夕虹見たら百日日和




ドリーム小説
「最近の問題集は難しいものばかりですね」

張遼はの使用している数学の問題集を見ながら呟いた。

「でも張遼さんはちゃんと解けているじゃないですか」

がわからなかった問題を丁寧に教えてくれた。
こっちは現役の学生。
張遼はすでに卒業して何年も経つというのに。

「私なんて間違えてばっかですよ」

「焦って解く事はないですよ。テスト中だと余計に混乱しそうですがね」

その場合はあえてその問題は解かずに他のものから手をつけたほうが良いだろう。

「偉そうな事は言えませんが」

「ほら、出来たぞ」

今日も相変わらず店のメニューのないものを張遼とは頼んだ。
文句を言いながらも作ってくれるのが夏侯惇である。

「最近、他の客からも言われてしまうんだ・・・・・そろそろお前ら他所で食え」

「ならばいっその事メニューに載せれば良いのですよ」

「ですよね〜。そうしなよ、お兄ちゃん」

「阿呆。そんな事俺一人でやっていられるか」

「だから、私をバイトで雇ってくれればいいの」

「断る」

人が集まる場所なのだが、どちらかと言えば一人で静かに過ごしたい時に来てくれれば良いという考えの店なのだ。
だから一人でゆったりと経営できれば良い。

「どうでも良いが、毎日ここに来るが忙しいのではないか?文遠」

「忙しいですが、お昼ぐらい食べなくては困りますし」

「だったら社の食堂にでも行けば良いだろう」

夏侯惇に言われて張遼は微苦笑する。
あえてそれには答えない張遼。
夏侯惇にも答えはわかっているようだ。

「?」

答えない張遼を見てが不思議そうにしているのを見て、張遼は軽く笑う。

「息抜きしたいのですよ。それだけです」

この店はそう言う空気があるから。

「さて。私はそろそろ戻りますか。ご馳走様でした、元譲殿」

「おぅ」

また来いとは言わない。
でももう来るなとも言わない。

ここの主人は嫌そうな顔をしたり文句を言ったりもするが
昔からの付き合いでわかる。
本心ではないと言うことに。
そして自分の我がままを聞いてくれるのだ。

「では殿。またお会いしましょうね」

「はい」



***



「ったくも〜私はバイト君じゃないんだぞ」

はいつも通りに重逢で勉強をしていた。
に夏侯惇が買い物に行って来いと店から追い出された。
追い出されたと言うのは少し違うかもしれないが。

近くの花屋に花を買いに行って来いという。
いつもならば店に届けてもらうのだがに行かせた。
なんで私が!と反論すると俺が店を開けるわけにはいかないだろう。
と一言返ってきた。
確かにそうなのだが。

「えっと・・・・ここかな?」

重逢から少し歩いた所にある花屋。
ここも重逢と同じで忙しないビジネス街とはかけ離れた空気を持っている店だった。

「通り一本違うだけでこんなに違うかな?」

そんなに大きくもない店。
でもしっくり来る。
が入り口でぼーっと立っていると中々体格のいい男性が出てきた。
黒いエプロンをしている。

「いらっしゃい。何をお探しでござるか?」

「え?あ、あーあの」

店員だろう。
いきなり声をかけられ慌ててしまうが、兄に言われた用事を済ませねば。

「あ、あの。兄に頼まれて花を買ってこいと。えーと、お店の・・・・」

別に人見知りをしるわけではないが、ちゃんとはっきりした事が言えないでいた。
だが、店員の男性の方がわかっていたかのように店の中へどうぞと案内してくれた。

「お兄さんと言うのは夏侯惇殿でござるか?」

「・・・・は、はい!そうです。なんで知ってる・・・・・」

「はは。重逢さんは数少ないうちの常連さんなので」

「でもそれだけじゃ」

が夏侯惇の妹だとはわからないだろう。
あの兄に限って自分のことを言いふらすような真似はしないと思うし。

「あぁ、そのことでござるか。夏侯惇殿から連絡を受けていましたから」

「花の注文ですか?」

「はい。殿、でしたよね?では、お好きな花を選んでください」

「は?」

注文した花を取りに行くのではなかったのか?
が困ったような顔をしているので店員が慌てて一通も封筒を差し出した。

「申し訳ない。てっきり話が通っているかと思って。これは夏侯惇殿からでござるよ」

は受け取り、中に入ったカードを取り出す。



 
 
  誕生日おめでとう。
  


直接言うのが照れ臭いのかカードには一言のみでそう書かれていた。
文章にするというのも照れ臭かったようにも思える。

殿のお好きな花どれでも選んでくだされ」

「それがお兄ちゃんからの誕生日プレゼントなんだ・・・・」

自分の誕生日が今日だと言う自覚はあったが、まさかプレゼントにこのような仕掛けをしておくとは。

「どうしよう。好きな花って言われても。迷っちゃいます」

「何でも良いと夏侯惇殿は仰っていたでござるよ」

「なんでもって・・・・うわ、うわ。どうしよう〜」

「焦らずゆっくり決めてくれれば良いでござるよ」

「は、はい」

店内だけでなく、店頭にも並ばれた花はどれも綺麗だし。
贅沢言うなら普段自分じゃ買えない花でも良いかと思うし。

唸りながら店内を見て周る
店員は気にした様子もなくコツコツとなにやら作業をしたり接客をしていたりする。

「決まったでござるか?」

「うわぁ!あ、あ、まだです・・・・」

あれこれ見てはいるもののどれも良いと思えてしまって選べない。

「す、すいません。長居しちゃって」

「あ、あ〜こっちこそ急かしちゃったみたいで申し訳ない。気にせず見てくだされ」

店員の方が恐縮してしまっている。
それでついでに麦茶を一杯と椅子をわざわざ出してくれた。
は少し戸惑いながらも椅子に腰掛け麦茶を手にする。

「色んな種類の花があるから迷っちゃいますね」

「そうでござるな。昔と違って今は一年中色んな花が並びますから」

「せっかくお兄ちゃんが用意してくれたことだけど、アバウトすぎて」

「ははは。どれでもと言われると確かに迷うでござるな」

「そうなのですよ。せめていくらまでとか、すでに用意してあるとかってならば良かったのに」

「夏侯惇殿もアレコレ悩んでおりましたよ」

「なんか想像つきます」

「では、拙者に任せてもらえますか?」

「へ?」

店員はの返事を待たずに店内の花を選び抜き取っていく。
そして手際よく長さをそろえたりしている。

「・・・・・・うわ」

さすがそれを職業にするだけある。
手際よく見事なボリュームある花束に仕上がる。

「どうぞ」

手渡されたの腕の中いっぱいの花。

「す、すごい」

「どれもトルコギキョウと薔薇を中心にして他の夏の花も織り込んでみました」

「抱えるのだけでも大変ですね、これ」

「勝手にしちゃいましたがどうでござるか?」

「あ、はい。とても素敵で嬉しいです。私が自分で選ぶより良かったです」

「ありがとうございます」

さて、気になるのが代金なのだが。
それはすでに夏侯惇が支払っているのだが、予算内なので夏侯惇に残りを渡してくれと封筒をまたも渡された。

(お兄ちゃん・・・予算っていくら払ったのよ・・・・)

店員に礼を言って店を出た。
見かけと違って優しい雰囲気の店員なので好感を持てた。
どうも彼も兄とは昔からの付き合いのような感じがする。

重逢に向かって歩いていると後ろから声をかけられた。

殿」

振り返ると張遼がいる。

「張遼さん」

「すごい花束ですね。どうしたのですか?」

「あ、これですか?実は」

張遼も重逢に向かう途中だと言うので歩きながら先ほどのことを話す。
が持っていた花束は代わりに張遼が持ってくれている。

「誕生日?今日ですか?」

「はい」

「知りませんでした・・・・元譲殿も言ってくだされば良いものを」

「あはは、そんな別にいいですよ」

「でもずるいです。元譲殿は自分ばかりこのような素敵なものを用意しておいて」

「選んで花束にしてくれたのは店員さんでお兄ちゃんは好きなものをって」

「同じですよ・・・・・私からも何か差し上げたいですな」

「え。張遼さんが?」

「おや、いけませんか?私だって祝ってあげたいですよ」

張遼が祝ってくれるなんて嬉しい。
でも張遼は忙しいだろうし。
後から夏侯惇から聞いた話なのだが、今張遼はとても重要な仕事を任されているらしい。
残業で帰宅が夜遅くになるそうだ。

「あ、ありがとうございます。でも本当気持ちだけで十分ですから」

殿遠慮はなしですぞ・・・・・ま、後のお楽しみって事にしておきましょう」

約束だと言って張遼は言った。
重逢に着くと、そろそろ戻る頃だと思ったと言うような顔をして
夏侯惇が二人分の昼食を出してくれた。
本気でそろそろメニューに追加しようか悩みそうだと愚痴を零しながら。








ござるな花屋さん登場。名前は伏せていても、誰かはすぐにわかる御仁。
そして遼さんの職業は謎で、エリートらしい。
05/08/20
13/04/30再UP