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夕虹見たら百日日和
助手席で大人しく座っている間、とても緊張した。 兄の店で喋っている時とは違う空気で。 あそこは和む空間だとには思えているから。 張遼の言う新しくできた水族館に到着し車から降りた時、正直ホッとした。 「久々の陸だ〜」 「大袈裟ですね、殿」 「え、あ〜だって車内を汚しちゃいけないなぁとか思っていたので」 呟きのつもりが思い切り声に出ていたようで、更に張遼に聞かれていたのが恥ずかしい。 「お気になさらず、もっとくつろいでくれて良いのですよ?」 「あ、ははは。帰りはそうします」 多分、無理だろうけど。 「では参りましょう」 新しくできただけあって、夏休み中で日曜日も重なったために家族連れなどでとても賑わっている。 ゲートを潜るだけなのに、わくわくドキドキしてしまう。 「わ!わ!ペンギン。ペンギンですよー張遼さーん!」 チケットを買い入場すると、はパタパタと駆け出す。 正面には小さなペンギンたちがいるゾーンがあった。 は可愛いと言って見ている。 「ケープペンギンと言うようですね。殿はペンギンが好きですか?」 張遼が隣に立って訊ねる。 「好きですよ。可愛いじゃないですか。でも種類とかまでは知らないですけど」 とりあえず可愛いものが見れて嬉しいというようだ。 車内では少し硬くなっていたの態度が一変して普段見せるようなものだったので張遼としても安堵する。 「イルカとかはどうですか?」 「イルカも好きですよ〜」 「可愛いから。ですか?」 「可愛いからですよ。でも頭も良くて癒し系でもあるし、いつかイルカと一緒に泳ぎたいとか思いますし」 イルカとふれあうと言うのをテレビで見たときはいいなと思った。 泳ぐとまで行かなくても、近くで見てみたいし、触ってみたいなと思ったと張遼に言う。 「そうですか。では良かった」 「何がですか?」 張遼がニコリと笑むのでは少しドキリとするが、張遼は後のお楽しみと行って教えてくれなかった。 ペンギンたちから離れてこの水族館の目玉でもある巨大水槽があるゲートへとやってきた。 「これは見事ですな」 何種類の魚がいるのだろうか? パッと見ただけではわからない魚たち。 水槽という感じはしないとても大きなものが目の前にある。 「サメとかいますね、普通に」 他の魚とかを食べてしまわないのだろうかと不思議に思う。 「水族館の鮫は他の魚を食べないようにしているようですよ」 「そうなんですか?」 「詳しくは知りませんがね、餌としてすでに死んでいる魚を食べさせているそうですからね」 「あー普通に犬や猫みたいに決まった時間に餌を貰って食べる習慣がついているとか?」 「だと思いますが、詳しいことは飼育員さんにでも聞いた方がいいですね」 は水槽内を泳いでいる鮫に目が行ってしまう。 怖い生き物ってイメージがあるけど、そんな鮫と共存している小さな魚とかいたようなことを思い出した。 魚たちを眺めながら先へと進む。 水槽ごとに温かい海にいる生物とか冷たい海にいる生物とか見るものが沢山ある。 中は少し暗くて、でも水槽の中を照らしている明かりがあるので不思議とわくわくする。 張遼は色んなことを知っているので見ながら、あれこれ説明してくれた。 魚たちの思わず見れた行動に二人で笑ったりした。 その中でも一番楽しませてくれたのは大きなセイウチだ。 大きい体で怖そうだなと思ったが、愛嬌があって、芸を仕込まれているので予想外に可愛く感じた。 楽しそうに泳ぎながら、時折見ている人たちの目の前に顔を見せてくれる。 ガラス一枚で間を隔たれているのがつまらないと感じしまう。 「あ、そろそろ時間ですな。殿行きましょう」 まだ名残惜しい気分があるが、張遼が他にも見せたいものがあるからとを連れて行く。 行った場所はその水族館のメインとも言えるイルカがいるショー会場だった。 すでに多くの客で賑わっている。 「イルカのショー見たいと思いませんか?」 バンドウイルカにオキゴンドウたちによるショーだった。 空いている席を見つけて座るたち。 本当にギリギリだったようで、ショーはすぐ始まった。 トレーナーの女性からイルカたちを紹介されて鳴き声や身体の話などがされる。 「すごい。すごいですね、張遼さん」 「そうですな」 一つ技を披露されるとは他の客と同じように声をあげて拍手してしまう。 「イルカの調教って大変なんでしょうね」 「毎日頑張っているのでしょうな、トレーナーもイルカも」 「そうですよね。わ!またすごいジャンプ」 二頭のバンドウイルカか宙を舞う。 「ジャンプした瞬間を写真で撮りたいって思うんですけどね・・・・無理っぽいですね」 「あはは。そうですな、タイミングがあるでしょうし」 チラッと周囲を見渡すと携帯やデジカメを使ってその瞬間を撮ろうとしている人たちが目に入る。 でも、成功した人はほとんどいないようで悔しがったり落胆したりしている。 中には失敗した画像を見て大笑いしている人もいる。 楽しい時間はあっと言うまでショーは20分ほどで終了した。 「もっと長くやるかと思いましたが・・・・結構短いものですな」 「ですね。イルカの集中力次第とか」 「殿と同じくらいの集中力ですな」 「あ、酷い。私はもう少しありますよー」 「少しなんですか?」 そろそろお昼かなと考えていたが、張遼はショー会場を出ないでそのまま隣のプールへとを連れて行く。 「入場チケットを買った時に一緒に申し込んだのですよ、イルカとの握手と言うのを」 「本当ですか!?」 「はい、先着30名だったのですが、意外と知られていないようでちゃんとチケット取れました」 にチケットを渡す張遼。 先ほど言った後のお楽しみとはどうやらコレのことらしい。 ただ、張遼は自分の分は申し込まなかったようで、少し離れた場所でがイルカと握手しているのを見ていた。 時間にすればほんの少しだが、一つ夢が叶った感じがして嬉しかった。 近くで見るとやはりと言うか、目が優しくて。 少し尖った歯が怖そうと感じたが、嬉しさの方が倍だった。 (今度は一緒に泳げたらいいな) 意味もなくまたねと言って張遼の元へ戻った。 「・・・・・そのようにお願いします・・・・・・はい、明日・・・・はい」 「あ・・・・張遼さん」 が戻ると張遼は携帯で誰かと話していた。 声のトーンも少し違う。 硬く感じて、仕事中の張遼だとすぐにわかった。 いつか見た、あの時の張遼と同じだ・・・・ 「では・・・・・ふぅ・・・・・あ、殿。いかがでしたか?」 が戻ってきたことに気付いて笑う張遼。 「あ、はい。楽しかったですよ、夢が一つ叶いましたし、ありがとうございました」 「いいえ。楽しんでいただけたなら嬉しいですよ」 「今度は張遼さんもイルカと握手してみるといいですよ?癒されますし」 「そうですか?では今度は私も一緒に」 ただイルカの方が嫌がりませんかね? などと張遼が言うからそれには笑った。 大丈夫ですよーなんて言いながら会場を後にした。 なんとなく、仕事の電話ですか?って聞けなかった。 聞いてしまったら、楽しい時間が終わりだなって気がしたから。 だが、楽しかった最初に比べて段々と気分が沈んでいくことになった。 昼食をとろうと館内のレストランに入った。 二階建てで窓からは下にイルカやシャチがいるプールが見える。 泳ぎ回るイルカたちを見ながら食事ができるようだ。 適当に食べたいものを注文して待っている間、さっきのイルカがどうとか セイウチは見ていて飽きなかったとか、次はどこへ行こうかなんて話をした。 「ここにはラッコもいるようですよ、次はラッコでも見に行きましょうか」 「はい、ぜひ」 館内マップを見て、他にもショーがあることに気付く。 「アシカのショーもあるみたいですよ。後で・・・・あ、少し失礼しますね」 張遼の再び携帯が鳴り、張遼は席を外す。 すぐには戻らず、その間に頼んだメニューが来てしまった。 「冷めちゃうよ・・・・張遼さん」 自分だけ食べるのもどうかと思うけど、せっかくのものが冷めてしまうのも勿体無い。 結局さらに数分後に張遼は戻ってきた。 「すみませんでした。あ、先に食べていても良かったのですよ」 「・・・・なんか一人で食べるの嫌ですし・・・・」 「本当、すみません・・・・・」 「お仕事ですか?」 張遼も席に着いて、少し冷めてしまったものだが食べ始める。 「・・・・えぇ。私は休みだと言っているのですがね・・・・」 「張遼さんは忙しい人から。それに会社の人にとても頼りにされているようですし」 「こき使われているようなものですよ」 「・・・・・・」 「殿?」 「・・・あ、えっと・・・・時間大丈夫ですか?これ食べたら帰った方がいいんじゃ・・・」 自分からそう言うほうがいい気がした。 仕事ならば仕方ないとは思うし。 まだまだ遊びたい気持ちはあるが、結構楽しかったとは思う。 もう帰ろうと、仕事だからと張遼に言われるよりはいいし。 「大丈夫ですよ。殿が気になさる必要などないですよ」 「そ、そうですか?」 「はい、休みの日にまで仕事などしたくありませんよ」 「でも・・・・・」 休みでも急に入ればしなくてはならないものだろう。 に気を使っているのだろうか? 「大丈夫ですよ」 本当にそうだろうか? 張遼は気にしないで食事を続けるが、は不安でいっぱいだった。 そして、案の定・・・・・ 「えぇ、そうですよ。その書類は明日・・・・・」 「先ほども言いましたよ、私ではなく常務に言ってください」 「先に見積を出してから言ってくださいよ」 「無理です。その件に関しましては前にも言ったはずです」 「明日の昼までにお願いしますよ」 「え・・・そんなに?あー・・・・しょうがないですね、でしたら・・・・」 張遼の携帯は鳴りっぱなし。 ラッコを見ている時も。 オットセイを見ている時も。 アシカのショーを見ている時も。 ちょっと休みましょうと言って売店でポテトを買って食べていた時も。 どこに居てもかかってる電話。 大事な仕事で急な変更でも入ったのだろう。 その責任者がきっと張遼なのだろう。 いろんな人からかかってくる。 折角の休みなのだろうが、最初から張遼は忙しかったのではないか? 少し前、休日出勤は当たり前だと言っていていたくらいだ。 誕生日の時も忙しい日が続いているからと言っていた。 自然と張遼との距離も出てきた。 邪魔してはいけないと思う気持ちと 仕事の話ばかりで面白くないという気持ち。 『仕事とあたし。どっちが大事!?』 なんて言う女性。 そんなこと比べるのが可笑しいじゃん。 そんな風に思っていたのだが、今は気持ちがわかる。 張遼の意識は半分仕事に向いている。 まして、自分は先輩の妹だ。 彼女でもないからそんな台詞を吐けるわけもない。 (と言うより、中途半端なんだよね・・・・・) 大人な女性ならばこの程度では動揺しないだろうなとか。 黙って察してやるとかってことができそうだなって思う。 子どもならば、大事な仕事だろうが自分の気持ちを優先して相手を困らせたりするだろう。 でも、今の自分はその中間なのかもしれない。 仕事は大変だよね。とわかる部分に でも今日は私との約束が先。と言う我が侭な部分。 両方持ってしまっている。 「・・・・・はあ・・・・」 周りを見れば家族連れ以外に目に入るカップルの姿。 仲良く魚を眺めたり。 仲良くイルカのショーを見たり。 仲良く美味しそうに何かを食べたり。 とても楽しそうだ。 そう思うと、自分と張遼はどう見えるのかな? 妹の我が侭で遊びに連れてきた兄と言う風にも見えなくもない。 なんだか、一気に気持ちが冷める。 「あ。またここに来ちゃった・・・・」 愛嬌のあるセイウチ君がいる所。 大きな身体を見ていると動きは鈍そうに感じるがすいすいと泳いでいる。 ガラスの前に立ってはセイウチをじっと見ている。 たまたまなのかそこには以外の人の姿はない。 「あははは、可愛いなぁ」 意味もなくセイウチに手を振ってしまう。 だがすぐに笑みが消える。 「・・・・・・・つまんない・・・・・」 いろんなことに。 出てくる水族館は私の好きな水族館を2つを組み合わせたイメージだったりします。
セイウチが気に入っているのは私ですw
ま、社会人と学生の差ってどうなんですかね?多少時間にずれはあってもうまく行く人はいるでしょうね。
06/01/19
13/05/03再UP
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