夕虹見たら百日日和




ドリーム小説
。もう風邪は平気か?」

「うん、平気」

は重逢に来ていた。
勉強をするために。

「だからお昼、またよろしくね〜」

一週間楽できたでしょ?と兄夏侯惇に向かっては笑う。

「別にあれが大変だったことはないぞ」

「そんな事ばっかり言って〜だったら作る時文句言わないでよね」

「そうだな」

はノートと参考書を開く。
夏侯惇には風邪で店には行かなかったと言ったが、風邪なんかとっくに治っていた。
それでも顔を出さなかったのは、張遼に会いたくなかったから。
あの日、が見たこともない大人の顔をしていた張遼。
隣にいた女性。

芽生えた恐怖心と嫉妬。

少し治まるまではと思った。
張遼に嫌味を言ってしまうから?
違う。
嫌味と言うより単なる負け惜しみになってしまう。
つまりは、自分が傷つきたくないから。
それだけだ。

張遼の事を諦めたのかとかは正直わからない。
すぐに嫌いになれないし。
だったら、新しい誰かを好きになるまでは夏侯惇の妹と言うことで満足しようと思った。

逃げに入ったのかもしれないが、それのどこが悪い。
兄は気づいているだろう、の張遼に対する想いなど。
でも他の人は知らないのだ、誰に文句を言われる事もない。

「でもさぁ、お母さんがね。毎日ずるいって言うんだよ」

「何をだ」

「お兄ちゃんの作ったもの食べてるからって」

「と言われてもな」

夏侯惇は苦笑する。

「ね、結局パスタとかってメニューにいれないの?」

「いれん」

「なんで?」

「俺一人ではやってる暇もない」

「だから私をバイトに雇ってくれれば良いのに」

「お前を雇うくらいならば美鈴さんに頼む」

「ぶー。なんで私は駄目でお母さんなら良いわけ」

の作ったものを人様に出せるか」

営業停止に追い込まれると夏侯惇は言い切る。

「ねーまだお母さんの事美鈴さんって呼ぶの?」

「駄目か?」

「駄目じゃないよ、お母さんもお兄ちゃんのこと元譲君なんて呼ぶし」

おかげでたまに知らない人が母と兄が一緒にいるのを見て夫婦だと思ってしまう。
父には申し訳ないが兄の所為で影が薄くなる。

「美鈴さんの方が俺にそう呼べと言うんだ仕方あるまい」

「お父さん可哀相〜」

「な、なんだ。親父がどうかしたのか?」

「別にどうもしないけど、格好よい息子の所為で影薄いなぁと思ってさ」

「ば、馬鹿言うな。真面目に勉強しろ」

ほら、普通。そう言うのは親が言う台詞じゃないのか?
中学生の時の進路相談でどうしても両親が出席できないって時が一度だけあった。
その時、頼み込んで夏侯惇に来てもらい、友だちの前でちょっと優越感っぽいのがあった。
自慢の兄なんです〜と。

「あぁ懐かしいな」

「何がだ?」

「私の進路相談にお兄ちゃんが来たときのこと思い出したのさ」

「忘れろ、そんなの」

少し顔を赤くする夏侯惇。
だが少しきつめに睨まれた。
そろそろ真面目に勉強をしないと店から追い出されそうだ。



***



昼になって張遼が顔を出した。

殿。もう身体の方は良いのですか?」

「は、はい。平気です」

「ここ数日つまらなかったですよ、一人で寂しい昼食でしたから」

「あはは、お兄ちゃんがいたじゃないですか」

「いやいや、強面の男性より可愛い女性のとの方が食は進むというものですよ」

「やだなぁ、張遼さんってば〜」

今の自分はちゃんと笑えている?
作り笑いかもしれないが、笑えている?
自分があの日、張遼を見かけたなど知られたくない、逆も知られたくない。

以前と同じような会話、同じような時間。
は少し安堵する。
と同時にやはりと言うか自分はお子様なんだなと思い知らされる。

「あ、そうです、殿。今週の日曜日何か予定はありますかな?」

食後の珈琲を飲んでいた張遼がに訊ねた。
はオレンジのゼリーをデザートに頬張っていたところだ。

「今週の日曜ですか?・・・・別に今の所はないです」

「こいつは年中暇人だ」

「んなことないですー」

「では、日曜日に私とデートしましょう」

「・・・・は?」

張遼の申し出に一瞬固まる
デートと張遼は確かに言った。

誰と?

と?

「張遼さん、あの・・・・デートって」

「前に約束したでしょう?誕生日をぜひ私にもお祝いさせてくださいと」

「は、はぁ。そうでしたね」

の返事は曖昧になってしまう。

「おや、忘れてしまったのですか?」

それは寂しいですねぇと微苦笑する張遼には慌てて首を横に振った。
すでにその顔は真っ赤になっている。

「照れているのだろう、気にするな文遠」

夏侯惇が助け舟を出してくれる。
は思わず何度も大きく頷いた。

「そうですか?では日曜の朝お迎えにあがりますね」

「え!?朝って?何時ですか!?」

「日曜の朝です」

「えー」

「お前それはアバウトすぎるぞ」

「はははっ。まぁ軽い冗談ですよ。そうですね・・・・10時ごろお迎えにあがりますよ」

「は、はい。じゃあに10時待ってます」

張遼はもう仕事だと言って店を出て行く。
張遼が去った事で、はそのまま身体を突っ伏してしまう。

「はぁ〜」

「なんだ?どうした」

「んー別にー」

溜め息など吐けば夏侯惇だってどうしたと思うのは普通だ。
でもは答えない。

頭の中がごちゃごちゃだ。
以前と同じような態度をとれていたかと不安になったり
会えて嬉しい気持ちもあったり
誕生日を祝ってくれるという約束を覚えてもらっていたり
デートをしようと言われて困惑もしてみたり
でも結局嬉しかったり。
一つ一つに勝手に振り回されている自分。

あれを見なければきっと単純に大喜びしてしまうだろうに。

は身体を起こし、頬杖をついて夏侯惇を見る。
兄はたちが使った食器を洗っている。

「お兄ちゃん」

「ん?なんだ」

「デートに着ていく服がありません。買って」

「・・・・・なら行くな」

「あ、酷い〜そんな理由で断るのは嫌です」

軽く唇を尖らせては夏侯惇を見る。
もしさっきの態度を変に思われたなら困るから兄の前でもいつも通りでいたい。

「そう言う事は俺じゃなくて美鈴さんに頼め」

「えーじゃあお父さんに頼む」

母に頼んだらやはり同じような答えが帰ってくる気がする。

「お父さんなら買ってくれそうだし」

「その物を見て美鈴さんが親父を叱るだろうな」

「あーその時はその時?買っちゃった物はしょうがないし」

「わざわざ買わんでもいいだろうに。いつも通りで」

「そこはほら〜私だって女の子だし。変な格好で行って張遼さんに恥じ掻かせたくないし」

ただでさえ年の差があるのだ。
きっと並んだ時にギャップが出そうだし。

「ならば当日文遠に買ってもらえ。それが1番手っ取り早い」

「お兄ちゃん、そんなのドラマか少女漫画の世界だよ」

「知るか、そんなの」

やはりと言うか夏侯惇は服を買ってくれないらしい。
日曜日のデート。
夏侯惇は反対なのだろうか?心配?

「お兄ちゃん。日曜日一緒に行く?」

「誰が行くか阿呆」

商売道具のメニューで頭を叩かれた。



***



日曜日当日。
普段そんなに早起きなんかできないのに、不思議と目が覚めた。
色々考えてもやはり嬉しいのだろう。
直前までどの服にしよう、靴はどうしようとか色々悩んでしまった。
母にもどうかな?と見てもらって無難な服と靴を選んだつもりだ。

・・・・そう言えば。
張遼はどんな格好で来るのかな?と思った。
昔の彼の私服姿って言うのはあまり覚えていない。
毎日どこかのブランドモノだろうなって言うスーツをビシッと着ていたから。
迎えに来てくれるとも言っていたけど、張遼は免許を持っているんだ。
どんな車なのかな?

そわそわしてしまう。
この前は自分の知らない張遼の顔を見て不安に思ったのに。
現金なものだと我ながら呆れる。

玄関でそんな事を考えていたら車のエンジン音がして家の前で止まった。
張遼かなと思ったから顔を出してみると、いかにも高級車ですって車が止まっている。

「・・・・・・」

殿!おはようございます」

やはりと言う答えなのだろう。
車から降りてきたのは張遼だ。

「お、おはようございます、張遼さん・・・・あ、あの・・・この車・・・・」

「えぇ、私のですよ。さ、どうぞお乗りください」

張遼はドアを開けてを乗せてくれる。
車内もいかにも高級車で靴を脱いで乗るべきじゃないかと思ってしまう。

「す、すごい車ですね」

「そうですか?」

張遼はあまり感じないらしい。
フロント部分にあるエンブレムを見れば、もこれがなんて車かは知っている。
ニャー!と跳ねている?駆けているポーズの車・・・

ジャガーだ。

張遼が言うにはこれはジャガーのXKシリーズって奴だそうで。
と言われてもにはわからないのだが。
元々ジャガーを購入するのが夢だったらしい、車体カラーも彼の好みでブリティシュレーシンググリーンなのだと。
長くてイマイチわからない。
深緑とかじゃ駄目なのだろうか?
XKシリーズはスポーツカータイプなので二人乗り。

凄い車に乗っているなぁと驚きっぱなしの
汚しちゃいけないと緊張してしまう。

「まさに優雅と言う言葉が似合うでしょう?私の年齢で乗るにはまだまだって感じでしょうが、我慢し切れなくて」

張遼の趣味ってのは知らないが、ジャガーに憧れでもあったのだろう。
なんとなく金額がどのくらいなのか聞くのが怖い。
嬉しそうに運転している張遼。
ようやく落ち着いたかなと(実際は緊張しっぱなしだろう)思った時に彼の私服に目がいった。

(あ〜黒とか好むんだ、張遼さん)

白のTシャツに黒のジャケットを着ている。
これも高そうだなとついマジマジと見てしまう。

「どうかしました?」

「い、いいえ。えっと、どこに行くのですか?」

「水族館なんてどうですか?新しくできた所がありましてね、評判がいいようですよ」

「張遼さんにお任せします」

さてさて、今日はどんな一日になるのやら?







遼さんの愛車は友人と個人的趣味によりジャカーとなりましたw
値段は新車で買っても中古で買ってもどえらいものでした。当時のXKタイプです。
惇は免許を持っていないので、遼さんが普段運転手をしていたりする補足的な設定があったりしますw
05/11/22
13/05/03再UP