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人と時と風の中
答えは、最初から決まっている。 ◆◆◇勝利の中で◇◆◆ 「どうする、。答えによっては私は貴女を斬らねばならんぞ」 「文遠」 再会できた。 と言うべきなのだろうか。 呂布の配下だった張遼。 彼は曹操の下にいる。 は最初呂布もいるものかと思っていた。 自分の事しか頭になく、洛陽で別れてしまった呂布の事を考える暇もなかった。 張遼は自分の目の前にいる。 それは呉の敵として。 ならば、貂蝉は?呂布は? 彼らはどうしたのだろう… 「わ、私は」 「…答える必要もない…」 明らかに動揺しているの姿が周泰の目に映った。 周泰はギッと張遼を睨む。 「そうか、貴公を倒さねばここから連れ出すこともできぬか」 張遼は敵本陣の中、たった一人なのに余裕なのか口元に笑みを浮かべている。 呉の兵士達はそのたった一人相手に手も出せないようだが。 「文遠!」 「この張文遠がお相手いたそう!」 「…行くぞ…」 互いに得物へ力を込めて握る。 多分、一瞬の勝負だろう。 にはどうすることもできない。 は辺りを見回す。 孫堅は後退してるし、小龍は我関せずと言った様子で羽を休ませている。 「小龍!どうすればいいの?」 「さぁ?時期に終わるさ」 「小龍!」 この場合、自分が魏へ行けば何事もなく済むのだろうか? 知ってる人間同士が斬りあうのは正直見たくない。 かと言って手出しなどできない。 今の自分はここにいる全ての人間を傷つけてしまうだろうから。 その時、曹操軍の船団の一部に爆音が響いた。 「なに!」 「………」 東南から吹く風によって、大船団は見る見るうちに赤い炎で染まっていく。 「…黄蓋殿か…」 「くっ!…一先ず引かせていただこう。貴公との勝負はまた次の時のようだ」 ホウ統の連環の計に諸葛亮の東南の風、そして周瑜と黄蓋の火計。 これらによって曹操軍に大打撃を与えることができた。 それを合図に孫堅が突撃命令を下す。 「今だ!我らの力を見せるのだ!」 張遼は止むを得ず馬を走らせ引き返していく。 ちらっとを見た張遼の視線は少し淋しそうに見えた。 「文遠…」 緊張していたのか、フッと力が抜けその場にへたりと座り込んでしまう。 周泰は刀を鞘に納めの下へ駆け寄る。 「…大丈夫か?…」 「は、はい。ちょっと驚いちゃって」 「…もう休め。後は俺たちの仕事だ…」 「大丈夫です。最後まで見てます」 「…そうか、無理はするな…」 「はい」 笑ったに周泰も頷く。 そして敵陣へと突撃を開始したのだった。 *** 戦は連合軍の勝利。 曹操を討ち取ることはできなかったが、十分な痛手は負わせただろう。 それから数日は残務処理が酷くて皆が忙しかった。 は一人ぼーっとしていた。 『、私の下へ…曹操様の下へ来る気はないか?』 張遼の言葉が脳裏で反芻される。 あの出来事は誰も聞いては来ない。 恐らく、知らされてないのがほとんどで、知っている者はが今、ここに残っていることであえて口に出さないのだろう。 でも、正直な気持ちを言えば、 「行ってしまったかも…」 ポツリと溜息と共に出た。 呂布のその後を知りたいと思った。 それは張遼に聞けば確実だろうと。 できれば呂布に会いたいとも思った。 は張遼の事だって嫌いではなかった。 呂布ほどに親しくもなかったが、不器用ながらも張遼がに優しく接しようとしてくれていたのを知っていたから。 洛陽にて得た数少ない味方。 きっと張遼の方もを探してくれていたに違いない。 赤壁での別れ際、彼の淋しそうな視線が忘れられなかった。 「…後悔しているのか?…」 「え!あ、周泰さん」 頭上から声が聞こえてきたので驚いた。 は中庭で膝を抱えていた。 周泰はの姿を見つけ近づいた時にあの呟きが聞こえたのだ。 「…俺は止めないほうが良かったか?…」 「そ、そんなことないです」 「………」 「周泰さん?」 「…そうは見えなかった…」 「そう…ですか…」 お互い黙ってしまった。 元々口数の多い周泰ではないから辺りが余計に騒がしく聞こえる。 先に口を開いたのは周泰だった。 「…呂布は死んだ…」 「死んだ?」 「…少し前だが、下ヒで曹操軍に討たれた…」 「そう、なんだ…奉先死んじゃったの…」 なんで張遼はその曹操に仕えているのだろう? あの時も曹操を『我が主』と答えた。 「張遼は捕縛された際に、曹操に降ったそうだ…曹操は張遼のような有能な者を欲しているから」 淡々と話す周泰。 は軽く目を閉じる。 「貂蝉は?」 「…俺は知らない…」 「そうですか」 「……」 「はい?」 「…どうする?魏へ張遼の下へ行くか?…」 は目を開け周泰をじっと見つめる。 周泰は目を合わせようとはしなかった。 はニ、三度首を軽く振った。 「行かないです。私ここにいたいです」 「…いいのか?…」 「変な周泰さん。私の家はここですよ?孫策様たちと離れて暮らすのなんて嫌です」 「………」 周泰はに視線を移すと、彼女は優しく笑っていた。 「私、周泰さんとも一緒にいたいです」 「…そうか…」 「はい、そうなんです」 その言葉で周泰は胸の痞えが取れた気がした。 赤壁の大戦後、が塞ぎこんでいるので周泰は気にしていた。 自分が阻止さえしなければは張遼の下へ行ってしまう気がした。 行かせたくないと願う反面、行かせた方が良かったのだろうかという気持ちもあった。 でも、は現状を選んだ。 周泰はそれだけでも良かった。 「…行くか…」 周泰はに手を差し伸べていた。 意味がわからず首を傾げる。 「…気晴らしにどこか連れて行ってやる…」 「はい、行きます!」 は少し頬を赤く染めながらも周泰の手を取り立ち上がる。 嫌な気分はしないから、その手はあえて離さず歩き出すのだった。 彼女の気持ちは周泰君に向いているのかな?
03/08/20
13/10/21再UP
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