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人と時と風の中
私にとってあの人は… ◇◇◆休息◆◇◇ 孫呉の勢いは凄まじいものであった。 負け知らずと言う所であろうか。 ちょっとした劉備軍との小競り合いがあったものの、孫呉は揺るがない地盤を築いた。 そう、劉備軍を破り、残るは曹操軍との全面対決なのだ。 孫呉がここまでの勢いを持っていられるのは、玉璽と応龍の戦巫女のの存在だろう。 孫堅には龍神がついていると誰もが思うのだ。 だから我らは負けはしないと。 まぁ、だからと言って年中戦ばかりではない。 兵達にも休息は必要だ。 当面、曹操軍が攻めてくる気配もないので、皆が十分に休息をとることができた。 そんな中でのある日のお話。 「もう!周瑜さまってば毎日、毎日忙しくてやんなっちゃうんだからぁ〜」 「小喬。仕方ないことでしょう?」 旦那が構ってくれないことで小喬は苛々しているようだった。 大喬がそれを宥めるも逆に小喬に突っ込まれてしまう。 「お姉ちゃんだって、孫策様が相手してくれなくてつまんないでしょ?」 「わ、私は別に、そんな事ないわよ」 「うそだぁ〜」 「本当よ」 大喬はムキになって答えてしまう。 「あはは、本当にしょうがないわね、あなたたちは」 「だって〜」 尚香が二人を宥める。 隣にはもいる。 「そんなに忙しいの?二人とも」 「うん、この所特にね。やっぱ戦がまたあるのかなぁ」 「そっか」 戦となるとも人事ではない。 自分は行かなければならないのだ。 「大丈夫よ、。そんな簡単に戦は起きないから」 尚香が優しくの肩に手を置く。 「うん」 「さて、辛気臭い話は止めてもっと楽しい話をしましょうよ」 尚香は気分を一転させようとするが、小喬はまだぶつぶつ言っている。 大喬の顔もあまり晴れない。 「戦が終わればいつでもいちゃいちゃできるでしょうが、本当しょうがないわね」 「そ、そんな私は!」 大喬はボッと顔から火が出たかのように赤く染まる。 小喬は逆にヘらっと笑う。 「そうだよねぇ。戦が終わればいいんだもんね」 「小喬」 「そうそう、もう頑張ってくださいな」 三人娘の会話には入っていけない。 まぁ、良いかと呑気に茶など啜っている。 そんなをチラッと横目で見るのは小喬。 「はいいよねぇ〜」 「は?」 「いっつも周泰さんが一緒だもん。戦でもどこでも守ってくれてるしね」 「あ、あれは」 いきなり自分に話題がふられては慌ててしまう。 見れば尚香も大喬も目を輝かせている。 「本当、が羨ましいわ。赤壁でも魏の張遼殿が単騎で攻めてきた時、周泰殿がを守ったのでしょう?」 「だ、大喬まで」 「周泰ってば黙ってをビシっと守るから〜二人とも絵になるしね」 「尚香〜」 なんか三人娘の脳裏には、周泰が素敵に格好よくを敵からと言うか、時代を無視してモンスターから姫を守る騎士の映像が浮かんでいるようだ。 「「「いいなぁ〜は〜」」」 の顔も真っ赤に染まる。 「あ、あれは…孫策様が、護衛を命じたから…でしょう?」 は手をモジモジさせながら呟く。 「最初はそうかもしれないけど、仕事以上の活躍してるじゃない」 「そうだよ!もう周泰さんってばに近づく奴は容赦しない!って感じじゃん?」 「いつも、どこでもを見守ってくれてるし」 「ね?この前二人でどこ行ったの?」 「え…」 「私は知ってるのよ?周泰がを連れ出す所見てたしね」 三人娘からの容赦ない突っ込み(?)は続く。 お蔭での顔はこれでもかっ!ってくらい赤くなっている。 もう耳まで。 「ど、どこって、別に」 「白状しなさいよ。手までつないで仲良さそうだったわよ?」 「「えーいいなぁ」」 「あ、あれは!その、なんて言うか、あの、だから」 「実際の所、の好きな人って周泰かしら?」 「………」 頭から湯気がでそうな、沸騰してますみたいな。 はそんな状態だった。 今まで周泰のことを特別そう思ったことはない。 本人が気づいていないだけなのだが。 それでも赤壁での出来事で少しは何かが動き出しているのは自分でもわかる。 呂布も好きだった。 孫策も好きだった。 呉へ着てから出会った人を段々好きになっていく。 でも、どれも周泰とは違う好きだと気づく。 「どうかな?どうかな?」 「多分そうじゃないの?」 「多分じゃなくて、絶対だよ〜」 「え、っと…あの」 「好きだよね?隠す必要ないって」 「私達別にそれでどうこうしようってわけじゃないよ、」 「バーンっと言っちゃいなさいよ、!」 「あ、あのね、その」 そろそろの思考回路がぶっ壊れそうかな?と思われた時。 話の中心人物が現れた。 「……」 「は、はぃ!!」 バンと椅子を蹴倒し立ち上がる。 「…孫策様が…」 周泰が用件を言おうとした時、の思考はぐるぐる回っている。 さっきの尚香たちの言葉が何度も何度も蘇ってくる。 『実際の所、の好きな人って周泰かしら?』 『の好きな人って周泰かしら?』 『好きな人って周泰かしら?』 『周泰?』 「いぎゃーーーーーーー!!」 心臓ドキドキバクバク。 はまともに周泰の顔を見れずに突然、走り去って行った。 「あ…」 「色気のない悲鳴ね」 「思考回路が壊れたみたい」 三人娘は好き勝手言っているが、突然逃げられてしまった周泰の立場はどうなうだろうか? 呆然と立ち尽くしてしまう。 背丈があるだけにそれは鬱陶しい。 「………」 「周泰?」 周泰は尚香をギっと睨む、一応この人この国のお姫様なのだが。 「…に何を仰ったのですか…」 「何って?さぁ?私の口からは言えないわよ」 大抵の人間は周泰に睨まれると怯むものだが、尚香はニコニコ笑む。 周泰に睨まれようが全然余裕で答える。 「早く追いかけないと困るでしょ?なんか策兄様がどうとか言ってたけど?」 「…失礼します…」 周泰は用事を済ませねばと思い、尚香に一礼してを追いかけた。 「ちょっとを苛めすぎちゃったみたいね」 「大丈夫でしょうか?」 「平気じゃない?周泰が追いかけて行ったし」 「ね、周泰さんの方はのことどう思ってるのかな?」 「小喬、もう止めなさい」 「えーだって、気になるしぃ」 大喬はやりすぎたと反省しているようで小喬を諌める。 けれど小喬の方はまだ物足りないようだ。 「ま、結果は見えてるからいいけどね」 尚香は意味ありげに笑って余裕で茶を啜るのだった。 *** 「うわ〜あんな急に逃げたら誰だって変に思うし、気を悪くさせちゃうよね」 は逃亡先にて独り頭を悩ませていた。 別に周泰は何も悪いことをしてないのに。 ただ本当に恥ずかしくて。 言葉が出なくて。 逃げ出してしまった。 尚香が見ていたと言う、周泰がを連れ出したときのこと。 あれは別に尚香たちが思うような出来事は何もなかった。 それは当然なのだが。 周泰は気晴らしに散歩に連れて行ってくれただけだ。 そう、ただそれだけだ。 「…それだけだもん」 は軽く溜息を吐きその場に座り込んだ。 の逃亡先は以前孫策が教えてくれた秘密の場所。 誰にも会いたくない日ってのはあるだろう?と孫策が教えてくれた。 城の裏手からこっそり抜け出すとある場所だ。 「私を守ってくれるのも、孫策様の命令だからで…」 は膝を抱える。 「でも…あの時は」 赤壁で張遼と対峙した周泰。 がここへ残るきっかけを作ってくれたのも周泰。 思えば、尚香たちが言うように周泰とはよく一緒にいる気がする。 気がするではなく、確実にそうなのである。 でも不快感は全くない。 自分は周泰と共にいることの心地よさを感じていたから。 「私、何でこんなに気にするのかな…」 と、その前に。 「あ、後でどんな顔して周泰さんに会えばいいんだ??思いっきり逃げちゃったじゃん」 何度も何度も自分の頭を小突く。 自分のしたことが恥ずかしくてみっともなくて。 「あ〜もう、馬鹿だ、馬鹿、私の馬鹿〜」 傍から見るとまさに馬鹿に見える。 実際、そんな風景を見た人は何をしているのやら?と首を傾げてしまう。 「…?…」 「はぅ!」 小突くのを止めて顔を上げれば周泰が立っている。 (え、なんで?なんで?ここに周泰さんがいるわけ?だって、ここは孫策様と私しか知らない場所で) 突然現れた、今一番会いたくないような会いたい人周泰。 「…どうした?…」 「あ…えっと…」 上手く言葉が出ない。 逃げ出したことを謝るべきだろうか? なんて? 逃げ出してごめんなさい。 (って、そんな間抜けなこと言えない気がする) ようやく落ち着いたのもつかの間での思考回路は再びフル回転している。 ショートするのも時間の問題かもしれない。 「………」 「……」 「は、はい!」 「…孫策様がお呼びだ…」 「…は?…」 「…孫策様がお前を呼んでいる。だから俺が呼びに来たのだが…」 すごく恥ずかしい。 周泰の方は先ほどの事は何も感じていないようだ。 は少しがっかりしたような、でも安堵したような気持ちになる。 「…?…」 「あ、行きます。今すぐに」 は立ち上がってパンパンと服についた土を掃う。 「自意識過剰だ、私ってば」 ボソッと呟く。 やっぱり周泰は仕事に忠実なようだとは思った。 でも、それはそれで今は良いかもと。 とりあえず、二人並んで孫策の下へ向う。 「……」 「はい?」 「…さっきはどうして…」 そこまで周泰が言うと、の顔は再び赤くなる。 「あ、その」 言ってしまおうか、誤魔化そうか。 は真剣に悩む。 が、すぐに決心する。 「周泰さん、私たちの話、どのくらい聞こえてました?」 「…いや、聞いてないが…」 「本当に?」 「…本当だが…」 はそこで息を吐いた。 自分が好きとか何とかって話は周泰の耳には入ってないようだ。 「周泰さんがいつも私を守ってくれるって話をしてただけです」 「…??…」 少し恥ずかしそうに笑う。 「大喬たちはそれが羨ましいって、私のことからかうんですよ。周泰さんは」 一呼吸して 「周泰さんはお仕事で私の護衛してるだけですものね」 「……」 なんだか、自分で言ってて空しくなった。 言葉にしてみて気づくのもどうかと思うが。 はそう言ったきり周泰の方を見ようとはしなかった。 いや、できなかった。 変なことを言って嫌な顔をしているかもしれない。 何当たり前のことを言うのだと呆れているかもしれない。 とにかく、自身は周泰に嫌われたくなくてそれ以上は言葉が出なかった。 「…それだけじゃない…」 「え?」 「…に…」 頭上から聞こえる周泰の声。 「…に笑っていて欲しいから…だから守る…」 「周泰さん…あの」 とても嬉しかった。 周泰がそう想ってくれているのが。 は口を開くも、それは他の者に遮られてしまう。 「遅いぞ、お前ら。どこまで行ってたんだ?」 孫策が腕を組んで立っている。 と言うより、後ろにいる周瑜に捕まっているように見えるのだが。 「君たちが遅いからと自分も探しに行くと言って逃げ出そうとしてたのだ、孫策は」 「しゅ、周瑜!違うって、俺は純粋に」 「わかった、わかった。とりあえず殿が来たのだ、話を済ませよう」 周瑜が孫策を引っ張っていく。 周泰もその後を続いていく。 「…ま、いっか」 は今はそれだけでも。 その言葉がもらえただけでも良かった。 急いで自分も孫策たちの後を追うのだった。 孫策から伝えられた話は、新たな戦の始まりを知らせる内容だった。 三人娘が言いたい放題w一応、彼女に自覚させるための話です。
策や呂布に対しての好きは憧れとか、家族的な意味合いが強かったと思われます。
03/09/03
13/10/27再UP
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