人と時と風の中




ドリーム小説
何か役に立ちたい。
そう思うのに何もできない…

私の中のこの力は何の為にあるの?





◆◆◇反動◇◆◆





の言葉が皆に通じるようになり、小龍と言う人語を話す鳥が現れたりと、孫堅らの周りは賑やかさを増した。

劉勲・袁術をも倒し、江東は平定された。
勢いづいた孫呉は劉ヨウも倒し、領地を取り戻した。

久しく訪れた平穏だった。

は周瑜の下を訪れていた。
周瑜の執務室には山のような書簡、竹簡、地図やら様々な資料が積み重なっていた。

「うわっ、すごいですね、ここは」

「すまないな、殿。色々整理したいと思っているのだが何分城を取り戻したばかりだからな」

「いえ、私の方こそ。周瑜さんお忙しいのに」

「それで、私に用とはなにかな?」

が一人で周瑜を訊ねてくるのは珍しかった。
いつもなら、孫策や尚香など誰かしら一緒なのだ。
今日はあの人語を話す珍しい鳥もいない。

「あの、応龍って知ってますか?」

「応龍?…あぁ少しは」

「それが何か教えてもえませんか?」

が何故それを知りたがるかは周瑜にはわからなかったが、が知りたいと言うので話し出す。

「応龍と言うのはわかりやすく言えば、翼の生えた龍だ。鱗のあるものを蛟龍、角あるものないものをチ龍と言うようにな。その応龍は南方に住み雨を蓄える力を持っていると言われている」

「へぇ」

大人しく話を聞いているに周瑜は満足げに話す。
いつも孫策などは聞いちゃいないから。

「軍神蚩尤と戦った黄帝は応龍の力を借りて倒した事になっている。その時多くの神通力を使った応龍は、天界に戻る事が出来なくなったと言われているし、巨人をも倒したと言う伝説もあるぞ」

「軍神蚩尤?」

「はははっ、殿はかなりの勉強家だな。大抵の者は聞くだけ聞いて逃げてしまうよ」

「だって、気になるし」

神話の中でもっとも偉大な帝王である黄帝。
蚩尤はその黄帝と天下を争うようになり、神話の時代における最大の戦争を起こしたのだ。
のいた世界の中国で無いにしても、神話の類はちゃんとここでもあるらしい。

「まぁ、蚩尤の話はまた次のときにでもしよう。この話は長くなる。殿、応龍がどうかしたのか?」

「え?うん…夢の中に出てきたのが応龍って言ってたから」

「ほぅ、すると殿の龍の力は『応龍』の力か」

「よくわからないけど」

龍の力については誰に聞けばよいのかわからないのが現状だ。
本当にこの力が『龍のもの』なのか疑わしい。

「もし、伝説の応龍の力が殿に備わっていたら、呉は旱魃の心配はないな」

「あはは、そうだと良いですね」

周瑜はまだ仕事があるので、はその後すぐに彼に執務室を後にした。
とりあえず、応龍と言うのはこの世界では翼の生えた神話に出てくる龍だと知った。
そう言えば、夢の中で見た応龍も翼が特徴的だった気がする。

「そうなのかな?やっぱり…」

「……」

「あ、周泰さん」

「…孫策様を見なかったか?…」

「孫策様ですか?今日は見ていないです。私、今周瑜さんの所にいましたし」

「…そうか…」

どうやら、孫策はどこかに行ったきり帰ってこないらしい。
彼の警護をしている周泰にも告げずに。

「一人でほいほい出かけちゃいますよね、孫策様は。じっとしてるの嫌いみたいだし」

「…探すのも俺の仕事だ…」

周泰はいつもの事だと半ば諦めて歩き出した。
は慌てて周泰の隣に並ぶ。

「…どうした?…」

「私も一緒に探しても良いですか?一人より二人の方がいいですよ」

「…かまわん…」

「やった」

周泰に助けてもらってから、は周泰に懐いていた。
孫策に対してのと違った感情が芽生えているのだが、いまだ気づいていない。
それはきっと、いまだ日常が慌しいのとにとって新鮮に感じている為だろう。

「城を出ちゃったのですかね?」

城内を再び探すも孫策の姿はない。
城の者も誰も孫策を見ていないという。

「…外か…」

周泰はを連れて外に行こうか迷っていた。
すると一頭の馬が城門を潜ってきた。
その馬の前を鳥が、小龍が飛んでくる。

「小龍!どこ行ってたの?」

!急げ!医師を呼べ!」

「な、なに?急に」

「…!?…」

周泰は馬と言うより、馬上の者の異変に気づいた。

「孫策様!!」

「よ、よぅ…どうした、お前ら…」

急いで駆け寄る周泰。
も気づいて駆け寄る。

「へへっ…ドジっちまった…悪ぃ…」

孫策の身体が傾き馬上から落ちてしまう。
咄嗟に周泰が孫策を受け止める。

「孫策様!」

「どうしたのですか!孫策さま!」

孫策の脇腹から滴り流れる赤いもの。

「血!」

ようやく、他のものも孫策の存在に気づき、騒ぎ始めた。

「そ、孫策様!」

「医者だ!早く医者を呼べ!」

声を上げる周泰にビクつくも、その場に集まった者は急いで走っていく。

「しっかりしてください、孫策さま!」

か…?なんか、もう…わかんねぇ…」

「そんな!小龍何があったの!」

「…刺客に襲われた。矢には毒が塗ってあるようだ」

それでは、一刻の猶予もならない。
迅速かつ的確に治療しないと孫策は助からない。
呼びに行った医者はまだこない。
時間だけが過ぎていく。
周泰もも焦ってくる。
は孫策の手を握り必死で呼びかける。

「頑張ってください、孫策さま!寝ちゃ駄目ですからね!」

「孫策様!お気を確かに!」

周泰も彼の身体をしっかりと支えている。

「…力…はいらねぇ…や…」

孫策は目を閉じてしまう。

「孫策様!」

「嫌です!孫策さま!駄目ですってば!そ、そんなの…嫌です!」

ぎゅっと孫策の手を握りしめる。
孫策はにとって大切な人。
それは好きな人と簡単に言えるものではない。
呂布から引き離され、行く当てもない自分を拾ってくれた孫策。
龍の力といって、大抵の人間が自分を恐れ恐怖の眼差しを見せる中、孫策だけは違った。


信頼できる人。


命の恩人。


今、自分がここにいられるのはすべて孫策のお蔭だ。


だから、いなくなって欲しくない。


「応龍の力が本当にあるのなら!お願い!孫策様を助けて!」

咄嗟に出た言葉。
小龍はその言葉に反応した。

(神話の通りに神通力ってのがあるのなら!その力で孫策様を助けて!お願い!私の中の龍の力よ!!)

一層孫策の手を強く握る。

「お願い!」

すると、本当に神通力があるのか、の身体が白く光りだした。
人々を傷つけた時とは違う色。

「いかん!止せ!」

なぜか小龍は声を上げ止めさせようとするが、白い光は更に輝き孫策の身体を包み込んでいく。

「…の…龍の力か?…」

周泰はじっとそれを見続けた。
孫策の脇腹の傷は見る見るうちに血が止まり塞がっていく。
孫策の顔にも赤みが出始め、呼吸が一定になり穏やかになっていた。

「…孫策様?…」

周泰が話しかけるが、すぐには気づかないようだ。
だが、さっきまでの危険な状態からは抜け出したようだ。
安心する周泰。
そこへ、ようやく医師たちがやってきた。

「…傷は塞がった。後は頼む…」

運ばれていく孫策。
は…。

!身体はなんともないか?」

「え?小龍、どうしたの?」

あの白い光はいつの間にか消えていた。
ぼーっとしていただったが、小龍の言葉に笑って答えた。

「身体はなんともないのか?異変はないかと聞いている」

「あはは、変な小龍。全然平気だよ、ほら!」

は立ち上がって伸びをする。
その様子に安堵する小龍。
周泰には何が何だがわからない。


だが


異変は起きた。


「あ…あ、れ…???」


ミシっと身体に痛みが走った。
そんな音が聞こえたような感じがする。
の額から汗が吹き始める。

!」

「どうした?」

小龍がの周りを忙しなく飛ぶ。
周泰がの肩を軽く揺すると同時にの身体は崩れ落ちるように倒れた。

「…!?…」

!」

周泰はを抱き起こす。
見た感じどこか傷ついているようには見えない。

「…どうした?…」

反応はない。
周泰の肩に小龍は止まった。

「おそらく、急に使った力の所為だ。休ませてやれ」

「…それだけでいいのか?…」

「それしか回復方法はない」

周泰はを抱き上げ、彼女の与えられた部屋へと運んだ。
それにしてもと思う。
小龍の態度が可笑しいことに。

に力を使うなと言った。
その後での身体を煩いくらいに心配していた。
なのに、が倒れた今、彼はただ休めととしか言わなかった。

何か知っている。
この人語を話す鳥は、の龍の力について何か知っている。
そうに違いない。

だが、それを周泰が問い詰める理由はなかった。

を寝かせ、一度部屋を出る。
孫策の様子が気になったからだ。
傷は塞がったが、毒が塗られていたはずだ。

孫策の寝室前では大勢の家臣が集まっている。
皆心配そうにしている。

「周泰」

周瑜に呼ばれ、寝室へと足を入れる。
孫策は上体を起こしており、見た感じ元気なようだ。

「悪かったな、黙って城を出てよ」

「…いえ、俺の方こそ、何もできず…」

「全ては馬鹿息子が悪いのだ。周泰気にするな」

孫堅が豪快に笑って言う。
この明るさはきっと孫策の命にもう別状はないと言うことを意味しているのだろう。
これで少し気が楽になった。

後は

は?はどうした?あいつに礼が言いたい」

「…は…」

孫策にとりあえず、眠っているとだけ伝えた。
小龍が慌てた事は言わず、力の使いすぎで眠っていると。

「そっか…悪いことしたな。にも」

「これからは気をつけてくれ孫策。知らせを聞いた時は寿命が縮んだぞ」

「おぅ」

「兄上、しばらくは安静にしてくださいよ」

「もう平気だって」

「駄目です!部屋からは一歩も出しませぬから」

孫権が強く言い放つ。
大丈夫だと言っても心配なのだろう。
皆が孫策の側から離れないのだった。



***



「あ〜びっくりした…」

は右手を何度もまじまじと見つめ時折動かしてみる。

「それは私が言いたい。、あの力は二度と使うな」

「え?」

小龍はの頭上近くで羽を休めていた。
すでに意識が戻ったは孫策を心配して彼を見舞いに行く途中だった。
しかし、大勢の人が彼の部屋の前に集まっているというのでしばらく待っている事にしたのだ。

欄干に背をつけて小龍をじっと見る
小龍は羽の毛づくろいをしている。

「あの力って、さっきの応龍の力?」

「そうだ。正確には神通力だ」

「やっぱりあったんだ。神通力って、なんかすごいなぁ。あ、でも使うなって?」

「あれは人間のお前が簡単に使えるものではない」

「だって、そんなの使えるって知らなかったもん…それに孫策さまは助かったしいいじゃん」

「よくない。今度使えば…お前は死ぬぞ」

「えっ!?」

小龍の鋭い目には視線が外せなかった。

「人間が使うには強力すぎるのだ、アレは。使えば身体に負担がかかり己の命が縮む」

「じゃ、じゃあ、なんでそんなモノが私に使えるの?」

「………」

「とにかく、今後あの力は使うな。まして反魂の術は道士の間でも禁呪とされている。
龍の力がなくともそう言った類の術もまた己の命と引き換えに行うとされるものなのだ」

「小龍…」

「わかったな、。二度と使うな」

「…うん…」

は少し俯きながらも頷いた。
内に秘めた力はどれも人間の自分が使うには強力すぎる代物だった。

破壊と再生の二つの力。

いまだに謎が多い自分にはどうしようもできなかった。
それでも今は、孫策の顔を見に行こうと気分を変えて笑う事にした。

「小龍、小龍も孫策さまのところへ行こう」

「あぁ、いいぞ」

駆けていくの後姿を、じっと見ている者がいたことなど、は知る由もなかった。








蚩尤については長くなるのでスルーで。
応龍はともかく、神通力ってのは人が使うには強大なのさって話。
03/06/10
13/05/08再UP