍、そんなの選択する事ないよ。
どちらかを選ぶなら、私の答えは決まっているよ、私はね、小龍・・・



***



合肥の戦いから1年が過ぎた。
孫呉の勢いは衰えることなく、天下統一にあと少しで手が届く所まで来ていた。

玉璽は割れて無くなり、応龍の戦巫女はいなくなった。

でも、孫呉は止まる事なく進んでいる。

孫策が言ったのだ。

「龍の力に頼らなくても、俺たちなら天下を目指す事ができるさ」

今まで少し楽した分、今度は俺たちがやるんだ。
そう言った。

その言葉に皆が従った。
失った代償は大きいが、まだ取り返せるものもあるはずだ。

だから、まだやれる。


「・・・あと少しだ、・・・」

周泰は眠っている少女の手を握る。
冷たいような温かいような、残念ながら少女からの反応は無い。

自分を助けたが目を覚ます事は無かった。
誰もが最悪の結果を想像した。

あの後、周泰が目を覚ました場所は石亭の皖城の一室だった。
沢山の血が流れたのに、傷があったのに、血は止まり傷は塞がり、痛みなども消えていた。
身体を起こし、頭の中を整理する。

すぐに浮かんだ少女の姿。

「・・・!・・・」

周泰は寝台から降りる。
どこに行けば良いのかわからないが、の姿を探す。

部屋をすぐ出たところで甘寧に出会う。

「旦那!目、覚めたのか?起きて平気か?まだ寝てたほうが」

「・・・どこだ・・・」

「あ?」

「・・・はどこだ!・・・」

「だ、旦那・・・」

周泰は甘寧の肩を強く掴んだ。

「あいつは」

「・・・頼む、教えてくれ・・・」

初めて見る周泰の姿に甘寧は驚いた。
いつも冷静でいる彼がとても落ち着き無く慌てている。
の事がそれくらい心配で大事なのだろう。

「・・・甘寧!・・・」

「あ、えっと・・・なんて言えばいーんだよ」

甘寧は自分の髪を乱暴に掻く。

「その・・・あー見ればわかるぜ!」

甘寧は周泰をある部屋へと案内する。
中へ入ると、とても清々しい風が入ってくるし、日当たりの良い部屋だ。
その奥の寝台にが寝かされていた。

「・・・無事だったのか・・・」

周泰は胸を撫で下ろす。
もう二度と会えないような予感がしていたから。
でも、隣にいる甘寧の顔は晴れない。

「無事じゃねぇよ、残念だけどよ」

「・・・なに?・・・」

「あの喋る鳥がよ、は神通力っての?あれのせいで身体がぼろぼろなんだってよ。
 だから、二度と目を覚ます事が無いかも・・・だとよ。ただ眠ってるようにしか見えねぇけどよ」

「・・・・・・」

薄れていく意識の中で聞こえた何かが壊れた音。
あれはの身体が壊れる音だったのか。
周泰はゆっくりと寝台に近づく。
甘寧は邪魔をしちゃいけないと思って黙って部屋を後にする。


ただただ眠っているだけの
顔もどこも傷など無い。
外傷なんてどこにも見えない、身体の中身が壊れたのか?

それとも、のココロが壊れたのか?

周泰は唇をかみ締める。

「・・・お前は馬鹿だ。死ぬとわかって、なぜ力なんか使った・・・俺なんかに・・・」



守りたかったのに 守られたのは自分だった。



周泰は膝を着き、の手を握った。

「・・・頼む・・・目を覚ましてくれ。お前の声が聴きたい、お前の笑顔が見たい・・・

だが、反応は無い。
握り返される事も無く、その瞳が開くこともなく。
ただ眠っているだけの

「・・・」

周泰はの手を離し、立ち上がり部屋を出た。


「お、周泰。起きて平気か?」

「・・・孫策様・・・」

部屋を出たところで孫策に会った。
おそらくの様子でも見に来たのだろう。
周泰は咄嗟に孫策に向かって土下座をした。

「お、おい!なんだよ、いきなり」

「・・・申し訳ありません・・・」

「あ?なんだよ」

「・・・俺の所為でが・・・」

「周泰・・・」

自分の所為で、は、この国にとって大事な者が失われようとしていたのだ。

「お前が謝ることねぇって。俺がに叱られちまうぜ。
 それによ、元々お前は権を助けるために傷ついたんだ、逆に俺はお前に礼を言わねばならない」

「・・・孫策様・・・」

「ほら、立てよ。ありがとうな、権を救ってくれて」

孫策は周泰を立たせ礼を言った。

はきっと大丈夫さ。周りは諦めちまってるが、俺ははきっと目を覚ますって思ってる。
 今まで、あいつの力に頼ったんだ、今度は俺らが頑張らなきゃいけねぇ」

「・・・はい・・・」

には今まで頑張った分、ゆっくり休んでもらおうぜ」

自分も諦めていた、にもう会えないと。
でも孫策は違った。
まずは信じなくては、彼女が目覚める事を。



***



それから周泰は、空いた時間があればいつものそばにいた。
眠っているの手を握り、話しかけた。
たまに、外の空気も吸わせてあげようと抱き上げて外にも連れて行った。

そんな事をしても無駄かもしれない。

でも、信じると決めた。
の目が覚めることを。

そして、目が覚めたら言うんだ。
自分に力を使った事を叱って、目が覚めたことを喜んで。



この一年、温めた想いを伝えるんだ。



「・・・少しの間、ここには来れない・・・」

「・・・次の戦で孫呉に天下を取れる・・・あと少しだ・・・」

「・・・俺は行くから・・・」

周泰はに話す。

すると、ぴくりと指が動いたような気がした。

「・・・?・・・」

「・・・・」

閉じていた瞳がうっすらと開いた。

「・・・・・・」

「しゅーたい・・さん?」

「・・・!・・・」

周泰は握っていた手をさらに強く握り締めた。
今までは反応の無かったの手は弱々しくも握り返してくれた。

「なんか、長い夢を、見てました」

「・・・・」

力なく笑うも、その笑みはやはりで、周泰は熱いものがこみ上げてくる。

「・・・良かった・・・」

「周泰さんが無事でよかったぁ」

「・・・俺の心配より、自分の方を心配しろ・・・」

「あは、でもなんか嬉しくて」

「・・・俺はお前のおかげでなんともない・・・」

今まで寝たきりだった所為では身体を起こす事ができない。
それでも、の目は優しく周泰を見つめていた。

信じていても、頭の片隅では再会できぬと思ったことがある。
でも今は違う。

は再び自分に向かって笑ってくれた。
話したい事が、伝えたい事が沢山あるのに言葉が出ない。

何をどうすれば良いのかわからない。
だから、自然との唇に自分のを合わせていた。

「・・・ん」

「・・・に会えて良かった・・・」

「私も、周泰さんに会えて良かった」

突然の口づけに恥ずかしさと驚きがあったが、は嬉しさの方が上だった。
自分の一方通行でしかないと思っていたから。

以前、周泰はに笑って欲しいから守ると言った事があった。

それだけでも嬉しかったのに。

「私、周泰さんが好きです」

「・・・俺もだ・・・」

そう言ってもう一度周泰はに口づけをした。



あまりにも周泰が遅いと、甘寧は彼を呼びに来た。
どうぜ、と少しの間離れるのが名残惜しくてしょうがないのだろうと毒づきながら、思いっきり扉を開ける。

「おい!旦那!いつまで待たせんだよ!」

「・・・・」

「あ?」

「・・・煩い、甘寧・・・」

「あ、あ、あ、あーー!」

見れば、の目が開いているではないか。
驚きで声を上げる甘寧。
笑みを浮かべている

「殿!殿!がーーー!」

甘寧はものすごい勢いで孫策のもとへ走っていった。
扉を開けっ放しで。
待っていたものがようやく訪れたのだからしょうがない。

!起きたか!こいつ心配かけやがってよ!」

甘寧に知らされ、様々な者が押し寄せてきた。
孫策が、孫権が、周瑜が、甘寧が、尚香に大喬、小喬、陸遜も。

「良かった、本当に良かったよ、〜」

、おはよう」

泣き出してしまっている大喬に小喬。
尚香も涙を浮かべている。

「もう!言いたい事いっぱいあるからね、覚悟してなさいよ?」

「急いで父上に連絡してあげないと」

「おう、親父も心配してたしな」

「きっと、周泰殿のおかげなのでしょうね、良かったですね。

「なんか、次の喧嘩の勝ちも決まったようなものだぜ!」

「決まったようなでなく、決まったのだ」

「・・あは、なんかものすごく心配かけちゃったようで」

は皆の喜びように驚く。
尚香はのんきな事を言うに呆れる。

「当たり前でしょう、あんた、一年も眠ってたのよ?」

「い、一年!?」

長い夢を見たと思ったが、そんなに長く寝ていたとは。

「でも、良かったぜ、。俺たちの天下はもう目の前だ。お前にも見せてやれるぜ」

「孫策様」

「それまで、身体の調子よくしとけよ?」

さぁ、これから孫呉は天下を掴みに行くのだ。
再び目覚めた応龍の戦巫女の存在(力は無いが)によって、孫呉はさらに勢いづくのだった。


「・・・行ってくる・・・」

「行ってらっしゃい、周泰さん。あなたの帰り待ってますから」

「・・・あぁ・・・」

戦に向かう皆の背を見つめ、は祈った。

もう、龍の力は無いが、皆が無事に戻るよう祈り続けようと。



異世界から来た少女は、何の力を持たない少女へと戻ったが、彼女の周りのいる者たちは
そんな事は関係なく、少女を受け入れる。

少女も以前のように微笑んでいた。
なぜなら


少女のそばにはいつも無口な騎士が彼女の笑顔を守るためにいたのだから。



『私はね、小龍。そんなすごい力がなくてもいいから、周泰さんのそばにいたいんだ。だから・・・』




END
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書いてたこの頃に、無双にまさか応龍が人として出てくるとは思いもしないよ。
長い年月経ったなぁと思いますw
03/10/27
13/10/27再UP