|
人と時と風の中
初めて力を使わずに済んだ。 私の手で誰も傷つかずに済んだ。 当たり前の事かもしれないけど、それでも私は嬉しかった。 ありがとう。 そう言いたい、あなたに… ◆◆◇小龍◇◆◆ 劉表への奇襲戦は孫堅軍の勝利であった。 も周泰のお蔭で怪我するどころか力を使わずに済んだ。 迎えに来てくれた孫策に嬉しくて飛びついてしまうほどだった。 「そっか、周泰のおかげだな」 ≪うん!≫ それからは劉ヨウまでも倒し、呉軍の旧領を取り戻した。 そして、今度は劉勲を倒す為に進軍する。 しかし、劉勲のもとに曹操の手を逃れた袁術加わり、激しい戦いが予想された。 戦を明日に控えたこの日。 士気を高める為に孫堅は軽い宴会を開いた。 孫堅はにも顔を出すようにと命じた。 龍の力を使わずとも戦はできるが、その力を持つ者が孫家にいると知らしめるだけでも 敵に対して効力を発揮する。 それは敵にだけでもなく、味方の士気高揚にもつながる。 「!こっちだ!ほら、食えよ。お前食ってねえだろ?」 ≪お腹空かないもん…≫ 「駄目だ、ちゃんと食わねぇと大きく慣れねぇぞ」 孫策はの前に色々料理を並べる。 不思議な事にはこの世界へ着てからモノを食べてない。 水は多少飲んだが、特に空腹感もなく過ごせたのだ。 孫策に引き取られてからも用意されたモノを特に食べる事はなかった。 だが、毎日それが続けば、孫策たちにも心配をかけてしまうと食べた振りをしていた。 運ばれた食事は頼んで近くにいた者に内緒で食べてもらっていたのだ。 しかし、今はそれができない。 孫策が、いや孫策以外に周瑜も皆見ている。 そんな中で食べないわけには行かないのだ。 ≪はぁ…少しだけ食べて後は適当に誤魔化そう≫ そう思い、一口麦飯らしきものを食べる。 「お前、いつも小食だろ?ちゃんと食わねぇと体持たないって」 「だって、お腹空かないんだもん…」 「はぁ?普通人間ってのは腹が空くようにできてる物だぜ」 「そ、孫策…」 「それを腹が空かないだなんて、は変わってるぜ」 違和感に気づいたのは周瑜だった。 「私だって初めてだもん。いつもはいっぱいご飯食べてさ、おやつも食べてたんだよ」 「なんだ、ここに来てから食えねぇのか?」 「孫策!」 「あぁ?なんだよ周瑜」 「……?」 孫策と以外は驚いた顔をしている。 それもそのはず、さっきまでの言葉などまったくわからなかったはずなのに 「殿、その言葉は…」 「え?言葉?」 「おっ!の言ってる意味わかるぞ!」 孫策もようやく気づいたようだ。 「私、普通にしゃっべてる?もしかして…」 「あぁ、先ほどまでは全く意味がわからなかったが、今は我々と変わりなく聞こえる」 「本当だ。なんで?」 皆が首を傾げる。 一人を除いて。 「いいじゃねぇか!の言葉がわかるようになったんだしよ。なんか幸先いいよなぁ」 「孫策…君って奴は」 「それは、がこの世界の食べ物を口にしたからだ」 どこからか聞こえた声。 だが、誰が放ったのかはわからない。 「なんだ、周瑜か?」 「私ではない」 「俺でもねぇぜ…誰だ?」 「なんか、上から聞こえた気がする」 が上を見上げる。 この宴会、外でやっていたので見上げると青い空が広がっている。 桜の木だろうか? まだ花を咲かせる前のその木に一羽の鳥がいるだけだ。 「気のせいだろ?誰もいねぇ」 「あ…」 ふと鳥と視線が交わる。 どこかであった気がする目。 その鳥は青く、尾がとても長いのが印象だ。 目は鳥にしては鋭さが感じられる。 「君が言ったの?今の言葉…」 「?」 立ち上がって鳥を見つめる。 「そうだ。よくわかったな、」 「うぉ!鳥が喋った!すげー」 鳥が人語を話している。 涼しげでとても落ち着いて紳士な感じがする。 「そんな馬鹿な…」 周瑜などは唖然としてしまう。 の言葉がわかるようになったと思えば、鳥が人語を話す。 いったい何なのだ? 「私の名は小龍(シャオロン)だ。」 「鳥なのに、龍なのか?面白れーな、お前」 孫策は特に驚きもしないで平気で鳥・小龍に向って言う。 小龍は別に気分を害する事もなく、孫作の肩に止まる。 「お前は私が怖くないのか?江東の小覇王よ」 「別に?なんで怖がるんだよ。人語を話す鳥がいたって変じゃねーよ」 「はははっ、私はお前を気に入ったぞ。のことを頼むぞ」 「任せとけよ」 すっかり意気投合する孫策と小龍。 を含めて回りのものはただただ唖然として口を開いたままだった。 *** 「小龍、何故急に殿の言葉が我々にもわかるようになったのだ?」 周瑜は改めて小龍に訊ねる。 戸惑いが隠せないようで、その額には汗が流れているが…。 「この世界の食べ物を殿が口にしたと言ったが」 それは龍の力の所為だと言う。 力のお蔭でにはまったくと言っていいほど空腹感がなかった。 異世界からきた者が、別世界の物を口にしたため完全に互いに言葉を理解できるようになった。 水分だけを取っていたは相手の言葉だけはわかったのだ。 では、孫策と呂布がの言っている意味を理解していたのは? 「器かもしれんな」 「器?」 「王として人の上に立つ者としてかもしれない」 「…よくわかんない」 「まぁ、別に理由など深く考えないのだろう?よ」 「うん、こうして言葉が通じるだけでもいい」 「そうか」 小龍が目を細めてを見つめ笑った気がする。 鳥なので表情がつかめない。 (だが、これでお前は完全にもとの世界には戻れないぞ…) 小龍は悲しそうにを見ていた。 「そうだ!私ちょっと行く所あるから!」 は急に声を出して走っていく。 その顔はとても嬉しそうだった。 「言葉が通じるようになっただけで、ああも表情が変わるものなのだな」 「硬い事は言うなっての。幸先良いじゃねぇか!明日の戦は俺たちの勝ちだぜ」 「孫策…」 「お前も食ってけよ、小龍」 「私は別に」 「なんだ?ミミズとか虫とかの方が良いのか?」 「遠慮しておこう」 はある人を探し回っていた。黒くて大きいから目立つかと思えば意外に見つからない。 「あぁ誰かに聞いてからにすればよかった」 陣営の隅々まで探したのに見つからない。 「どこ行ったのかなぁ…周泰さんって言ったけあの人…」 黒衣の騎士、周泰。 が龍の力を使わずに済んだのは周泰のお蔭。 だから、言葉が通じるようになったからお礼をちゃんと言いたかったのだ。 「孫策さまに聞きに戻るか…」 くるりと反転したところで、周泰の姿を見つけた。 「あ!いた!」 嬉しくて。 周泰を見つけたのが嬉しくて、話ができるかと思って嬉しくて。 走り出した。 「…?…」 周泰もの姿に気づく。 「…あ、あの…周泰さん」 の言葉がわかり思わず目を見開いてしまった周泰。 「…言葉…」 「はい!通じるようになりました!それで…周泰さんにお礼が言いたくて」 「…俺にですか?…」 「周泰さんが守ってくれたから、大丈夫だって言ってくれたから。私、力を使わずに誰も傷つける事なかった」 とても嬉しそうに笑う。 孫策が側にいなくても、そんな笑顔が出せ、自分に笑いかけてくれるのがなんとなくくすぐったくて。 でも嬉しくも思い自然と口元が緩んだ。 「ありがとうございました、周泰さん」 「…いえ…」 「。私の名前はです。改めてよろしくお願いします」 はそう言って頭を下げた。 「…周幼平です…」 「周泰さん、私に敬語使わなくってもいいですよ?私、特別な人間じゃないですから」 思わずに言われて、眉がピクリと動く。 だが、軽く息を吐いて、改めて周泰も言った。 「…周幼平だ…」 「えへへ。なんか嬉しいです」 はしばらくずっと笑っていた。 明日戦があるなんてことを忘れてしまっているかのように。 小龍とは何者だろう? 彼が(?)の下へやってきた意味はやはり龍の力なのだろうか? それはまだわからない。 しかし、もう一つも龍の力がの中で目覚めようとしていた。 それはあまりにも悲しい力だった。 喋る鳥小龍登場。当初は普通に人の予定だったんですけどね。
まぁ、一応見た目は鳥ですが、喋る時点で鳥ではないでしょうね。声のイメージはどっかの四皇赤髪ですよw
03/06/10
13/05/07再UP
|