人と時と風の中




ドリーム小説
楽しかったのはほんの数日。

あとは私はただの道具。

恐怖の対象。

誰が何の為に私を呼んだの…





◆◆◇洛陽崩壊◇◆◆





「ぎゃあ!!」

ドサリと自分の目の前で散った人の命。
今日も董卓のいけ好かない趣味に付き合わされた。

呂布は表情一つ変えないで、それを見てた。



それがあの少女の名前。
自分の手元に何故か置いておきたくて、世話をした。
けれど、どう言う訳か、董卓の耳にのことが入り、引き出さねばならなくなった。

そのは今日も人を殺した。

董卓が政権を握ってから、皆が董卓に逆らわないよう、ビクビクしていた。
董卓の気に障ると、一族もろとも殺されてしまう。
その処刑の仕方が今のこの状況。

石の壁で囲まれた闘技場。
そこにとその処刑対象を入れ、どちらかが倒されるまで戦う。
刃物を相手に持たせるが、には何一つ持たせず。
そう、の不思議な力が発する瞬間は、己の身に危機が迫った時。
董卓はその瞬間が楽しくて嫌がるを無理やり処刑人とするのだった。

その力を抑える事が出来ないは大勢に人間を手にかけてしまった。

出会った頃は笑ってくれたが、今ではもう、涙も流さない。
心が壊れてしまったかのように…。

「呂布殿、なんとかなりませぬか…あれではが本当に壊れてしまいます」

張遼が隣で呟いた。
何とかしたくともできない、それが現状。

「もうすでに壊れているのかもな」

「呂布殿…」



それからすぐに、反董卓連合軍が攻めてきた。
氾水関では華雄が討ち取られ、着々と迫ってきた。

「虎牢関にて反逆者どもを討つ」

呂布は出陣する事になった。
虎牢関で負ければ洛陽は確実に戦場になるだろう。
だが、董卓はと言う切り札を持っているためか、意外と落ち着いていた。
虎牢関は呂布が守っているって事もあるだろう。



***



「えーい、何をしておるのだ!あんな奴らに手こずりおって!!」

呂布がいるとは言え、戦況は悪化していく。
連合軍も呂布を相手にするのではなく、董卓の首を狙っているのだ。

虎牢関を抜け洛陽に入ったとの知らせ。

「なにぃ?洛陽に入っただと?ならば、もう洛陽なんぞいらん燃やして…ん?よし、あれを反逆者の前に出せ」

「え、でも」

「いいから放り投げでもしとけ、そうすれば勝手にやるだろう。ワシは長安へ行く。いいな」

部下たちは困ったが、所詮は自分の身も大事。
を無理やり、洛陽の街の攻めて来る連合軍の前に置き去りにした。

≪…もう、嫌なのに…≫

たった一人で女が街にいても何も考える事はないのだが、連合軍にも『龍の力』が知られているようで、をここでやらないと、再び董卓の元へ行くとこの先の展開が不安になる。
すぐさまにその女が『龍の力』を持つ者だとわかり刃を振るってきた。

≪もう嫌なの!お願いだからやめてよ!≫

相手が攻撃さえしなければ自分は、力は発しないのに。

けどの言葉は通じない。
嫌なのに、発動する力。
散っていく命。

≪もうヤダ、ヤダよ!奉先助けてよ!あの時みたいに連れ出してよ!!≫

がそう叫んだかと思うと、地面が揺れ始めた。
大きな地震が起こったのだ。

「な、なんだ!」

「ヤバイ、崩れるぞ!逃げろ!!」

兵士たちは安全な場所へと逃げ込んでいく。
城も揺れる。
民家などは造りがもろいので簡単に崩れていく。

≪ど、どうしよう…これも?これも私の中の力?≫

火の手が上がり、まさに地獄絵図と化していた。
董卓は間一髪で逃げ、呂布たちも洛陽を離れてしまっていた。

「なに!はまだ洛陽にいるのか!」

「あの地震はの力が原因のようです…お義父上様が逃げる為にを使ったと…」

張遼から知らされた時、呂布は後悔した。
力づくでもを自分の下へ連れてくれば良かったと。
呂布の中ではすでに董卓への不満が募っていた。

だが、すでに遅かったのだ。



傷つき、壊れてしまった落陽の都。
孫堅が洛陽入りをし復興をしていく。

「まさか、こんなに酷いものだとは思わなかったな」

「なんでも、一人の少女が原因らしいです」

「まさか、そんなわけは」

孫堅はここまでの悲惨な状況をたった一人の少女が起こしたことだとは思っていなかった。
地震も偶然起きただけだと。
『龍の力』の少女の事は孫堅の耳にも入っていた。
連合軍の中でもこの力をどうにかしないと今回の戦に勝てないのでは?と噂されていたから。

「その少女、行方が知れないとの事ですが。探しますか?」

「そんなことより、今は町の復興が先だ」

傷ついた人々を助けるのが先だ。

「そう言えば、策はどうした?姿が見えんが」

今回の戦について来た孫策。
だが戦が終了してしまうと、興味が失せたのか知らないうちにどこかに行ってしまう。
孫堅はまたかと軽いため息をついた。



その孫策は町の外れに来ていた。

「あ〜ここらも酷ぇな…親父に伝えとくか…ん?なんだ?」

董卓軍の生き残りらしい者たちが何かを追いかけている。

「待て!」

「そいつを捕まえろ!」

逃げているのは少女だ。
孫策は咄嗟に男たちと少女の間に割って入る。

「な、なんだ!お前は!」

「女を追いかけてるお前らの方がなんだよ?」

「うるせー!お前には関係のないことだ。死にたくなければそこを退け!」

男たちは剣を抜く。
孫策は少し楽しめそうだと笑みを浮かべる。
体が鈍ってしょうがなかったから。

「よっしゃ!相手になるぜ!」

旋棍を構え、ゆっくりと男たちとの間合いを詰めていく。

「死ね!」

男の一人が孫策に斬りかかろうとした時。

「ひっ!」

男は突然動くのを止め、剣を落としてしまう。

「あぁ?」

男が見ているのは孫策ではなく、その先にいる少女。
男たちはそのまま悲鳴を上げながら逃げてしまった。

「なんだよ、つまんねー」

孫策が振り返ると、少女の目が金色に光っていた。
風が吹いてるわけでもないのに、少女の髪は靡いている。
男たちはこの光景が恐ろしくなったのだろう。
だが、孫策は見惚れてしまっていた。

「…すげぇ、綺麗だ…」

孫策は旋棍を下ろすと少女に近づいた。
一瞬ピクリと動いたかと思うと、少女は力なく倒れてしまった。

「おっ、危ねぇ!」

咄嗟に手が出て少女を受け止める孫策。

「気絶したのか?…仕方ない、連れて行くか」

少女を抱え、父の下へ向う孫策だった。



***



が目を覚ました。
さっきまで男たちに追いかけられていた。
そこまでは憶えているのだが、自分はその後どうしたか思い出せない。

「お!気づいたか?気分はどうだ?」

≪………≫

ニッと笑う男。
この男が助けてくれたらしい。

「どうした?具合悪いか?」

は首を振った。
男は安心したように笑う。

「そっか、ならいいや。腹減ってないか?なんか食うか?」

はもう一度首を振る。

「そっか…口利けないのか?」

≪………≫

は俯いてしまう。
この国の言葉が話せない以上、何か一言でも発すれば董卓の下にいた『龍の力』の者だとばれてしまうかもしれない。

「俺の名は孫伯符ってんだ、お前は?」

孫策はの態度にさほど気にしてないようでさっきからずっとしゃべりっぱなしである。
表情もころころ変わるのでは思わず笑ってしまった。

≪ははっ≫

「お、笑ったじゃねーか」

何故だかわからないか、孫策はの頭を軽く撫でた。
そこへ孫堅が現れた。

「策、どうだ?」

「親父!おぅ、目覚ましたぜ」

「ふむ…そなたの名前は?」

孫堅はの前に座った。
は口を噤んだままだ。

「親父、今は」

「龍の力を持つ者とはそなたのことか?」

「な!龍の力?」

は孫堅をじっと見つめる。
董卓とは全然違うとわかるが、素直に答えるべきが躊躇してしまう。

「そなた、これからどうしたい?」

さっきの問いには答えてないのに、孫堅は更にに問いかける。
どうしたいと言われても、自分にその決定権はあるのだろうか?
力のことを知れば、この男も自分を利用するかもしれない。
かと言って、自由にしてもらえたとしても言葉も通じない自分にはここでの生活は苦でしかない。

「親父、今は良いじゃねぇか。こいつだって疲れてるだろうし」

「策…そうだな。少し急かしすぎた。すまなかったゆっくり休んでくれ」

孫堅は何事もなかったかのように笑い出て行く。
残されたと孫策。
孫策はの隣に座り込んだ。

「今はゆっくり休めよ。何も心配は要らないぜ」

さっきと同じように笑う孫策。
通じない言葉を聞かされたら孫策はどんな反応をするだろうか?

ふと、は試したくなる。

≪私の言葉、わかりますか?≫

「……あ?なんだって?」

やはり通じない。
けど、孫策は別に変わった様子を見せない。

「なんか難しく聞こえるな…へぇ、それがお前の国の言葉か」

≪私の国の言葉か…≫

「あ、俺の言葉はわかるのか?」

≪なんとなく≫

と頷く
孫策は嬉しそうな顔をする。

「すげーな!へぇ〜お前カッコいいな。瞳がさ金色に輝いたりしてよ。なんかこう〜女神みたいな感じだな」

孫策が言った言葉にはキョトンとしてしまう。
短い時間だったが、この洛陽で自分の力を見た者の大半は自分を恐ろしそうに見ていた。
唯一、呂布だけが普通に接してくれた。

「女神、龍の女神様か?」

≪そ、そんな綺麗なものじゃないよ…だって人殺しだもん、私≫

の呟きは孫策にはわからなかったが、はその力を欲してないとわかる。

「悪ぃ、俺気に障るようなこと言ったみたいだな。とりあえず、ゆっくり休めな」

孫策は立ち上がって、を見てもう一度笑ってそう言った。
なんだが、この男の笑みは人を安心させる効力があるようだった。
なんとなく、この男について行けば良いような気がにしたのだった。



***



孫堅は都の復興中に『玉璽』を発見した。
光り輝く玉璽。
皇帝の印。

この玉璽を見つけたのはを保護してからすぐだった。

「しかも、あの少女に反応しています」

孫堅の隣で周瑜が孫策とともにいる少女を指差す。

「やはり、龍の力か…」

さて、これからどうしようかと孫堅らは考えるが、孫策とはそんな事は知らないで楽しそうにしている。

「行く所がなければ、呉へ一緒に行こうぜ。一人で洛陽にいるより良いだろ」

≪…どうしようかな…≫

「平気、平気。お前のこと苛める奴がいたら俺がぶん殴ってやるからよ」

≪あははっ、ありがとう≫

言葉は通じなくとも孫策にはの気持ちがわかったようだ。
ガシガシとの頭を撫でる。
孫策の純粋さが今のには一番落ち着くものであった。



その後、連合軍の足並みは崩れ、それぞれが自分たちの治める国へと帰ることになった。
は結局行くあてがないので孫策に従う。
なるべく力を発動させないように周りを怖がらせないようにと決めて。
孫堅軍は江東への帰途に劉表に行軍を阻まれ、拠点の呉郡を劉ヨウに奪われてしまった。

玉璽と龍の力の事が洩れたらしい。

孫堅を孫策が支え、そこへ周瑜に知略が加わる。
孫堅の手元に玉璽と龍の力があることで士気は下がるどころか上がっていく。

「劉表の野郎をぶっ飛ばしちまおうゼ、親父!」

奇襲されたからには奇襲で返すと言わんばかりで突然の孫堅軍の奇襲に劉表らは驚き痛手を受ける。

しかし、敵も簡単には落とされなかった。

乱戦になっていく。

は敵に見つからないように本陣ではなく本陣から離れた後方にて待機していた。
特に護衛も付けないで。
これはの希望だった。

戦が始まる前…

「本当に良いのか?でも心配だぜ…」

孫策は渋る。
いくら龍の力があるとは言え、一人で残す事に不安が残る。
そこで自分の部下の顔を一通りみて、決める。

「よし、周泰にの護衛をさせる。お前がの側にいてくれれば安心だ」

結果、周泰がの側にいた。

≪…多分、大丈夫だと思うけど…≫

特に会話もない二人。
元々言葉が通じないのと、周泰が無口である為に。

「………」

≪…参ったな…≫

とりあえず、切り倒された大木に腰掛ける。
本当に二人っきりなのでなんとなく気まずい。
少なくともには。
周泰が何を考えているのかまったくわからないからだ。

≪違うな、私の周りにいた人がわかり易すぎなんだ≫

思わず笑ってしまう。
その笑いに周泰が気づいた。
ふと目があって、は慌てて目を逸らす。
仲間が戦っているのに、笑っているのを見れば周泰に不謹慎だと思われてしまうから。

「…初めて見た。あなたが笑っているのを…」

≪え?≫

周泰をまじまじと見てしまう。
向こうが自分が笑ったのをはじめて見たというのにも驚いたが、には周泰がしゃべった事の方が驚きだった。

「…いや、一人で。孫策様が側にいない時のあなたはいつも淋しそうに、辛そうな顔をしている…」

≪え、えっと…≫

こんな時に自分の言葉が通じないのが悔しかった。
孫策といる時の自分は確かに笑えるようになっていた。
けど、独りになった時はあまり表情が出ていないと思っていた。
周泰にはそれが辛そうな顔に見えたのだ。

≪なんか言いたいよぉ〜≫

その時、周泰は人の気配を感じた。

(…5…いや、8はいるか…)

孫策たちではないらしい、どうやら敵に気づかれたようだ。
殺意のような視線はにもわかった。
明らかに自分に向けられている事に。

手先から震えてくる。
また同じように大きな力で人を殺してしまうのだろうか?
それよりも側にいる周泰まで巻き込んでしまったらどうすれば良いのだろう。

しかし、敵は自分たちのことが気づかれたことに気づき姿を現す。

≪ど、どうしよう…抑えられないよ≫

の目の色が変わってきた。
とてつもない気がから発せられるのが周泰にもわかった。
敵はそれに怯み後ずさりをする。
董卓によって処刑人とされてから一層力が簡単に発動するようになった。
呼吸が荒くなり、体中の血がたぎ狂ってるような感じがする。

抑えられない。

は力いっぱい拳を握る。
敵だろうが人を傷つけるのは嫌だ。
まして周泰を巻き込みたくない。

≪ぐっ!嫌だ、もう…はぁ…でも…駄目かも…≫

力が発動する。

周泰はがそれに抗おうとしているのに気づく。
思わず出た周泰の手。

の目に飛び込んできた黒色の斗蓬。
自分の肩に触れられた周泰の手。
周泰はを敵から隠すかのように自分の斗蓬で包み込んだ。



耳元で周泰が言う。



「…俺があなたを守る。だから、もういい…」



力が抜けた気がする。
そんな風に言われたのは初めてだから…。







周泰君登場。でもシリアスな展開なので、策の明るさに救われます。
03/05/26
13/05/06再UP