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夕虹見たら百日日和
「ご自宅まで送ればいいですかな?」 陽が傾く少し前に帰路に着く。 張遼が運転する隣でボーっと景色を眺めていた。 特に会話が弾むわけでなく。 静かな車内だ。 行きは緊張のあまり大人しくしてしまっただが、帰りは違う。 楽しかった一日に遊び疲れて大人しい。 ・・・のではなく仕事の顔になってしまった張遼といるのがつまらなくなった。 子どもっぽいことかもしれないが、そろそろ帰りましょうかと言われた時、素直に従った。 早く家に帰りたい。 もう、さよならしてしまいたい。 自分の知らない顔、知らない世界にいる張遼とは一緒にいたくない。 「殿?」 「あ、はい・・・・あ、重逢までお願いできますか?」 「重逢ですか?別に構いませんが」 そこからだとの家には少し遠い。 「お兄ちゃんにお土産買ったので届けようかなって。お店はやってますから」 「そうですか」 「そこで降ろしてくれればいいです」 後は一人で帰ると言うことか。 いや、夏侯惇と一緒にと言うことかも知れない。 「兄妹仲よろしいですね、お二人は」 「うーん、仲いいのかな」 「良いように見えますよ」 「親代わりって面があって進路相談とか親よりお兄ちゃんに頼んだくらいですから」 歳が離れているから、かまってくれるのかなとも思ったことはある。 もし、数歳程度ならば張遼とはもっと違う付き合い方ができたかなと考えたこともある。 最初から考えても仕方ないことなので今は思わないが。 「お兄ちゃんが一番って所でしょうかね、殿は」 「まぁ、頼れる兄ですから」 「だから」 穏やかに笑っていた張遼の顔が少し曇った。 「?」 張遼はバックミラーに映るの顔を見るがすぐさま目線を戻す。 それ以上張遼は何も言わないので再び沈黙が訪れる。 はなんで急に兄妹仲について聞いてきたのだろうか不思議に思った。 でも、言われて嫌ではない。 寧ろ嬉しい。 いつもいつも迷惑をかけてしまうが、何かあると両親よりも兄に愚痴ってしまうほどだ。 兄の前でならばいくらでも子どもでいられる。 重逢の近くまで来た時に、店から出てきた夏侯惇の姿が見えた。 花屋の青年も一緒だ。 「あ、お兄ちゃん」 思わずの口元が綻ぶ。 張遼はスピードを緩め二人の前に車を止める。 「ありがとうございました、張遼さん」 「あ、いえ・・・・あの、殿」 「はい?」 降りようとしただが、張遼は運転席側からドアをロックしてしまう。 「すみません。少し私の我がままに付き合ってください」 「え・・・」 助手席側の窓を開けて、張遼は夏侯惇に声をかける。 「元譲殿。もうしばらく殿をお借りしますぞ」 「あ?」 張遼は車を走らせた。 「なんだ、文遠の奴?」 「殿と出かけていたでござるか」 「あぁ」 渋る顔をしている夏侯惇を横目に花屋の青年は軽く笑った。 「張遼殿が拙者の所に文句を言いにきたでござるよ」 「文句?」 「夏侯惇殿が殿に花を贈られたでござろう?誕生日を黙っていた夏侯惇殿はずるいだとか 拙者がいい花を選びすぎて変なものを渡せなくなったとか」 昼休みを重逢で過ごし終えた張遼が社に戻る前にわざわざ言いにきたのだ。 言われた方としても一応商売でもあるから困るのだが。 「そんなこと俺が知るか」 拱手して夏侯惇は口をへの字に結ぶ。 「はははっ。妹さんを取られて悔しいのでござろう?近いうち張遼殿が義弟になるやもしれないでござるな」 「・・・・まだ先の話だ」 隣でニコニコ笑んでいる男が憎たらしく思う。 長い付き合いだけに考えていることがそこそこわかってしまうから。 「お前の所はどうだ?一人いただろう?」 「あー拙者としては早めに家を出て欲しいでござるなぁ。もう嫁に行って欲しいでござる」 夏侯惇と違って妹を可愛がるなんて言うのはない。 年の差はここの兄妹と違って数歳程度だからかえって喧嘩する事のほうが多い。 「夏侯惇殿貰ってくださらぬか?夏侯惇殿の前だと大人しいでござるよ」 「俺は調教師ではないぞ」 突然男の携帯電話が鳴った。 メールが来たようで内容を見て苦笑している。 「じゃがいもを買って来い。と言われてしまったでござる」 わざわざメールを夏侯惇に見せる。 早く嫁に行けと言っても家事の面で頭が上がらないようだ。 「それでは、拙者はこれで」 「おぅ。またな」 男を見送り夏侯惇も店に戻る。 「・・・・あの様子じゃ今日はもう来ないだろうな」 とポツリ呟いた。 急に車のスピードが上がった。 なんだ、いったい。 「あ、あの張遼さん?」 「・・・・・・」 「えっと・・・なんで?」 張遼の顔を窺うと一点を見つめているかのように見える。 運転中なのだからそれはないはずだが。 あ。この顔は見たことがある。 仕事をしている時の・・・大人の顔だ。 張遼はハザートランプを点滅させ車を脇に止める。 しばらく黙って目を閉じたかと思うと急にの方に目線を移す。 「あんな思いをさせたまま、別れたくなかったのですよ」 「あんな思い・・・・」 水族館でのこと。 仕事中の張遼の顔に後半つまらないと思った自分。 「寂しい思いをさせてしまった・・・・皆が楽しんでいる顔をしていたのに、あなただけ寂しそうで」 「あ、それは・・・・私が、子どもみたいに・・・・・・・・・我がままだから」 「大人も子どもも関係ない。あれは誰だって同じように感じます」 皆同じ? 大人も子どもも同じように感じる? 「つまらないとあなたは言ったでしょう?」 「あ、え・・・聞いて」 「申し訳ない。はぐれたあなたを見つけた時に」 「す、すみません!私」 折角誘ってくれた張遼に恥をかかせた、嫌な思いをさせた。 そう思うと居た堪れなくなる。 は俯き、膝の上でキュッと拳を握る。 「殿の所為ではありませんよ。私がいけないのですから」 「張遼さん」 「それと」 「?」 フッと笑みを戻す張遼。 「あのまま元譲殿に返してしまったら面白くないって思ったので」 「へ?」 「元譲殿の姿を見つけたとき、嬉しそうだったので面白くなかったのですよ」 軽く息を吐いて背中をシートに預ける張遼。 「我ながら子どもっぽいことを思ったのですがね・・・・殿の一番は元譲殿かなと思ったらつい」 頬に熱が走る。 目元が潤む。 言わなきゃ。 今言わなくてはと急かす自分が現れる。 「お兄ちゃんにはいつも頼ってしまいますけど、私の一番は張遼さんです!」 そう言ってしまった後に心臓がバクバクするのがよくわかった。 小刻みに震えている自分の手。 恐る恐る張遼の様子を覗き込むと張遼はこっちを見ていた。 細くきりっとした目がさらに細くなって笑みを浮かべている。 「あ、あの」 「ありがとうございます」 「い、いえ!こ、こちらこそ!」 意味もなく頭を思いっきり下げた。 「痛っ」 ガツンとダッシュボードに額をぶつけてしまう。 「くっ・・・・・ふふっ・・・・し、失礼。何をしているのですか、殿」 「う・・・」 涙が出てしまうのは痛いからだ。 両手でぶつけた額を摩る。 「見せてごらんなさい・・・・あぁ少し赤くなっていますね」 張遼がの前髪をかきあげる。 「でも、大丈夫ですよ」 そう言って軽くの額に口付けた。 「ちょ、張遼さん!?」 思わず身体を引いてしまう。 「おや、酷いですね。私は傷ついてしまいますね」 張遼は笑い、耳、顔中、どこも赤く染まってしまう。 「ほ、本当に傷ついちゃいましたか?」 「うーん、どうでしょう?」 笑い続ける張遼には恨めしそうに上目で軽く睨みつける。 「あーそうでした。お詫び・・・ではなくて誕生日プレゼントを」 ダッシュボードに手を伸ばし中からラッピングされた細い箱を取り出した。 「遅くなりましたが、私からですよ」 にそれを手渡す。 「え、いいんですか?その、今日も沢山ご馳走になったし」 「遠慮なさらないでください。最初からこれは渡すつもりでしたから」 「あ、ありがとうございます」 開けた方がいいのか、家まで我慢した方が良いのか思わず張遼の顔を見る。 張遼は軽く頷く。 それは開けても良いという意味だとは受け取る。 逸る気持ちを抑えながら丁寧にラッピングを解く。 白い箱が出てきて、蓋を開ければ予想通りのピンクのケース。 形からネックレスではないかと思われる。 更に蓋を開けてやはりと言うか、花をデザインしたものが目に入る。 花びらの中心に八月の誕生石であるペリドットが輝いている。 そして控えめに小さなダイヤの粒までもがついている。 学生であるには手が出せないような代物だけど嫌味がなくて 寧ろ清楚な感じがするシルバーだ。 張遼がくれると言ったプレゼント。 子どもな自分には学生が貰うに相応しい勉強道具じゃないかと思ったりはしたが。 「どうですか?」 「あ、その・・・すごく嬉しいです」 キュッとケースを抱いてしまう。 この人から見たら自分はすごく子どもだと思っていたから。 大人の女性が貰うような物を贈られて、嬉しく思う。 「誕生石がついていますからね、殿を守ってくれますよ」 「はい」 「でも、これからは私もあなたを守りますから」 は何度も頷く。 張遼はケースを自分の手に戻し、ネックレスをにつけてあげる。 「よく似合ってますよ」 「本当ですか?」 コレをつけるにはまだまだなような気はしたのだが。 張遼に言われると嬉しくなる。 の表情に張遼も自然と優しくなる。 だが張遼がの手を取ろうとしたとき、再び彼の携帯電話がなる。 「・・・・・・」 張遼は携帯の画面を見て柳眉を逆立てるも、電話に出ずに電源を切ってしまった。 「あ、いいんですか?」 「いいんですよ。今日の私は休みなんです。電池が切れたとでも言えばいいですよ」 良いのかなと少し心配になるが張遼は携帯をしまった。 「遅くなりましたが、誕生日おめでとうございます、殿」 張遼はの手をとる。 「これで一つ大人になりましたね」 「はい」 ほんの少しだけど、張遼に近づけた。 まだまだ子どもだろうけど、きっと隣に並んでも恥ずかしくない大人な女性になろう。 このネックレスがもっと似合うくらいの女性に。 そう張遼に告げると、彼は微苦笑する。 「そんなことないですよ、あなたは十分素敵な女性ですから」 「そんな殿が私は好きですよ」 私も。 少し子どもっぽい所がある張遼さんが好きです。 終了ー。まぁ、結局遼さんも好きだったんじゃーん。って話w
夕花さん、リクありがとうございました!
06/02/09
13/05/04再UP
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