3年魏組張遼先生




ドリーム小説
〜、今年もドデカイ奴を用意したぞ、楽しみに待っておれ」

「?」

曹操が得意げになりながらの肩を軽く叩く。
にはなんのことかさっぱりわからない。
思わず首を傾げてしまう姿に曹操はさらに力強く肩を叩いた。

「笹じゃ、去年やったであろう?お主が教えてくれた七夕祭りじゃ」

そんな事やったけなぁ〜と思い出す。
政務ほったらかしで、曹操はと笹飾りなんぞを作ったっけ。
あとで夏侯惇に怒られた君主を見て笑ったなぁと思い出す。

この国の七月七日はがいたところとは少し違う。
なのでが教えた七夕を曹操は気に入ったようで今年もその準備を率先して行うようだ。
準備と言っても笹に飾りを作ってつけるだけなのだが。

「今年もやるのですか?孟徳様」

「やるぞ、今年は短冊に何を書こうか今から考えておるのじゃぞ」

「あはは、惇兄に怒られない内容じゃないですよね?」

「どうだろうなぁ〜去年の願い事は結局叶わなかったしのぅ」

去年、曹操が短冊に書いた願い事は


『元譲の短気が治りますように』


だった…。普段から怒らせているのは曹操自身なのだが?

「あの願い事は孟徳様が大人しく政務をなされば治りますよ?」

「そうか?わしはちゃんと政務はやっておるぞ?」

「あははは」

「と言うわけでの分じゃ。お主も願い事を書いておくのだぞ?」

と言って曹操はに短冊を渡した。
は受け取るも苦笑した。



***



「今年も賑やかに行うのでしょうな、その七夕祭りとやらを」

「みたいですよ」

張遼との授業。
休憩中にが持っていた短冊を見て張遼が言った。
は、去年とは違ってあまり興味無さそうにしている。

「おや、殿と一緒にはしゃいでそうなのに大人しいですね、殿」

「そうですか?」

最近のは『良い生徒』のようである。
遅刻、欠席はなくなったし、与えた課題もちゃんと提出日までにやってくる。
授業も脱線することなく進んでいる。

張遼は満足できる結果に喜ぶも、少し味気なく感じていた。
脱線されたらされたで困るが。

「私から見ると、そう騒ぐような行事じゃないですよ?学校が休みになるわけでもないし」

騒いでいたのは小学生の時までです。
は言う。

「ですが、去年は殿と騒ぎすぎて夏侯惇殿に叱られてましたよね」

「あーあれは〜」

許昌で暮らすようになって、初めてづくしで何をやるにも楽しかったから。
ここは自分がいたところとは違う風習だから、同じことができて嬉しかったから。

「あ、遼さん」

「なんですかな?」

「七夕って五節句の一つでしたよね?こっちではどう言う事をやるんですか?」

教えてくださいとは言う。
張遼は頷き説明する。

殿がいた世界でのような笹飾りはありませんが、この日は星をながめ、祭壇に針などを捧げて工芸の上達を願うのですよ。
他にも七夕は畑作の収穫祭という意味を持ち、麦の実りや夏野菜の成熟を祝うこともあるのですよ」

「織姫と彦星の話はないのですか?私のところだと天の川での話がよくされますよ?」

前日か当日の天気予報でお天気お姉さんが
『今夜の○○の天気は晴れです〜天の川では織姫と彦星も再会できそうですね』
なんてことを言ったりしている。

「あぁ、ありますよ、天帝の娘織女と牽牛の話でしょう?
毎日熱心に機を織る織女に、同じく真面目に仕事をする青年の牽牛と結婚をさせると、二人はまったく仕事しなくなり、怒った天帝が二人を引き離した。
悲しみにくれる娘に、毎日ちゃんと仕事をすれば一年の一度だけ牽牛と会わせると言われ、それ以来、毎日せっせと機を織り続け、七月七日に会うことができたと」

「一年に一度だけって割に合わないと思いません?毎日働いての結果、一日だけってなんか可哀相ですよね」

「ははは。ですが、働きもしなかった彼らも悪いと思いませんか?
毎日ちゃんとしてればそのような事にはならなかったと思いますけどね、私は」

どうでもいいが、織姫、彦星の話はロマンスだ何だと言われているのに、この二人にかかると台無しである。

「七夕に関しては、簡単に言えば先のような事柄ですがね、起源などを調べていくと伝説の時代まで遡るのですよ」

「へぇ」

世界樹・宇宙樹信仰、西王母に東王父、二十八宿がどうとか、ちょっと調べるだけでわんさか出てくる。
それにアジアでならば似たような話が残っている。

「私は思うのですがね、殿。なぜに笹飾りに願い事を書いた短冊をつるすのですか?」

「え?なぜって?」

逆に質問されては困る。

「織姫と彦星でしたか?彼らに願い事をするってのがよくわかりませんが。二人にしてみれば自分たちの方が願いをかなえて欲しい立場ではないのですかね?」

「私だって知りませんよ〜小さい頃から願い事を書きなさいって言われてきたのですよ?」

「そうですか、なぜでしょうね」

本来、短冊には『織姫のように機を上手に織りたい』などと言った“○○を上手になりたい”と言う上達を願うことを書くのだが、今では何でもありのようで願い事になったようだ。

「で、殿は何を願われるのですか?殿が短冊をお渡しなったのですから書くのでしょう?」

「…ないですよ、願い事なんて」

「それは意外ですね」

のことだから、夏休みがたくさん欲しい!と単純な事なら書ききれないと言いそうなのに。

「意外だなんて失礼しちゃうなぁ」

は笑って見せるも、どこか不自然に感じると思うのは自分だけだろうか?

「だって、何か欲しい〜って短冊に書いたら、きっと孟徳様がいとも簡単に叶えてくれそうですから」

「殿がですか?まぁ、言われて見ればそうですね」

「でしょう?ならば最初から孟徳様に頼みます。なんて、あはは」

「星に願うよりは確実ですか」

情緒もあったものではないなと張遼は笑った。

「遼さんなら、短冊になんて書きますか?」

おそらく、武将一人一人に短冊は配られるはずだ。

「私ですか?…私も書くようなことはないですね。正直思いつきませんよ」

「遼さん、夢ないですね〜」

「それは殿に言われたくありませんがね」

「酷いなぁ〜」

「今日はここまでにしましょうか。私は自分の仕事をしなくてはいけませんのでね」

「はい、ありがとうございました」

「では、先に失礼しますよ」

張遼は書物を持って部屋を出て行く。
は張遼が部屋を出たと同時に机に突っ伏す。
その時、勢いよく頭から倒れたものだから額を机にぶつけてしまう。

「…痛いなぁ…」

額は少しヒリヒリするが、もっと痛いのは胸だ。泣きたくて泣きたくてしょうがない。



『で、殿は何を願われるのですか?殿が短冊をお渡しなったのですから書くのでしょう?』



願い事はないと、言ったけど。
本当はある。

あるけど、叶わないと最初からわかっているから。

だから願わないんだ。

こればっかりは曹操だって叶えてくれないはずだ。



「私の願い事は…遼さんと離れたくないことですよ…」



最近になって嫌でも耳に入るようになった張遼の合肥への出向。
本人の口からはまだ聞いてないのに、お喋りな文官たちが噂している。
それを聞いた女官たちがさらに噂を広めている。

は張遼のほうが何も言わないので、自分からは聞かない事にしている。

でも、最近思う。

誰が噂してようが、本人から聞かされたとしても結果は同じだろうって。
何も変わらないんだ、きっと。

「あと少しだけ、ちゃんといい生徒でいるんだ。遼さんが心配なく合肥へ行けるように」

元々そんな心配してませんよ、と本人には言われてしまうかもしれないが。



***



七月七日。
広い、曹操ご自慢の庭園に立てられた笹飾り。
一本だけでなく、何本もずらりと。

「…なんか商店街のアーケードを思いだすなぁ…」

一本一本見て周る。
七夕祭りなんて言うのは、正直曹操自身が楽しみたいだけはないか?そんな気がする。
星を眺めながら酒飲んで。
騒ぎたいだけだろうと。

笹飾りには、本当に曹操が武将たちに渡したらしい、願い事が書かれた短冊がつるされている。

「…わ、仁ちゃん達筆すぎて読めない…」

曹仁、典韋、許チョと見知った人の願い事。
笑えるものから、真剣なものまで様々だ。

「あ、惇兄のだ…うわぁ、涙さそうなぁ」

夏侯惇の短冊には『孟徳がもっと大人になりますように』なんて書いてある。
十分大人なのに、政務もちゃんとしてるほうなのに、普段の悪戯が酷すぎてそうは見てもらえないらしい。
曹操が何かしでかしても誰も文句を言えないのだが、そのしわ寄せが全て夏侯惇に来るのでそう書いたのだろう。

「徐晃さん、今つるしているのですか?」

「あ、や、殿。これはお恥ずかしい」

徐晃は今自分の短冊をつるしている。

「徐晃さんの願い事ってなんですか?」

「殿の三国統一を願うでござるよ。早く乱世が静まりますようにと」

「あは、徐晃さんらしいですね。本当、早く戦なんて終わればいいですよね〜」

殿は何を願われるのですか?」

「私ですか?……私は何もないですよ」

「そうなのでござるか?」

「いっぱいありすぎて書ききれないから一つに絞れないのですよ〜」

は笑う。
本当のことは誤魔化して隠しているだけなのだが。

「一つぐらい書いてみてはどうでござるか?書けば願いが叶うかもしれませんぞ?」

「書かないと織姫と彦星に届きませんものね…あ、でも」

「どうしたでござるか?」

「他の人に見られたくないのですけど」

「あ〜それは困ったでござるなぁ…あ、ではこうしましょう」

「?」

「短冊に書かずとも、星に願えば良いでござるよ。えーと、こと座とわし座でござったか?」

元々こちらでは星をながめる星祭でもあるし。
徐晃の提案には笑いがこみ上げてくる。
可笑しいからではなく、嬉しいから。

「徐晃さん、いいですね、それ。星に願えば他の人にはわかりませんものね」

「喜んでもらえて良かったでござるよ」

「じゃあ…っと…こと座ってどれですかね?」

二人して空を見上げる。
月は上弦なのでそこそこ星は見えるが、どれがこと座とわし座だか二人にはわからない。

「せ、拙者…星は読めないでござるよ」

「私も…北斗七星とかカシオペアしかわからないや」

「「………」」

口をぽかーんとあけてしまう。

「で、でも。これだけの星の数なので、どれか一つかは願いを聞いてくれるかもしれませんぞ」

「こと座関係ないっすね〜」

「はぁ、面目ないごござる」

「ま、いいか。とりあえず、私やってみますから」

別に徐晃のせいではい。むしろいい案をもらったようなものだ。

「そうでござるか、願いを聞いてもらえるとよいでござるな」

「ですね」

は徐晃に別れを告げて駆け出した。
この城の中で一番星に近い所で願うのだ。



(私の願い、聞いてくださいな…遼さんが早く合肥から戻ってきてほしいです)



合肥へ行くなとは言えない。
行って欲しくないけど、しょうがない。
だから、願う。

戦が終わって、早くここに戻ってきてくれる日を。

その時には、あなたに似合う素敵な女性になっているよう頑張りますから…。




そして、翌日に。
曹操の口から正式に張遼へ合肥城の守備を任じられるのだった。








七夕です。最初のころより、シリアスですよw
04/07/07
13/04/24再UP