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3年魏組張遼先生
私のところには春がまだ来ません。 は最近の張遼の様子が少し違うなぁってことに気づいていた。 気づいていたのに、軽視してしまった。 その結果。 「いい加減になさい!やる気がないなら結構です!」 と怒られた。 「あ、ちょ、ちょっと待ってよ、遼さん!」 「私は忙しいので失礼しますよ」 「そんなぁ…」 と張遼はふんっと息を荒げたまま行ってしまった。 残されたは 「どうしよう、ね、張コウさん…」 と張コウに泣きついた。 「まぁ、張遼殿が怒ってもしかたないでしょうねぇ」 「にゃ!酷い〜ちゃんと理由があるじゃないですかぁ」 「そうですねぇ」 何故に張コウに泣きついたかと言えば。 は張遼との勉強の時間をサボって張コウと一緒にいたから。 それをを見つけた張遼が、を叱ったのだ。 「サボってないもん!ちょっと時間忘れて話しこんだだけじゃないですか〜」 「私に言ってもしょうがないですよ、」 「にゃー、また嫌われちゃう〜」 「別に嫌われはしないと思いますが?」 「でもでも」 「そんな事より」 焦るに対し、張コウはいたって冷静だ。 「そ、そんな事!」 「まぁまぁ。張遼殿があんなに怒る姿は初めて見ましたね」 「だから言ったじゃないですか、最近の遼さんちょっと様子が変だって」 「そうみたいですねぇ」 今までだって、遅刻は何度かした。 したけど、苦笑はしていたが怒りはしなかった。 その分、宿題を出されたりしたし。 でも、このところの張遼はなんか苛々してるから、何か落ち着いてもらえるように、は張コウに相談したのだ。 なんか良いものありませんか?って。 「遼さんは五月病なんです、きっと」 「五月病?それはなんですか?あまり聞いたことないですねぇ」 「五月病は新入社員や受験戦争を乗り切った学生さんたちに起こるものなのですよ。新しい環境になれた時に不安と緊張がぷっつり切れて無気力になったりするのですよ」 は張遼を五月病だと言う。 ちょうど、今時期になりやすいからと、だが… 「別に張遼殿はずっとここにいるので新しい環境は関係ないのでは?」 「あ…それは例えで、五月病になった人は身体的や精神的に色々症状がでてきて、遼さんのイライラは五月病から来てるかもしれないでしょう?」 「、なにやら無理を感じますねぇ」 「遼さんの性格ならそうかなぁ〜って五月病になりやすい人は真面目、几帳面、内向的…だとか」 「真面目で几帳面、確かに張遼殿の性格でしょうが、五月病ってのは無理やりすぎますよ」 「むぅ」 「、張遼殿を病気にしてはいけませんよ。何かあったのですか?」 「…って」 「はい?」 張コウは耳を近づける。 は下を向いてポツリと言った。 「遼さん、ここからいなくなるって、聞いたから…」 の頬に涙が通った。 大人気ないことをしたなぁと、張遼は思った。 怒鳴るほどのことでもないのに。 は遅刻やちょっと脱線することはあっても、サボることはなかったのだから。 張コウの前でみっともない事をしたと張遼はため息をつく。 「少し予定が狂ったから、苛々してしまったのだな…まったく、私も未熟だな」 今頃はどうしているだろうか? 張コウに泣きついてるのだろうか? あ、きっと『遼さんのバカー!』とか言って自分の文句でも言っているだろう。 「とりあえず、今日は仕事の方を片付けますか」 沢山、机に置かれた書類の山を片付ける事にした。 *** 「それは、どこで聞いたのですか?私は初耳ですねぇ」 張コウは泣いているの頭を優しく撫でながら言った。 「…この前、孟徳様が惇兄に言ってるの聞いた」 「それはそれは」 「遼さん、もうすぐ別の場所に行っちゃうって。だから最近執務の方が忙しくて苛々するんだって思って」 「………」 「遼さんがどこか行っちゃうの、私、やだ」 の耳に入ったかと、張コウはため息が出てしまう。 今、に初耳だとは言ったのだが、実は張コウは知っていた。 張遼が新しく合肥の守備を任されたのを。 時期的にはまだ余裕があるのだが、が張遼に懐いているのを知ってるものは、彼女にその話をしようとはしなかった。 自然と口を閉じた。 それに、人からではなく張遼自身が話すべきだろうと思った。 ま、運悪く先にの耳に入ってしまったのだ。 しかも、命じた曹操の口からだ。 嘘だとは思わないだろう。 「そうですねぇ、がそう思うのはしかたありませんが、張遼殿を病気にしてはいけませんね」 意味わからないし。 「ごめんなさい」 「突飛な考えで面白いとは思いましたけどね」 張コウは小さく笑った。 「少し、待っていてくださいね」 張コウはを置いてどこかへ向かった。 だが、すぐに戻ってきた。 手には小さな袋を持って。 「にこれを差し上げましょうね。先ほど話した張遼殿が落ち着けるものですよ」 「?」 「はい、お茶ですよ。一緒に飲むと良いですよ、これを持って仲直りしてきなさい」 「…できますか?仲直り」 不安げに張コウを見つめる。 張コウはにっこりと笑う。 「出来ますよ。まだお怒りのようなら私に言いに来なさい。私が逆に張遼殿を叱ってさしあげましょう」 「あは。じゃあ、謝ってきます」 はすぐに破顔し、茶を持って走り出した。 「できる…かな?ごめんなさいって謝って…それから」 張コウも下から勢いよく駆け出してきたものの、張遼の執務室が見えてくると、足が重くなる。 まだ怒ってるなら自分を…と彼は言っていたが、なんとなくそれは出来ないだろう。 「…はぁ…どうしよう」 なんか、今の自分は自信が足りない。 それどころか、張遼の前で泣いちゃうかもしれない。 ずっと張遼が自分の勉強を見てくれるものだと思っていた。 短い時間でも一緒に居られるってのは嬉しい。 それがこの先無くなっちゃうのだ。 それは嫌だ。 更に別の地で張遼が自分より綺麗な女性を奥さんにでもしたら…。 今の自分は子ども扱いされっぱなしだ。 「春は来ないなぁ…」 「春がどうしたでござるか?」 「わぁ!じょ、徐晃さん!」 「な、なんでござるか!?」 互いに驚いてしまう。 徐晃はぼーっと突っ立ってるに気がついて声をかけたのだ。 は徐晃が突然背後にいたから驚いた。 「あ、な、なんでもないですよ。あはは、びっくりしたぁ」 「拙者も驚いたでござるよ」 徐晃も笑う。 ふとは徐晃を見て思う、彼は知っているだろうか? 「あの、徐晃さん」 「なんでござるか?」 「徐晃さんは、遼さんが遠くに行っちゃうって知ってます?」 「え!」 徐晃は口元を引きつらせる。 「せ、拙者はし、知らんでざるよ」 「知ってるんだ、徐晃さん」 と言うことはやっぱり本当なんだなと思い知らされる。 「えぇ!拙者は知らぬでござるよ〜」 徐晃は慌てて否定するが、バレバレだ。 「徐晃さん、嘘つけないタイプだよね」 「あ、あぁ…も、申し訳ない」 徐晃は頭を掻く。 「ううん、別にいいです。遼さんどこに行くんですか?」 黙っていようと思ったのだが、徐晃は仕方なく話す。 嘘をつくのは嫌いだが、この状況ぐらいは上手に嘘をつきたかったなぁと思う。 「合肥と、拙者は聞いてます。えと、ここからは遠い場所かと…」 「危険な場所ですか?」 「…え、えーと」 「徐晃さん、教えてください。教えてくれなきゃ、甄姫姉さんにある事ない事吹き込みますよ」 「な!何故でござるかぁ!」 一瞬にして顔を赤くする徐晃には笑う。 「あはは、じゃあ教えてください」 「呉の国境に面しているので」 「危険なんだ。そっかぁ」 「いえ、あの、殿が心配するほどでは」 一番重要な拠点だから、曹操が信頼する張遼を合肥へ派遣するってことだろうな。 とは思う。 しょうがないだろう。 張遼は曹操に使える武将なのだから、に勉強を教えるのが本職ではない。 「殿?」 「はぁ〜私には春は来ないみたい」 「?」 「しょうがないですよね」 は笑うが、徐晃には意味がわからず、首を傾げる。 春が来ない? もう春はとっくに来たのに、しかも段々暑さを増してるのに??? 「そんなことないでござるよ。春は誰の下にもやってる来るものでござるよ」 「誰の下にも?」 「そうでござろう。一年中冬なんてことないでござろう?ちゃんと春はやってきてます」 徐晃は単に季節の話をしているのだろう。 でも、なんか嬉しく感じる。 「私の下にも春は来ますか?」 「無論、殿の下にも春は来るでござるよ」 「ありがとう、徐晃さん!」 は徐晃に手を振ったて駆け出す。 徐晃にはよく意味がわからなかったが、が元気になったようなので良しとする。 ただ…。 「…甄姫殿にある事ない事吹き込まないでくだされ…」 と苦笑していた。 *** 「遼さん!」 バンと強く扉が開かれた。 と同時に驚いた張遼は硯に勢いよく筆を突っ込んでしまう。 ビチャっと撥ねる墨。 「なんですか、いきなり…」 顔に墨がついたようで、布でふき取る張遼。 はまた怒られると思ったのだが、勢いに任せることにした。 「今日は申し訳ありませんでした!明日からもよろしくお願いします!だから…これからお茶飲みましょう!遼さん」 「………」 黙々とふきふきしている張遼には顔を引きつらせる。 背中に嫌な汗が流れているような気がする。 嵐の前の静けさ? ガーっと怒られちゃいます? 張遼は汚れを落としたあと、すくっと立ち上がりの前にやってくる。 怒られるのかと思い、一歩後ろに引いてしまう。 「私の方こそ、大人気なく怒鳴って申し訳ありませんでしたね、殿」 「え…怒ってないの?」 はぽかんと口を開けてしまう。 「怒ってませんよ。なんで怒ったのか不思議なくらいですよ、いつものことなのに」 「いつものこと〜?」 「いえ、別に。で、お茶がどうしたのですか?」 「張コウさんに貰ったので、一緒に飲みましょう。仕事は忙しくても休憩は必要です」 は張コウから貰った茶葉の入った袋を張遼に差し出す。 「休憩ですか」 「駄目ですか?私は、今、遼さんとお茶が飲みたいです」 「今ですか、珍しく強く押してきますね」 「はい、今言えることは言っておこうと思って」 「そうですか。では、休憩にしますか」 「はい!」 張遼の苛々は全て吹き飛んだようで、の前でいつもの涼しげな顔で茶を飲んだ。 いつもの張遼で、今日の授業の分なのか、小難しい話をしてくれた。 「遼さん」 「はい?」 「少しは気分落ち着きました?」 「……そうですね。落ち着きましたね」 「良かった」 張遼には今言えることは…って言ったが、肝心のことは言わないでおく。 張遼が合肥に行ってしまうまでの残りの時間はいい生徒でいることに決めた。 理由は色々あるけれど、今はまだ内緒。 リクでした。割と強引でした、この頃の私はw
04/05/05
13/04/22再UP
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